秘密道具財団機動捜査課   作:ナチュラル7l72

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秘密道具

人の行きかいが激しい夜の街並み。

いまだ仕事を全うしようと駆け回る社畜。ふらふらと今にも倒れこみそうな酔っ払い。絶えず呼びかけるキャッチ。

道の端には段ボールを敷き寝床にしているものもいればだれかの吐瀉物と思しきものも放置されている。

路地裏では凶器は用いられてはいないものの、拳同士で殴り合う男性。傍に倒れこみ泣き崩れている女性。

 

平和で健康な街並みがいつも通り広がる中、常夜灯のまばゆい黄色の光が猛々しいアラーム音と共に深紅に輝く。

 

「「「「只今秘密道具不法所持および殺人の容疑者が都市に侵入しました」」」」

 

社畜も、酔っ払いも、キャッチも、ホームレスも、男も、女も、己の本分を忘れ皆一様に顔を青ざめ街から離れようと必死に逃げ出す。

 

けどその行動はまったく当然。自分も同じ立場ならそうするだろうとヘリに乗り上空から現場を監視している黒いユニフォームを着こんだ男は考える。

致死性のある道具を持つ相手にはいささか防刃、防弾性が低い俊敏性のみを追求した装備を身にまとい滑り止め付きの軍手をギュムっと音を鳴らし深くつける。

 

秘密道具。世間ではそれを最悪の兵器と呼ぶ。

跡も残らず、容易で、便利で、そして世界を破壊しうる最悪の道具群。

 

異次元へ通じ∞の空間へと広がる『四次元ポケット』

電池が必要だが小型かつ軽量で長時間のホバリングが可能な『タケコプター』

場所さえ認識していれば文字通りどこにでも繋がる『どこでもドア』

 

どんな弱小国でも一つでも確保すればその国は先進国にも勝る力と権力をつかむことが可能であろうほどの力。一個人が保持するには身に余るというのは明白だ。

 

男の使命は秘密道具に偶然にも見つけ手を出し、身を滅ぼした者を拘束、あるいは殺害だ。厄介なことに滅ぼすのは自分の身だけでなく周りを巻き込んでのことが多いためこうして男が派遣されるのだ。

 

ヘリの壁にかけられたコンパウンドボウをつかみ黒く染まった矢筒を背負いこんだ。

 

男は自らの運命を考える。

すなわち、今日生き残れるのだろうか。

 

「ちょっとちょっと、背中の汗すごいよ?新人でもないのに焦りすぎだってー」

 

うっとおしい言葉と共にぺちぺちとひっぱたかられる背中を無視して男は無線の音量をMAXにする。ノイズが垂れ流されるばかりで言い訳には使えなかった。

男に馴れ馴れしく話しかけるその女は一応上司だった故、さらに、仕事柄、不明点があるなら答えるべきというお堅い考えを持っている男に正当な理由なくして無視をするという事はできない。都合のいい理由があればまた別だが。

 

「いやあ、君がなかなかに緊張していそうだからほぐしてあげようと思って」

 

男は端的に言ってこの女が嫌いだった。

背丈は自分より小さく、声は高く、誰でも好印象を抱く整った外観。容姿だけでいえばこの女は少女と呼んで差し支えないだろう。

 

ヘリのプロペラから発せられるけたたましい雑音で誤魔化してもよかっただろう。しかし男は珍しくその声に応えた。手の震えを抑えるためかも知れないが男は自分でもよく分からず口を動かしていた。

 

「なんで皆私欲に走っちゃうんだろうね。もっと世界の為平和の為に使えないのかなあ」

 

それは皮肉だろうか。男は少女の顔に隠れた影を探すようにまじまじと見つめる。

現在2050年、秘密道具の存在が確認されてから20年余りもの年月がたったが世界は未だ戦争を続けかつて掲げていた平和の為の道21も形骸化している。

 

形式的には財団が全てを確保しているが、秘密道具を持っているであろう各国急速発展国及び先進国がいるのにも関わらずこの有様なのだ。

 

世界を変え得る素晴らしい道具群は世界を変えない。それはこの二十年間が証明しているのだ。

 

「それはそうだけど、組織に属していない一般人だからっていうのもあるじゃん。財団みたいに」

 

軽々と一般区域でそれを口に出すなと男は思うが今に限った話でなくそれにヘリコプターの上だということもあり口には出さないでおく。と色々と理論を重ねたが一番の理由はそれを口にしている当人が上司であるからだ。

 

財団とはその男と女が属している団体である。

正式名称は秘密道具財団。

どこの組織にも属さず非営利目的で秘密道具を収集・収容・奪取をしている団体だ。

 

収集・収容・奪取をする過程で得られた利潤は全て団体拡大や平和活動へと使われる。そう謳われているが男の給与はこの団体が支払っている以上何らかの形で資金繰りに使われているであろうことは明白だろう。一般的な団体と違うのはその理念が大義名分と化してはいないところだろうか。

 

財団は国連から認められた団体である。世間では他の組織との関連性の無さや非営利目的故に秘密道具を集める事を許されていると言われているが、実際は国連が存在を確認した時には一団体にしては非常に大量の秘密道具をすでに確保していたため、渋々ながら暫定認めているという状況だ。

 

財団は確かに今のところ秘密道具の確保のみに注力し、収集した秘密道具を使いなにかしようとはしている様子はない。

しかし財団の上層部について、考えも、人数も、素性も、誰も知らないのも事実だ。

そんな財団をまるで良い働きをしている団体というように言うのはどうなんだ。と男は応えた。

 

「それはそうだけど」

 

まだなにか言おうとしていたようだが都合よく無線から

声が飛んでくる。

 

[秘密道具を所持していると思しき容疑者を発見。015番位置情報にて交戦を開始]

 

男は了解とだけ返しヘリに指示を出す。

自分がつく頃には拘束できていることを願いながら。

 

<><><>

 

秘密道具を所持している容疑者にバレないようヘリから降り、走りで位置情報を元に現場へ男と女は向かう。

 

静寂を保つ夜にアスファルトを蹴る音だけが響く。

そんな暗黒と街頭だけが視界に映る場で少女の髪はゴミ箱にて埃の中で光る宝石のように非常に目立っていた。苛立ちを隠しつつ男が女にジェスチャーで髪が出ている事を示す。その純白を黒のフードにしまう少女を見て苦渋の表情を浮かべた。

主要な要因ではないが、だから嫌なんだ。と男は思う。

対秘密道具で重要なのは認識されない事だ。

秘密道具は認識することで効果を発揮するものが多くある。

例えば『マジックハンド』

あれは所持者が視認できる範囲内で無限の射程を持つ武器だ。

見つかれば一撃で首を砕かれ死ぬ事になるだろう。

 

つまり見つからないように闇に紛れ暗殺することが最良なわけだが…

 

男が隣で共に走っている少女を見やる。少女は不思議そうに首を傾けた。

この職場の同僚でなければ男も口説いていたかもしてないその整った顔で浮かべる表情に綺麗だ。という感想の前に虫唾が走る。

 

口の中だけで舌打ちをし、今しがた流れてきた無線に耳を傾ける。

 

その無線はから聞こえる報告はやけに雑音が大きく、すぐ近くに自分より何倍も大きい‘‘何か’’の足音が聞こえる。

 

[容疑者の所持している秘密道具判明。識別名『スモールライト』。懐中電灯のような形をしておりその光に当たった対象は照射時間一秒で致命的なサイズになります。

…御武運を]

 

グチャッ

 

まるでミミズを潰したときのような音が男の耳に入ると同時に、無線は切れた。

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