また、pixiv、ハーメルン共に、それぞれオリジナルエピソードも公開予定なので、どちらも併せてお楽しみください。
第一話 「コウカイ」
最初に浮かんだ言葉は、『あぁ、やっぱりか』だった。
自分でも薄々感じていた。目の前の少女と言葉を交わす度に、それ以上踏み込めない自分がいることに。
当たり障りのない世間話をして、とりあえず彼女との会話を繋げようとする。距離を縮めるでもなく、離すでもなく。自分と相手の間に境界線を引いて、その一線を越えられない。
やはり、中学の苦い記憶が尾を引いているのだろうか。それとも、何か別の理由があるのだろうか。今の僕には分からない。
ただ、一つはっきりしているのは、今年のクリスマスも、僕には彼女が出来なかったということだ。
目を覚ますと、そこはいつもの押入れだった。寝返りを打った僕の目に飛び込んできたのは、色とりどりの蛍光ペンで描かれたロケットや星々。いかにも子供が描いたという感じの絵だ。
?『にぃに〜! 朝だよ〜!』
すると、外の方から声が聞こえてくる。僕は先程の絵が描かれた壁に手を伸ばし、取っ手の部分に左手の指を引っ掛けると、そのまま左にずらした。
美也「にぃに、またそこ?」
橘「良いだろ、別に」
美也「まぁ、気持ちは分かるよ。にぃには今年も寂しいクリスマスだったもんね」
橘「………うるさいなぁ」
本当は分かっている。これは、自分の選択ミスが招いた結果だと。
本当はあの日、あの子にあぁ言えば良かったのに。あの日、あの子はあぁして欲しかったに違いない。あの日、あの人にはあぁいう風に言えば分かってもらえたのに。
そんな思いが胸の中にグルグルと気持ち悪く渦巻く。そうして、なんだか僕は無性に腹が立ってくるのだ。
橘「ほら、着替えるから早く出て行けよ」
美也「は〜い」
美也はそう言うと、鼻歌を歌いながら部屋を出ていった。その姿に、僕はまた腹が立ってくるが、すぐに怒りは鎮まり、ため息に変わった。
高校2年生の冬も、そろそろ終わりに近づいている。
〜☆〜
2年前のクリスマスイブの日、僕は失恋した。
寒空の下、待ち合わせの場所で待っていた僕の元にやってきたのは憧れのあの子ではなく、絶望的な現実だった。
何故あの子は来なかったのか? それは今でも分からない。
それからは、ひたすらに辛い日々が続いた。街で男女が歩いているのを見ては吐き気に襲われ、バレンタインの日なんかは部屋から出られなかった。
いつもは僕を揶揄ってくる親友や悪友ですら、僕に気を遣って恋愛絡みの話はなるべく避けていた。
このままじゃダメだ。もう一度頑張って、皆んなを安心させてやるんだ!
そう意気込んだのが大体1ヶ月前のこと。親友の梅原と一緒に、校舎裏で気合を入れるために叫んだりもした。
でも、現実は甘くない。
それまで女の子を避け続けていた男が、いきなり女の子の好みなんて把握できるはずもない。
それでも、僕は僕なりに一生懸命頑張った。色んなところに行ったり、色んな事を調べたり。普段なら行かないような所にも積極的に行き、普段ならやらないようなクリスマス委員だって立候補した。
しかし僕はまた、恋に敗れた。
いや、そもそも勝負の土俵にすら立っていなかったのかもしれない。
橘「はぁ………」
いつも通りの通学路。この前行われた創設祭の影響か、目に見えてカップルが増えていた。中には僕の顔見知りの男子もいる。
彼らの幸せそうな姿に自分と意中の彼女を重ね、しかしその幻想がすぐに儚く消え去っていくのと共に、僕の口からはまた、ため息が漏れ出るのだった。
橘「あっ………」
ふと、道路を挟んだ反対側を歩く2人の女性が僕を捉えた。正確には、歩道側を歩く女性に。
毛先をカールさせた艶のある黒髪。冬の景色によく似合う、眩しいほどの白い肌と端正な顔立ち。厚着をしていても分かるボディラインは、男の視線を否応なく惹きつける。
森島「それで聞いてよ。 その後彼ったらね〜」
塚原「ふふっ、それは大変ね」
彼女は森島はるか先輩。僕の一個上の学年で、僕の憧れの先輩だ。
男子A「おい、あれ」
男子B「ん? うおっ、森島先輩じゃん!」
すると、自分と同じように森島先輩の方を見るいくつかの視線に気がついて、僕はため息混じりに、止めていた足を動かして歩き始めた。今日はため息がやたらと出るな。
森島先輩に憧れているのは僕だけじゃない。先輩は美人なのに気さくに話しかけてくれるから、多くの男子はよく勘違いしてしまう。まぁ、かく言う僕もその一人なのだが。
いつか梅原から聞いた話だが、森島先輩にフラれた男子の数は、彼女の親友の塚原先輩が把握している人数だけを数えても、そろそろ50人に届くらしい。
この前も2年と3年の人気No.1の男子2人から、同じ日の同じ時間に呼び出されたらしい。はぁ、僕とは住む世界が違うって感じだ。先輩の事は諦めた方が良さそうだな。
森島「…………」
塚原「ん? はるか、どうしたの?」
森島「えっ!? ううん、何でもないの」
男子A「おい、今、森島先輩が俺のこと見たぞ。今日は赤飯だな!」
男子B「バカ、俺の事見たんだよ」
男子が言い争う声を背に、どんよりとした気持ちを抱えながら僕は坂を登っていく。
来年になったら、僕は三年生になるんだよな。そしたら、森島先輩は卒業しちゃう。先輩の事だけじゃない。受験やら就職やらで、恋愛どころじゃなくなるだろう。
つまり、僕が彼女とのクリスマスを過ごせるのは、今年が最後だったって事になる。
橘「…………はぁ」
今日出た中で、1番大きなため息だった。
でも、仕方ない。これは僕が悪いんだ。僕があの時、行動に出なかったから。『何とかなるさ』と、後回しにしたから。
………でも、やっぱり落ち込むものは落ち込むんだよな。
?「よっ、何シケた面してんだ? 大将」
すると、僕の背中を叩きながら話しかけてくる男がいた。僕はその顔を見て、少しだけ心が明るくなるのを感じた。
橘「おはよう、梅原。元気だな」
梅原「おうよ。 俺は元気だけが取り柄だからな」
橘「はは……そう、だな」
梅原「ん? どうした?大将」
浮かない顔の僕を見て、梅原は何かを察したように真顔に戻る。
梅原「そっか………やっぱりお前もダメだったか」
優しいその口調に、僕はさらに申し訳ない気持ちになってくる。
〜☆〜
教室に入ると、人がいるからか少しだけ暖かかった。僕は着ていたコートを椅子に掛け、そのまま腰掛ける。すると………。
?「もーにんっ!」
後ろから肩を叩かれる。振り返ると、同じクラスで中学からの悪友の棚町薫が、僕の頬を指で押さえていた。
橘「薫、動かせないんだけど」
棚町「動かさなければいいじゃない」
………なるほど、つまりここは、輝日東の巌流島というわけだ。差し詰め、僕が宮本武蔵、薫が佐々木小次郎といったところか。
ならばこの勝負、引くわけにはいかない。
棚町「おっ、乗ってきたわね」
橘「勝負を挑んだことを後悔させてやる」
棚町「へぇ、言うじゃない」
薫が僕を見下ろしながら、不敵に笑う。ふん、笑ってられるのも今のうちさ。
棚町「じゃあ、賭けでもしない? 勝った方がジュース奢りね」
橘「あぁ、良いだろう」
まさか薫がこんなに不利な勝負を仕掛けてくるなんて思いもしなかった。
頭と指なら、頭のほうが重いんだから、先に薫が根を上げるに決まってる。さて、ジュースは何を飲もうか………。
棚町「じゃああたしはあんたが勝つ方に賭けるから」
橘「あぁ………ん?」
数瞬の静寂の後、薫はそれまで掛けていた指への圧力を一気に緩めた。その反動で、僕の頭は右に勢いよく振れる。なんせ、頭は重いからな。
ガラガラガッシャーン!!
僕は頭に振り回され、椅子から転げ落ちた。
棚町「あははは! 純一、あんたってほんと最高!」
お腹を抱えながら薫がその場にうずくまる。痛む腰を刺さりながら、僕はその場に立ち上がる。
橘「汚いぞ、薫!!」
棚町「何言ってんの。相手に賭けちゃダメなんて言われてなかったでしょ」
橘「ぐっ………」
返す言葉が見つからない。言い淀む僕の言葉を無視するように、始業のチャイムが鳴る。それはまるで、試合終了を告げるゴングのようだった。
棚町「じゃあ、昼休みにね〜。ぐーてんもーげーん♪」
薫は鼻歌を歌いながら自分の席に行ってしまった。
っていうか、guten Morgenは『こんにちは』じゃないか? まったく、適当なやつ。
棚町「…………他のメスの匂いは無し、っと」
〜☆〜
昼休み。薫にさっきの勝負のジュースを奢り、僕は教室に帰ってきた。今日は何だか疲れたな。こんな日は、昼寝するに限るな。
高橋「あ、橘君」
すると、僕の担任の高橋先生に話しかけられた。
橘「何ですか? 高橋先生」
高橋「今度の『3年生を送る会』の事なんだけど」
『3年生を送る会』とは、読んで字の如く、卒業する3年生を在校生が送る会だ。
例年なら参加者はクラスの3割もいかないくらいなのだが、今年は多数の参加者が見込まれている。
何を隠そう、今年の卒業生にはあの森島先輩がいるのだ。森島先輩の最後の姿を一目見ようと、今年は男女問わず多くの生徒が集まるだろう。
高橋「それでね、創設祭の実行委員で使った資料や道具が使えないかって話になったのよ。それで、絢辻さんと一緒に、それらを探してほしいの」
橘「分かりました。 それで、絢辻さんは?」
高橋「絢辻さんはもう用具室に行ってるわ。早く行って、手伝ってあげてちょうだい」
校舎の奥まったところにある用具室に行くと、すでに扉が開いていた。ガサゴソと作業をする音も聞こえてくる。部屋をのぞいてみると、思っていた通りの人がいた。僕は扉を軽く数回ノックする。
絢辻「はい! ………って、あなたね。遅いわよ。このあたしに1人で作業させるなんて、何様のつもりよ」
振り向いた瞬間の明るい笑顔から一転、ジト目で睨む彼女の口からはいくつかの小言が溢れていた。
彼女は絢辻詞さん。僕と同じクラスのクラス委員長で、この前行われた創設祭の実行委員長も務めていた。それだけでなく、今度行われる3年生を送る会の実行委員もやっているというのだから驚きだ。
橘「ごめんごめん、薫にジュースを奢っててさ」
絢辻「………ふぅん、棚町さんに………ね」
絢辻さんの作業をする手が一瞬だけ止まったような気がした。
絢辻「あたしに作業をさせておいて、自分は女の子と楽しくおしゃべりですか。良い御身分だこと」
ちなみに、彼女のこの口調はいつも通りだ。いや、いつも通りというのは少し語弊があるけど、ここではあえて訂正しないでおく。
橘「今日は何だかいつもより怒ってる?」
絢辻「当然よ。いきなり呼び出されたかと思ったら、『資料がどこにあるか分からないから探してくれ』ですって? まったく、生徒を何だと思ってるのかしら、あの能無しは………」
あぁ、これは今日はあまり波風を立てないようにしておくのが良いだろう。
読者諸君には勘違いして欲しくないが、絢辻さんはいつもこんなに怒りっぽいわけではない。いつもはもっと穏やかな人なんだけど、今日は機嫌が少しだけ悪いだけだ。
とにかく、今日は絢辻さんの機嫌を損ねないようにしなくては。
絢辻「それと橘君。さっきの『いつもより』怒ってるって、どういう意味?」
僕の決意は、ものの数秒で儚く散って行ったのだった。
〜☆〜
絢辻さんとの作業を終え、後は家に帰るだけとなった。まだ下校時間には早かったけど、やることも無いので学校に居ても仕方がない。
橘「仕方ない。今日は帰るか」
そう言って立ち上がった僕はふと、今朝の梅原との会話を思い出した。
〜☆〜
梅原「そういえば大将、図書室のお宝本の話、聞いたか?」
橘「図書室の? いや、知らないな。っていうか、図書室にお宝本なんてあるのか?」
梅原「あぁ、信頼できる筋からの情報だ。美術のデッサンの本ってあるだろ?」
橘「あぁ、リンゴとか描いてあるやつか。………まさか」
梅原「そのまさかってやつさ。その中にあるヌードデッサンが、そりゃあもうとんでもないお宝だって噂なんだ」
橘「そうなのか! ………なるほど、ヌードデッサンは盲点だったな………」
梅原「今日は家の手伝いがあるから俺は行けねぇが、橘隊員! 君に極秘調査任務を依頼する!」
橘「あぁ、任せておけ。この橘純一、必ず生還してみせる!」
〜☆〜
そうして固い握手を交わしたというのに、今の今まですっかり忘れていた。
「ようし、行くか」
扉を開くと、暖房の心地よい風が僕を包んだ。腕のうぶ毛の一本一本を優しく抱き抱えるようなその風に、僕はすっかり身を任せていた。
橘「っと、いかんいかん。早くお宝を探さなくては………」
見たい気持ちを押し殺して僕に調査を依頼してくれた、今は亡き梅原のためにも、僕がしっかりとそのお宝を目に焼き付けなくては……!
橘「えっと、美術の本だから………」
そうして本棚を探していると、広い空間に出てきた。そこは机と椅子が並べられた、いわゆる読書スペースだった。
すると僕は、そのスペースで読書をする、見知った顔を見つけた。
塚原「あら?橘君。こんにちは」
そこにいたのは、3年の塚原響先輩。水泳部の部長をしながら、国立の医学部に推薦で受かり、おまけに超が付くほどの美人。まさに、完璧が服を着て歩いているという感じだ。
さらに、その塚原先輩の隣に目を向けてみると、ポニーテールの塚原先輩とは対照的なショートカットの女子生徒がいた。彼女もまた、僕の知り合いの1人だ。
橘「七咲もいたんだな」
七咲「はい、こんにちは」
彼女の名前は七咲逢。歳は僕の一個下の一年生。七咲も塚原先輩と同じ、水泳部に所属している。
橘「今日は練習休みなんですか?」
塚原「それがね、ポンプ小屋がどうも壊れたらしくて、今日来てみたら、プールが空になってたのよ」
ポンプ小屋というのは、輝日東高校の裏にある、小さな小屋の事だ。あそこから水を汲み上げて、学校での様々な事に使われている。学校のプールもその一つだ。
橘「そうか………」
七咲「先輩。 何でそんなに残念そうな顔をしているんですか?」
橘「え!? そ、それは………あ、あはは……」
まずい、何とか誤魔化さなくては。
橘「七咲も、本読んでるんだな。何を読んでるんだ?」
七咲「………はぁ、まったく。これは孫子の『兵法』ですよ」
そう言って七咲が表紙を見せてくる。『兵法 九地編』と書かれたその金ピカな文字がいかにもという感じだ。
橘「面白いの?」
七咲「えぇ、面白いですよ。特に、『敵を騙すなら、まず味方から』っていうところが好きなんです」
敵って………七咲は一体何と戦っているんだろう?
橘「七咲ってたまに変な所があるよなぁ」
七咲「………先輩にだけは言われたくありません」
クスッと笑う塚原先輩。
塚原「あ、そうだ。橘君、はるか見なかった?」
橘「森島先輩ですか? 見てないです。どうしたんですか?」
塚原「1時間目の休み時間から姿が見当たらないのよ。どこ行ったのかしら、あの子」
うーむ、森島先輩が行きそうな所が思い浮かばない。もっと森島先輩の事を知っておけばと後悔した。
塚原「ごめんね橘君。探し物してたんでしょ?」
橘「あぁ、はい。 では、これで」
塚原「うん、またね」
七咲「失礼します」
ちなみにその後、美術の本棚に入っていたデッサンの本を見つけたのだが………ヌードはヌードでも、男のものだった。
〜☆〜
学校からの帰り道。
坂を降りたところで、横を黒い車が走り去って行った。あぁいう車で送迎してもらえる人って、きっと相当なお金持ちなんだろうなぁ。
確か、輝日南にでっかいお屋敷があったはずだ。池のほとりのお屋敷で、一回だけ通ったことがあったが、結構大きかった。
住む世界が違うって、こういう事なのかな。
そんな事を考えていると、後ろの方で車が止まる音が聞こえた。何となく振り返ると、さっきの車に負けず劣らずの高級車だった。
その車にもビックリしたけど、中から出てきた人物にはもっとビックリした。
桜井「純一! ひ、久しぶり」
橘「り、梨穂子!?」
彼女は桜井梨穂子。俺の幼馴染で、今は現役高校生アイドルとして大活躍中だ。確か、学校は休学中だったはずだ。
橘「お前、どうして?」
桜井「あー、うん………ちょっとグループの人に問題があってね。純一もニュースで見たでしょ」
橘「あぁ、そういえば………」
それは、梨穂子が所属するアイドルグループのメンバーの1人が暴力団と関わっているという疑惑が流れたというニュースだった。テレビでも大々的に報道されたが、結局関わりは無かったらしい。
とはいえ、そんな噂が流れたとなると、その人の今後の活動にも大きな支障が出る事は想像に難くない。ニュースを見た時、梨穂子じゃ無くて良かったと、ほっと胸を撫で下ろしたものだ。
桜井「それで、グループの方の活動も一時休止する事になったの。だから、こうして戻ってきたってわけ」
橘「そうだったのか。………大変だったな」
桜井「………うん。あの子、大丈夫かな?」
…………僕が言ったのは、梨穂子の心配の方だったのだが。まぁ、良いか。
橘「じゃあこれからしばらくは学校に通うってことか」
桜井「うん。今日はその為の手続きだったんだ。先生達も大変そうだったよ」
橘「なるほど、だから人手が足りなかったのか」
桜井「え? 何のこと?」
橘「いや、何でもない」
それから僕達は一緒に帰った。
帰り道では、2人は色んな話をした。自分の身の回りに起こったこと。嬉しかったことや、楽しみなこと。当たり障りのない、ただの世間話。
それ以上は、何故か話せなかった。2人とも、それ以上は踏み込んじゃいけない気がして、自然と避けていた。
そうか。もう、何でも話せる『幼馴染』じゃあ無いんだな。
〜☆〜
家に帰ると、美也の部屋から声が聞こえてきた。誰か来てるのだろうか。
橘「おーい、美也。誰か来てるのか?」
扉を数回ノックする。すると、足音と一緒にドアが開いた。そこには、水着を着た美也の姿があった。
橘「お前、何してんだ? 今は冬だぞ?」
美也「にししし、良いでしょこの水着。さえちんが持ってきてくれたんだ」
すると、後ろから顔を覗かせる女の子がいた。ツインテールの茶髪がフワフワと揺れる。
橘「やぁ、中多さん。こんにちは」
中多「あっ、先輩。 お邪魔してます」
橘「何してるの?」
美也「水着の撮影会だよ。どう? セクシーでしょ?」
そう言ってポーズを取る美也を僕はジッと見る。
水着は素晴らしい。シュッとしたスマートな部分と、フリルの付いた可愛らしい部分のバランスが絶妙だ。
とは言え………。
橘「美也じゃなぁ………」
美也「なっ………何それ! もう良い! ばかにぃに!」
美也が勢いよく扉を閉める。シンとした廊下の静けさと外からの冷気で一気に身体が震える。
橘「っていうか、『にぃに』って呼ぶなよ」
〜☆〜
自分の部屋に戻り、僕はベッドにダイブする。ぼーっと天井を見上げていると、次第に瞼が重くなってきた。
今日は色々と疲れたからな。森島先輩に、薫に、絢辻さんに、七咲。梨穂子と中多さん、それから他にもたくさん。
………よく考えてみたら、僕って結構仲が良い女の子が多いんじゃないか?
まぁ、仲が良くてもそれ以上踏み込めないことにはあまり意味は無いんだけど。彼女達ともあくまで『友達』までの関係でしかない。
橘「…………彼女かぁ。いつか出来るかなぁ」
何となくぼんやりと呟きながら、僕は眠りに落ちて行った。
しかし、この時の僕はまだ何も分かっていなかった。
?「よし、これでオッケーね」
これから僕に起こることも。
?「それで、私をここに呼び出した理由は何?」
?「そんなの、あんたが1番分かってるんじゃない? クラス委員長様」
これから彼女達が起こすことも。
?「ふふっ、良い写真がいっぱい。…………『高く売れそう』♡」
僕があの日、行動に出なかったから。
?「待っててくださいね、先輩」
僕があの日、選択を間違ったから。
?「また、純一と一緒に学校に通えるんだよね………」
僕にあの日、勇気があれば。
僕にあの日、時間があれば。
僕にあの日、未来が分かっていれば。
そう思っても、もう遅い。
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