義妹の愛が重すぎる   作:黒樹

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前回のあらすじ。渚と一緒に登校した。


渚の秘密を知る者よ

 

 

 

駅から七星学園までの道は殆ど一つ。

遠回りしなければ、電車通学の生徒たちは同じ道を通る。

最初は同じ道を歩いていた人たちも、学園に近づけば近づくほど道を逸れた。次第に道を進むのは七星学園の制服を着た生徒たちのみとなり、俺と渚もその集団に紛れるようにして学園を目指す。

たとえ群衆に紛れたところで、渚の魅力が薄まるはずもない。むしろ、突然沸いた美少女に上級生まで目を奪われていた。

 

「おいあれ見てみろよ。あんなの学校にいたか?」

「たぶん新入生だろ」

「それにしても可愛いなぁ」

「声掛けてみようかなぁ」

「それにしたって、隣の男は誰だ!?」

「手を繋いでいるぞ!」

 

もう既に上級生に噂が広まりそうな勢いである。ようやく校門から敷地内に入ってもその視線は止むことなく、下駄箱から一年生の教室のある階に出るまで上級生たちの視線は途切れることがなかった。それでも同級生からの視線は止むことはなかったが。特に、俺への男子生徒の嫉妬の視線は。

 

「おはよー!」

 

教室に入ると渚は元気に挨拶をする。中学時代もそんな風だったのか、誰か知っている人でもいたのか、誰に声を掛けるでもなく。俺は極力渚の陰に気配を消しながら。

 

さすがに教室内で手を繋ぐ気はないのか離れていく渚に、他の女子生徒達が挨拶を交わし始める。その様子を眺めていると、俺に近寄ってくる別の影が。

 

「おはようございます。瑛太君」

 

初日に教室中の男子生徒の視線を二分していた、もう一人の美少女。

 

「おはよう、倉崎智香」

 

倉崎智香。瑠璃色の髪に、アズライトの瞳。ハーフアップに結い上げた長い髪と、落ち着いた雰囲気を持つ美少女だ。ただ彼女の制服は彼女のグラマラスな恵体を隠しきれず、脚を包み隠すストッキングも妙に色気を出している。

 

「フルネームだと呼びに難くはないですか?智香、でいいんですよ?」

「そうだな。……まぁ、おまえがそういうなら」

 

また俺に視線が集中する。男子生徒達の嫉妬の視線が。

おそらく、俺が智香に話しかけられたことが気に入らないのだろう。

 

俺は当然、彼らの名前も覚えてない。

好きな漫画やアニメのキャラは覚えられるのだが、歴史の人物や政治家の名前、クラスメイトの名前を覚えるのは苦手だった。某有名なモンスターや、カードゲームのカード名と効果くらいは暗記できるのだが、勉強や交友関係にはその能力は発揮されないのである。

 

最たる例外が、“倉崎智香”。俺の幼馴染と同姓同名の雰囲気も違う美少女だ。

 

二日目にして話しかけられたのは意外だった。

そのまま彼女とのたわいない会話に興じていると、すっと間に渚が割って入る。

何やら不満そうな顔で、俺と智香の間に。

強く俺の腕を掴んで、いつも通りの笑顔を浮かべた。

二日目にして、いつも通りとは。

 

「おはよー、倉崎さん。二人で何の話をしてるの?」

「おはようございます米倉さん。ちょっとした世間話ですよ?」

 

–––何故だろう?二人の間に青い火花が散ったような気がした。

 

「出身の学校はどちらだとか、好きなものは何かとか」

「あたしも混ぜて欲しいなぁ」

「いいですよ。三人で話をしましょうか」

 

そうは言っても、何を三人で話すのか。

男子生徒達の視線が辛い。

俺は二人に視線が集中している間に、特技“影を薄くする”を使ってフェードアウト。

ごめん三人で会話すると話に参加できない、無理!

 

俺はあとで軽く謝ることにして教室から出た。

始業の時間ギリギリまで教室には戻りたくない。

どう時間を潰そうかと悩んでいると、教室の扉から一人の男子生徒が出てくる。

金髪爽やか系のイケメンだ。正直、モテない男の僻みとかはない。争いは同じレベルでしか生まれないのだ。

その男がキョロキョロ見回すと、俺を見つけて一直線にやってくる。その顔には焦燥のようなものが浮いており、顔には脂汗か冷や汗かわからないものが浮いている。暑くもないのに。

 

「お、おまえ、米倉とどういう関係だ!?」

「はぁ?」

 

第一声がそれとは随分なご挨拶。色恋沙汰かと思えばそんな風には見えない。だが、俺には言ってみたいセリフの一つがあった。

 

「おまえには関係ないだろう」

「そ、それはそうだな……けど、あいつはやめておいた方がいいッ」

 

小声で教室に聞こえないように叫ぶ。必死な様子に、俺は首を傾げる。

 

「やめておいた方がいい、ね。何故だ?っていか、おまえこそ誰?渚と何の関係?」

「青山だ。……あいつとは同じ中学だった。っていうか、名前呼びだと!?おまえどこまで踏み込んだんだ!?」

 

驚愕の青山君。何をそんなに驚いているのか。

 

「踏み込んだとは失礼だな。まだ手を握ったくらいだよ。キスはしてない」

「そ、そうか、手を握ったくらいか……それでも十分やばいが」

「さっきからやばいってなに?青山、おまえ渚とどういう関係なんだよ?」

「……お、俺は米倉と、恋人関係にあったんだ……」

 

お兄ちゃんちょっとジェラシー。そりゃ渚は可愛い。こんなカッコいい男が放っておくはずもないか。

 

「おまえこそ、渚とどこまでいったんだ?まさか、キスまで?」

「恐ろしいことを言うなッ。そんなことしたら、もう終わりだッ!」

「まるで人の義妹が悪魔みたいに」

「そうだ、あいつは悪魔みたいな女だ。……って、義妹?」

 

青山の顔から表情が抜け落ちる。そして、その顔は真っ青になった。

 

「いいか、あいつは頭がおかしい!悪いことは言わないから、義兄でいようとか思うな!今まで短期間に五人くらいがあいつに告白して、全員が一週間以内に別れてるんだ!」

「–––青山君、あたしの瑛太に何を吹き込んでいるのかな?」

 

もう殆ど誰もいない廊下に、渚の涼しげな声が響いた。

青山は顔色が青を通り越し、白くなっている。

 

「なっ、米倉!?」

「ねぇ、青山君……余計なこと話してないよね?」

 

イケメンが美少女に怯えて震えている姿は、なんとも形容し難いものがある。やっぱりイケメンの考えることは理解できない。

 

「ち、違う。俺は何も話してない。その、米倉がそいつと楽しそうに話してたから、気になって……それで……!」

「瑛太、何を言われたの?」

 

会話にならないと判断したのか、俺に視線を向ける渚の眼は昏い。

 

「あぁ、えーっと、そこの青山が渚の彼氏だったってこと」

 

白を通り越して、土気色になった。

もうお分かりだろう。青山の顔色だ。

 

「ち、違うからね瑛太っ、確かに青山君とはそういう関係だったけど、それほど親密な関係にはなったりしていないから!誤解しないでね!」

 

対照的に渚の顔は真っ赤だ。

 

「そうか。まぁ、おまえの交友関係に文句は言えないんだが、あまり寂しいからってそういうことするなよ」

「……ホントに何を聞いたの?」

「おまえが親いない寂しさに、適当な男子生徒の告白を受けていたことかな」

「…………」

 

肉体関係を結んでいないだろうからよかったものの、図星だったのか渚が青山にバッと顔を向ける。土気色どころか昇天しそうである。しかし、最後の力を振り絞ってぶんぶんと首を横に振った。何のことかわかっていない、今にも死にそうな顔だ。

 

「どうだ違ったか?」

「……ううん。瑛太にはわかっちゃうんだね」

 

寂しそうな顔をしていたから、その頭に手を伸ばしてしまう。自然と頭を撫でてしまったが、驚いた顔をしたあと嫌そうな顔をすることもなく受け入れてくれた。

 

「もう、髪型が崩れちゃうよ」

「あぁ、悪い」

 

手を離せば名残惜しそうな顔をされたが、撫で続けるわけにもいかないだろう。

この土気色の不幸そうなイケメンをどうにかしないといけない。

 

「そういえば渚、おまえ友達には俺のことなんて言ってるんだ?」

「……大切な人、かな」

 

–––なんでそんな誤解しそうな説明を!

 

「ほら、俺たちの関係を隠しておきたいとか、色々あるだろう」

「んー、今のところは隠しておこっかなぁ」

「–––だそうだ」

 

俺がそう言うと、ぶんぶんと首を縦に振る青山。

 

「絶対に口外しません!」

「そうか。……でもまぁ、前科あるからなぁ」

 

善意で渚の話をしてくれたのだろうが、その内容は渚の秘密の暴露である。善意であったのだろうが。

 

–––キーンコーンカーンコーン

 

予鈴が鳴り、カツカツと階段を上がる音がする。

間違いなくこの時間に上がってくるのは、教師だ。

 

「教室戻るぞ」

「うん、じゃあね青山君」

「あの……俺も……同じ教室……」

 

廊下に取り残された青山の声は、切なそうであった。

 

 

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