生暖かい目でお読み下さい。
1話
「次こそは、つ、潰してやぁるからぬぅああ!」
なんてほざきながらも、顔を真っ赤どころか若干紫っぽくさせている上に肩を借りながらでなければ立つことすら危ういその男の姿は、なんとも滑稽である。肩を貸している友人らしい男の「黙れ近所迷惑だし息くせぇ!」という発言など知らんと言わんばかりに喚き散らすその相手は、これまた顔を真っ赤にしてその醜態を指を指して笑っていた。
「やーい負け犬めー!!」
「んだとオラー!!!」
「バッカおめえ挑発すんな!」
いやー久し振りに馬鹿みたいに飲んだわ!まさか予算超えてまで飲み比べすることになるなんて。
今日は、日付変わってるけど今日は中学からの友人たる二人、つまり肩を貸してた方と借りてた方と俺の三人で久し振りに酒飲もうぜ!って事で焼鳥屋行ってからBARで馬鹿な話や己の近状を肴にちびちびやる予定だった。
所がどんな話の流れか飲み比べすることになって、明日午後からバイトだからって一人が観戦にまわって、じゃあサシだこらー上等だこらーってなって、俺の勝ち。会計の際に見たマスターのホクホク顔は当分忘れない。吐きそう。
お互い見事にへべれけ状態になってしまったけど、無事な友人に負け犬を任せて一人歩いて帰ることにした。家はそんなに遠くないし、何より、
「……これからどうすっか」
一人になりたかった。
今回の飲み会は集まりたかった以外にも理由があった。
この日、勤めていた会社を退職したのだ。
リストラされたとか、クビになったりした訳ではない。組合の新年会で今年もがんばりませう!なんて言った一週間後、会社が解散する事を宣言したのだ。入社して三年、何でもその前から赤字経営だったらしく、少しずつ改善され始めたものの挽回は不可能という結論がでたのだそうだ。
それから約半年、前半に注文をとれるだけとって、後半はその消化を行うだけの日々となった。退職金の支払いもあったし、再就職支援なんかにも金を出してくれたりと、このご時世からしたらかなり良心的な措置がとられていたと思う。けどベテラン先輩曰く、「事実上のクビ」らしい。
そんなこんなでお勤めが終わったので、憂さ晴らしを兼ねて気の知れた友達と飲もうと相成ったのだ。
二人は下手に気遣うよりも酒の当にした方が良いと理解してくれていたから、飲んでる間は楽しかった。けど暫くしてアルコールが悪い方に利き始めたらしく、吐き気や言い様のない不快感に苛まれ始めた。それに合わせてマイナス思考ばかり浮かんでイライラしてくる。クソが。
道中に自販機でリ○インとブラックコーヒー買ってまずリ○インを飲む。少しはマシになったかな。コーヒーはリバースしたら飲もう。で、高速道路の上の鉄橋の中頃で休憩。高速道路を見下ろしていると、また暗い感情が沸き上がってきた。それもこのまま飛び降りたくなる衝動付きで。もうめんどくさくなってきた。
もうアイキャンフライしようかななんて考えていたら、隣に人の気配がした。こんな時間、それもあまり人の通りが多くない場所でどこのどいつだと見てみたら、薄い水色のワンピースを着た、これまた薄い水色の長髪の少女だった。
どうも泣いてるらしく、時折しゃくりあげている。ああ、彼氏又は彼女にでも振られたかなとか考えながら暫く見ていると、思い詰めた顔をして手摺に登りだしてーー
「ってちょっと待ったあああ!!!!」
「離して下さい!もう嫌なんです!死ぬんです!!」
「やっぱ死ぬ気かよこいつ!?冗談じゃない!流石に目の前で身投げされてたまるかよ!」
なんとか手摺から降ろして、しゃがませて落ち着かせようと試みる。
ジュースでも買ってやれれば良いんだろうが、自販機に向かってまた飛び降りようとされても困るので隣に座って落ち着くのを待つ。無理に宥めても神経を逆撫でる可能性が高いしな。事情も知らない以前に会ったばかりの他人なら尚更だ。
頃合いを見て缶コーヒーを渡してみる。少しこっちを見て、おずおずと言った感じに受け取ってくれた。一口飲んで渋い顔をしたが、クレームは受け付けないからな。
「……何も、聞かないんですね」
それでもちびちび飲む間、互いに沈黙が続いたが、とうとう少女が口をひらいた。
「邪魔しておいて何だけど、別段助けなきゃとか思った訳じゃなかったからね。」
俺も飛ぼうか考えてたクチだし。
「まあでも、今は話位は聴いてもいいかなとは思ってる。君が君が話したいならだけど」
「話、ですか……」
「そ。生憎現在進行形でアルコールに溺れかけてるから、大した助言も出来やしないしけども。それでも話を聴く位は出来るとは思ってる。あ、相槌も打てるな」
「……」
若干おどけてみるけども、あまりに重い話やら失恋なら追加のアルコールが欲しい所。こういう場面は無理に理解しようとせずに話を聞く事が大事だって以前に上司がいってた。
そんな俺の態度に、それでも少女はポツポツと話始めた。
まあ、なんだ。一通り聞いた感じ、はっきり言えば素面であれば重度の妄想癖かなんかと疑いたくなるような内容を少女ーーーリンエは語った。
何でも彼女、自分は転生を司る神の一人だと言うのだ。いや一柱か?どうでもいいか。要は小説等に人気の「死んだからどっか別の世界へご案内」な神様なんだと。その神様も複数いるそうだ。
リンエはその中でも比較的新参で、それ故そこまで多くの力は無いが真面目で、その内に優れた存在の転生にも関わるだろうと言われるほどに優秀で上司にも一目置かれていたそうだ。
しかしそんな彼女に不運が襲い掛かった。
自身の名付け親であり上司であった神が調子を崩し、暫く療養することになり、その間代わりを勤める事になったのだ。
それだけなら問題は無かった。上司の補佐役がサポートにまわり、仕事を熟知してる先輩神様達も手伝ってくれて
拙いながら大きな問題も無くこなせていた。
だがリンエは新参。いくら有能であっても、否有能だからこそ、周りは彼女が代役に抜擢されたのが許せなかった。それが大事に発展する 。
リンエが休んでいる間に、彼女の許可を捏造して、大量の魂を一つの世界に転生させてしまったのだ。
更にその世界は神様感覚で比較的新しく(それでも五桁を超える年月が過ぎてるそうだ)かつ試験的に創られたそうで、便乗するかのようにその世界を管轄していた神々が幾つかのアニメやゲームなどの要素を半ば無理矢理ねじ込んでしまい、その世界に大混乱を招く事になったのだ。
流石に不味いと感じた神々は事態の収集を図ったが時すでにおすし、いっそ滅ぼした方が早いと言われる程に手が付けられなくなってしまった。
そうなるとじゃあ誰の責任なのかと言う話になり、リンエに矛先が向けられたのだ。幸いにして、周囲の証言や復帰した上司の働きもあってお咎め無し。実行犯たる神々は厳罰に処される事になった。
これだとリンエが思い詰める理由にならないと思ったのだが、事の一因が自身であると感じており、実行犯たる神々もそれまではとても親切であった事もあって、罪悪感を抱えてしまったそうだ。言ってはなんだが真面目過ぎる気もするし、お人好しにも感じる。
「転生者の方々にはそれぞれ特典が与えられていますが、既に何人もの犠牲者が出ています。手を出そうにも、担当以外の転生者に干渉出来ず、世界そのものとなると最早畑違いで……」
これだよ。既に自分の手から離れた筈の案件に、一因が自分だからといって必要以上に自分を追い込む。楽園の閻魔でなくても真面目過ぎると言うだろう。半日説教コースだ。見てられない。
未だアルコールが頭の中を支配している俺でも、なんだかめんどくさくなり始めている。そして僅かに存在を許された理性がこれ以上話を聞くなと警鐘をガンガン鳴らす。あるいはただの頭痛だろうか。
とにかくこれ以上は不味い。このままではとんでもないことをやらかしかねない。主に俺が。
ーーーでも現実は無情だ。
「せめて、私にある程度でも好きに扱える部下がいたら現地へ向かせる位は出来るのに」
色々突っ込みたくなる話。しかし確かな興味を持ち始めていた俺は、リンエの一言にやはりアルコールによってまともな状態ではなかったとはいえ、己の今後を大きく変える言葉を口にした。してしまった。
「それなら、俺を使ってみないか?」
主人公の名前が無い?
転生したら名前変えるんだから問題無し。