アナザーロンリークリスマス   作:スコップ。

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今回はハーメルン限定エピソードとして、第9.1話を書いてみました。

薫がどうして本編のようにヤンデレになってしまったのかを描く作品です。是非お楽しみください。


第九.一話 『アノトキ』

 

 

 

棚町「うぅ、寒………」

 

 

12月だから当然だけど、今日はやけに寒い。舞い散る雪がイルミネーションに花を添え、通り過ぎる人混みが街を活気づけていく。

 

今日はクリスマスイブ。これから予約していたケーキを取りにケーキ屋さんに向かうところだ。

 

丘の上公園の前に来たところで、あたしは前に見慣れた背中を見つけた。自転車をコロコロと転がしながら、寒空の下を歩いていた。

 

少し小走りでそいつの所に行き、しょんぼりとした彼の後頭部をパチンと叩いた。

 

 

橘「か、薫………」

 

 

彼の名前は橘純一。同じ中学の同級生だ。

 

あれ? でもコイツ、確か今日は女の子とデートだとか言ってなかったっけ。『ずっと憧れてた子とのデートだ』とか言って、あたしに自慢しながらはしゃいでたから覚えてる。

 

 

棚町「何でこんな所にいるの? ……もしかして、誰かにすっぽかされちゃった?」

 

 

あたしと純一はいわゆる悪友というやつで、こうしていつも2人で軽口を叩いて揶揄いあってる。あたしとしては、イーブンな感じがして気に入ってる。

 

だから、これもちょっとしたイジリみたいなもんだったんだけど………。

 

 

橘「ち、違うよ………」

 

 

予想外の反応だった。明らかにいつもの純一じゃない。

 

………そっかそっか。

 

よし、ここは悪友として、いっちょ元気づけてあげますか!

 

 

棚町「ねぇ、送ってよ! クリスマスケーキを取りに行く所なんだ。ウチはね、毎年お母さんと2人でクリスマスパーティーやることになっててさ」

 

橘「へぇ………」

 

棚町「あっ、そうだ!良かったらウチに来ない? ケーキ、2人じゃ食べきれないから、残ったら食べさせてあげてもいいわよ」

 

橘「えぇ……」

 

棚町「良いからケーキ屋さんまでは送ってよ!来るか来ないかはその間に決めれば良いでしょ? そら、レッツゴー!!」

 

 

あたしが掛け声を出すと、純一が渋々といった感じで自転車を漕ぎ始めた。

 

 

棚町「……………」

 

橘「…………」

 

 

しばらく無言の間が続く。

 

だって女の子に振られた男の子に、なんて声かけたら良いか分からないんだもの。

 

さっきから胸がズキズキする。どうしてだろう?

 

 

棚町「ねぇ純一」

 

 

そんな胸の痛みと微妙な空気に耐えかねたあたしは、思わず口を開いた。

 

 

棚町「あたしってさ、恋愛とかした事ないから分かんないんだけど、どうして付き合いたいってなるの?」

 

橘「え? ど、どうしてって………」

 

棚町「だってさ、別に恋人じゃなくてもその人と一緒に居られるわけでしょ? だったらわざわざ付き合わなくても良くない?」

 

橘「そ、それは………」

 

 

すると純一は自転車を止めた。

 

 

橘「…………僕にもよく分かんない」

 

棚町「そうなの?」

 

橘「うん。なんか漠然と、『恋人になりたいなぁ』って思って」

 

棚町「ふーん、変なの」

 

橘「ははは、確かに考えてみれば変だよな」

 

 

住宅街を抜け、広い路地に出る。イルミネーションの光がチラチラと周りを照らす。

 

 

橘「ありがとな薫。励ましてくれてるんだろ?」

 

棚町「………ごめん、あたしも何て言って良いか分からなくて。あたしはただ、気にするなって言いたくて………」

 

橘「…………うん、分かってるよ」

 

 

 

 

ケーキを貰って、あたしは純一に家まで送ってもらった。

 

 

棚町「てんきゅ。 良かったら一緒にケーキ食べない?」

 

橘「そうだな………」

 

 

純一はしばらく考えて、首を横に振った。

 

 

橘「今日はやめとこうかな」

 

棚町「そっか。ごめんね、無神経に誘っちゃって」

 

橘「良いよ、別に。じゃあまた」

 

 

あたしはその日、帰る純一の背中をずっと見ていた。

 

背中を丸めてしょんぼりしながら、寒空の下を帰っていく純一の姿を見ていると、胸の奥がズキズキと痛む。

 

ふと、空を見上げた。降り注ぐ雪が街を華やかに飾る。きっとカップル達はそんな真っ白な贈り物を、愛しい人と祝福しあうのだろう。

 

それを届けた真っ黒な空の事なんて、これっぽっちも気にしないで………。

 

 

 

〜☆〜

 

 

 

それから一年ほどが経った。あたしと純一は高校生になり、輝日東高校に進学した。

 

高校生になってもあたし達は相変わらずで、付かず離れずの悪友同士。その距離感がどうにも心地良い。

 

 

棚町「いらっしゃいませ〜」

 

 

高校生になって変わったことと言えば、バイトの数を増やしたこと。うちの高校はバイトはダメなんだけど、家庭の事情って事で許可をもらっている。

 

今は駅前のファミレスのバイト中。この時間は学校帰りの高校生達が多い。

 

 

棚町「店長、そろそろ休憩入りま〜す」

 

 

 

 

店の裏の休憩スペースで、あたしは近くで買った缶コーヒーを飲む。白い湯気がふわりと舞っている。

 

そういえば、そろそろクリスマスね。今年はケーキ屋さんのバイトも入れてるから、余ったら貰って帰れる。

 

そうだ。今年も純一を誘ってみよう。梅原君とかも呼べば、お母さんと4人で楽しいクリスマス会が出来そうだ。

 

缶コーヒーを傾けながら、そんな事をぼんやりと考えていると、同世代くらいの女子高生達の会話が聞こえてきた。

 

 

女子A「そういえば、美佳が橘君に呼び出されたのってクリスマスイブじゃなかった?」

 

女子B「あー、そうだっけ?」

 

 

彼女らから純一の名前の名前が聞こえたあたしは、すぐにその声のする方に耳を傾けた。

 

 

女子A「美佳も酷いよね〜。橘君との約束があったのにすっぽかして私達と遊ぶなんて」

 

女子B「ねぇ〜。それで今は彼氏作ってラブラブなんでしょ? ほんと悪女〜」

 

 

(カランカラン)

 

 

飲み終わったコーヒーの缶が地面に落ちる。頭を鈍器で殴られたような衝撃に眩暈がする。

 

 

女子A「でも、なんか直前になって橘君が別の集合場所に変えたらしいよ」

 

女子B「そうなの? じゃあ橘君の自業自得じゃん」

 

?「そんな事ないもん!」

 

 

目の前がグルグルするし、女子高生達の会話もよく聞こえない。ふらつく足を支えながらあたしはお店の中に戻った。

 

 

 

 

 

バイトが終わって、あたしは1人で着替えていた。

 

いつもならすぐに着替えてしまうんだけど、今日はかなり遅い。着替えてる途中で、頭の中でも考え事をしてしまって手が止まってしまう。

 

頭にあるのは、もちろんさっきの事。さっきの女子達の会話が、頭の中を堂々巡りする。

 

まさかあの日、純一がすっぽかされてたなんて。だって純一、そんな事一言も………。

 

いや、純一なら言わなくても不思議じゃない。きっと純一は、自分が悪かったって考えるタイプだから。全部1人で抱え込んじゃう優しいやつだから。

 

何であたしは気付けなかったんだろう? あいつが苦しんでる時、何であたしは何もしてやれなかったんだろう?

 

胸の奥がズキズキする。あの時もそうだった。純一との帰り道、振られた純一を見ながら。

 

どうして純一の事を考えると胸が痛むんだろう?もしかして、純一の事が好きなのかな?

 

正直、よく分からない。

 

もちろん嫌いじゃない。でも、恋愛対象としての好きなのかっていうと微妙なところだ。

 

ゆらゆら揺れる小舟みたいに、色んな考えが浮かんでは心が揺らぐ。

 

会って話したい。話して、この気持ちの答えが知りたい。

 

 

棚町「お疲れ様でした〜」

 

 

挨拶をして裏口から外に出る。見上げてみると、雲が星を隠していた。

 

ふと足元を見ると空いた缶コーヒーが落ちていた。口のところからは真っ黒な液体が溢れている。

 

缶をゴミ箱に捨て、手を洗ってからあたしは大通りに出る。大通りの向こう側にコンビニがあった。

 

何となく入ってみると、お菓子売り場のところに見知った顔が見えた。

 

 

 

梅原「ん? おぉ、棚町じゃねぇか。バイト帰りか?」

 

棚町「梅原君。えぇそうよ。 梅原君は何してるの?」

 

梅原「クリスマスイブのために菓子を買いに来たんだ」

 

 

そう言いながら梅原君が提げている買い物カゴの中には袋菓子がいくつか入っていた。

 

 

 

棚町「へぇ、良いわね賑やかで」

 

梅原「へへ……まぁ、買わないで良いのが一番なんだがな」

 

棚町「え?どういう事?」

 

梅原「いや、こっちの話だ」

 

 

 

 

買い物を済ませたあたし達は、街明かりが遠くに見える住宅街を歩いていた。2人の家の方向が途中までまた一緒だったので、2人で話しながら帰ることにしたのだ。

 

 

 

梅原「そういえば、棚町と2人で歩くのって珍しいよな」

 

棚町「そうね〜。帰る時間もあまり被らないし、いつもは大体純一も一緒だからね」

 

 

 

あたしと梅原君は、中学生の時に純一繋がりで知り合った。だから純一の話が中心になるのは、ある意味自然なことだった。

 

それに、もうすぐクリスマスイブだ。

 

 

棚町「………もうすぐ一年かぁ」

 

梅原「そっか、もう1年経つのか」

 

棚町「蒔原さんってそんなに性格悪いって気はしなかったんだけどね。でもまさか、デートをすっぽかすなんて……」

 

梅原「! 棚町、知ってたのか?」

 

棚町「知ってたっていうか、たまたま聞いたの」

 

梅原「そうか……」

 

棚町「梅原君は知ってたの?」

 

梅原「ん? あぁ、まぁな」

 

棚町「どうして言ってくれなかったの?はあたし、あいつがそんなことになってたなんて知らなかった」

 

梅原「橘が黙っててくれって頼んできたんだよ。特にお前にはな」

 

棚町「どういうこと?」

 

棚町「多分、あいつなりの思いやりってやつだ。『きっとこの事を知ったら、薫は黙ってないだろうから』って」

 

 

 

そんな………あいつはどこまで………!

 

 

 

棚町「………っ、どいて梅原君」

 

梅原「どこ行く気だ」

 

棚町「決まってんでしょ。純一を馬鹿にした奴らをぶん殴ってやる」

 

梅原「ダメだ、行かせねぇ」

 

棚町「退いて!」

 

梅原「分からねぇのか? 何のためにアイツがお前に黙ってたのか。この事を知ったら、棚町がこうなるって分かってたんだよ」

 

 

 

梅原君は毅然としてあたしの前に立ち塞がった。ズキズキと痛む胸の不快感を押し付けるように、あたしは乱暴に口を開いた。

 

 

 

棚町「じゃあ純一の見当違いね。あたしはアイツが苦しんでるのを知らない方が許せない」

 

梅原「………だよな」

 

棚町「え?」

 

 

 

すると、梅原君が力無く俯く。

 

 

 

梅原「俺も言ったんだ。『黙ってる方が棚町は怒るって。でもアイツは黙っててくれって頼んできたんだよ。傷付くのは自分だけで良いって。親友がそこまで言って頼むんだ。ダメだなんて言えねぇよ」

 

棚町「でも、それじゃあ純一が……!」

 

梅原「報われない、か?」

 

 

 

あたしは黙って頷いた。

 

 

 

梅原「多分、あの時のアイツは選択を間違ってたんだ。もっと周りを信じて、頼って、救われようとするべきだったんだ」

 

 

 

そう、あいつは……橘純一はそういう奴だ。全部自分で背負い込んで、何もなかったように笑う。

 

すっごく優しくて、すっごくカッコいい。まるで、あたしのお父さんみたいな……。

 

 

梅原「でも世の中には、知らない方が幸せなこともある。少なくともあの時のあいつは、棚町に言わない方が棚町が幸せだと考えた」

 

 

 

………確かに、それはある意味正解だったかもしれない。だってあたしは、今日までそれを知らなかったんだから。そのおかげで、あたしは今日まで………。

 

 

 

梅原「俺は親友として、あいつの考えを尊重してやりたいんだ。頼む」

 

 

 

梅原君が必死に頭を下げる。あたしは、振り上げようとした拳をギュッと握りしめた。

 

 

 

棚町「分かった」

 

梅原「………すまん」

 

 

 

ふと頬に冷たい感触が走る。上を向いてみると、真っ白な雪が降ってきていた。

 

そういえばあの時も雪が降っていた。賑やかな街並みの活気とは反対に、暗く沈んだ心を抱えて独りで歩く純一の背中を思い出すと、胸がズキズキした。

 

そっか。どうして胸が痛むのか、やっと分かった。

 

あたし、純一だけが傷付くのが嫌なんだ。

 

誰か1人だけが傷付いて、その人が守った人は守られたことに気づかずヘラヘラ過ごすのが耐えられないんだ。そんな奴のことを考えるだけで、黒いドロっとした気持ち悪い感情が溢れてくる。

 

でも、どうせ純一はそんな事気にもしない。何事もなかったようにカラッと笑う。

 

だったら、あたしは─────。

 

 

 

 

 

 

〜☆〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田中「ちゃんと寝てる、よね?」

 

 

 

恵子が心配そうに、寝ている純一の顔を覗き込む。 

 

 

 

棚町「大丈夫よ。それより、どうやって運ぶの?」

 

田中「あぁ、それなら、車で運ぶの。少し前に仲良くなった子が手配してくれて」

 

棚町「車を貸してくれる人なんて珍しいわね。どんな子なの?」

 

田中「C組の子でね。橘君の話をしてたら仲良くなったの。温泉で知り合ったんだけど、名前はね…」

 

 

 

(ブルルルル)

 

 

 

すると恵子の言葉を遮るように、あたし達の前に一台の車が止まった。運転席からは黒いスーツを着た男の人が降りてきた。

 

 

 

スーツ男「どうぞ、お乗りください」

 

 

 

男の人に促されるままに後部座席に乗る。いわゆる高級車というやつで、非常にふかふかな座り心地だ。

 

 

 

棚町「こんな車持ってるなんて、あんたの友達様様ね」

 

田中「その子がお金持ちの子と知り合いらしくて、空いてる車を貸してくれたんだって」

 

 

恵子とそんな話をしていると、運転席の男の人が声をかけてきた。

 

 

 

スーツ男「どうやら今日は一斉検問が行われているようですが、いかがしましょう?」

 

 

 

男の人によると、ここにくる途中で検問が行われているのを見たという。警察の人に話を聞くと、抜き打ちでやっていて輝日東市内から外に出る道で行っているらしい。

 

 

 

田中「流石に誘拐してる男の子を見られたらマズイよね」

 

棚町「………」

 

 

出来れば市外に連れて行きたかった。市内は知り合いに見られる可能性があるし、人1人を監禁できる場所なんて少ない。それに、万が一純一に逃げられたらすぐに助けを呼ばれてしまう。

 

人目をつかなくて、仮に逃げてもすぐに助けが来ない。そんなところなんて輝日東には………。

 

 

 

 

棚町「あっ! 一つある!」

 

 

 

 

それは、中学の時に純一と自転車で海に行った時に見つけた場所だった。山の中なのでバスも数時間に一本しか通ってなかったはずだ。

 

 

 

棚町「すみません、ここに行ってください」

 

スーツ男「かしこまりました」

 

 

 

輝日東の地図で男の人に場所を伝え、あたし達はそこに向かった。

 

 

 

棚町「あと少しだから。あと少しで純一は、もう傷付かなくて良くなるからね」

 

 

 

隣で眠る純一の髪を撫でながら、あたしは独りで強く呟いた。

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