本編では『一喝刑事』のシーンを思い出して拘束を解いた橘ですが、もしあの時、間に合わなかったら………という仮定でのお話です。
第五話『シンユウ』を見た後にご覧いただきますと、より一層楽しめます。
橘「クソッ、結構固い………」
ここまで固いとなると、おもちゃの類ではないらしい。……まさか本物? 今の先輩ならあり得る話だ。
橘「どうしよう、このままじゃ塚原先輩達が……」
〜☆〜
ポンプ小屋の扉が開く。暗い小屋の中からはるかが出てきた。
森島「あら、ひびきちゃん。大勢でよく来たわね」
塚原「はるかの方が大勢だと思うけれど?」
周りを囲む男子生徒達を見ながら私は言った。
森島「それで、何の用かしら?」
塚原「今ならまだ間に合うわ。今すぐ橘君を解放しなさい」
森島「…………」
夜の風が私とはるかの間を吹き抜ける。はるかは笑顔のまま、まるで彫刻のように動かない。
森島「………嫌」
塚原「はるか!」
森島「やっと手に入れたのよ? 手放すわけないでしょ」
不適な笑みを浮かべながら、はるかが手を上げた。その瞬間、私たちの周りを男子生徒達が取り囲んだ。
美也「ちょっと! みゃーに触らないで!」
森島「ふふっ。 さぁひびき。病院に帰ろっか」
はるかがゆっくりと近づいてくる。その手にはスタンガンが握られていた。
森島「ずっと邪魔だった。 いっつも私と橘君の邪魔して……。私のこと見下して……」
はるかの言葉に、私の胸が詰まる。
そっか………はるか、そんな事思ってたんだ。
森島「もう、私の邪魔しないで!」
桜井「先輩!」
はるかがスタンガンを掲げた。
(バチッ!)
〜☆〜
橘「ぐっ……外れろッ!」
しかし、手枷はびくともしない。
(ギィッ)
すると、小屋の扉が開いた。そこにいたのは、満面の笑みを浮かべた森島先輩だった。
手には、バチバチと音を鳴らすスタンガンが握られている。
森島「ごめんね、お待たせ」
橘「せ、先輩? 塚原先輩達は!?」
森島「ん〜? ふふっ♡ みんな疲れてたみたいね。私がこれで『マッサージ』したら、皆んなグッスリ寝ちゃった♪」
そんな、嘘だ。
僕が助けに行ければ、こんな事には………。
絶望して項垂れる僕の目に、首にかけた病院の入館許可証が見えた。
………そうだ、確か前に見た刑事ドラマで、こんなシーンがあったな。梅原とよく話してたから覚えてる。
橘「………今さら思い出すのか」
あと少し早く思い出せてれば、先輩達を傷つけずに済んだのに。
橘「は、ははは………」
森島「ありゃ? 壊れちゃったのかな?」
僕の口からは乾いた笑いが出てくる。ボロボロの心の形を何とか保つかのように。
森島「ごめんね。でも、こうするしかなかったの」
森島先輩が僕を抱きしめる感覚がする。でも、何のぬくもりも伝わってこない。考えることも、状況を把握することもできない。ただ森島先輩のされるがままに体を預けていた。
森島「でも大丈夫。 これからは私が守ってあげるよ」
守っ……て?
先輩が……守ってくれる………?
……………あぁ、そっか。
やっぱり僕は、あの日から何も成長出来てなかったんだな。
僕が不甲斐ないばっかりに、塚原先輩や梨穂子や美也を傷つけて……それなのに、今は森島先輩に縋ろうとしてる。
自分のことばっかり考えてたあの頃から、何一つ変わってなかったんだ。
〜☆〜
絢辻「え? 実行委員を辞めたい?」
橘「うん………」
絢辻「理由を聞いても良いかな?」
橘「森島先輩が辞めろって言ったから。僕もそれが良いと思ったから」
絢辻「……………そう」
絢辻さんはそれだけ言って、どこかに行ってしまった。
………また1人、傷つけた。
でももう、良いよな。今さら1人増えたところで、何も変わらない。
それからしばらくして、絢辻さんが過労で倒れた事を知った。どうやら、僕の分の仕事を1人でやって、その無理が祟ったらしい。
………全く、不器用だよなぁ。苦しいなら、誰かに頼れば良いのに。
それこそ、今の僕みたいに。
昼休み。いつものように、僕達は屋上にいた。
先輩にしてもらう膝枕が、とても心地いい。
絢辻さんに仕事を丸投げして高橋先生に怒られたことも、梨穂子を傷つけたことに怒った茶道部の先輩に殴られたことも、今なら全部忘れていられる。
先輩が守ってくれるようになってから、何故か周りの人から避けられるようになった。梅原も避けはしないけど、前みたいに親友同士の距離感ではなくなった。
森島「橘君。今、幸せ?」
森島先輩が尋ねてくる。その目は僕以外映っていないだろう。それがたまらなく気持ちいい。
もう他の人なんてどうでも良い。誰が傷付こうが、僕には関係ない。だって──────
橘「はい。僕今、とっても幸せです」
❄️BAD END
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