義妹の愛が重すぎる   作:黒樹

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前回のあらすじ。渚の元彼?が現れた!


思わぬ再会

 

 

 

午前の授業が終了して、お昼休みに入る。

購買にパンを買いに行く者、学食に食べに行く者、弁当を持参する者。その誰もが親しき友人を作り、またはグループを作ることで行動しているのである。

教室の中では既に、大雑把に色々な派閥ができていた。

渚を中心としたグループ、智香を中心とした女子達、ちょっとやんちゃっぽいグループに、女同士仲良さそうなのもあれば、男だけのちょっと華がないグループ、それからモテなさそうなモブっぽい奴らが徒党を組み楽しそうに談笑している。

 

–––ぼっちなのは俺だけ!

 

気がついたら周りにはグループができていて、俺は一人だった。友達もできなければ、一人で昼食を摂るだけのいるのかいないのかよくわからないやつ。それはまだいい。問題は友達がいないことだ。友達がいなければ、授業中に二人一組を作ってとか、グループ学習も難しいことになるだろう。ぼっちとは、怖いものなのである。

 

「……くっ、あわよくばあのオタクグループに混ざりたい」

 

今期のアニメの話とか、好きな漫画やゲームの話で盛り上がってる奴らに混じって楽しい青春を謳歌したい。あわよくば優しくてエッチな彼女が欲しいとか思わないから、友達が欲しかった。現実の女性は怖いので。

 

しかし、話しかけられるなら苦労はしないのである。友達ができない理由は俺の社交性にあるわけで、コミュニケーション能力が欠如している俺ではまず土俵に上がれるはずもなかった。せめて、同じ中学から受験して一緒にこの学園に来た友人が同じクラスなら、芋蔓式に友達が増えた可能性もあるだろう。

俺は友人と居ても、奇数ならば溢れるタイプなので会話はあまりしないだろうが、ペアを作れず最後の一人になるよりはマシである。

 

「瑛太、一緒にご飯食べよう」

 

掛けられた声に顔を上げると、渚が巾着袋を手に俺に近寄ってきていた。

男子共から「テメェ何様のつもりじゃあ!」という怨嗟と羨望の混じった視線が飛んできていたが、二日目にしてぼっちの烙印を押されるよりかは遥かにマシである。

内心義妹からの提案に喜びながらも、表情に出さないように気をつける。俺は敢えて余裕を見せるような態度で、堂々とした態度で渚に質問を返した。

 

「いいのか?友達と食べなくて」

「今は瑛太と関係を深めたいからって言ったら、みんな納得してくれたよ」

「また誤解しそうなことを……」

「あたしは誤解されてもいいけど」

 

–––そんな誤解を生んだら俺の学生生活は混沌としたものになる。まず間違いなく友達は作れないし、これから先彼女も作れないだろう。いやできるわけがないけど。

 

「まぁいいか。それより、早く食べないと時間がなくなるぞ」

「そうだね。食べよっか」

 

二人で協力して机をくっつけて、向かい合って座る。渚が使った机と椅子は名前も知らない男子生徒のものだが、多分あとで泣いて神にでも感謝するだろう。だから許して欲しい。

俺と渚は揃って弁当箱を広げて、黙々と食事を始めた。

正直、教室中から向けられる視線が気にならない訳ではなかったが、俺が人の視線に耐え忍んで得たスルースキルは伊達じゃない。問題は何故か智香まで俺に視線を向けていることで、その視線が少し冷たいように感じることだろうか。なんだか、背筋を刺すような寒さを感じる。

 

「……風邪でも引いたかな?」

 

バカは風邪引かないとは、バカは風邪に気づかないという意味である。俺はそういう意味で、バカなので風邪に気づかないタイプであったがこの時ばかりは不調を疑った。

 

言いようのない悪寒に首を傾げていると、渚が自分の弁当箱から卵焼きを箸で挟み宙に浮かせる。そうして、何故か俺の口元に運んできた。

 

「はい、あーん」

「……渚さん、何やってるんです?」

「何って?もう〜、恥ずかしいから早く食べてよ」

 

公衆の面前で「はいあーん」を強行する渚に、俺は思わず絶句した。とんでもなく距離感が近すぎるのである。朝の登校の時も手を掴んで離さなかったし、今だって恋人みたいな行動をしてくる。親父達ですらやっているのを見たこともないのに。いや、目の前でされたらそれはそれで困るから見てない方が正解だが。

 

「……そういうのは家でやってもらえませんかね」

「じゃあ、一回だけ。はい、あーん」

「あー……む。だし巻き卵だな」

「うん。あ、瑛太は甘いのとどっちが好き?」

「どっちも好きだな。決められん」

「じゃあ、明日は甘いのにするね」

 

やってることはバカップルのそれ。

男子生徒達の視線は死線に昇華したし、女子生徒達は黄色い声援をあげている。その中で、背筋を刺すような冷たさがより一層強くなってしまったが、俺はその視線の正体に気づくことはなく。そして、誤解するような言動を自分が助長していることからも目を逸らした。

 

「それで瑛太、友達できた?」

「いや、全然。そっちは……って、聞くまでもないか」

 

教室内での渚は誰にでも分け隔てなく接している。性差別もなく、オタクへの偏見もなく、チャラいやつでも人懐っこそうな笑みで虜にしていた。その全員の敵意の視線が俺に向かっている。女子を除いて。

このままいけば女子の間では、渚と智香が人気を独占するだろう。男の方もあの青山を始め、スポーツ系男子が人気を博しているが、正直どうでもいいのが感想である。

 

「グループ学習とか、ペアを作れとか言われた時、どうしよう……」

「その時はあたしが組んであげる」

 

媚びとは売ってみるものである。渚におんぶに抱っこの状態で申し訳ないが、どちらにしろ威厳がないのはすぐに露見するし俺はプライドなんて皆無に等しい。悪魔にでさえ魂を売ってみせる。

 

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした」

 

食事を終えて、ソシャゲをやろうとスマホを取り出す。するとすぐに渚の顔が不機嫌そうに変わる。何やら地雷を踏んでしまったらしい。

 

「もう、瑛太。あたしと話してるのにスマホ?」

「……悪いな。今日のデイリー終わってないんだ」

「あたしと話している時は、他の事に集中するの禁止」

 

注意されてそのまま敢行しようとすれば、渚にスマホを没収された。抵抗はできたができなかった。あいつの胸が机で形を変わるのを見て、そちらに意識を奪われていたので。

 

「はい、没収。放課後まで預かっておくから」

「そんな殺生な!」

 

–––スマホがなくなったら俺は休み時間何をすればいいんだ!

 

「少し待ってくださいませんか?」

 

無理矢理渚から奪い返すこともできず、あまりのショックに呆然としていると横から今朝にも聞いた声が呼び止めた。俺は思わず救世主に敬礼したくなってしまう。

 

そこに割って入ってくれたのは、食事を終えたのかさっきまで様子を見ていた智香だ。いつの間に近くに来ていたのやら、俺の斜め後ろに立っている。

 

「瑛太君、私と連絡先を交換してくださいませんか?」

「?いいけど、俺なんかのでいいのか?」

「私は瑛太君と交換したいんです」

 

そう言われては、渚もスマホを返すしかなくなる。

早速取り返した俺は、QRコードを表示して画面を上に向けた。

 

「ほら」

「はい、登録しました」

 

俺のスマホには家族と友人数人しか登録されていない。彼女を入れても二桁に届かなかった。しかし、女性としては三人目の登録である。ちなみに初めてが渚で、二人目が翠さん。

 

「ふふっ。では、私はこの辺で。あとでいっぱいお話してくださいね?」

 

そんな言葉を残して、智香は元いたグループへ戻って行った。

 

 

 

残りの時間はもう十分もない。

食事を終えた渚は同じ女子グループに拉致られて、様々な質問攻めにあっている。

俺はソシャゲのデイリー消化に勤しむ。そんな俺のスマホに影が落ちて、思わず顔を上げれば入学式以来の顔があった。

 

「やっほー、カゲ」

 

俺をそんな名前で呼ぶのは、中学生時代の旧友しかいない。

“瑛太”を“影太”と置き換えて、影をカゲと呼ぶのである。

名前の由来は中学生時代では男子では高身長だった割に、影が薄く存在を認識できないからという理由であった。

修学旅行でも、班員が時々俺の存在を忘れて後方を探すのは良き思い出である。

 

「なんだ芳乃か」

 

茶髪のちょっと能天気な男で、身長は170cmに届かないくらい。成績も普通で、運動神経も普通、ただし女子にはそれなりにモテる。それが新垣芳乃という男であり、俺の友人である。

 

「そんでそっちの天然パーマは?」

「あれ、天パってよくわかったね?」

「なんとなく言ってみたら当たった」

 

まさかわざわざくるくるパーマにしている男子高校生などおるまいと、芳乃の隣にいる男を見ればなんとなく見覚えがあった。あまりにも目立つ明るい茶髪に覚えはないのだが、なんとなく見覚えがある。それも智香に覚えた既視感と似たようなものを。

 

「……おまえ、ヨッシーか?」

「「えっ!?」」

 

驚いた二人は、シンクロして声を上げる。

さらに俺は確認するように、その名を告げる。

 

「じゃあ、名前は長嶋吉宗だったりするか?」

「「えっ、怖っ!?」」

 

どうやら当たりらしい。俺は驚いている二人にほくそ笑んでいた。

 

「そうか。ダブルヨッシー同士気が合って、仲良くなったのか」

 

芳乃の渾名もヨッシーである。

俺は名推理を披露して、二人に改めて向き直る。

二人とも何故わかったのか、わからない顔だ。

 

「それでおまえらは何しに来たんだ?」

「酷いなー、友達ができていないだろうなぁって心配して見に来てやったのに」

「哀れむ気なら帰れ」

「そんな気はないって。ただ小学校の話してたら、小学校あるあるの話になって、真冬に現れるタンクトップ小僧の話になったんだよ。それでそいつがちょうど隣のクラスにいるからさ」

「動物園のパンダじゃねぇんだぞ、帰れ」

 

真冬に現れるタンクトップ小僧とは小学生時代の俺である。冬の雪が降る寒い日に、袖のないシャツと短パンで学校に行っていたらついた異名のようなものだ。若かりし日の過ちとでも言うべき黒歴史。今じゃ真冬に半袖短パンなんてやってられないので、もうやることはないと思うが。

 

「……それはそうとオレの名前、なんで知ってんの?」

「そりゃあ雪の降る寒い日に現れた半袖短パンのガキが、俺だからだよ。年中半袖短パンのやつがいたろ?」

「あ、うん……って、えぇぇぇぇ!?!?」

 

吉宗は随分と驚いているようである。その声に何人かが振り向いたのに気づき、その中に智香がいたことでなんだか気まずそうに視線を逸らしたのを俺は見逃さなかった。

 

「じゃ、じゃあ、エイちゃん?」

「懐かしい呼び方だな。ヨッシー」

 

急に声を潜めてきた吉宗に合わせて、俺も声を潜める。すると気になることでもあるのか再会を喜ぶでもなく、吉宗はちらちらと智香の方を見ながら話した。

 

「そ、その、倉崎さんとは話した?」

「随分と余所余所しい呼び方だな。昔は、智ちゃんって呼んでたのに」

 

思春期男子になって名前を呼ぶのが恥ずかしくなったというよりは、絶対的な距離感を感じる反応に俺は怪訝な顔をする。まさに何かあった顔だ。

 

「まぁ、話はしたけど……やっぱりあいつ智香なんだな」

 

俺は懐かしむように智香の方を見る。と、視線が合って微笑まれた。

 

「……一応聞くんだけど、あいつ俺のこと覚えてる?」

「忘れるわけがないって。写真ずっと持ってるんだから」

「そうか、でも綺麗になったなぁ……」

 

昔は引っ込み思案で、髪も目に掛かるくらい長かった。今は前髪を少し切っているから眼は出しているが、本当に変わったなというのが感想である。

 

「……そういやエイちゃん、彼女いる?」

「いないけど。なんでだよ?」

「いや、聞いてみただけで大したことはないんだけど。欲しいとか思ったことはある?」

「どちらかと言えばないが正解だな。欲しいと思ったことはない、かな」

「じゃあ、いた?」

「いや、いたこともない。俺みたいなのが好かれるはずもないし、恋するだけ無駄だ」

 

現実では既に恋をすることは諦めている。二次元ほどの可愛い女の子に遭遇することはないし、好きになっても振られる気がして億劫。その点に関して言えば、二次元は裏切らない。

 

「そ、そうか、現状いないのか」

「……おまえ、誰に雇われてそんなことを聞く?」

「あ、もう時間だ教室帰るわ!」

「あっ、……逃げた」

 

突然の再会は、吉宗の逃亡によって幕を閉じた。

 

 

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