存在というものの矮小さについて。
揺蕩う。どこで、誰が、何故。生まれたばかりの稚魚のように。あるいは、もっと遡って、ちいさな、ちいさな卵のように。タンパク質の分子構造がバラバラにほどけて、原生生物でさえない、意思も感情もないから、嘆きも悲しみもない、安寧を約束された存在のように。なにもわからない。ここは、海のなか? そうかもしれない。雲の上? 違うかもしれない。宇宙の果て? それも良い。
揺蕩う。明暗さえ、この場所では判然としない。そもそもこの場所に、光というものはない。光がないから、色もない。形もない。見る必要も、聞く必要も、ふれる必要もないから、ただ存在しているということだけがあればいい。光。ヒカリ。ひかり。存在しない。私はここにいても、ここにはいない。私は私にふれることができない。あなたはここにいても、ここにはいない。私はあなたにふれることができない。彼女はここにいても、ここにはいない。私は彼女にふれることができない。ここには誰もいない。
揺蕩う。身体ではなく、心が。心のありようが。むき出しになって、ゆらぐ。外殻をうしなった卵のように。いつはじけて、このなにもないなかに、どろどろととけだしてしまうかもわからない、むきだしの心が。これは私の心だ。これはあなたの心だ。これは彼女の心だ。これは、誰の心だろう。
私が揺蕩う。あなたが揺蕩う。彼女が揺蕩う。心が揺蕩う。私は誰? あなたは誰? 彼女は誰? 私とは誰? わたしとは何? あなたとは何? かのじょとはなに? こころとはなに? だれとはなに? なにとはなに? とは――
オモイ。おもい。オモイ。
重い。重いとは、果たしてどのような感覚であったっけ。ひきあうもの。抵抗するもの。しずみゆくもの。
ああ、そうだ。重いとは、存在がなにかを求めて、もがくときの感覚だ。
こころ。ココロ。こころ。
心。心とは、果たしてなんであったっけ。ひきあうもの。抵抗するもの。しずみゆくもの。
ああ、そうだ。心とは、まぶしさにくらんだときに、まっさきに爆ぜてしまうものだ。
マブシイ。まぶしい。マブシイ。
眩しい。眩しいとは、果たしてどのような感覚であったっけ。目を閉じる。目はなんのためにある? 見つめるため。私と、あなたと、彼女と。見つめあい、それがひとつでないことを知る。
ああ、そうだ。眩しいとは、あふれる光のなかから、たったひとつ、もとめているなにかを探すときの感覚だ。
ひかり。ヒカリ。ひかり。
光。光とは。私に、あなたに、彼女に、すべてに、色と形を与える存在だ。
――そうか、これから、世界が生まれるのだ。