秘密道具財団機動捜査課   作:ナチュラル7l72

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スモールライト

そもそも秘密道具での殺人ってのは大抵が碌なもんじゃない。

秘密道具を使った犯行というのはどれもこれも本来の用途からはずれたような使い方ばかりだ。

 

例えば工場なんかでよく使われる圧縮機。あれは本来いらないゴミなんかを圧縮してどうこうするものだがそれが殺人に使われたら?

すさまじくグロい事になるだろうな。考えたくもないがそういう光景を仕事柄想像しやすいので容易く情景が思い浮かぶ。きっとはんぺんのようにぺらっぺらになった赤黒い苦悶の表情を浮かべた何かが出来上がるのだろう。

 

つまりはそういう事。本来の用途と異なった使い方で人を殺すなら自然と現場はグロくなる。

 

見ないようにしていたがさっきから点々となにか赤いものが地面に付いている。踏みつぶされたような足跡型の赤い何か。踏みつぶされたものは小さすぎて元が何だったかの見当はつかない。

もしかしたら、俺の仕事仲間もあの中にいるのかもしれない。

 

 

「ε班。015に到着しました~」

 

 

『了解。秘密道具を使った交戦を許可します』

 

 

その声と共にがしゃんとポーチが開く。許可が出なければ決して開かない『四次元ポケット』につながるポーチだ。男はその中から状況に適したC級以下の道具を使用することを許可された戦闘員だ。

 

掴み取り出すのは『三倍時計ペタンコ』。これを人体のどこかに貼ると男は周りの三倍早くなる。

殺人犯がもっている秘密道具は光を照射することが効果の発生条件。故にそれに当たらないよう立ち回るのが最良と考えた結果だ。ふざけた名前だがその効果は絶大だ。

『ウルトラクラッシャー』やらの攻撃性が高い道具の類で殺しにいってもいいがここは民間区だ。まだ避難出来ていない住民がいないとも限らない。

 

「それじゃ、君はいつも通り前で戦ってね。私は君が死にそうになったら助けてあげるから」

 

そういい女は『上げ下げくり』を取り出し見せつけてくる。

業腹な事にこの女は男より階級が高い戦闘員なのだ。女はB級秘密道具まで使用できつまりは簡単な現実改変を行える。

 

『上げ下げくり』は予定を自由に繰り上げたり繰り下げたりすることができる。この女は男に先陣をまかせて自分は男が死にそうになったらその予定を繰り下げて延命させよう。と言ってるのだ。

 

冗談じゃない。男だけが命をかけ戦うのに対しこの女は命を天秤にかける事すらしないのだ。上官のくせに部下をちり紙のように使うこの女を男は酷く嫌っている。

 

『三倍時計ペタンコ』を貼り付け速度を三倍上げる。そしてコンパウンドボウを構えいつでも撃てるようセットした。

仕事の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいおい!だあーっれもいねえじゃねえかよお!」

 

標的はいともたやすく見つかった。街中で馬鹿みたいに『スモールライト』を電気がついた状態で振り回し照射された家やビルが一部だけ小さくなりバラスをくずし崩れていく。

 

「ぎゃはははは!!俺は最強だぜぇーー!」

 

典型的な秘密道具使用者。秘密道具に使われその力を己のものだと誤認した馬鹿。そんな山ほど見てきた光景なんぞに興味はなかった。

だがあの容疑者の頭についているあれは…

 

「ありゃー『あらかじめアンテナ』ついちゃってるね」

 

最悪だ。報告では容疑者が持っている道具は一つだけだと言われていたのに奴の頭にはもう一つくっついている。

これがなにを意味するか。

 

クソが。どっかのマヌケが馬鹿みたいに『スモールライト』の餌食なって道具だけ奪われたんだ。

 

女に『上げ下げくり』を使って奴の『あらかじめアンテナ』の発生を遅らせる事は可能かを尋ねる。

 

「無理だね。君がライトに当てられるとかと違って当人が予期してる予定じゃないからね。あの男が想定してることじゃないと予定を遅らせたり早くしたりできないよ」

 

チッと舌打ちを吐き弓を投げ捨てる。もはや不意打ちは意味が無い。俺はサバイバルナイフを手に持ち構え駆けだす。

 

傍から見たら100mを7秒で駆ける男は並みの車より早い速度で容疑者へ突っ込んでいったように見えるだろう。このままサクッと殺せれば一番だが…

 

「お、おおう?なんだなんだ?」

 

まるで知っていたかのように無慈悲にも『あらかじめアンテナ』は男の動きを予期しナイフの斬撃を容疑者に避けるよう誘導する。まだ容疑者が自分に何が起こっているのかもわかっていないうちに男は二段目を放つがそれも慣性を考えたらおかしな挙動で避けられる。

 

「ん?ああそういう事ねぇ!危なかったぜえぇ!やっぱ俺は最強だなあ!」

 

容疑者の言葉を聞かないうちに男はポーチの中から『あい手ストッパー』を取り出す。直前まで出さなかったのはいつ死ぬかがわからない状態で秘密道具をだしっぱにしておきたくなかったからだ。それにこれの効果時間と範囲はC級秘密道具らしく短く狭い。なるべく近づいて使いたかった。

 

容疑者を対象にストッパーを押し動きを止める。『スモールライト』が向けられる前に止めれたおかげで光は男に向かず草木を照射していた。

 

「クソッ!動けねえぞ!なんだこれ!」

 

しかし『スモールライト』は容疑者の手から滑り落ちカラカラ音を立てながら地面を転がる。そしてその光の先には

 

「うわっ、おいまて!なんで俺に向いてんだ!やめろ!どんどん小さくなる!う、動けねえ!このままだとどんどん小さくなって…」

 

光に当てられた容疑者はみるみるうちに小さくなり、そして見えないくらい縮んで消えてしまった。

 

そこに残されていたのは依然として光を出し続ける『スモールライト』と、男だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰還していいってさ」

 

女がそう男に声をかける。男と違い女は汗一つかいた様子無く足取り軽く歩いていた。男は口の中で舌打ちし働かない女に怨嗟を頭の中だけで投げかける。

 

汚れ一つない白い髪が夜空を舞っていた。

 

「それにしても秘密道具を使った殺人鬼の最期が自滅ってねえ。因果応報ってあるもんだね」

 

本当に癇に障る女だ。こいつは人をイラつかせるのを生業としているのだろうか。因果応報があるならこいつは自分の上官になんぞなっていないだろう。

 

肉眼で見えないくらい小さくなったのだ。おそらく俺らにはそよ風に感じるこの風も奴にとっては台風。とっくに吹き飛ばされ空を一日中飛び回ることになっているだろう。死因は脱水症状。人を殺しまくった殺人鬼にはもったいない最期だ。

 

「あと君、一回『スモールライト』に照らされるの繰り下げたから。後で当たっといてね。それで収容違反とかされたくないから」

 

未来に干渉する道具すべてに関係することだが本来あったことを未来に引き継いだ場合は必ず自発的にそれを受けなければいけない。という規律がある。

 

今回の例なら俺は近い未来必ず『スモールライト』に当たることになっているがここでもし俺がそれを避けその時まで自発的に当たらなかったらどうなる?

 

「何者」かの仕業により俺は必ず『スモールライト』に当たることになるのだ。いかに完璧に『スモールライト』を管理していたとしていてもだ。

 

そういう予定が必ずあるから。

 

つまり収容違反をする「何者」かを生み出さないように俺は自発的に『スモールライト』に当たらないといけないのだ。

 

…時間軸に影響を及ぼすB級以上の秘密道具は本当に厄介だ。一つ使い方をミスったら殺傷力では劣るC級秘密道具よりも被害を及ぼす可能性がある。

 

そんな物をこの女が自由に使える事に、男はまた一つ溜息を付いた。

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