ハーメルン限定エピソードも投稿してますので、そちらも良ければ。また今後もよろしくお願いします ♂️
美也「紗江ちゃん!」
美也が中多さんの名前を叫ぶ。名前を呼ばれた中多さんは僕たちの姿を捉えると、心底驚いたように目を丸くした。
中多「えっ!? 先輩達、どうしてここに……」
男「あ? なんだお前ら!」
男が僕らの方を睨む。その剣幕に少し怯むが、腕を掴まれた中多さんを見たら、口が自然と開いた。
橘「その子から手を離せ!」
人の波を押し除け、男の手を掴む。男の指が中多さんの腕から離れた。
男「こいつッ!」
すると男が反撃してきた。男の右腕を僕の左腕が、僕の右腕を男の左腕がそれぞれ掴み、取っ組み合いの形になる。
中多「っ!」
その時、中多さんがその場から逃げるように走っていってしまった。
橘「中多さん!!」
このままでは中多さんを見失ってしまう。早く追いかけなくちゃ!
美也「にぃに! ここは任せて!」
すると、中多さんを追って美也が飛び出して行った。
その時、走っていく美也と目が合う。純粋な想いだけが映るその目を見て、少し悔しさを感じながら美也に叫んだ。
橘「頼んだぞ!美也!!」
〜☆〜
商店街の中を人の波を抜けながら走っていく。息を切らしながら、ただ1人の女の子を探す。
美也「紗江ちゃん………」
そういえば、あの日もこんな夕方の街中だった。路地裏で暗い中、みゃーでも怖かった男の人たちに毅然として紗江ちゃんは立ち向かった。声を震わせながら、それでも気高く凛として。
だから今度はみゃーが紗江ちゃんを助けてあげるんだ。
美也「紗江ちゃん、どこに居るんだろう?」
紗江ちゃんを探しているうちに、奥まった場所に来た。ゴミ箱の上には黒猫が座っていて、困っているみゃーを馬鹿にしたような顔でこっちを見ている。
美也「猫ちゃん、紗江ちゃんどこにいるのかな?」
黒猫「にゃ〜」
すると、黒猫がピョンとゴミ箱から降りて歩き始めた。猫ちゃんは時々こちらをチラチラと見ながら、さらに路地裏の奥まった方へと歩いていく。
美也「もしかして、着いてきてって事?」
黒猫について行ってしばらく歩くと、どこからか啜り泣く声が聞こえてきた。
???「………スン………グスン」
光のない真っ暗な行き止まりに来てみると、紗江ちゃんが泣いていた。
美也「紗江ちゃん」
名前を呼ぶ。
中多「! 美也ちゃん………」
紗江ちゃんは驚いた様子で泣き腫らした目を擦って涙を拭った。
中多「………何しに来たの」
美也「紗江ちゃんを助けに来た」
中多「………何で?」
紗江ちゃんが問いかける。
中多「何でそんなに真っ直ぐ私を見れるの? 私、あんなに酷い事言ったのに。私なんて助けても、美也ちゃんに得なんて………」
美也「っ!」
紗江ちゃんの言葉を聞いたその瞬間、みゃーの手は勝手に動いていた。
(パチンッ!!)
中多「っ!?」
美也「紗江ちゃんの馬鹿ッ!!!」
絞り出すように出した声が震える。瞳から溢れた大粒の涙が、頬を伝って地面に落ちる。
美也「何でそんな事言うの! 紗江ちゃんを助けるのに、損得なんて関係無いよ!」
中多「そんなの信じられない! 美也ちゃんに助けられるほど、私に魅力なんて……」
美也「ある!」
中多「っ!」
美也「ある!あるよ!いっぱいあるよ! 紗江ちゃんには魅力的なところ、たくさんあるよ!」
みゃーは紗江ちゃんの手を取り、紗江ちゃんの目を真っ直ぐ見る。
紗江ちゃんはとっても辛かったと思う。好きな人に振り向いてもらうために頑張ったのに、好きな人に見てもらえなくて。いつも周りと比較して落ち込んで、どんどん自分を追い込んで。
だからみゃーが言ってあげるんだ。『頑張ったね』って。『偉いね』って。
美也「紗江ちゃんは可愛い。女の子のみゃーでも思わず照れちゃうくらい。
紗江ちゃんは面白い。毎日一緒にいても足りないくらい。
紗江ちゃんは真面目。何事にも一生懸命で尊敬してる。
紗江ちゃんは優しい。周りの人の事をいつも考えてる。
他にもいっぱい、いっぱい。紗江ちゃんには良いところがたっくさんあるんだよ」
紗江ちゃんの目からも大粒の涙が溢れる。みゃーの涙と一緒に地面に落ちていく。
美也「紗江ちゃんが自分を嫌いでも、みゃーは紗江ちゃんが大好き。紗江ちゃんが自分を信じられなくても、みゃーが紗江ちゃんを信じてる」
美也「だから紗江ちゃん、帰ろう。また皆んなで楽しくお話ししようよ」
中多「………ッ! ごめん、ごめんね美也ちゃん。美也ちゃんは友達なのに……先輩の事で頭がいっぱいで、酷いこと……」
美也「良いんだよ。紗江ちゃんの本音じゃないって分かってたから」
紗江ちゃんの背中を撫でると、紗江ちゃんは少し震えていた。
こんなに小さな身体で、紗江ちゃんは頑張ってたんだ。だから、お疲れ様の意味も込めてみゃーは優しくその背中を撫でた。
チャラ男A「お? 君達可愛いじゃん」
その時、2人組の男の人が声をかけてきた。
チャラ男B「2人ともナーバスな感じ? 俺らが慰めちゃう感じ?」
中多「美也ちゃん……」
美也「大丈夫、下がってて」
紗江ちゃんの手がみゃーの背中に触れる。震えているのは紗江ちゃんだろうか、それとも……。
チャラ男A「そんなに怖がらなくても良いじゃん」
チャラ男B「俺達優しくする感じだからさ」
男の人たちの手が伸びてくる。思わず目を閉じた、その時だった。
橘「あんた達、何やってるんだ!」
路地の向こうからにぃにが大声で怒鳴りながら走ってきた。
チャラ男A「やべっ逃げるじゃん」
チャラ男B「今日はここまでって感じ?」
男の人達がそそくさと逃げていく。みゃー達の所まで走ってきたにぃにの後ろから絢辻先輩が顔を出した。
絢辻「あなた達大丈夫? 怪我はない?」
美也「絢辻先輩!? どうしてここに?」
橘「あぁ、実は……」
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時を少し戻して数分前。純一は男と取っ組み合いになっていた。
橘「大人しくしろ!」
男「うるせぇ! 俺の人生は終わりなんだよ!」
不明瞭な事を言いながら男は乱暴に手足を振り回す。ふと純一の鼻にアルコールの匂いが漂ってくる。よく見ると男の頬は紅潮していた。どうやら酒乱らしい。
どうしたものかと純一が難儀していると、背後から声がした。
絢辻「その人から手を離しなさい」
男「あ? 何だお前」
絢辻「警察を呼びました。すぐにその人から手を離して大人しくしてください」
男「偉そうに言ってんじゃねぇ!」
不意に男が詞に襲いかかった。2人の間にははっきりと分かる体格差があり、純一は思わず足が動いた。
しかしそれは純一の杞憂だった。詞は流れるような動きで男の手をかわすと、そのまま男の重心をずらして地面に叩きつけた。
詞は一息つくと、持っていた男の腕を通行人に預けた。
絢辻「警察の方がもうすぐ来ると思うので、引き渡しをお願いします」
通行人「え? は、はい………」
男を預けた詞は埃を払いながら純一に近づいてきた。
橘「ありがとう絢辻さん。 何でここに?」
絢辻「たまたま買い物に来てたの。そしたらいつもみたいに余計な事に首を突っ込むあなたが見えたから」
橘「ははは………」
絢辻「それより、警察が来る前に中多さんを追いましょう。警察に色々聞かれたら面倒よ」
橘「そうだね、急いで行こう!」
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美也「そうだったんだ。 絢辻先輩、ありがとうございます」
絢辻「良いのよ」
すると、絢辻さんが中多さんの方に目を向けた。
絢辻「中多さんも大丈夫だった?」
中多「は、はい………」
絢辻「お家の方はどうだったの?」
中多「パ…お父さんが熱りが冷めるまで違う学校に行きなさいって」
美也「え!? さえちん転校しちゃうの!?」
話を聞いた美也が泣きそうな顔をしながら中多さんに聞く。
中多「うん。 でも、全く会えないわけじゃないから、心配しなくても良いよ」
僕は少し安心したようにホッと一息ついた。それを見た中多さんが、少し躊躇いながら僕の近くに寄ってきた。
中多「先輩、色々とすみませんでした」
橘「良いよ、気にしないで」
中多「私、先輩に並んでも恥ずかしくない女性になります。美也ちゃんに教えてもらった私の魅力を、もっともっと磨きます」
中多さんが僕の目をまっすぐに見て宣言する。その目は全く濁りがなく、どこまでも澄んでいた。
胸の奥が少しだけモヤっとするけど、中多さんが元に戻ってくれた嬉しさでそれはすぐに消えた。
絢辻「……………」
中多「それと先輩、逢ちゃんの事なんですけど……」
橘「え?七咲?」
中多「私、逢ちゃんと『先輩が手に入ったら半分こしよう』って約束してたんです」
橘「それって……七咲もおかしくなってるって事?」
中多さんは頷いた。
じゃあさっき僕と一緒にいた時も、七咲はおかしくなっていたのか? 友達の心配よりも、僕を手に入れる方法を考えてたってのか?
思わず鳥肌が立ち、僕は身震いした。
橘「ちょっと待って。じゃあ今七咲がいないのは何故なんだ?」
僕はふと疑問に思った。中多さんと七咲が手を組んでいたなら、相方が元に戻れば確認なり何なりするはずだ。僕を2人で手に入れるっていう自分達の計画が狂ったのだから。
……それかもし、『確認の必要がない』なら? 中多さんが元に戻ることが『計画の内』だったとしたら?
橘「美也、トランシーバーあるか?」
美也「う、うん!」
美也からトランシーバーを受け取り、七咲を呼ぶ。しかし、いくら待っても返答がない。
橘「中多さん、今は七咲と連絡取れる?」
中多「はい。逢ちゃんには私の携帯電話を貸してるんです」
中多さんが懐から携帯電話を取り出し、ボタンを数回押した。しばらくして機械的な声が電話から聞こえてきた。
『この番号は現在使われておりません──────────』
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七咲「あの子を失うのは少し痛手だけど、仕方ないよね〜」
黒猫「ニャ〜」
七咲「中多さんも馬鹿だなぁ。先輩を半分もあげるわけないじゃん。先輩は私が全部独り占めするんだから」
逢はそう言いながら、愛おしそうに黒猫の頭を撫でる。
七咲「中多さんごめんね。でも、『敵を騙すなら、まず味方から』だから」