重要なのは死の予定が覆らなかったことだ。
あの男が俺になにかしたようなそぶりは見せなかったしそもそもそれは俺がさせなかった。
そして予定が覆らなかったという事はあのままだと俺は確実に死んでいたという事。ここが一番原因解明するのに重要な部分だ。
仮にあの男が添付型の秘密道具を使って「自分は絶対に殺されない」もしくは「自分に傷をつけられない」のようなB級秘密道具にありがちな効果を付けていたとする。
だがこれは仮にと銘打ったようにありえない。そうなると俺に対する『上げ下げクリ』の効果は普通に発動するからだ。「殺されない」という効果はあるが「引き分けない」という効果は適用されていないからな。
つまるとこ湾曲的に俺が必ず殺されるという効果があの男に付いている可能性が高い。例えばあの男が必ず勝負に勝つといったような。これならあの男が勝つためには必ず俺が殺されなくてはならなくなる。
キィーー…ジュンッッ!!
拳銃を強化した際に銃口の下から生えてきた二重の円から光線が発射される。文字通り光の速さで男の元まで突き抜けていったがまるで解っていたかのように避けられ壁に穴が開いた。男自身も驚いた顔をしつつも違和感は感じていないようだ。まるでこうなると知っていたように。
もしあの男に付いた効果が添付型だった場合それは非常に厄介だ。その効果が切れるまで戦い続けなきゃいけないことになる。それにそこまで俺がもつとも思えない。
だがおそらくそれは無い。
メタ読みだがこの男はどうにも格が高いように見えない。
B級と聞くと上から二番目かあ。と思いがちだが十分馬鹿みたいな効果を持ちそしてその効果に見合った希少性がある。一介の構成員が持っていていい代物ではない。
それはたとえ液一滴だとしてもだ。『コノ道トーリャンセチャート』で確認した敵影の数はかなりあった。まさかこいつだけにその効果が付与されているわけでもあるまい。そいつら全員にかけていたら一瞬で使い切ってしまうだろう。だからこそこいつらはその代わりとなる秘密道具を求めて財団に強盗しに来るのだが。
つまり消えものや使い切りの道具ではなくここら一帯を掌握できるような道具である可能性が高いのだ。
そして対秘密道具で考えるべき一番の初心、「対秘密道具で重要なのは認識されない事」を考えると…
「あの監視カメラが怪しいね~」
後ろから声がかけられるが俺はそんなことを気にすることができずジェスチャーだけで破壊しろと伝える。
バックステップを踏みこんだ床が何かに掴みちぎられるように砕かれる。
男の目線を読みしゃがめばちょうど俺の頭の高さの壁が衝撃と共に拳型の跡が残る。
『ゴキブリぼう』で素早く近づき蹴りを入れるが手ごたえの割に効いているような素振りではなさそうだ。もう少し考えをまとめたいがそれを許す相手ではない。頭の『ゴキブリぼう』が反応し反射的にその場から高速で離れると俺が先ほどまでいた場所には無味無臭の見えざる拳で殴られ陥没し下の階が露出した元床があった。
このままじゃ本当に命がいくつあっても足りやしない。というかもうそろそろ限界だ。いつかは知らないが『上げ下げクリ』で予定を上げれなかったのだから近いうちに俺は男の念力によってぐちゃぐちゃにされる。マジで早くカメラを破壊してくれ。んでもってそれやって予定を上げられなかったら俺は死ぬ。
血走っているであろう目で女を睨みつけるとちょうどその時女が拳銃で監視カメラの根本を撃ち壁との接合部分を破壊する。だらんと垂れ下がったカメラはもう俺らを見ていないようだ。
男はわかりやすく壊れた監視カメラを見て動揺していた。俺が女を睨みつけるという隙を晒したにも関わらず攻撃してこなかったのがその証拠だ。
レーザーサイトを上げ男に向ける。片手を拳銃の下に添え反動を抑える。どうやらこのサイトは俺の裸眼だけで撃つ補助をしてくれるだけでなく自動的に出現する枠線によりエイム補正をしてくれるようだ。
ジュンッッッ
当たらない予想もしていたがその赤い光線はいとも容易く男の身体を突き抜け光線よりもなお紅い血をぶちまけた。
俺は男の頭にもう一発打ち込み確死をとった。
『コノ道トーリャンセチャート』の指示に従い上の階に上がったり窓から外に出て壁を伝いもう一階上に登ったりそこから飛び降りたり紆余曲折とはまさにこの事といった感じでぐるぐるうろうろ歩き回る。だが目的地…監視室へは確実に向かっていた。
監視カメラを破壊したら敵を殺せたという事は監視室を通して何かされていたという可能性が高い。それ抜きにしてもこちらの動向を悟られるのは良くないだろう。
だがどうも怪しい。相手も大事な部屋だという事はわかっているだろうに警備もせず敵影は監視室に内にいる一人のみ。罠か何かあるのは確実だろう。だがそれをわかっていても行かざるを得ないのが辛い所だ。
そして一時間かけて到達した監視室がある廊下にたどり着く。それと同時何かが聞こえてくる。
…何か……子守歌のような…
瞬間後ろから耳をふさがれる。そしてぐいと有無を言わさず引っ張られ階段付近まで引きずられ、ちょうど音が聞こえなくなった辺りで解放された。
もちろん引っ張ったのは女だ。華奢な見た目のくせして中々に力が強い。だがいったい何事だ?
「気づいてなかったと思うけどあれたぶん『ゴーホーム・オルゴール』だよ。あのまま聞き続けてたら催眠されて実家に帰ってるところだったんだからね。ほら感謝は?」
死ね。と反射的に口から出かけ、なんとか飲み込む。
ここばかりは俺が悪い。そもそもこんな無骨な場所になんの意図もなくBGMなりなんなりかかっているわけがない。もう少し警戒すべきだった。
だがそれはそうとこの女に感謝の言葉は言いたくなかった俺は金銭という利害関係が決まった便利な道具で採算をすませた。具体的には後で飯を奢ると言い俺を助けた対価を払う事にした。
だがなにが気に入らないのかそれでも女の口は止まらない。
「ちょっと。私はそういう利潤を求めて助けたわけじゃないんだよね。いつもの私の行動を見てたら少しくらいわかるでしょ?現金な性格じゃない優しい女の子だって。はいじゃあ君が言うべき言葉は?」
敵地のど真ん中でべらべらとしゃべるこいつは下手な秘密道具よりも恐ろしい。頼むからそのおしゃべりする労力を警戒に回してほしい。だがそれが無理な事は俺が一番わかっている。
だからいつも通りコレを止めるために合理的判断に基づき俺は役目を果たした。
「はいよくできたね~」
なにがうれしいのか微笑を浮かべる女に死ねと一言言い『耳バンデラックス』を取り出し女に投げ付ける。それを受け取った女はそれを取り付けつつポーチから『迷い道』を取り出し床に突き刺した。この先にいる敵影は監視室にいる一体のみ。後続は『迷い道』で断ち切った。確実に監視室を潰さんと俺は駆けだした。
ボッッッ!!
「物騒だな。少しは会話の余地を残したらどうだい?」
監視室の扉を蹴破り問答無用でウルトラすーぱー強力になっている拳銃を撃ち込む。
わかっていた事だが相手の秘密道具…人間技とは思えない『名刀電光丸』による敵の動きで弾道を逸らされ壁に穴が開く。
監視室を占領し防衛しているのはこの和服の女か。
そして俺は敵の実力を悟った。こいつはその辺の馬鹿な秘密道具使用者ではない。
マヌケ共は秘密道具に「使われて」いるがこいつは全くの逆。『名刀電光丸』を使いこなしている。
『名刀電光丸』は典型的な使われる秘密道具だ。こいつは相手の動きをキャッチし持ち主をそれに応じて動かさせ確実に相手に勝つという秘密道具。だが所詮C級。確実とは言ったものそれはなんの干渉もなければの話だしそもそも持ち主の限界以上の出力は出せないため拳銃対『名刀電光丸』でギリ。対ウルトラすーぱー強力になっている拳銃ならほぼ不可能なはずだ。
だがこいつはウルトラすーぱー強力になっている拳銃の一撃でさえも防いできた。つまりこいつの心技体は一般人のそれとは比べ物にならない程極限まで磨かれているということ。あまつさえ会話の余裕もあるとは…これが限界というわけでもなさそうだ。
クソ。めんどくさすぎる。今の時代その力持ってたら就職には困らないだろ!なんで強盗団に所属してやがるんだ…!