私はなにを願いますか?
「夢を見たわ」
「夢?」
「ええ。とても悪趣味な夢」
「夢というのは、見るものの願望の表れという説があるね。あるいは睡眠中に記憶の整理をしている脳に、微弱に流れる電流が、その過程で感覚を司る部位を刺激することによって、脳そのものが擬似的に世界を作り上げる現象とも言われている」
「相変わらず、理屈っぽいわね、あなたって」
「興味深い現象だと思っているだけだよ」
「興味深い? 夢が?」
「うん。君はこの世界が、本当に君の見たまま、それを現実と人類は呼ぶわけだけれど、その現実が、実体として確かに存在していると思うかい」
「……どういう意味かしら」
「君の目に、僕はどう見えているかってことさ」
「そうね、白い、猫みたいな姿をしているわ」
「じゃあ、巴マミに、僕の姿はどう見えているのかな」
「それは、同じように、白い猫のような姿でしょう」
「つまりそういうことだよ。君の脳が処理した僕の姿と、マミの脳が処理した僕の姿が、本当に同じ姿かどうか」
「……よくわからないわね」
「例えば、色。君の脳の中に存在する白と、マミの脳の中に存在する白は、当然のように同じ白として認識しているけれど、もしかしたら全く違う色をしているかもしれない。わかりにくいかい? マミが白だと認識している色は、言葉や本質は君の白と同一の存在ではあるけれど、それは本当に、君が頭に思い描く白と同じ色をしているか、ということさ。君たちの言葉では、クオリアというね」
「私が見ている色と、他の人が見ている色は、全く違うものかもしれないということ?」
「そうだね。でも全く違ったとしても、問題は起こらないだろう。君の見ている白が巴マミにとっての黒だったとしても、君が白いと言えば巴マミも白いというだけだから、極論、脳を取り替えてみなければわからない。色だけじゃない。世界の形だってそうさ。君たち人間は個々に情報を処理し、さらに感情まで備えている。極論を言えば、君たちが世界と呼んでいるものは、君たち個々の中でしか存在しえないのではないか、ということさ」
「……それと、夢の話と、なんの関係があるのかしら」
「君たちが現実と認識している世界は、結局君たちの脳が創りだした存在に過ぎない。では、同じく脳が創りだした夢というものと、君たちが現実と呼ぶ今、この場所と、そこに明確な違いは存在するのかな」
「だとしたら、あなたの存在はどういうこと?」
「僕という存在を君が創りだした」
「悪い冗談だわ」
「そうだね。証明のしようがないから、冗談と言った方が良いかもしれない」
「あなたは冗談まで理屈っぽいのね」
「それで、どんな夢を見たんだい」
「……言ったでしょう。悪趣味な夢よ」
暗転。