クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

101 / 103
九十六発目「”女の子”に忍びよる影」

 

 フェリー船での船旅道中、アキバハラ公国極東港にて。

 「マナ騎士団が復活した!」と叫びながら、新聞をばらまく陽気男が、この船に乗り込んできたのだ。

 俺と和奈、そしてリリィさんは、パッと顔を見合わせた。

 「なにごと?」と和奈がぼやく。俺も状況に混乱していた。

 

 「そらそら、お一ついかが? ひとつ50ガロン、もしくは700円だよっ!」

 

 そうこうしているうちに、男はまっすぐと俺達の方へと歩いてきた。

 

「「買いますっ!」」

 

 リリィさんと俺が、同時に手を上げて飛び出した。

 

「えぇっと……」

「良いよ。俺が買ってくる」

 

 リリィさんを制止して、俺はフィリアさんから渡された財布を取り出した。

 

 新聞の見出しを目にしたとき、俺は安堵していた。

 すでに良く知っている内容だったからだ。

 

【号外! 伝説の再来?マナ騎士団が獣族独立自治区を襲撃!】

 

 1000年前の先史時代に、マナ王国にて名を轟かせた伝説のマナ騎士団が、復活か?

 昨日9/24、午前から午後にかけて、マナ騎士団の正装とみられる衣装を身に纏った約10人が、ガロン王国、獣族独立自治区の東部の集落を襲撃した。

 立入禁止区域ゆえ詳細は不明だが、死亡数は最低でも1000匹と推定され、これは独立自治区全人口の約6分の1にあたる。

 マナ騎士団の姿をした集団は現在、正体および所属不明であり。

 忌まわしき獣族への制裁を称賛する民衆の声も多い一方で、マナ騎士団の今後の動向、及び獣族の反逆の可能性を不安視する声もみられた。

 ガロン王国政府および軍は「今回の独立自治区襲撃には、我々政府は全くの無関係である」と声明を発表しており。「国王様は依然として、獣族との共存を心より望んている」と強く訴え……

  

「……なに、この記事、ふざけてるの……?」

 

 浅尾和奈が、俺の耳元で小さく毒を吐いた。

 

「忌まわしき獣族とか、匹とか……人間扱いしてないじゃん! 獣族との共存だって、どの口が……偏向報道だよっ!」

 

 歯を噛みしめる音がする。

 

「まぁまぁ……和奈。深呼吸して」

 

 俺は彼女の背中を叩いてなだめた。

 

 新聞の内容は、マナ騎士団の姿をした集団(つまり竹田慎吾や和奈の友達等、俺のクラスメイトたち)が、獣族独立自治区で、殺戮を繰り広げたという内容だった。

 

 周囲を見れば、多くの乗船客が、新聞を広げながら活発な議論を交していた。

 

「しかし……ややこしい事になりましたね。これでは本物と偽物の噂が混ざってしまう……」

 

 リリィさんが、難しい顔で呟いた。

 確かに。

 

「これだけ騒ぎになれば、マナ騎士団について、あることないこと噂が広まるだろうからな……

 本物の尻尾を掴むのが、さらに難しくなったか……」

 

「まぁ本物の方々にとっても、こんな噂が流れるのは不本意でしょうから……

 痛み分けということで、良いほうに捉えましょうかね。

 これをキッカケに、なにか大きな動きを見せてくれれば良いのですが……」

 

 悩ましげに話しながら、新聞を読み込むリリィさん。

 

「なに難しい顔してんの。私たちがこれからやる事は、変わらないでしょ?」

 

 和奈が、俺の頬っぺたをブスリとつついた。

 

「……そうだな。まずは仲間を助けなくっちゃ」

 

 俺たちに出来ることは限られている。

 ガロン王国王都で人質にされたクラスメイト四人を助け出すこと。

 また、クラスメイトに首輪をつけた奴らをコテンパンにして、みんなを首輪の支配から解放することだ。

 

「うん。そうなれば必ず、みんなが獣族たちを守ってくれる」

 

 和奈は、周りに聞こえない小声で耳打ちした。

 その吐息で耳が熱くなり、ドキリ、と心臓が飛び跳ねた。

 

「…………」

 

 リリィさんが、不思議そうに俺を眺めており、俺は慌てて表情を引き締めた。

 

 ――――――

 

 ぶぉぉぉ、と汽笛が鳴り、船が再び出発する。

 次に着く港が、終着駅。

 王都の西の地区、ナグサバ地区である。

 

 ガロン王国は大きく分けて、北部と南部に分かれている。

 北部には王都と三地区、南部には三地区。

 総じて"王都と七地区"で、ガロン王国が成り立っている。

 

 国土の西側には、縦に大河が横断し、それが今俺たちが北に向かっている水路である。河の名はヘスティア川。太古に活躍した女神様の名前が由来だそうだ。

 大河を挟んで西には小さな円でアキバハラ公国が位置し、さらに西には荒野。南西にはマナ王国の跡地。北西の砂漠をずっと行くと、ヴァルファルキア大洞窟……俺たちクラスがラスボス【スイーツ阿修羅】を倒した……食の大ダンジョンへの入り口がある。

 

 さて、ガロン王国に話を戻すが、

 中部にはフェロー地区及び、獣族独立自治区がある。

 さらに北には東から砂漠が入り込んできており、北部と南部を分断する境界となっている。

 砂漠越えは危険も多く、北部と南部の間の移動は、今の俺たちのように、船を使うのが主流になっている。

 

 南部について。

 フェロー地区のすぐ南には、ギラギース地区。さらに南西には海に面したトルキア地区。また南東にはマグダーラ山脈(薬の大ダンジョン)がそびえ立つ。

 

 北部について。

 ヘスティア川を西に接するのは、流通と港の街、ナグサバ地区。

 ナグサバ地区の東には、俺たちの目的地、ガロン王国王都が位置する。

 王都の東には、エルフの大国エマールデンの跡地エマル地区。

 王都の北には、ミルモーア地区があり。

 さらに北には、数ヶ月前に出現した新大ダンジョン……天空の大ダンジョンが、逆三角形で浮かんでいるという。

 

 国王が統治する王都と、王国軍が直轄するフェロー地区。

 それらを除いた五地区(エマル、ナグサバ、ミルモーア、ギラギース、トルキア)は、それぞれ有力な貴族が統治している。

 ガロン王国と言いつつ、地方自治の側面も強く。日本史で言うと幕府と地方大名の関係に近く思えるが……

 

 ――――――――

 

「ねぇ……ここに居たら、気分が悪くなりそうだよ…… なかに戻らない?」

 

 浅尾和奈(あさおかずな)が顔を顰めながら言った。

 

「同感だな」

 

 俺たちの周囲では、獣族を批判する声が、次から次へと上がっていた。

 

 ――――――――――

 

「ついに、やったのね! 獣族独立自治区が、ずっと目障りだった」

 

「国王が早く決断なさらないから、マナ騎士団の英雄達が、痺れを切らして制裁を下したのよ!」

 

「マナ騎士団ねぇ……千年前の亡霊が、いまさら獣族ごとに構いに来たって? ハハッ! バカ言ってんじゃねぇよ」

 

「お前らバカか? 偽物に決まってんだろ」

 

「やはりマナ王国こそが、この世界の真に統べるべき国だった……

 公国に滅ぼされようが、マナ国王と騎士団の意思は、今なお健在しているのだよ……」

 

「どうせなら、皆殺しにすれば良かったのに……あんな畜生ども」

 

 ――――――――――

 

 興味深い話題もあるが、たしかに聞いてると気分が悪くなる。

 和奈は拳を強く握りながら、悔しそうに唇を噛んでいた。

 

「……人が少ない場所に移りましょうか」

 

 リリィさんの低い声に、俺と和奈もうなづいて、

 甲板から下へ続く階段、軽い金属製の足場を、トントンと降りて行った。

 

「あ?」

 

 階段の下でバッタリと、俺たちは親子の二人組に出会った。

 

「こんにちは、たしかマナトくん、でしたよね……」

 

 男の子に、俺は再会の挨拶をした。

 マナトくん……さきほど船から落ちて溺れていた男の子。俺たちが一緒に助けた男の子である。

 獣族のマナトと似た名前の、中学生くらいの小柄の子。

 さっきから、頭の中に引っかかってたんだ。この年齢と雰囲気、見た目……ひょっとすると、面識はないけれど、この子は……

 

「はい。先ほどは息子を助けてくださり、ありがとうございました」

 

 父親だという屈強な男が、また深々と頭を下げた。マナトくんは気まずそうに、よそよそしく会釈していた。

 

「もし宜しければ、私に何かお礼をさせてください……! さきほどはシャワー室でバタバタと別れてしまいましたから…… そうだ! せめて昼食でもご一緒にどうですか? 食べたいものは全て驕りましょう!」

 

 筋肉ムキムキ父は、猛烈な勢いで捲し立てた。

 しかし、マナトくんのほうを見ると、あまり乗り気ではないようで。

 俺はどうしようかと目を泳がせた。

 

「お気持ちだけでも充分ですよ。そのお金はぜひ、お子さんの欲しいものとか、好きな服を買ってあげるのに使ってください」

 

 和奈が、丁寧な声で返事をした。

 その言葉に、俺はとても感銘をうけていた。

「それで良いよね?」と和奈が俺に目を向けて確認する、「うん」と答えた声が少し上擦った。

 

「……あなたはなんて、優しい方なんだ……! そうですね。息子をもっと労って、贅沢させてあげたいと思います……

 マナト……何か食べたいものはあるか?」

 

「うん……、アイスクリームとか、買いたいな……」

 

「そーかそうか! よし! いくらでも買ってやろう!」

 

 父親は会釈をして、マナトくんを担いで行ってしまった。

 

「……めっちゃ良いこと言うね。和奈」

 

 俺は、思わず和奈を称賛していた。

 

「そう? そうかな……?

 なんか私さ……ああいうお父さん苦手かも……。怒ったらめっちゃ怖そうだし……」

 

 和奈が小声で呟いた。

 

「分かる。体格のせいか迫力があるよな……マナトくんも萎縮してるように見えたし」

 

「マナトくんねぇ……

 あのさ、あの子ってやっぱり……もしかして……」

 

 和奈も同じ事を考えていたようだった。

 

「蘭馬くん……かもな」

「うん」

 

 "蘭馬"くんとは、ギラギース地区を治める貴族「南都家」の跡取り、"南都蘭馬"である。

 フィリアと誠也さんが、蘭馬くんが森で迷子になっている所を助けたり。

 捕まっていた獣族奴隷(マナトやニーナ、ヨウコとその両親)を、屋敷から逃す手引きをした男の子だった。

 蘭馬くん……

 彼がマナトの名前を騙って、いまこの船に乗っているとすれば……

 獣族のマナトやフィリアたちが語っていた蘭馬くんの情報と、似ている部分は少なくない。

 

「……もしかして、昔からお知り合いの方ですか?」

 

 リリィさんがキョトンとした顔で聞いてきたので。

 

「いや……知り合いってほどじゃないよ。……もしかしたらと思っただけだ」

 

「先ほどの父親……凄く強そうでしたね。……筋肉量はもちろんですが、手のマメが硬そうでした。普段から剣を振っている証拠です」

 

「そうだったか? よく見てるな」

 

 リリィさんの洞察力には、毎度驚かされてばかりだ。俺が感心していると。

 

「ねーねぇ、なんか忘れてない?」

 

 和奈に、わざとらしく肩をつつかれた。

 嫌な予感がする。

 

「じょ・そ・う  女の子になって三人でデート! まさか忘れたとは言わせないよ」

 

「く、くそ、覚えてやがったか」

 

「ささ、リリィちゃん。私の服を魔法で乾かしてくれない? 行宗ちゃんに着せてあげるの」

 

「ふふっ、任されました」

 

 謎にノリノリのリリィさんに、結託されてしまい。

 俺はあれよあれよという間に、乾いた女性服一色を手渡されて、

 トイレの前までやってきていた。

 

「向こうの方で待ってるから、服だけ着替えたら出てきてね。可愛いメイクをしてあげる」

 

 ペロリと舌を出す和奈、俺は顔が熱くて湯気が出そうだった。

 あぁもうどうにでもなれ。

 冷静になったら負けである。

 リリィさんと和奈が望むのならば、俺は今だけ男を捨てるぞ。

 キャピーん!

 かわかわでキュートなあたしッ! 可愛い女の子に、なっちゃうわよっ!

 

 あたし、らんらんとスキップしながら、男子トイレ(・・・・・)の個室に入っちゃった! 

 やだっ! ドキドキするっ! 男の人に見つかったらどうしようっ!

 和奈ちゃんから貰ったのは……じゃじゃーん! ベージュ色の控えめフリルと藍色厚手のスカート! そして黒のニーソックス!

 ラフで動きやすさ重視だけど、素材にほのか高級感があって、ギャップ萌え萌え。

 あたしがもし男の子だったら一目惚れしちゃいそうだわっ!

  最後にリリィちゃんから貰った、純銀色でロング髪のカツラがあるわね。まるで妹のユリィちゃんの長髪にそっくりね。なんでこんなもの持ってるのかしら、リリィちゃんって不思議ちゃんねえ。

 

 ……さすがに下着はないわね。良かったわ。

 

 まずは靴を脱いで、靴下とズボンを脱いで……黒のソックスにつま先を通して……

 やだっ、なにこれ、めっちゃドキドキするっ!

 みちみちと音を立てて、肌に生地が密着していく感覚……中学時代の野球部のソックスを思い出すな……

 あ、やべ……んんっ……そうだよ。少しだけ野球やってたんだよねー うん。デッドボールが怖くてすぐ辞めちゃったー

 さーて、ニーソは履けたわ。次はスカートね。ここのボタンを外して……足を通す……

 うぅん……ちょっとキツイかも……やだぁあたし、和奈ちゃんよりも太ってるってことぉ?

 ……なんとか、大丈夫みたい……次はこのフリルね! わわっ!

 

 ベージュのフリルを広げたら、白い布がハラリと抜けて落っこちた。

 危うく便器にドボンするところだったけれど、左の脇でフリルを挟みながら、なんとか左手でキャッチに成功した。ふふん。すごいでしょ。これが野球部で培ったキャッチング能力ってコトよっ!

 そう、あたしね。右腕がないの。少し前に失くしちゃって、おかげで片手で着替えるのって凄く大変なんだよ。でも、右腕に袖を通さなくていいから、そこは少しだけ楽になったかも?

 この白い布は、たぶん和奈ちゃんのお手拭きタオルね!

 左脇を締めてフリルが落ちないようにしつつ、なんとかスカートのポケットへ、和奈ちゃんのお手拭きタオルをしまい込んだ。

 さてと、最後にこのフリルね!

 和奈ちゃんがこんな服を着てるところ、あたし見たことないけれど……

 そういえばこの服、和奈ちゃんが船の出発前に、ギラギースの港で買ってた服かしら?

 まぁいいわ。自分の上着を脱いでっと……左手をうまく使って……首にフリルを通して身につけて、よーし。

 カツラをこれ、どうやって被るのかしら? んんっ? 左右に紐があるわ? これを耳にかければいいの?

 

 そうして、あたしが可愛く着替え終わった。直後のことだったわ。

 トイレ、足音が入ってきたの。カツン、カツンって、二人くらい?

 あたし、びっくりして心臓を吐き出しそうだったのよ!

 どうしましょう。今は出られないわね……男子トイレでこんな姿を見られたら。変態ビッチ女だって勘違いされるかもしれないもの……

 どうか小さいほうでありますように、って祈ったけれど、足音はあたしの個室の扉の前へとやってきて。眼の前でコンコンとノックされた。

 ……最悪だわ。このトイレには個室が2つしかなくて、もう一つは故障中の張り紙がしてあったから。

 実質、個室はこの一つしかない。

 どうやら、ジ・エンドのようね……

 あたしは、頭が真っ白になりながら、男の人みたいな、野太い震え声で言った。

 

「いま、でますね……」

 

 覚悟を決めたわ。変態と罵られる覚悟を。

 逃げ場はどこにもないのだから。

 ガチャリ、と扉を遠慮がちに開ける。俯きながら、目を合わせないように……

 

「……すみません……」

 

 恥ずかしさのあまりに、わたし視界は涙で歪み、身体じゅうがくらくらとしておぼつかなかった。

 自分の体温が分からなくなりながら、あたしは二人の男の人の間を、逃げるように抜け出そうとした。

 

「ーーーー………ーーー……!」

 

 その男の人が発した言葉に、あたしは耳を疑った。

 

「うぐぅぅぅぅっ!」

 

 次の瞬間、あたしの身体に、強い圧力が加えられた。

 顔に布が押さえつけられて前が見えない。

 二人ががりで太い腕に締め付けられて、身動きが取れない……

 

「なっ、なんで……っ」

 

 暗い……怖い……頭のなかがクラクラする。

 もしかして、この人たちは、悪い人……?

 二人の男に羽交い締めにされて、顔に押さえつけられた布から、強烈な匂いを嗅がされて……

 意識が急速に沈んでいく。

 

 助けて……

 怖いっ……なんでこの船のなかに……獣族がっ……?

 

 ()の意識は、そこで途絶えた。 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。