アナザーロンリークリスマス   作:スコップ。

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お知らせ。

来月は森島はるか編が完結となる第五話の投稿ですので、前にも告知させていただきましたが、ハーメルン限定エピソードも同時に投稿します。

お話の内容は………秘密です。来月をお楽しみに。


第四話 「カンキン」

森島『はぁい♪ 元気そうで何よりだわ、橘君』

 

 

電話越しに話す森島先輩の声はどこか楽しげだ。まるで、ずっと欲しかったおもちゃを買い与えられた子供のように、語尾に♪が付いてそうなほどに浮かれている。

 

 

橘「森島先輩………」

 

森島『この子、橘君の幼馴染なんだってね。 良いなぁ……私にも幼馴染は居るけど、こんなに可愛くないもの。 ロビンでしょ、テリー、ステア………あっ!あとはいじめっ子のニールに………』

 

橘「用件は何ですか?」

 

 

焦燥感に駆られた僕は、森島先輩の声を遮る。それを受けた森島先輩は、クスリと笑った。

 

 

森島『2人きりで話がしたいの。 今すぐに丘の上公園に来て』

 

橘「来なかったらどうなりますか?」

 

森島『私ね、動物が死ぬのってあんまり見たくないの』

 

 

森島先輩の言葉に、受話器を握る手に力が入る。

 

 

森島『じゃあ、待ってるから』

 

 

すると、電話が切れた。

 

 

橘「……………」

 

塚原「橘君………」

 

 

塚原先輩の声で我に帰る。

 

 

橘「………大丈夫です」

 

美也「お兄ちゃん、どうするの?」

 

橘「とりあえず、行くしか無いだろ。 梨穂子の命がかかってるんだ」

 

美也「でも、お兄ちゃん1人だけなんて危ないよ」

 

 

美也が僕の袖を引っ張る。その手は少し震えていた。

 

 

橘「時間がない。 今は行くしかないんだ」

 

美也「でも!」

 

 

 

橘「聞こえなかったのか!? 時間が無いんだよ!!」

 

 

 

美也「ひっ………!」

 

橘「あっ………」

 

 

大声を出してみて、初めて自分が焦っていることに気がついた。

 

病室がシンとする。すると、ベッドにいた塚原先輩がコップを差し出してきた。

 

 

塚原「橘君。 まずは落ち着きなさい」

 

 

塚原先輩からコップを受け取り、中の水を飲む。熱い喉元に、冷えた水が通っていく。

 

 

橘「………ふぅ。 すまん、美也」

 

美也「ううん、こっちこそごめん」

 

 

塚原先輩と美也のおかげで、何とか冷静さを取り戻した。しかし、時間が無いのは確かだ。

 

早くしないと、梨穂子の命が危ない。今の森島先輩なら、本当に殺したとしても、何ら不思議では無い。

 

 

美也「あっ、お兄ちゃん! これ!」

 

 

すると、美也が持っていた鞄からある物を取り出した。取り出したのは、手のひらくらいのサイズのトランシーバーだった。

 

 

塚原「それは?」

 

美也「お兄ちゃんが病院に居るって電話が来た時、一緒に届いてたんです」

 

 

美也が持っていた個包には、送り主のところは何も書かれていなかった。少々不気味だが、今の僕が1番欲しい物だった。

 

 

塚原「………正直、怪しさMAXだけれど、贅沢は言ってられないわね」

 

 

トランシーバーの電源を入れ、動作確認をする。異常が無いことを確認し、僕はトランシーバーをズボンのポケットに忍ばせた。

 

 

塚原「電源は常にオンにしておいて。あと、音量は出来るだけ小さくしておいてね」

 

橘「分かりました」

 

美也「お兄ちゃん、気を付けてね」

 

橘「大丈夫。 必ず森島先輩を説得してみせる」

 

 

美也の安心したような顔を背に、僕は病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

〜☆〜

 

 

 

 

 

 

公園に着いた僕は、息を整えて階段を上がっていく。

 

2年前のクリスマスのあの日も、こんな感じだったなぁと思い出しながら上まで行くと、僕は公園をぐるりと見渡した。

 

公園には、輝日東高校の制服を着た男子生徒が数人居る程度で、他には誰もいなかった。森島先輩は───

 

 

?「ふぅん、ちゃんと1人で来たんだ。グッド!」

 

 

不意に背後から話しかけられる。振り返ると、森島先輩が立っていた。

 

 

森島「でも、これは良くないなぁ」

 

 

森島先輩が僕のズボンのポケットに手を入れる。腕を戻した彼女の手には、トランシーバーが握られていた。

 

 

森島「お電話の相手は、ひびきかな? おーい、響ちゃーん?聞こえる〜?」

 

 

その声色は楽しげだが、森島先輩の目は一切笑っていなかった。隠しきれない怒りが、オーラとなって滲み出ている。

 

 

森島「1回目は許してあげるけど、次に私と橘君の邪魔するなら、ひびきでも容赦しないから。 じゃあね」

 

 

トランシーバーの電源を落とした森島先輩は、そのままトランシーバーを地面に叩きつけ、何度も何度も踏み締める。

 

 

森島「やっぱりひびきね。 いっつもいっつも邪魔ばっかりして! 私が橘君とお昼食べてる時もそうだった………あぁ、もう! ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!」

 

 

既に壊れて原型を留めていないトランシーバーを、森島先輩はそれでもなお踏みつける。

 

しばらくして、森島先輩は踏みつけるのをやめた。肩で息をしながら、俯いてブツブツと独り言を喋っている。やがて、息が整ったところで、森島先輩が顔を上げた。

 

 

森島「ねぇ、橘君。 少し話さない?」

 

 

そう言って笑いながらこちらを見る森島先輩の目は、泥のように濁っていた。

 

 

 

 

 

〜☆〜

 

 

 

 

 

塚原「……………」

 

美也「……………」

 

 

病室ではるかの言葉を聞いた私達は、2人とも固まったまま無言だった。

 

 

美也「塚原先輩………」

 

 

橘君の妹さんが、心配そうにこちらを覗き込む。

 

 

塚原「大丈夫。 ありがとう」

 

 

とはいえ、これで橘君との連絡は完全に断たれた。

 

………いえ、そもそもあのトランシーバーが無ければ、橘君を向かわせることすら出来なかった。 結果として、橘君の幼馴染の命も助けることが出来たのだから、今はこれで納得するしか無い。

 

それに、これではっきりした。 今のはるかは、明らかに狂ってる。それが分かっただけでも、このトランシーバーは十二分な働きをしたと言えるだろう。

 

 

美也「それにしても、自分で出しておいてなんですけど、このトランシーバー、何なんでしょうね」

 

 

妹さんの言葉に、私も頷く。 私は、傍に置いてあるトランシーバーに目をやった。

 

 

妹さんの話では、彼女が、橘君が病院に運ばれたという電話を受けた時に宅配便として置いてあったということらしい。 

 

送り主のところは空白だったので、誰が何の目的で送ってきたのかも分からない。

 

 

塚原「一体、誰が何のために?」

 

 

まさか、はるかが? いや、それは無いだろう。 はるかが、わざわざ自分が不利になるようなアイテムを送る意味がない。  

 

しかもさっき、橘君のトランシーバーを壊したのは他でも無いはるかだ。では誰が?

 

でもこの感じ、どこかで知ってるような感じがする。明らかに怪しいのに、その選択肢を選ばざるを得ない状況に追い込まれる感覚。

 

今回の私達は、このトランシーバーを使う以外の選択肢がなかった。そうしなければ、橘君の幼馴染さんの命が危なかったから。

 

もしかしたら、もっと良い選択があったのかもしれない。でも、あの時は時間がなかった。他の選択肢を熟考する時間が。

 

怪しいのは誰が見ても明らかなのに、その選択をせざるを得ない状況に進んでいく。まるで、『相手の軍師と戦争をしているような』、そんな感覚を、前にどこかで………。

 

 

美也「先輩?」

 

 

妹さんの言葉で我に帰る。

 

 

塚原「大丈夫よ。それよりも、これからどうするのかを考えないと」

 

 

今回のはるかの行動で、はるかが私たちを敵だと見做していると分かった。

 

 

塚原「私もそろそろ、覚悟を決めないと………」

 

 

 

(コンコン)

 

 

 

 

すると、控えめなノックの音と共に病室のドアが開いた。そこにいたのは、私達にとって意外な人物だった。

 

 

 

 

 

〜☆〜

 

 

 

 

 

まだ17時だというのに、既に夕陽は結構傾いている。東の方には紺色の空の中に小さな星も見え始めている。

 

 

森島「ここで良いかな」

 

 

 

森島先輩はそう言うと、海が見えるベンチに腰掛けた。ポンポンと横を叩き、僕にも座るように促す。

 

 

森島「ここで君とこうして並んで座るなんて、少し前まで考えられなかったなぁ」

 

橘「……………」

 

 

前までの僕なら、嬉しさで飛び上がっていたに違いない。

 

だって、僕がずっと憧れていた森島先輩と、こうして2人きりになれたのだから。 1年前にちょうどここで僕を救ってくれた、あの森島先輩と。

 

でも、今の僕の胸中は複雑だ。 先輩と並んでいる嬉しさと、今の先輩の状態から感じる不安とでぐちゃぐちゃになっている。

 

 

森島「今日は見えないね」

 

橘「………」

 

森島「橘君と居る時くらい、見えて欲しかったなぁ」

 

 

先輩は覚えているのだろうか。 僕と1年前にここで会っていることを。 あの昼休みに先輩と廊下で会った時は、覚えてない感じだったけど………。

 

 

森島「ねぇ、橘君」

 

 

そんなことを考えていると、森島先輩が話しかけてきた。

 

 

橘「何ですか?」

 

森島「私のものになってくれない?」

 

 

あまりに唐突な提案に、僕は口を開けて唖然としてしまった。

 

 

森島「橘君は知ってると思うけど、私、橘君の事が好きなの。誰にも渡したくないし、君のことを独占したい。 だから、私のものになって」

 

 

前の僕なら、二つ返事でOKだったに違いない。でも、今はその言葉に、無条件に頷く事は出来ない。

 

 

橘「その前に先輩、一つ聞いても良いですか?」

 

森島「ん?何かな?」

 

橘「塚原先輩を傷つけたのは、森島先輩なんですか?」

 

 

別に、現実逃避をしたかった訳では無い。ただ、『森島先輩じゃ無いかもしれない』という淡い期待が無かった訳でもない。

 

僕の質問に、森島先輩はすぐには答えなかった。さっきまで浮かべていた笑顔をすぐに引っ込め、無表情で俯いていた。

 

 

森島「……………ぃ」

 

 

しばらくして、森島先輩がポツリと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

森島「ウザいウザいウザい。 ウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザいウザい!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森島「またひびきの話した! そんなにひびきが好きなの!? 何で私じゃダメなの!」

 

 

ヒステリック気味に僕の肩を掴む森島先輩の目は、暗く澱んでいた。その目に何が映っているのか、もう僕には分からない。

 

 

 

森島「はぁ………はぁ………」

 

 

 

肩で息をしながら、グッタリと僕の肩から手を離す森島先輩。すると、先輩は徐に立ち上がった。

 

 

森島「もう良い。 君にはやっぱり、『教育』が必要だね」

 

 

森島先輩はそう言うと、スッと右手を挙げた。すると、周りに居た男子生徒達が一斉に集まってきた。

 

 

森島「気付いたかな? 君は既に、私の掌の上って事が」

 

 

男子生徒2人が僕の肩を掴む。帰宅部の僕はなす術もなく、地面に押さえつけられる。

 

 

森島「ごめんね、ちょっとだけ寝ててね」

 

 

(バチッ!!)

 

 

弾けるような音と共に、痺れるような痛みが全身を駆け巡った。 その痛みを感じながら、僕の意識は、深く深く落ちていった。

 




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