クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
フェリー船での船旅道中、アキバハラ公国極東港にて。
「マナ騎士団が復活した!」と叫びながら、新聞をばらまく陽気男が、この船に乗り込んできたのだ。
俺と和奈、そしてリリィさんは、パッと顔を見合わせた。
「なにごと?」と和奈がぼやく。俺も状況に混乱していた。
「そらそら、お一ついかが? ひとつ50ガロン、もしくは700円だよっ!」
そうこうしているうちに、男はまっすぐと俺達の方へと歩いてきた。
「「買いますっ!」」
リリィさんと俺が、同時に手を上げて飛び出した。
「えぇっと……」
「良いよ。俺が買ってくる」
リリィさんを制止して、俺はフィリアさんから渡された財布を取り出した。
新聞の見出しを目にしたとき、俺は安堵していた。
すでに良く知っている内容だったからだ。
【号外! 伝説の再来?マナ騎士団が獣族独立自治区を襲撃!】
1000年前の先史時代に、マナ王国にて名を轟かせた伝説のマナ騎士団が、復活か?
昨日9/24、午前から午後にかけて、マナ騎士団の正装とみられる衣装を身に纏った約10人が、ガロン王国、獣族独立自治区の東部の集落を襲撃した。
立入禁止区域ゆえ詳細は不明だが、死亡数は最低でも1000匹と推定され、これは独立自治区全人口の約6分の1にあたる。
マナ騎士団の姿をした集団は現在、正体および所属不明であり。
忌まわしき獣族への制裁を称賛する民衆の声も多い一方で、マナ騎士団の今後の動向、及び獣族の反逆の可能性を不安視する声もみられた。
ガロン王国政府および軍は「今回の独立自治区襲撃には、我々政府は全くの無関係である」と声明を発表しており。「国王様は依然として、獣族との共存を心より望んている」と強く訴え……
「……なに、この記事、ふざけてるの……?」
浅尾和奈が、俺の耳元で小さく毒を吐いた。
「忌まわしき獣族とか、匹とか……人間扱いしてないじゃん! 獣族との共存だって、どの口が……偏向報道だよっ!」
歯を噛みしめる音がする。
「まぁまぁ……和奈。深呼吸して」
俺は彼女の背中を叩いてなだめた。
新聞の内容は、マナ騎士団の姿をした集団(つまり竹田慎吾や和奈の友達等、俺のクラスメイトたち)が、獣族独立自治区で、殺戮を繰り広げたという内容だった。
周囲を見れば、多くの乗船客が、新聞を広げながら活発な議論を交していた。
「しかし……ややこしい事になりましたね。これでは本物と偽物の噂が混ざってしまう……」
リリィさんが、難しい顔で呟いた。
確かに。
「これだけ騒ぎになれば、マナ騎士団について、あることないこと噂が広まるだろうからな……
本物の尻尾を掴むのが、さらに難しくなったか……」
「まぁ本物の方々にとっても、こんな噂が流れるのは不本意でしょうから……
痛み分けということで、良いほうに捉えましょうかね。
これをキッカケに、なにか大きな動きを見せてくれれば良いのですが……」
悩ましげに話しながら、新聞を読み込むリリィさん。
「なに難しい顔してんの。私たちがこれからやる事は、変わらないでしょ?」
和奈が、俺の頬っぺたをブスリとつついた。
「……そうだな。まずは仲間を助けなくっちゃ」
俺たちに出来ることは限られている。
ガロン王国王都で人質にされたクラスメイト四人を助け出すこと。
また、クラスメイトに首輪をつけた奴らをコテンパンにして、みんなを首輪の支配から解放することだ。
「うん。そうなれば必ず、みんなが獣族たちを守ってくれる」
和奈は、周りに聞こえない小声で耳打ちした。
その吐息で耳が熱くなり、ドキリ、と心臓が飛び跳ねた。
「…………」
リリィさんが、不思議そうに俺を眺めており、俺は慌てて表情を引き締めた。
――――――
ぶぉぉぉ、と汽笛が鳴り、船が再び出発する。
次に着く港が、終着駅。
王都の西の地区、ナグサバ地区である。
ガロン王国は大きく分けて、北部と南部に分かれている。
北部には王都と三地区、南部には三地区。
総じて"王都と七地区"で、ガロン王国が成り立っている。
国土の西側には、縦に大河が横断し、それが今俺たちが北に向かっている水路である。河の名はヘスティア川。太古に活躍した女神様の名前が由来だそうだ。
大河を挟んで西には小さな円でアキバハラ公国が位置し、さらに西には荒野。南西にはマナ王国の跡地。北西の砂漠をずっと行くと、ヴァルファルキア大洞窟……俺たちクラスがラスボス【スイーツ阿修羅】を倒した……食の大ダンジョンへの入り口がある。
さて、ガロン王国に話を戻すが、
中部にはフェロー地区及び、獣族独立自治区がある。
さらに北には東から砂漠が入り込んできており、北部と南部を分断する境界となっている。
砂漠越えは危険も多く、北部と南部の間の移動は、今の俺たちのように、船を使うのが主流になっている。
南部について。
フェロー地区のすぐ南には、ギラギース地区。さらに南西には海に面したトルキア地区。また南東にはマグダーラ山脈(薬の大ダンジョン)がそびえ立つ。
北部について。
ヘスティア川を西に接するのは、流通と港の街、ナグサバ地区。
ナグサバ地区の東には、俺たちの目的地、ガロン王国王都が位置する。
王都の東には、エルフの大国エマールデンの跡地エマル地区。
王都の北には、ミルモーア地区があり。
さらに北には、数ヶ月前に出現した新大ダンジョン……天空の大ダンジョンが、逆三角形で浮かんでいるという。
国王が統治する王都と、王国軍が直轄するフェロー地区。
それらを除いた五地区(エマル、ナグサバ、ミルモーア、ギラギース、トルキア)は、それぞれ有力な貴族が統治している。
ガロン王国と言いつつ、地方自治の側面も強く。日本史で言うと幕府と地方大名の関係に近く思えるが……
――――――――
「ねぇ……ここに居たら、気分が悪くなりそうだよ…… なかに戻らない?」
「同感だな」
俺たちの周囲では、獣族を批判する声が、次から次へと上がっていた。
――――――――――
「ついに、やったのね! 獣族独立自治区が、ずっと目障りだった」
「国王が早く決断なさらないから、マナ騎士団の英雄達が、痺れを切らして制裁を下したのよ!」
「マナ騎士団ねぇ……千年前の亡霊が、いまさら獣族ごとに構いに来たって? ハハッ! バカ言ってんじゃねぇよ」
「お前らバカか? 偽物に決まってんだろ」
「やはりマナ王国こそが、この世界の真に統べるべき国だった……
公国に滅ぼされようが、マナ国王と騎士団の意思は、今なお健在しているのだよ……」
「どうせなら、皆殺しにすれば良かったのに……あんな畜生ども」
――――――――――
興味深い話題もあるが、たしかに聞いてると気分が悪くなる。
和奈は拳を強く握りながら、悔しそうに唇を噛んでいた。
「……人が少ない場所に移りましょうか」
リリィさんの低い声に、俺と和奈もうなづいて、
甲板から下へ続く階段、軽い金属製の足場を、トントンと降りて行った。
「あ?」
階段の下でバッタリと、俺たちは親子の二人組に出会った。
「こんにちは、たしかマナトくん、でしたよね……」
男の子に、俺は再会の挨拶をした。
マナトくん……さきほど船から落ちて溺れていた男の子。俺たちが一緒に助けた男の子である。
獣族のマナトと似た名前の、中学生くらいの小柄の子。
さっきから、頭の中に引っかかってたんだ。この年齢と雰囲気、見た目……ひょっとすると、面識はないけれど、この子は……
「はい。先ほどは息子を助けてくださり、ありがとうございました」
父親だという屈強な男が、また深々と頭を下げた。マナトくんは気まずそうに、よそよそしく会釈していた。
「もし宜しければ、私に何かお礼をさせてください……! さきほどはシャワー室でバタバタと別れてしまいましたから…… そうだ! せめて昼食でもご一緒にどうですか? 食べたいものは全て驕りましょう!」
筋肉ムキムキ父は、猛烈な勢いで捲し立てた。
しかし、マナトくんのほうを見ると、あまり乗り気ではないようで。
俺はどうしようかと目を泳がせた。
「お気持ちだけでも充分ですよ。そのお金はぜひ、お子さんの欲しいものとか、好きな服を買ってあげるのに使ってください」
和奈が、丁寧な声で返事をした。
その言葉に、俺はとても感銘をうけていた。
「それで良いよね?」と和奈が俺に目を向けて確認する、「うん」と答えた声が少し上擦った。
「……あなたはなんて、優しい方なんだ……! そうですね。息子をもっと労って、贅沢させてあげたいと思います……
マナト……何か食べたいものはあるか?」
「うん……、アイスクリームとか、買いたいな……」
「そーかそうか! よし! いくらでも買ってやろう!」
父親は会釈をして、マナトくんを担いで行ってしまった。
「……めっちゃ良いこと言うね。和奈」
俺は、思わず和奈を称賛していた。
「そう? そうかな……?
なんか私さ……ああいうお父さん苦手かも……。怒ったらめっちゃ怖そうだし……」
和奈が小声で呟いた。
「分かる。体格のせいか迫力があるよな……マナトくんも萎縮してるように見えたし」
「マナトくんねぇ……
あのさ、あの子ってやっぱり……もしかして……」
和奈も同じ事を考えていたようだった。
「蘭馬くん……かもな」
「うん」
"蘭馬"くんとは、ギラギース地区を治める貴族「南都家」の跡取り、"南都蘭馬"である。
フィリアと誠也さんが、蘭馬くんが森で迷子になっている所を助けたり。
捕まっていた獣族奴隷(マナトやニーナ、ヨウコとその両親)を、屋敷から逃す手引きをした男の子だった。
蘭馬くん……
彼がマナトの名前を騙って、いまこの船に乗っているとすれば……
獣族のマナトやフィリアたちが語っていた蘭馬くんの情報と、似ている部分は少なくない。
「……もしかして、昔からお知り合いの方ですか?」
リリィさんがキョトンとした顔で聞いてきたので。
「いや……知り合いってほどじゃないよ。……もしかしたらと思っただけだ」
「先ほどの父親……凄く強そうでしたね。……筋肉量はもちろんですが、手のマメが硬そうでした。普段から剣を振っている証拠です」
「そうだったか? よく見てるな」
リリィさんの洞察力には、毎度驚かされてばかりだ。俺が感心していると。
「ねーねぇ、なんか忘れてない?」
和奈に、わざとらしく肩をつつかれた。
嫌な予感がする。
「じょ・そ・う 女の子になって三人でデート! まさか忘れたとは言わせないよ」
「く、くそ、覚えてやがったか」
「ささ、リリィちゃん。私の服を魔法で乾かしてくれない? 行宗ちゃんに着せてあげるの」
「ふふっ、任されました」
謎にノリノリのリリィさんに、結託されてしまい。
俺はあれよあれよという間に、乾いた女性服一色を手渡されて、
トイレの前までやってきていた。
「向こうの方で待ってるから、服だけ着替えたら出てきてね。可愛いメイクをしてあげる」
ペロリと舌を出す和奈、俺は顔が熱くて湯気が出そうだった。
あぁもうどうにでもなれ。
冷静になったら負けである。
リリィさんと和奈が望むのならば、俺は今だけ男を捨てるぞ。
キャピーん!
かわかわでキュートなあたしッ! 可愛い女の子に、なっちゃうわよっ!
あたし、らんらんとスキップしながら、
やだっ! ドキドキするっ! 男の人に見つかったらどうしようっ!
和奈ちゃんから貰ったのは……じゃじゃーん! ベージュ色の控えめフリルと藍色厚手のスカート! そして黒のニーソックス!
ラフで動きやすさ重視だけど、素材にほのか高級感があって、ギャップ萌え萌え。
あたしがもし男の子だったら一目惚れしちゃいそうだわっ!
最後にリリィちゃんから貰った、純銀色でロング髪のカツラがあるわね。まるで妹のユリィちゃんの長髪にそっくりね。なんでこんなもの持ってるのかしら、リリィちゃんって不思議ちゃんねえ。
……さすがに下着はないわね。良かったわ。
まずは靴を脱いで、靴下とズボンを脱いで……黒のソックスにつま先を通して……
やだっ、なにこれ、めっちゃドキドキするっ!
みちみちと音を立てて、肌に生地が密着していく感覚……中学時代の野球部のソックスを思い出すな……
あ、やべ……んんっ……そうだよ。少しだけ野球やってたんだよねー うん。デッドボールが怖くてすぐ辞めちゃったー
さーて、ニーソは履けたわ。次はスカートね。ここのボタンを外して……足を通す……
うぅん……ちょっとキツイかも……やだぁあたし、和奈ちゃんよりも太ってるってことぉ?
……なんとか、大丈夫みたい……次はこのフリルね! わわっ!
ベージュのフリルを広げたら、白い布がハラリと抜けて落っこちた。
危うく便器にドボンするところだったけれど、左の脇でフリルを挟みながら、なんとか左手でキャッチに成功した。ふふん。すごいでしょ。これが野球部で培ったキャッチング能力ってコトよっ!
そう、あたしね。右腕がないの。少し前に失くしちゃって、おかげで片手で着替えるのって凄く大変なんだよ。でも、右腕に袖を通さなくていいから、そこは少しだけ楽になったかも?
この白い布は、たぶん和奈ちゃんのお手拭きタオルね!
左脇を締めてフリルが落ちないようにしつつ、なんとかスカートのポケットへ、和奈ちゃんのお手拭きタオルをしまい込んだ。
さてと、最後にこのフリルね!
和奈ちゃんがこんな服を着てるところ、あたし見たことないけれど……
そういえばこの服、和奈ちゃんが船の出発前に、ギラギースの港で買ってた服かしら?
まぁいいわ。自分の上着を脱いでっと……左手をうまく使って……首にフリルを通して身につけて、よーし。
カツラをこれ、どうやって被るのかしら? んんっ? 左右に紐があるわ? これを耳にかければいいの?
そうして、あたしが可愛く着替え終わった。直後のことだったわ。
トイレ、足音が入ってきたの。カツン、カツンって、二人くらい?
あたし、びっくりして心臓を吐き出しそうだったのよ!
どうしましょう。今は出られないわね……男子トイレでこんな姿を見られたら。変態ビッチ女だって勘違いされるかもしれないもの……
どうか小さいほうでありますように、って祈ったけれど、足音はあたしの個室の扉の前へとやってきて。眼の前でコンコンとノックされた。
……最悪だわ。このトイレには個室が2つしかなくて、もう一つは故障中の張り紙がしてあったから。
実質、個室はこの一つしかない。
どうやら、ジ・エンドのようね……
あたしは、頭が真っ白になりながら、男の人みたいな、野太い震え声で言った。
「いま、でますね……」
覚悟を決めたわ。変態と罵られる覚悟を。
逃げ場はどこにもないのだから。
ガチャリ、と扉を遠慮がちに開ける。俯きながら、目を合わせないように……
「……すみません……」
恥ずかしさのあまりに、わたし視界は涙で歪み、身体じゅうがくらくらとしておぼつかなかった。
自分の体温が分からなくなりながら、あたしは二人の男の人の間を、逃げるように抜け出そうとした。
「ーーーー………ーーー……!」
その男の人が発した言葉に、あたしは耳を疑った。
「うぐぅぅぅぅっ!」
次の瞬間、あたしの身体に、強い圧力が加えられた。
顔に布が押さえつけられて前が見えない。
二人ががりで太い腕に締め付けられて、身動きが取れない……
「なっ、なんで……っ」
暗い……怖い……頭のなかがクラクラする。
もしかして、この人たちは、悪い人……?
二人の男に羽交い締めにされて、顔に押さえつけられた布から、強烈な匂いを嗅がされて……
意識が急速に沈んでいく。
助けて……
怖いっ……なんでこの船のなかに……獣族がっ……?