SHRIFT 全年齢版   作:きつねさん

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通しでやろうかとも思いましたが、それなりに長くなることが想定されたので分割


Chapter1ー1 『覚醒』 前編

「……!…!?」

 

いつのまにか寝ていた?だけどその割には車の揺れが感じないな、どこかで休憩してるのかなと呑気なことを考えていたのは一瞬だった。

 

僕が寝ていたのは、何かの機械・・・カプセルの中のように見えるところで、おそらく外から開けられたらしい、というのが混乱する頭でかろうじて理解できたことだった。着ている服もよそ行きのものではなくシャツとパンツだけという必要最低限のものしかなく、さらに混乱を加速させる原因にしかならなかった。

 

「と、とにかく起きて、何が起こったかを理解しないと…」

 

まだ状況を飲み込めない頭でも、このまま寝ていてはいけないんじゃないかという気持ちにさせられる。またこのカプセルに閉じ込められたらたまったものじゃないと思いながら実は夢なんじゃないかという淡い期待が冷たい床の感覚を味わったところで現実だと理解した。してしまった。

 

「……ゆ、夢じゃないみたいだ……」

 

ともかく周りを見渡して、目についたものを片っ端から調べるという方針にする。まずは自分が寝ていたカプセルからだ。

 

(僕が寝ていた機械。見た感じは映画に出てきそうなカプセルで、今は機能を停止しているみたいだけど…どうして僕はこんなところで寝てたんだろう?)

 

直前の記憶がみんなと楽しく話している最中で…そう考え始めたところで頭がくらくらし始める。体が現実を理解していても精神が許容量を超えてしまっているかもしれない。できるだけ何も考えないようにしながら次に目についた機械類に目を向ける。

 

(大きなパイプで繋がれてるな…それで、その先にはあのカプセルと、こっちのほうには画面があって…コールドスリープ解凍完了?僕はコールドスリープされていたのか?どうして…)

 

理由を考えながらあたりを見渡したところで、机の上に置かれている手紙のようなものが目に入る。何かそこに手掛かりがあるかもしれないと手に取って読んでみる。隊長の指示でこの区画に重症患者をコールドスリープにしている作業中ではあるが、予想外に暇であるという内容で、その続きを読もうとしたところで唐突な終わりを迎えた。

 

(……あれ、この下のところ、急に異様な余白が生まれてる。もっと書くつもりだったのがなくなった?いや、それにしては妙な終わり方をしているし、いったいどういうことなんだ?)

 

結局謎が謎を呼ぶ事態になっている。これ以上はもう見て見ぬふりは厳しいかと思ったところで無線機が見えた。それもパソコンと連動しているらしい無線機。家にパソコンがあったなと思い出してそこから何かできないかと思いながら近づいていく。

 

「!ひとつだけオンラインになってる場所がある…!」

 

暗い部屋だからか、ほかの場所が赤い色でオフラインとされている中、それだけが背景を緑色で染められてオンラインと表示されている。この部屋の隅にある監視カメラが動いているにもかかわらず一切誰も来ないことを考えると正直返事なんて来ないんじゃないかとも思ったが、ともかくやってみないことには始まらないとマウスを操作してそのオンラインの文字をクリックし、無線が繋がったところでマイクに声をかけた。

 

「あの、誰かいませんか!?誰でもいいから返事だけでもしてくれ!」

 

しばらくの沈黙。マイクのノイズがほんの少しだけ聞こえているような状態だったけど、諦めかけていた時に声が聞こえてきたことで希望が見えてきた。

 

「…こちら、Dポイント。駅のプラットフォーム。まだだれか残っていたのか?ん、待て…この周波数、それに病棟区画の無線機となると…まさかカズヤなのか!?」

 

「あ、ああ…もしかしてその声、ユーマなのか!?」

 

無線機越しのせいでノイズもあって聞き取りづらいが、親友の声がわからないはずがない。だが、そのことがついに精神的にも現実を受け入れてしまったためにめまいがしてくる。動悸もあいまって視界が狭まってきたことを悟ったのか、マイク越しにユーマの励ますような声が聞こえてきた。

 

「カズヤ!まずは深呼吸をするんだ!今のお前は仮死状態に近い状態になるコールドスリープから出たところなんだ、急な覚醒で驚いた体は過剰な興奮で気を失ってしまうぞ!」

 

「はあっ、はあっ……!」

 

近くにある椅子にもたれかかり、呼吸を落ち着かせることにする。少なくとも僕の精神はまだ異常をきたしてはいなかったらしい。いや、もうすでにこのよくわからない状況に順応し始めているのか…なんてことを考えているうちに体が落ち着き始めたので、改めて無線のマイクを手に取ってユーマと呼んだ。

 

「どうだ?動けそうか?カズヤ」

 

「とりあえず落ち着きはしたよ…まだ本調子とはいかないけど。それで、これは一体どういう経緯でこうなったんだ?まるで何もわからないんだ」

 

「ああ…そうだよな。お前からすればあの瞬間からの記憶がないんだから当たり前か。だがそれを説明するのはそこの機材だけだと不安がある。今まで誰の姿も見てないだろうし、お前も不安だろ?」

 

そういい終えたところで、入口らしい方向から機械が作動し始めたような音が聞こえる。

 

「そこを出て少し進んだところに通信室がある。そこでなら俺の姿も見られるだろうし、音声のノイズも少ない。そこですべて話そう。まずはそっちの方に移動してくれ」

 

「わかった。とりあえず部屋から出ればいいんだな?そうするよ」

 

「頼んだぞ。くれぐれも無事でいてくれ」

 

そんな言葉を最後に通信が切れる。さっそく行こうと思いながら入口の方に目を向けたとき、そこに誰かの上着がかけられていることに気付いた。

 

「……さすがにこの格好じゃまずいよな。これを羽織らせてもらおう…よし、ちょっと股間がスースーするけど何も着ないよりはマシだよな」

 

その上着を羽織り、廊下に出る。…やはりというべきか、起きたときから暗いと思っていたのはこの施設の電源か何かが切れているらしい。周りが病院の廊下のような雰囲気になっているのもあって恐怖を覚えるが、とにかく前進だと己を奮い立たせて歩きはじめる。

 

「よし。そっちの姿がカメラ越しに見えるぞ。左の角を進んでそこをまっすぐだ」

 

「!?な、なんだカメラにマイクがあるのか……驚かせないでくれよ」

 

「悪いな、驚かせるような真似をして。だがとにかく進んでくれ、これに”奴ら”が反応しないとも限らない。聞こえてなければ別だが」

 

その後の案内に従い、薄暗い廊下を歩いていく。暗くとも非常用照明があるおかげで足元が見えないほどではないおかげで難なく支持の通りに動き、通信室らしい明かりが見えたことで少し駆け足になってその扉に近づく。そこに入ろうとしたところでどこかから機械式の扉が開くような音が聞こえてきて、それに興味をひかれた僕の足は止まることになった。

 

「……なんだ?」

 

「おい、カズヤ?どこに行くつもりだ?」

 

「何か音がしたんだ。大丈夫、ただ見るだけだ」

 

そういいつつ、その音がした先が見える位置に立って体を乗り出してそちらの方を見る。そこにいる”それ”の姿を見て思わず叫びだしそうになるのを我慢しなければならなかった。

 

大型犬と思えるほどの体に、黒い体毛と尻尾と耳の先の部分には灰色の毛が混じる。その姿だけならちょっと配色が特殊な犬ともいえたかもしれないけど、それには人間の顔があった。いや、顔と言っても人間と犬の顔が7対3くらいの配分で、異様に長い舌と鋭い犬歯、そして犬っぽい顔の造形で決してそんなかわいい存在じゃないとわかる。こちらに気付いてこそないらしいが、周りを見渡しているうちに僕と目があってしまったところで慌てて姿を隠してしまうような存在がそこにはいた。

 

「な、なんだあれ……!?犬!?いや、犬にしては体も大きいし、顔も人間っぽいし…」

 

「犬…?まさか『バーゲスト』か?悪魔がこんなところに出てくるとは…」

 

「バーゲスト?悪魔って…あいつがか?」

 

悪魔と言われれば首を縦に振りたくもなる姿だった。それに…あまりそっちの方に視線を動かしたくはなかったけど、女性の胸が8つもあったことは心を動かされた。ほんの一瞬だけ埋もれてもいいかなと思ってしまったくらいに。だが、それが危険であることはなんとなくでもわかるので口に出さないようにした。

 

「ああ、そうだ。だが詳しい話は通信室でだ。それと、できる限り勘付かれないように入ってくれ。特に危険はないが、用心するに越したことはないからな」

 

「わかった。そうするよ」

 

そういってできる限り足音を立てないようにしながら通信室に入る。今の会話を聞いてこちらにやってこないあたり犬ほどの聴力があるようには思えないが、それでも警戒しながらその部屋の中に入っていった。

 

部屋の中は通信室と呼ばれるくらいで、部屋の脇にはいくつもの大きなサーバーが並び、目の前にはあの部屋で見たようなマイクが備え付けられたテレビ局くらいでしか見たことがない大きな機材が並んでいる。だが明かりがついているのは奥の方にあるいくつも画面が並んでいるパネルだけで、そちらの方に行けということかと理解した僕はそちらの方に近づいてマイクのスイッチを押した。

 

「これでちゃんとした話ができるようになったよな?お前の姿はまだ見えないが、とにかく説明求む。さっきから情報がいくつも入って頭が混乱してるんだ。まず、俺たちの身に何があったんだ?さっきのユーマの言葉を聞く限り多分同じだったんだろうが、山にキャンプに向かっていたところで記憶が途切れているんだ」

 

「ああ…そうだ。俺たちはキャンプ地の途中の山道で事故に遭ったんだ。対向車がまっすぐ突っ込んでくるっていう事故にな。そこで俺たちは重傷を負い、お前は昏睡状態っていう最も重い症状になってしまっていた」

 

昏睡、という言葉に息を呑む。その事故の記憶がないのもそのためだろう。だがそれでも聞いておく必要があった。

 

「それで、俺は一体どれくらい眠っていたんだ?」

 

「5年。5年ほどお前は、ずっと」

 

「ご、5年も!?」

 

ショックではあったがまだ話を聞けないわけじゃない。続けてくれと言ってユーマは次はその間のことを話そうと言って続きを話してくれた。

 

「その事故から間もなく。俺が事故から立ち直って少し経ったところで、あの『悪魔』との戦争が始まったんだ。最初こそ人類側が優勢だったが徐々に戦局は悪化。その地区もつい最近悪魔たちに占拠された。その時に俺の部隊はお前をはじめとした意識のない重篤患者をその地下シェルターにある病棟区画に避難させ、長期間そのままになってしまうことを想定してコールドスリープに設定したはずなんだが…お前の場合は、おそらくは昏睡から目覚めようとするのをセンサーが確認して自動的に解凍してしまったんだろう」

 

「そのお前がそっちにいるってことは…完全に逃げ遅れた区域内に目覚めてしまった僕は、一人取り残されているってことか……」

 

「そういうことになっちまうな…とにかく、さっきバーゲストがその病棟区画に侵入してきた件もある。すぐに安全な場所に誘導する必要があるだろうな。カズヤ」

 

「な、なんだ?急にかしこまって」

 

そこまできて急に僕の名前を呼ぶ。いったいどんな言葉が来るのだろうかと身構えたが、斜め上の言葉が返ってきた。

 

「とりあえず、あいつと…バーゲストと『交尾』をするな」

 

「はあっ!?いや、お前何言ってるんだ!?ふざけてるのか!?」

 

「大真面目で言ってるさ。それにお前は何かと流されやすい性格してるからな。相手に害をなすつもりがないからってされるがままになるかもって親友の目線から言ってるんだ。それに見ただろ?あれは決して俺たちの常識で測れるような存在じゃないんだ」

 

ぐうの音も出ない言葉にただ押し黙るしかない。ただそれだけ注意してくるってことは相当なんだろうなと思って気を引き締めることにした。

 

「それと、どうにかこっちから施設のシステムを制御しようとしてるんだが、もう少し時間がかかる。一度無線を切るが、警戒は怠るなよ」

 

そういったきり、無線からの声が聞こえなくなる。警戒しろと言われても今僕の手元には何も武器がない。もしあれに見つかったとき、素手で対処できるかと言えば間違いなくできないと答える。何かこの部屋に武器がなかったかと周りを見渡していると、パネルの明かりに反射してか、何かが反射しているのが見えた。

 

(……いや、考える場合じゃないな。見てみよう)

 

備え付けの椅子の上に置かれているそれを見る。それが映画とかでよく見る形をしているのを見たとき、これしか手段はないのだろうかと思わずにいられなかった。

 

「拳銃……か。僕にこんなものが扱えるのだろうか」

 

まだ一発も撃っていないらしいピカピカの拳銃。脇には二つほど予備のマガジンが置かれていて、そこに入っている弾丸を見ただけだけでも本物だとわかる。試しに手に取ってみれば、昔持っていたBBガンみたいなプラスチック製のものとは比べ物にならないほどのズシリとした重さを感じる。それが決してオモチャじゃないことを確認しつつ上着のポケットにマガジンも一緒に突っ込むと、銃の下敷きで見えなかったらしい殴り書きされたメモ用紙に気付いた。

 

「『最後の手段に取っておこうと思ったが、俺にはこのショットガンがある。だからこれは見つけたお前にやるよ』か…ええ。あなたのおかげで命をつなぐことができそうです。ありがとう。

 

顔も知らない誰かだが、その人のおかげで命拾いしたなと考えながらそんな書き置きを残してくれた彼に対して祈りをささげる。

 

だが。その祈りは全く別のものに届いてしまったらしい。プシューという空気が抜けるような音と共にそれまで閉じられていた通信室の扉が開かれ、そこからぬるりと影が躍り出る。

 

「ウウウウゥゥ……」

 

「さっきのやつ…!名前は確か、バーゲストってやつか!」

 

そういってしまったことで僕の存在に気付いたのだろう。あっという間に距離を詰められてしまう。その様子は狩るべき存在を見つけたというよりは、ペットが飼い主を見つけたときのような嬉しさがにじみ出ているような反応だった。警戒を感じさせないそんな仕草にとっさに向けた拳銃の引き金にかかった指の力が抜けてしまう。

 

「ワォン♡」

 

「…いや、こいつは僕を襲ってくるんだ!決して犬なんかじゃない、悪魔なんだ…!」

 

そう己を奮い立たせ、今度こそしっかりと拳銃を目の前の悪魔に合わせる。それが、僕の悪魔との戦いの始まりを知らせる合図だった。

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