クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
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んぐっ……
待ってよ。まだ起こさないで、もう少し寝ていたいから……
やめてよ、体を揺すらないで
まだ眠いんだってばっ……!
(やめろって言ってんだろっ……!)
ガチャン……
え? 痛っ!!
私は無意識のうちに、周囲を足で払おうとした。
けれど、私の足は動かせない。
重い金属音と共に、足首に割れるような痛みが走った。
「んぐふぅぅ……」
起きて声を出そうとした。しかし、口が布で塞がれている。
鼻息を漏らすことしか出来ない。
起きあがろうとしたが、床に縛られているのか、また冷たい床に激突してしまった。
なんだよ、これは?
誰かに捕まった? 早く、状況を把握しなくちゃ。
重たい目を無理やり開く。
眩しい光が瞳を差して、
おかしい、風邪を引いた時みたい。
体じゅうが熱い。体に力が入らない。
助けてっ……
あぁ、そうだった私、は。
トイレから消えた
「……目が覚めたか。具合はどうだ? 自分が誰で、何をしていたか覚えているか?」
目の前で、野太い男性の声がした。
子供に言い聞かせるみたいような優しい声色。
私の警戒心も溶けてしまいそうだった。
男性は私の頭の後ろへ手をまわし、私の口を覆っていた布をほどいてくれた。
ひげを生やした、優しそうなおじさん。
「……あ、あのっ……あなたは誰ですかっ? 私の手足を縛ってっ……何する気ですか?」
「がははっ、安心せい。取って食やぁせん……嬢ちゃんが悪い娘でなければな。嘘をつかず、ただ素直に質問に答えればいい」
「質問、どうして……あなたは誰なんですか」
「あぁすまん。ワシの名は
王国軍……
ナグサバ地区は、この船の向かう目的地の名前だ。
「嬢ちゃんは運が良い! ワシが居なけりゃ、今ごろもっと酷い目にあっていただろう。
嬢ちゃんは今……船の動力部に忍び込み、爆魔石で爆破しようとした疑いで、王国軍に捕まっているのだ。
……心当たりはあるかな?」
あぁ! もしかして!
気絶するまえ、地下で出会った二人の男は、ガロン王国軍人だったってコト?
たしかにあの時、私とリリィちゃんは、立ち入り禁止の場所で爆弾石のそばにいた……
私たちが現行犯と疑われてるってコト……
「ち、違うんですっ!
私たちはただ、誘拐された友達を探すために、あの場所を捜索していてっ……
階段を降りた先で、爆魔石が並べて置いてあるのを見つけて、その瞬間を、たまたま見られただけなんですっ!」
必死に言い訳してみるが、嘘っぽく聞こえてしまう。
くぅぅ、何か、無実を証明できる証拠は無いか?
「ほーう、犯人は他に居るというワケか。友達を探すためにあの場所へ? どうやってアソコに入った? そもそも誘拐ならば、なぜ警備の者に報告しなかった」
「地下1階の男子トイレの、奥の個室の壁に、大きな抜け穴が作られていました。
私の友達は、そのトイレで行方不明になったんです!
彼はきっと、その穴から誘拐されたんだと思って。早く助けに行きたい思いから焦って、独断で穴をくぐったんです。
すみません、でした……」
「地下1階……男子トイレの奥の個室だな? おい誰か、確認してきてくれ」
「はい、自分が確認してきます」
若い男の声がして、扉から出ていく音がした。
この部屋には、私とこの人以外にも人がいたのか。
まだ視界がぼやけていて、状況がわからないや。
……明るくて、白くて、広い部屋だ。
まるでリリィちゃんの客室にそっくり……
……あっ!?
「リリィちゃんはっ!? 私と一緒にいた、もう一人の女の子はどこに……」
「嬢ちゃんの隣で寝ているよ。昏倒薬を至近距離で喰らったそうで、もうしばらく気絶したままだろうな……」
「……そっか、よかった……」
私の隣に、いるのか……
ひとまず安心した。
「質問を続けるが…… その誘拐犯に心当たりはあるか……?
気づいた事があれば、なんでも良い、口に出してみてほしい」
「ええっと……あぁっ……いま言ったこと以上は、なにも……」
「そうか。ならば……君は何者だ?
名前と住所、生い立ち。友人たちとの関係を教えてほしい……」
「えぇっと……」
まずい……頭がぼーっとして。
嘘をつくための頭が回らない……
「焦らなくて良い。まずは名前だけでも、わしに教えてくれんか?」
「私の、名前は、あさ───
ガチャン!!!
耳を裂くように勢いよく、部屋の扉が開かれた。
「
若い男の人が、苛立った声で捲し立てた。
「ほう……?」
「地下一階の男子トイレ、奥の個室でしたよね? なんの変哲もない普通の個室でした!」
え? そんなハズない…………
「なんで……そんなハズないっ……穴が塞がれたってこと?」
私たちは確かに見た。
トイレの奥の個室から、大きな穴を通って、船の動力部に入ったのだから。
ピーーッ……
私の緊迫感を煽るように、能天気な汽笛が部屋に響いてきた。
『……おまたせ致しました。まもなく終点ナグサバ軍港……終点、ナグサバ軍港でございます……
お客様各位は、手荷物のお忘れのないよう、甲板出口前に整列してお待ち下さい……
本日は当船ご利用いただき、ありがとうございました……』
船の終点のアナウンスが流れていく。
「……穴が塞がれた、なるほど。
……つまり犯人は、現場に戻ってきたという事か?
嬢ちゃんが見たのは、どんな形の穴だったか、覚えているか?」
優しい声色のおじさん、この人は、私の言葉を信じてくれているのか?
「……きれいな円形の穴でした。断面にも歪みひとつなくて……直径は私の身長より少し小さいくらいで……」
「……良い加減にしてくださいよっ!
誰がどう見たって、ソイツが爆弾魔ですよ!
その女が溺れた子供を助けたから、だから何ですか!?
もう船も港に着きます!
爆魔石も全て取り除いたんですから! 女の処遇は、軍法裁判でゆっくり決めれば良いんです!」
若い男の軍人が、ズカズカとこちらに詰め寄ってきた。
おじさん……
「……獣族……」
私は、とつぜん思い出した。
「……じゅうぞくの毛が……爆魔石の近くに、落ちていましたっ……」
私は、か弱い叫び声でいった。
煙を吸って、倒れ込んだ時、薄れゆく意識のなかで確かに見た。
見間違えるハズもない、アレは、獣族の毛だった。
「……この船を爆破しようとしたのは、私の友達を誘拐したのは、獣族だと思いますっ……!」
私は必死に口を回していた。
迷いながら、悩みながら、結局最後は自分のために。
「くくっ……はぁっ? 何を馬鹿な事を!?
獣族が船に乗れるかよ? そもそも見つけた時点で処刑だっての。
ははっ、もういい白けましたよ。
獣族はあと一週間もすれば絶滅するんだっての。
さあ
若い軍人が、鼻を鳴らして早口で捲し立てる。
「馬鹿は貴様だ」
「は」
「獣族を舐めるな、馬鹿者……」
一成さん、という名前……
不思議だ。
どこかで、聞いた事がある気がする……
「22年間……この数字が何だか分かるか?」
「はい。獣族反乱戦役の期間です」
「あぁ。ガロン王国軍が獣族を抹殺しきれなかった年月だ……」
おじさん、一成さんは、重苦しそうに口を開いた。
「ですが……今となっては風前の灯火……
フェロー地区で暴れ回っていた獣族反乱軍も壊滅して……もうすぐにでも、獣族は根絶やしになります!」
「……獣族反乱軍など……可愛いものさ。
いいか、獣族反乱軍の目的は、王国への叛逆ではない。
せいぜい少し領土を拡大する程度だった。
……十年前から、フェロー地区の人口は激減して、捨てられた土地ばかりだ……
獣族独立自治区との境界線はもはや形ばかりで、王国軍もすべてを管理しきれていない現状がある。軍も配置を後退させて、要所を集中的に守るように、人員を削減してきている。
……それに、反乱軍の被害に遭う村は、何度も移住勧告を無視してフェロー地区に居座り続ける、頑固な爺さん婆さん達だ……
決して無闇に散って良い生命ではないが……昔に比べりゃあ随分と可愛い話じゃないか……
そもそもだな……いま独立自治区に住んでいる獣族は、王国との停戦協定を受け入れた者達なんだよ……
ワシが怖いのは、彼ら以外だ。
……停戦に納得せず、行方を完全にくらませた。好戦的な獣族どもがいる……
良いか…… 今まで何を学んで来たか知らんが。これだけは覚えておけ。
獣族の強者は、獣族独立自治区の外にいる」
ゴゴォォォォォォォオ……!!
その時、大きな揺れが起こった。
重力がブレるのを感じた。
横に落ちる。まるで船が傾いたみたいだ。ガタガタと激しい揺れに、船内が軋み出した。
「……何事だ!?」
「水棲モンスターに衝突したのか?」
「いえ、それにしては、揺れが長すぎますっ!」
部屋のなかで、騒ぎが大きくなりだした。
ガタガタガタガタ……
「……加速しています! 船がスピードを上げましたっ!」
「何ぃ!? どういう――」
「このままでは、……港にっ! 停泊している軍艦に衝突します……!」
「そういう……事か……! 状況確認をっ――!」
なにが起こっている……?
騒然とする室内、揺れる船体、頭の理解が追いつかない。
船がぶつかる?
「……んんぅぅ……ふぁあっ。ここは、どこ……?」
そんな時。
すぐ隣で、リリィちゃんの眠たそうな声がした。
「リリィちゃん! 目が覚めたのっ?」
「……かずなさん……あれ? え……この揺れは一体……頭もぼーっとして……うぅぅ……【
リリィさんは寝ぼけた声で、自身に魔法をかけていた。
「総員、甲板へ向かえ!最優先は衝突の阻止と乗客の安全だ! いそげっ!」
「了解っ!!」
ドタドタと足音がして、この部屋から声が逃げていく。
そして、誰もいなくなった。
えぇ、待って、嘘でしょう?
置いて行かれた。
手足を鎖で縛られたまま。身動き出来ないまま。
「……待って、せめて動けるようにっ……こんなの、逃げも隠れも出来ないっ……」
「落ち着いてください。
私の耳元で、リリィさんが囁いた。
「この程度の拘束なら、解けますから。
まず状況を確認……私たちも甲板に向かいましょう」
ガチャリ、と手首の枷が割れて、私は動ける身体になった。
「行宗……どこに居るんだろう……?」
安心と恐怖がまじって、泣きだしそうな声が漏れる。
「分かりません……だから状況確認です」
全身が気だるいのを、リリィさんに手を引かれながら、私たちは部屋を出た。
「地下一階……プライベートルームのフロアですね! 部屋が近くて良かった。寄りましょう!」
ゴォォンとまた船が揺れた。
リリィちゃんと私は、二部屋となりの、リリィちゃんの客室に飛び込んだ。
そのまま放置していた、各々のバッグやカバンや武器などを背負いこんだ。
部屋を出て、廊下を走る。
その道中で、床に何かが倒れ込んでいた。
赤い血溜まり……お腹から出血した。
全身に深い毛をまとった、獣族が倒れていた。
獣族……もしかして、王国軍に鉢合わせて殺されたの?
大丈夫、じゃないよね。
早く、回復してあげないと……
「
「待って! このひとに回復魔法をっ、かけないとっ……!」
パチィン!
ほっぺたに、乾いた衝撃が走った。
叩かれた。
リリィさんの手のひら……痛い……っ……
「しっかりしてください! 彼はもう助かりませんよ!
これは戦争です! みんな仲良く誰も死なないようにとか、そんな甘い考えじゃ、大切なものぜんぶ失ってしまいますよ!」
「っう……ごめんっ……」
私は、怯えて手を引っ込めた。
怖い。びっくりした。鳥肌がたった。
リリィちゃんの怒った顔を、初めてみた。
いつも優しくて、掴みどころのないリリィさんの口から、厳しい正論を突きつけられて。
五感がぐわんぐわんと歪む、立っていられない。
でも……死にそうな人がいたら、助けてあげたい、って……
これは、間違った理想論なのかな……?
「……あ………
……ごめん、なさい……言い過ぎました……」
リリィさんが、悲痛そうな顔で私に言った。
まるで私に助けを求めて縋るような、凍える子猫のように縮こまって……
「ううん、ありがとう…… リリィちゃんの言う通りだから……いこう」
涙でにじみ始めた視界で、何とかリリィちゃんに微笑みかける。
ちょっと、口角を引き攣らせながら。
「……はい」
二人で手を強く握った。
互いに微妙に噛み合わない足取りで、上への階段を探して急いだ。
──────
甲板への階段を上がる。
そこでは、叫び声や怒鳴り声が、絶え間なく響いていた。
しかし、戦闘が起こっている訳ではなさそうだ。
甲板には人がごったがえしていた。
川に飛び降りて逃げようとする人。救命ボートを切り離そうとする人。
落ち着いてくださいと叫ぶ人。
「それ以上近づくな! コイツがどうなっても良いのか?」
奥のほうから、とりわけ大きな怒号が聞こえた。
いかにも犯人というセリフ。
私とリリィさんは目を見合わせた。
聞き覚えのある。男の声。
「……なんでっ! なんでこんな事をっ! 獣族の皆を逃すだけって、約束だったじゃないかよっ!」
これもまた、聞き覚えのある男の子の声。
川で溺れていた男の子。マナトと名乗っていた男の子だ。
「何が目的だ……貴様らっ! 要求を呑むから即刻船を止めろ」
「……おれの要求か? ふっ……すぐに武器を捨てろ。おれから距離をとれ。
あと一歩でも近づけば、南都家の次期当主、
「さぁ? ワシがお主の首を斬るのと、どっちが早いだろうな?」
「……やってみろよ」
一触即発……
大人数で囲む王国軍に対して、
人質を抱えた犯人は、たった一人のようだった。
犯人の男は……知っているっ!
溺れていた男の子のお父さんだった。
「子供を助けてくれてありがとう」と、何度も私たちに感謝をくれた、筋肉質の強面おじさん。
彼が犯人なの?
実の子供を、マナトくん……いや違う、蘭馬くん。
貴族である
いや、親子だって話が、そもそも嘘ってこと……? あれ?
「
「えっ……」
彼……犯人の足元……
「……ふはっ! 時間稼ぎはこれくらいかな。……安心しな。もう手遅れだ。
この船はエンジンが停止したら大爆発する! ボイラーの中に爆魔石を仕掛けたからな。
唯一解除出来るとすれば、アキバハラの港に停泊していた時だったが……
もう手遅れだ……衝突沈没は免れない。
我らは獣族連合軍。これは我らの反撃の
爆発から生き残れた者には、さらなる地獄を見せてやるさ……」
ボッ……!
犯人の男、どう見ても人間の男は捨て台詞を吐いて、
刹那、白い煙幕が爆発した。
「ごほっ……げほっ……」
「昏倒薬かっ……絶対に吸うな……」
「【
「王国製の煙玉……なぜ……」
「川に飛び込め、ぶつかるぞぉぉっ!」
たしかに、見えた。
犯人男の足元で、手足を縛られて気絶しているようだった。
犯人男は、ぐったりした行宗を抱え込んで……
それから先は、白い煙で見えなかった。
アイツが……行宗を攫った犯人……くそっ!
一体、どこへ逃げたんだ?
「奴はどこに行ったっ?」
「くぅぅっ! 【
眼の前には、客船の3倍ほど大きい軍艦が、みるみるうちに迫っていた。
このままでは、30秒も経たないうちに、正面衝突してしまう。
「……
こんな規模、手に追えません……」
リリィさんに、手を引っ張られるままに。
「待って、私っ……」
人の流れに、押し流されて。
みるみる内に、船の手すりへと流された。
船の外へ、押し出されて。
「浮き輪がないと……」
泳げないの。
考える間もなく。私の身体は投げ出された。
数メートルの高さを落下。
どばぁぁあっ
と、冷たい水に叩きつけられ、包まれる。
日が沈むような時間帯。
水中はほとんど真っ暗で。凍えるほどに冷たかった。
ガハッ、ゴホッ。
水のなかでもがく。
強い水流の影響か、ぐんぐん水中に引きづり込まれるだった。
助けて、死ぬ。死んじゃうよ。
誰かが、私の手を取った。
美味しい空気が、口のなかへ入ってくる。
「……【
華奢な身体に、抱きしめられて、連れられて。
気づけば水面に顔が上がっていて。
私は地面に倒れ込んでいた。
「……
「うん、ありがとう。リリィちゃん……」
「ガロン王国ナグサバ地区に、上陸しました。
獣族と王国の戦争が、始まってしまったようですね」
「そう……」
私は、寝返りをうって空を見上げた。
日没後の青紫色の空には、膨れた半月が浮かんでいる。
その宇宙を覆うように、
何か黒い。
コウモリみたいな鳥の群れが。大空をバサバサと徘徊していた。
「……復讐竜……の群れですか。
なぜか街を攻撃せず。大空を徘徊していますが……
……おそらく獣族の目的は、船と主要な港の破壊による、北部と南部の分離です。
水路が使えないとなると、北部から南部に移動するのに、三日四日はかかってしまう……
おそらく南の、ギラギースの港でも、同様の襲撃が行われているハズです……」
港と船を襲う。獣族の目的……
ガロン王国の北部と南部は、森と砂漠に隔てられていて、水路での移動が主流になっていると。
「さて、和奈さんどうしましょうか? ここは瞬く間に戦場になります……」
「私が、聞きたいよ……どうしてそんなに、冷静でいられるの……?」
私は俯いて、膝を抱え込んだ。
獣族と王国軍の戦争なんて……規模が大きすぎて、頭が考えることを拒否してしまう。
ちっぽけな私に、私なんかに、いったい何ができるというのだ。
私には、人間のために獣族を殺す事も、獣族のために人間を殺すことも、出来ない……
それが痛いほど分かった。
「獣族には、”HPバー”も”モンスター名”も見えないんだよ?
私には、人は、殺せないから……」
私は
私は戦えない。心が弱い。
私には
「
ここにじっとしていても、何も得られるものはありません」
「そうだね。そうだよね……」
リリィさんの言葉が、私に立ち上がる勇気をくれる。
私は重い腰を持ち上げる。
私の周囲には、同じように泳いで上がってきた人たちが、沈みゆく船を見て呆然と立ち尽くしていた。
街の人も、爆発音を聞いたのか、「何事か」と騒ぎになっているようだった。
大きな煙を立てながら、乗っていたフェリー船が沈んでゆく……
無事だよね……行宗……
これは、始まりに過ぎないのだろう。
私たちが向かおうとしているのは、きっと地獄。
叶えたい夢や、理想論が描く平和が、心の痛みなしでは手に入らないのならば……
私は、怖くても、前に進む。
平和のため、獣族のため、共存のため、
そんな大層な思想を考える余裕、私にはないから。
身体と頭は動かし続けようと思った。
今はまず、行宗と合流することだけ。
私の考えうる最適解を、行動に移すことだけ考えて。