義妹の愛が重すぎる   作:黒樹

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前回のあらすじ。
向日葵の花言葉『あなただけ見つめてる』


義妹と幼馴染と俺と

 

 

 

七星学園入学後、最初の金曜日。

その頃にはもう既に、スクールカーストが形成されていた。

一軍には渚、智香、青山を含むグループ。二軍にDQNっぽいいわゆるギャルや不良っぽい生徒。三軍は中立的な模範的生徒。四軍にオタク君含むぼっちや隠キャと思われる者達。

ただし自然と作られたクラスカースト制度には例外もある。それが俺だ。

ぼっちであるのに一軍である渚と智香と交流のある俺の存在、扱いは誰にも困るものらしい。渚と智香を狙う男子生徒達にとっては排除したい存在でも、その二人がそれを許さない。そんなことをすれば自分が排除されてしまうからだ。

俺自身も“人に話しかけるのが苦手”という欠点があるにしても、話しかけられればある程度は応答できるため隠キャというには少し異質。例えるなら、群れを離れた孤高の狼だろうか。

 

–––そして、俺が孤高の狼になっているのも、気取っているのも実は原因があったりする。

 

「えーいたっ、一緒にご飯食べよ」

 

毎日のように一緒にお昼ご飯を食べようと粘着する渚の存在だ。

確かに俺も友達を作る努力はしていないが、それ以上に寄ってこない理由は渚が異様に俺に懐いているのが原因だろう。

教室中から渚に注がれる憧憬の視線が、この時ばかりは俺に対する嫉妬や殺気に変換される。

そしてそれを助長したのが、昼食初回から渚にしてもらった「はいあーん」である。あれは殆どの男子を敵に回すに等しい威力を持っていたのだ。青い顔をしていたのは、青山くらいのものであろう。

 

今日も今日とて渚に構ってアピールをされながら、教室を出ようと弁当箱を入れた巾着袋を持つ。

 

「私もご一緒していいですか?」

 

そこに声を掛けてきたのは、渚と対をなすもう一人の美少女。

一人の男子生徒に対する、二人の美少女。それも学年で一二を争う美少女の昼食同席に、男子生徒達の怨嗟を込めた驚愕の声が響く。

 

「「「「えええぇぇぇぇぇぇッッッ!?!?」」」」

 

一部の女子–––智香と交流のある女子からは黄色い歓声が。気がつけば教室中の視線が俺達三人に集中しており、一字一句聞き逃しはしまいと全神経が集中している。

 

「いいけど、場所を変えようか」

「それもそうですね」

「そ、そう。まぁ、瑛太が言うんならいいけど……」

 

若干不満そうな渚の背中を押して、俺と智香は教室を出た。

 

 

教室を出て階段を上がる。

ちなみに一年生の教室は最上階で、三階にある。その上に上がれば、屋上しかない。

こっそりとついてくるクラスメイト達がいるが放置して、俺達は最後の段を上がると屋上への扉を開けた。“園芸部にしか配られないスペアキー”を使って。

 

–––そこは、屋上にあって屋上にあらず。

 

沢山の花壇、設置された七つのベンチ。

花壇にはワスレナグサやスズラン等の春の花が咲き誇り、風に揺れている。

屋上は空に近いからか、まるで空中庭園のよう。

突然現れた幻想的な光景に、二人は見入っていた。

その隙に、追いかけてくるクラスメイトを閉め出すために鍵を閉める。

 

「え、瑛太君、さっきの鍵は?」

「園芸部だけに配られるスペアキー」

「園芸部に入ったんですか?」

「……入るつもりはなかったんだがな。バイト先の先輩に『鍵貸してあげるから、ちょっと頼み事聞いてくれない?』って半ば強引に押し切られた」

 

さらに詳しく説明すると幽霊部員でもいいから籍を置いて、ついでに男手欲しいからたまに手伝ってとお願いされたわけである。幽霊部員とは、と辞書で引き直したいところだが、その先輩はバイトリーダーでシフト管理をしておりメリットを盾にされれば断れなかったのである。半分は詐欺に脅迫、しかも職権濫用をされたような気がするが悪い人ではないのだ。

 

「まぁ、そんなことより早く食わないと時間なくなるぞ」

 

今更終わっことを蒸し返しても意味がない。俺が適当に座ると、両隣を挟むように二人が座る。

 

「ふふっ、こうして瑛太君と一緒に食事をするのも久しぶりですね」

 

三人で弁当箱を広げて、智香がそんなことを言う。

俺が転校した時だから、小学五年生以来だろうか。

もう卒業という六年生から転校したがために、あれは苦労した。

そんなことを思い返していると、渚が智香の発言に反応する。

 

「え、久しぶり?」

「瑛太君とは“幼馴染”ですから」

 

智香の告白に大きく目を見開き驚く渚は、大きく瞳を揺らして動揺していた。

 

「き、聞いてないんだけど!」

「聞かれてないしな」

「お父さんにも」

「親父が何話しているか知らないが、たぶん幼馴染がこの学園にいることあいつは知らないぞ。言ってないから」

 

話の節々に卵焼きを口に放り込む。

今日の日替わり卵焼きは砂糖を入れた甘いやつ。

そのまま咀嚼しながら、白米を食べる。

呑気に食事を続ける俺と智香に、

 

「そんな素振りなかったじゃん!」

 

と、怒った。

 

「だってなぁ、まさか入学した高校で再会するなんて思わないだろ」

「そうですね。成長してますし、最初は気づきませんでしたから。自己紹介の時に、知っている人の名前が出て私思わず凝視してしまいました」

「俺も知っている名前がいて、記憶と違って美人になっているんだもんな。まぁ、おまえは元から可愛かったけど」

「もう、瑛太君ったら。でも、これも運命というものかもしれませんよ?」

 

正直、再会できて嬉しかった。その思いは一緒のようで、見合わせた智香の顔は綻んでいる。

 

「ふ、ふーん、そうなんだ。倉崎さんがそんなにいいの?」

 

途端に詰められる距離。

腰も、お尻も、肩もくっつくほど詰めた渚に俺は動けなくなる。

何故かって?–––おっぱいが肘に当たっているからだ。

 

「そんなに距離を詰めたら、瑛太君が困ってしまいますよ?」

 

と言いつつ、智香も距離を詰める。

お尻がくっつき、おっぱいが肘に当たる。

両隣から柔らかな感触に包まれて、俺は今幸せだった。

なんでこんなことになっているのかわからないが。

 

「–––あれ?」

 

そうして俺越しに渚を睨んでいた智香が何かに気づく。視線は渚の膝に向けられており、俺の膝と見比べていた。

 

「……どうして瑛太君と米倉さんのお弁当の中身、同じなんですか?」

 

指摘されて初めて、俺は自分の置かれた状況に気づいた。

同棲した男女における学園生活難問の一つ、『あれこいつらの弁当中身同じじゃね事件』に。

漫画や、ラノベにおけるよく目にする展開だ。

親しい女の子に弁当を作ってもらうと、クラスメイト達にバレてしまうという話。

それが現在、俺と渚の身に起こっているのである。

 

「……」

 

誤魔化すべきか、正直に話すべきか迷った。

その一瞬を智香が見逃すはずはなく。

 

「瑛太君、説明してくれますね?」

 

おそらくは正解に近い予想をしている智香に詰め寄られ、どう説明したものか困っているうちに渚がバラす。

 

「だってあたしが作ったもん」

 

得意げな顔で渚は智香を見る。

智香は驚愕に目を見開いたものの、平静を崩さず表情を取り繕う。

少し悔しそうな顔で、「出遅れた」と。

何を出遅れたのか知らないが、俺は聞かなかったことにした。

 

「なら、明日は私が作ります。瑛太君のお弁当は」

「なんで倉崎さんがそんなこと言うのかな?」

「だって幼馴染ですから」

「幼馴染だからなに?」

「そういうのは幼馴染の特権です。何も関係ない米倉さんの領分ではないかと」

 

言い返せないだろうと自信満々に言い放つ智香に、俺はちょっと同情した。知らぬが花、渚もまた特権持ちであるのだ。

 

「あたしは瑛太と住んでるし」

「……は?」

 

自信満々だった顔から、表情が抜ける。

ハイライトの消えた瞳に見つめられては、俺も一瞬たじろいでしまった。

ギギギ、と壊れたブリキの人形のような動きで首を傾げる。

突然の学園ホラーに、俺は思わず顔が引き攣る。

 

「実は……いだっ!?」

 

幼馴染になら話していいだろうと真実を告白しようとすれば、渚と密着している太ももが蜂に刺されたように痛みを訴えた。視線を落とすと渚が俺の太ももを抓っている。

 

「な、なんでそんな女と同棲してるんですか!?私と結婚の約束をしたのに!」

「いつそんな約束したの!?」

「幼稚園の頃、ほっぺにキスした時です」

「どっちから!?」

「私からですね」

 

渚と智香が騒ぎ立てる。

気がつけば、昼休みは残り十五分もない。

 

「それより早く食えよ。時間ないぞ」

 

俺が早食いなせいか、それとも他が遅いのか。

既に食べ終えた弁当箱を片付けて、ベンチに背を預けて空を仰ぎ見る。

青い空を流れる白い雲は、脳裏に肘に当たっていたあの感触を思い出させた。

 

–––ふわふわ。

 

いや、今も当たっているんだが。

気づいていないのか、わざとなのか。

願わくば、この手で掴みたいとばかりに空に手を伸ばしていると、急遽現実に戻される。

 

「瑛太君、はいあーん」

 

横合いから箸に摘まれた鯖の竜田揚げを差し出され、反射的に口に入れた俺はもきゅもきゅと咀嚼して、姿勢を正して味わう。衣は薄く、油分の少ないそれは、ヘルシーで食べやすかった。それに味も抜群に美味い。

 

「美味しいですか瑛太君?」

「あぁ、美味い」

「瑛太君は鯖が大好きでしたからね」

 

好みもはっきりと把握しているらしく、智香が満足そうに微笑む。

それが面白くなかったのか、反対の渚は不満顔だ。

 

「明日は私が瑛太君のお弁当を作ってきますね。瑛太君も食べたいですよね?」

「ちょっと瑛太のお弁当はあたしが作るんだけど」

「明日は休みだぞ」

「「……あっ」」

 

七星学園は基本、土日は休みである。

休日であることを申告すると、二人は失念していたかのように冷静に。肩透かしを喰らったような顔で、智香だけは悔しそうに口元を歪めて俯いていた。

 

「まぁ、智香の手料理は楽しみにしておく」

 

このままでは収集がつかなくなりそうなので、そう言って争いは終了。

 

「瑛太はあたしのお弁当が嫌になったの!?」

 

–––しなかった。

 

「違う。そうじゃない」

「じゃあ、なんで倉崎さんを選ぶの?」

「幼馴染の作る弁当を食べたいという、下心」

 

美少女の手料理を食べたいという夢は叶った。

–––しかし、男の夢は果てしないのである。

義妹だけでなく、幼馴染の手料理も食べたい。機会があればそう思うのは男として仕方ないことではないだろうか。

尽きることのない欲望に、俺は忠実でありたい。

 

「瑛太のバカ!浮気者!」

「そんな付き合っているわけでもないのに……」

「もう一生お弁当作ってあげない!」

「じゃあ、これからは私が作りますね」

「……前言撤回」

 

もう一生お弁当作ってあげない、に一瞬心臓が止まりそうだったが隙を逃さない智香のおかげでなんとか一命を取り留めた。

 

 

 

 

 

 

夜の十時過ぎ。

夕食も風呂も終えて、部屋で一人ゲームに勤しむ。

深夜アニメの時間までぶっ通しでやり倒すつもりであったのだが、不意にスマホが振動した。

あまりにも友達が少ないため、チェーンメールや迷惑メールを疑いがちだが、決まってこの時間帯に智香が電話を掛けてくる。

俺はゲームを中断して、スマホを見るとやはり智香からの連絡だった。

 

『今から話せませんか?』

 

と、一言。

すぐに彼女に電話を掛けた。

 

ツー、ツー。プルルルルル–––。

 

そんな古めかしい電子音を響かせて、ツーコールほどでそれが止むと電話口から澄んだ声が俺の名前を呼ぶ。

 

『瑛太君?』

「おう」

『こんばんは』

「ん。こんばんは」

 

何度やっても慣れないやり取りに、俺は苦笑する。

智香も同じようで、小さく笑った声が電話口から漏れた。

 

『やっぱり慣れないですね』

「そうだな」

 

倉崎智香と出逢ったのは、幼稚園の頃。

倉崎智香と別離したのは、小学五年生の頃。

最後の年、六年生になる前。

長い年月、俺たちは関係を絶っていた。

連絡もなく、会うこともなく。

それが高校に入って再会するとは、なんたる奇跡か。

“運命”とはよく言ったものだ。

 

『……寂しいです。せっかく逢えたのに、また離れてしまうなんて』

 

寂しげな智香の声が耳朶を打つ。あまりにも大仰な言い方に、俺は少し頰を緩めた。

 

「たかが二日だろ」

『そのお休み、逢えないことが問題なんです』

 

ただ二日、学校が休みなだけ。

言って終えばそれだけだが、それ以上に苦しいらしい。

昔から智香は俺にべったりくっついていたからか、余計に反動がきているらしかった。

 

『そんなことより。……いえ、それも大切ですが例の件です』

 

他に話題があったらしく、改めて問う。

 

『瑛太君、米倉さんとはどういう関係なんですか?』

「どういう関係って言われてもな」

 

俺はそっと隣の部屋に聞き耳を立てる。

今のところ、渚が部屋から出てくる気配はない。

今のうちに話しておくべき気がした。

このまま誤解を与えておくと、何か起こりそうなので。

 

「俺が言ったって言うなよ。実は、あいつは–––」

 

そんな風に渚の正体?をバラそうとした時だった。

 

「瑛太、誰と電話してるの?」

 

ノックもせずに扉が開かれる。

プライバシーという壁を無視して、渚は無遠慮にも部屋に入ってきた。

それもこんな時間に、男の部屋に。

風呂上がりで色気を放つ肌の艶と、髪から香るシャンプーの匂い。それと服の下で自己主張する大きな膨らみに俺は思わず、息が詰まるほどの魅力を感じた。

 

『……さっきの声、米倉さんですね』

 

と、見惚れている間に電話越しの声が冷たくなる。智香さんがご立腹だ。

 

『本当に一緒に住んでいるんですね』

 

どうやら俺と渚が一つ屋根の下なのが大変気に食わないらしく、何故だかミシッという音がスマホから聞こえてきた。

 

「智香だ」

 

電話口を押さえて、渚に答える。

すると彼女も不満顔。

もうどうしろっていうんだよ。

思わず、そう愚痴りたくもなる。

 

「瑛太」

 

しかし、すぐに渚は笑顔を浮かべるとベッドの上に座っていた俺の膝の上に乗って、あらぬ疑いをかけてくる。

 

「もう、瑛太のエッチ」

『な、瑛太君、米倉さんとナニをしてるんですか!?』

 

わざとらしく胸元を開けて、ちらちらと胸を覗かせる。谷間ははっきりと肩越しにも見えており、俺が思わず一瞬凝視してしまったのを渚はしっかりと見ていた。

 

「もう、そんなところ触っちゃダメだよ瑛太っ」

「見ただけなのに」

『え、瑛太君?いったいなにを……?』

「違う俺は何もしてない」

 

果たして、俺の弁解を受け入れてくれるかどうか。たぶん無理だと思う。

 

「……もう、そんなに触りたいならそう言えばいいのに」

『どこに触ったんですか!?』

 

電話の向こうで騒ぐ智香が煩いと言わんばかりに、渚は俺のスマホの通話終了ボタンに触れる。

 

切れた電話に、智香からリコール。

慌てて出ると、半泣きの声で智香が一言。

 

『お楽しみなんですね瑛太君!』

 

どうすればこの誤解が解けるのかと、俺は頭を抱えた。

 

 

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