義妹の愛が重すぎる   作:黒樹

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前回のあらすじ。義妹と昼食を食べた。


義妹との帰路

 

 

 

「今日から部活動見学及び体験入部が開始されます。入部希望者や興味がある者は各自の判断で赴き、また用のない生徒は速やかに下校してください」

 

放課後のホームルーム。担任の女教師は最低限の連絡事項を生徒達に伝えると、前方のドアから退出していく。

女教師が後ろ手に扉を閉めて、廊下に出た瞬間、それまで静かさを保っていた生徒達が一斉に動き出した。仲良くなった学友達と部活動見学に出るためである。

沸き立つ教室からそっと抜け出すため、俺は静かに鞄を持って教室を出た。

少し歩いて階段に差し掛かったところで、大声で名前を呼ばれた。

 

「瑛太、待ってよ!」

 

振り返ると慌てて追い駆けてくる渚の姿が。

追いついてすぐ、捕まえたとでも言わんばかりに腕を掴むと、渚は膨れっ面を作った。

何が不満なのかわからず眉を寄せていると、彼女は不満を口にした。

 

「もう、勝手にどこ行くの!」

「どこ行くのって帰るんだよ。家に」

「じゃあ、あたしも帰る」

 

二人一緒に階段を降りていく。下駄箱で靴に履き替えて、駅に近い正門の方へ出た。

 

「野球部でーすっ!よろしくお願いしまーす!!女子マネージャーも募集してます!」

「サッカー部よろしくぅ!女子マネージャーも可ッ!!」

「バスケ部部員求む!!あと可愛い女子マネ!」

「女子バレー部体験入学募集中!!」

「剣道部来たれ!!」

「料理研究会ただいま家庭科室で体験入部受付中です!」

「アメフト部筋肉自慢募集中!」

「テニス部男女共に体験入部募集中でーす!!」

 

さすがは“七星学園”といったところだろうか。元々この学校は文武両道を掲げているが、多くの部活動が全国大会常連のため部活動が強い学校として知られているのだ。当然、スポーツ推薦などの枠もあり、受験ではそこを前面に押し出した生徒も多くいる。部活動への従事を強制されることもないが、多くが部活動に所属するためにこの学園に入学していた。

俺は“部活動に参加しなくていい”という点からこの学校を選んだので、全く関係はないが。

 

渚が正門の前を通ろうとすると、多くの部活が群がり勧誘の声と共にビラを手渡していく。あまりにも群がるため俺が彼女を抱き寄せて脱出したほどだ。

 

「す、凄かったね……」

 

ほぼ全ての部活にビラを渡された渚が、疲れたような声で言う。しかし、それらを全て綺麗に纏めると鞄に仕舞い込んだ。律儀に持って帰るいい義妹である。

 

そのまま駅への道を歩きながら、渚は俺の様子を窺う。

今朝と同じように自然と手が繋がれており、まるでそれが当然の如く振る舞う。

俺も慣れた様子で受け入れた。このままでは、渚なしでは生きていけなくなるかもしれない。

そんなバカなことを考えていると、渚が話しかけてきた。

 

「部活しなくていいの?」

「俺は元から部活しないつもりだったから。そう言うおまえこそ良かったのか?部活見学友達と回ってこなくて」

 

女子の付き合いは面倒なのが多いらしい。メッセにはすぐ返信、付き合いの悪いやつはハブられる等の嫌がらせを受けるのだとか。全部漫画やアニメの知識だけど。

 

「そういやおまえ、中学は部活動してなかったのか?」

 

つい気になってそんなことを聞いてしまう。渚のスタイルの良さや腰の細さ、柔らかさの中にあるしなやかな感触に、何かしら運動部に所属していたのだろうと思った。それは、大当たりだったらしい。

 

「入ってたよ。バレー部とテニス部掛け持ち」

 

–––予想の斜め上だった。

 

「道理で良い身体をしているわけだな」

「……いいからだなんて瑛太のえっち」

「いや、そういう意味じゃない」

 

慌てて弁解するも時既に遅し、斜め下からジト目を向けられる。そこから少し寂しそうに微笑んで、渚はその理由を説明した。

 

「……うちはお母さんが遅くまで働いてたからさ。家にすぐ帰って家事しても一人で待ってる時間が多くて、だから誰かと一緒にいられるようにって掛け持ちしてたんだ。人並みには運動できたし、みんな優しかったから」

「ふーん」

 

興味なさげに相槌を打つと、ぎゅっと手を強く握られる。

 

「でも、今は瑛太がいるから。入らないかな」

 

本当に嬉しそうな顔で渚は笑った。それは早い夏の到来とでも呼ぶべき、花咲くような笑顔。

花に喩えると、“向日葵”のような。彼女の笑顔には、そんな可愛さがある。

 

……だからこそ、なおさら言い辛い。

 

俺は渚の手を強く握り返して、離さないようにしながら淡々と言い放った。

 

「あー……そのな。残念ながら、毎日一緒にいられるわけじゃないぞ」

「え……?」

 

彼女の歩みが止まる。もう駅の改札前だ。突然告げられた言葉に理解が追いついていないのか、それとも理解したくないのか瞳が揺れている。

 

「バイトするから」

「え、なんで、お小遣いが足りないとか!?」

「あぁ、まったく足りないな」

「そ、それならあたしのお小遣いあげるよ。だからバイトなんてやめよ?」

「……は?」

 

俺は思わず渚の提案に驚いた。正直、俺でも意味のわからない提案だった。あまりのショックに数秒動けなかったものの、俺は一言拒絶して改札を通る。

 

「いらんわ」

「な、なんで?足りなかった?じゃあ、あたしがバイトして稼いでくるから」

「どうしてその方向に持っていこうとする!?」

 

–––この娘少しおかしいのではないだろうか。

 

ふと、そんなことを思ったがちょうど電車が来たので乗り込む。そこでふわっと感じた渚へのイメージが薄れる。俺は早々に聞いたことを無かったことにして、吊り革に掴まれば渚が縋るように寄り掛かって俺の胸に手を置く。たぶん見られているのは、渚の可愛さだけが原因じゃないはずだ。

 

「な、なんでお金が必要なの?も、もしかして、カツアゲとか……?」

「俺がそんな弱そうに見えるか?」

 

そんなもの来たら返り討ちにしてやる。と、やる気を見せたがそうじゃない。

俺は取り敢えず、金が必要な理由を説明してやることにした。

 

「お金がないとゲームも漫画も買えない。それが高校生になって、ようやくバイトしてより多くの作品を買えるようになるんだ」

 

きっと全国の貧乏中学生の野望は、自分でバイトした金で好きなものを買うことだろう。俺も数ヶ月前まではそうだったからよくわかる。だが、今やそれは建前だ。俺には別の野望がある。

 

「……課金には莫大な金がいる」

 

ソシャゲは金が掛かる。それこそ無料で遊べると謳っているが上位層、特に社会人達は金の暴力に任せてガチャを回しまくる。せめて社会人達には勝てないまでも、好きなキャラをゲット自由にゲットできるくらいには課金したい。

 

–––実はそれも建前で、本当の目的は義妹に課金することにあった。

 

美味しいものを食べさせたり、色んなところに連れて行ったり、可愛い服を着せたり。俺は自分で稼いだ金で贈り物をしたかった。問題はそれらを素直に渚へプレゼントしてあげられるかというところ。今のところ関係は良好でも、恥ずかしくてプレゼントも渡せないのでは意味がない。

 

「……その、おまえにも何かしてやりたいからな。だから、その時になったら受け取って欲しい……」

 

あまりにも本音を言うのが恥ずかしく、迂遠な説明をしてしまったが、たぶん俺の考えなんてバレバレだろう。言葉にする度に身体中の温度が上がって、頬が赤くなってしまうのを自覚するほどなのだから。

 

「……そういうのいらないから、瑛太には一緒にいて欲しいな」

 

真意は伝わったらしいが、それでも不満を隠そうともせず自分の願いを口にする。

俺としては渚の可愛い姿が見たいので、それだけは譲れない。

 

「バイトはする」

「やだ」

「子供か」

「絶対に阻止するから」

「どうやってだよ」

「わからない。……なら、瑛太が買ったもの何も受け取らないからね」

 

それは困る。

二人言い争っていると家の最寄駅についた。

一旦バイトの話は持ち帰って議論することにする。

親父も翠さんも反対はしないだろう。

俺が勝算を確信してそう告げると、渚もその話は終わりとばかりに腕に抱きついてきた。

そのまま電車を降りて、二人で改札を出る。

 

「そうだ瑛太、スーパーに寄って行かないと」

 

駅から出たところで、渚がそんなことを言い出す。

昨日は翠さんがいたので彼女が手料理を娘と一緒に振る舞ったが、普段は翠さんは仕事で遅く渚の担当となっているようだ。うちも同じようで暇さえあれば俺が作る。親父殿が作ると控えめに言って不味いのだ。

 

駅近くのスーパーに二人で入ると、買い物かごを待つ。せめてそれくらいはやろうとしたら、俺の持った買い物かごに渚も手を掛ける。

 

「瑛太は一緒にいてくれるだけでいいの」

「女性と一緒に買い物に来て、荷物持ちをやらない男はいないだろ」

「あっ……」

 

俺は実力行使に出て、無理矢理渚の手をかごから外す。その代わりに、俺は今度は自分から彼女の手を握った。

 

「これでも持っとけ」

「……もう、瑛太のバカ」

 

納得してくれたらしい渚と並んで、野菜コーナーから廻る。

野菜を前に、ふと彼女は訊いてきた。

 

「瑛太は今日の晩御飯なにがいい?」

 

突然、そう訊かれて男はなんと答えるだろうか。「なんでもいい」は禁句だ。もっとも答えられて困る回答とされている。俺はそれを既に学習していた。

俺は少しだけ逡巡して、野菜を見つめる。

渚の手料理ならなんでも食べたいが、逆に言えばいつでも食べれるからこれから“なんでも”文字通り食べられるだろう。

悩んでいることがわかったのか、渚は質問を変えた。

 

「じゃあ、瑛太の好きな食べ物は?」

「なんでも好きだぞ。渚は何か食べられないものとかあるか?」

「あたしは特にないけど」

 

アレルギーもなし、となると真っ先に思い浮かんだ料理名を口にする。

 

「肉じゃがが食べたい」

「おっけー、肉じゃがね」

 

ぽいぽいと手慣れたように野菜を選んでかごに放り込んでいく。じゃがいも、人参、玉葱。糸蒟蒻を取ってから肉の置き場へ向かって、渚もまた悩んでいた。

 

「牛肉と豚肉どっちがいい?」

「牛かな、豚も捨て難いけど」

 

一通り材料を集め終わったところで、渚は呟いた。

 

「明日は何にしよっか」

「今日は俺の好きなものなんだから、渚の好きなものにしよう」

「瑛太君が作ってくれるの?」

「……俺が作れるものであれば」

 

俺も料理ができないわけではない。そう答えると、嬉しそうに彼女は答えた。

 

「じゃあ、ハンバーグ。半熟の目玉焼きが乗ったやつね」

「それくらいならまぁ、なんとか」

 

追加でハンバーグの材料と朝食の材料を突っ込んで会計へと向かった。

 

 

 

材料を適当に詰めたレジ袋を左手に、反対の手は渚と繋ぎながら帰路を歩く。

何処へ行っても渚は男達の視線を受けていた。ただ、渚はその視線に気づいていても全て無視しているようだ。

 

「どうしたの瑛太?」

 

それが俺に向けられるとどうも気になる。が、今日はなんとなく俺に向けられる視線が多い気がして気になっていた。

 

「いや、なんでもない……たぶん気のせいだろ」

 

–––最近、視線が多くて本当に嫌になる。注視されるのは苦手なのだ。

 

 

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