アナザーロンリークリスマス   作:スコップ。

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第十二話 『イッペン』

男子A「おい、聞いたか? 一年のあの子の噂」

 

男子B「学校の男を侍らせてたっていうあの子だろ?」

 

 

中多さんの会社のニュースがあった次の日、学校に行くと昨日のニュースの話題で持ちきりだった。廊下を歩いていると流れてくる彼らの話に聞き耳を立てていると、どうやら事実とは少し違う感じで噂が広まっているらしい。

 

とはいえ真実を伝えるのも憚られる。僕は静かに奥歯を噛んだ。

 

 

絢辻「橘君」

 

 

すると、廊下を歩いていた絢辻さんが話しかけてきた。

 

 

橘「あぁ、絢辻さん」

 

絢辻「大丈夫? 昨日ニュースで取り上げられてた会社って、橘君と仲の良かった一年生の子のお父さんの会社だと記憶してるのだけれど………」

 

 

 

橘「うん、そうだよ。僕も心配で……」

 

絢辻「………何か力になれる事があったら言って。私も協力するから」

 

橘「うん、ありがとう」

 

 

用事があるらしい絢辻さんにお礼を言って、僕はまた廊下を歩いていく。とにかく今は事情が知りたい。僕は急足で一年生のフロアに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絢辻「………ふふっ♡」  

 

棚町「随分楽しそうね」

 

 

詞は浮かべていた笑みを消して声がした方を見る。すると、階段の下から薫が見上げていた。

 

 

絢辻「何しに来たの? あたしのやった事に文句でも言いに来たの?」

 

棚町「そんなんじゃないわ。あんたに頼んだのはあたしだし」

 

 

2人ともその場から動かずに見つめ合う。妙な緊張感が厳かに張り詰めていた。

 

 

棚町「もしかして、これまでも?」

 

絢辻「えぇ。橘君の妹さんにトランシーバーを送ったり、森島先輩が正気に戻るまで物陰で様子を見たりね」

 

棚町「今回の作戦、最初から考えてたの?」

 

絢辻「そうよ、彼女の事は一番警戒してたから。あとはタイミングの問題。まさか貴女からお願いに来るとは思わなかったけど」

 

 

薫は空恐ろしくなった。一体、彼女は今の状況をどこまで計算しているのだろうか。

 

 

絢辻「じゃあ私、用事があるから。あ、この事は他言無用でお願いね」

 

棚町「でもまさか、あんたまで純一を狙ってるとは思わなかったわ」

 

 

階段を降りる詞の背中に、薫が声をかけた。するとその瞬間、詞が立ち止まる。クルッと髪を流して振り返り、薫の耳元に来て囁いた。

 

 

絢辻「前にも言ったけど、あたしは橘君を独占するつもりはないから」

 

 

薫がビックリした様子で詞の顔を見る。意味深に微笑んだ詞は踊るように階段を降りていった。

 

 

 

〜☆〜

 

 

 

一年生の教室の前までやってきた。教室を覗いてみたが、中多さんは居ないようだった。まぁ僕も居るとは思ってなかったけど。

 

 

女子A「中多さん大丈夫かな?心配だよ〜」

 

女子B「また学校に来れるのかな?」

 

 

当然というべきか、中多さんの噂話は他学年のそれに輪をかけて多かった。これはもう話に尾鰭がついて事実は闇の中という感じだろう。

 

しかし、あまりにも噂が広がるのが早すぎる気がする。ニュースがあったのは昨日だし、全国放送でもない地方ニュースだ。

 

僕だって美也や梨穂子に言われなかったら気付かなかった。それなのに、どうしてこれだけの人が……?

 

………まさか、中多さんを陥れるために誰かが噂を流したのか?

 

 

橘「…………」

 

 

きっと目的は前の森島先輩や薫と同じだ。事件のタイミングを考えても神社での一件が引き金だと思う。中多さんと僕が急接近した事で犯人は行動を起こしたという感じか。

 

 

橘「だとしたら、誰だろう?」

 

 

仲の良い女の子を思い浮かべてみる。絢辻さん、梨穂子、七咲、etc……

 

絢辻さんは無い。梨穂子も一緒に事件を解決してきたから、線は薄い。七咲も中多さんとは親友同士だ。

 

 

橘「ん〜………」

 

美也「あ、お兄ちゃん!」

 

 

すると、後ろから美也に声をかけられた。

 

 

橘「あぁ、美也」

 

美也「……紗江ちゃんは来てないよ」

 

橘「うん、僕もさっき教室を覗いてみた」

 

 

中多さんの家……は僕は知らない。知ったとしても今は会ってくれないだろうな。

 

 

美也「お兄ちゃん」

 

橘「ん?何だ?」

 

美也「紗江ちゃんがお兄ちゃんにした事は悪い事だけど、今回の件に関しては紗江ちゃんは悪くないと思う。だから、その……」

 

 

必死に中多さんを庇う美也。その頭に僕はポンと手を置いた。

 

 

橘「大丈夫、僕も分かってるよ。それも含めて、また前のように学校でお話しできるように頑張ろう」

 

美也「…………うん!」

 

 

 

 

〜☆〜

 

 

 

 

 

コーチ「はい、ダンスレッスンはここまで! 選抜組はレコーディングがあるから、休憩の後で集まって!」

 

メンバー「「「「はいっ!」」」」

桜井「はいっ!」

 

 

緊張が解けて身体の内側が熱い。喉を通る水は暖房で温められてるのに、とても冷たく感じる。

 

こんにちは、桜井梨穂子です。今日はアイドルグループのレッスンの日。いつも通り、頑張ってます!

 

 

玲奈「レコーディングでわざわざ隣の県まで行かなきゃいけないの、ダルいね〜」

 

亜美「仕方ないよ。昨日のニュースの会社でウチらのグループもレコーディングしてたんだから」

 

翼「年始で時間ある時で良かったよね〜」

 

 

時間……そうか、このレコーディングが終わったら、しばらくまとまったお休みがもらえるんだ。そしたら純一の力になれそうかも。

 

 

玲奈「時間ある時といえば、この前の暴力団事件。あれは正直助かったなぁ。おかげで彼氏と会う時間取れたし」

 

亜美「あぁ、あれね。ウチの関係者から週刊誌にリークされたらしいけど、結局間違いで何も無かったんだよね。それでウチのファン達が出版社に電話しまくったらしいよ」

 

翼「でも結局誰なんだろうね、そんなデマ流したの」

 

 

やっぱり心配だなぁ。森島先輩や棚町さんが一緒だから大丈夫だと思うけど、純一はすぐに無茶しちゃうからなぁ……。

 

でももし純一にもしもの事があったら………。

 

 

玲奈「おーい、リホ?」

 

桜井「えっ!?」

 

 

玲奈「レコーディング行くよ。早く着替えな」

 

桜井「う、うん!ありがとう」

 

 

飲んでいた水のキャップを閉め、急いで汗を拭く。

 

 

玲奈「また彼氏のこと考えてたんでしょ」

 

桜井「ふぇっ!? か、彼氏じゃないよ〜!」

 

 

亜美「良いじゃん。玲奈もこっそり付き合ってるし」

 

玲奈「リホも皆んなに内緒にしなきゃダメよ? マネージャーとかにバレたら大変だからね」

 

 

桜井「も、も〜!」

 

玲奈「ははは、じゃあ先に行くね」

 

 

そう言うと、彼女は手を振ってダンスルームを後にしていった。

 

でもすごいなぁ、あの子。この前の人気投票でも1位だったし。私は10位代をウロウロしてるだけなのに、あの子はトップ3の常連。

 

スタイルも私よりずっとスラっとしてて喋り方とかもすっごく可愛い。テレビとかにもたくさん出てて、それなのに全然威張ったりせず私や他のメンバーにも気さくに話しかけてる。やっぱり純一もあぁいう子が好きだよね。私みたいな子なんて………

 

ううん、弱気になっちゃダメ。少しでもあの子みたいになって、純一に振り向いてもらうんだから!

 

 

コーチ「じゃあ選抜組はレコーディング行くから準備して!」

 

メンバー「「「「はいっ!」」」」

桜井「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「……………チッ」

 

 

 

 

 

〜☆〜

 

 

 

 

 

 

長かった授業が終わり放課後になった。重苦しい気分を抱えたまま坂を下っていくと、坂下で美也と七咲が並んで歩いていた。

 

 

橘「美也!七咲!」

 

 

美也「あ、お兄ちゃん!」

 

七咲「先輩、こんにちは」

 

 

ふと、七咲が持っている紙袋が目に留まる。

 

 

橘「中多さんの家に行くのか?」

 

七咲「はい。会ってくれるかどうか分からないですけど………」

 

 

確かに、この2人でも会ってくれるかは分からない。でも、何もしないより良いだろう。

 

 

橘「僕も行くよ。会って話をしたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電車で数十分揺られて中多さんの家に来た。レンガ基調の壁塀に囲まれた洋風のお屋敷が遠くからでもよく見える。門のところを見てみると、カメラやマイクを持った人達が沢山いた。

 

 

七咲「新聞記者や週刊誌の人達でしょうか?」

 

橘「まぁそうだろうね」

 

 

美也「これじゃ会えないよ!」

 

橘「仕方ない。しばらく時間を潰そう」

 

七咲「じゃあ私はここであの人達が帰るまで見張ってますね」

 

 

そう言うと七咲は鞄から玩具のトランシーバーを取り出した。

 

 

七咲「動きがあったらこれで知らせます」

 

美也「みゃー達も街で紗江ちゃんを探してみるよ!」

 

 

七咲「先輩、お願いします」

 

 

僕と美也は力強く頷いた。

 

 

 

 

街の商店街の並木道を美也と一緒に歩いていく。空は紫に移ろい、いくつかのお店では灯りをつけていた。

 

 

美也「紗江ちゃん、大丈夫かな?」

 

橘「大丈夫だ。心配するな」

 

 

美也「何で紗江ちゃん、みゃーや逢ちゃんになにも相談してくれないんだろう? にぃにが好きなら、みゃーに相談してくれれば協力できたのに………」

 

 

………もしかしたら中多さんは選択を間違えたのかもしれない。僕が困ったら絢辻さんや梅原に相談するみたいに、中多さんも自分の悩みを吐き出す場所があれば……前に見せた中多さんの歪んだ笑顔を思い出しながら、僕はふとそんな事を思った。

 

 

???「離してください!」

 

 

すると、道の向こうで女の人の叫び声が聞こえた。

 

 

男「うるせぇ! くそ、あのアイドルさえ居なけりゃ俺は……」

 

 

男が女性の腕を掴んでいる。周りの人達は心配そうに見つめるが、面倒事に巻き込まれたくないのか、様子を見ているだけだ。

 

すると、野次馬の隙間から叫び声の主の姿が見えた。ウェーブが流れる栗色の髪をツインテールにまとめ、育ちの良い白い頬を紅潮させながら力無く男に抵抗している。

 

そこにいたのは、中多さんだった。

 

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