クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
※まずは、第七膜を、書ききるぞ。
【
(……………)
意識が混濁していた。
俺は、どうして眠ってた?
瞼を開く。視界は暗闇に包まれている。
ガタガタと、嵐で軋むような音。ゴボゴボという、水の音。
嵐のなか、狭い洞窟に、閉じ込められているような感覚。
痛い……
身体を動かそうとすると、痺れるような痛みがした。
全身が縄で、ぐるぐる巻きに縛られているようだった。
暗闇に目が慣れてきた。ここは狭い空間らしい。
おそらく一辺が2m程の立方体に、俺は閉じ込められている。
床は少し傾いていて……
ん?
誰かいる。
同じ箱のなか、手足を縛られて、うずくまっている様子だ。
よく見えない。誰だろう。
敵か、味方か……
「……目が覚めたんですか?」
相手から先に話しかけかけられた。
掠れたような、少年の声には聞き覚えがあった。
……かなり疲れた様子だけど、この声は、船から落ちて溺れていた男の子、"マナトと名乗った"男の子の声だ。
「君は、マナトくんだっけ?」
「はい」
「ここはどこだ?」
硬くて冷たい箱のなか、床面が傾いている。少し変な臭いがする、家畜小屋のような臭いだ。
「川の底にしずんでいます。この倉庫を乗せていた小舟が、船の爆発に巻き込まれたんです」
「……船の、爆発? なにがあったんだ?」
「僕達の乗っていた船は、港の軍艦に突撃して、爆発したんです」
え……?
「和奈とリリィさんは……無事なのか……?」
そもそも俺は、何で今まで眠っていた?
「おそらく無事かと。乗客のほとんどは爆発前に、、川に飛び込んで逃げていたので」
「……ホントに大丈夫かよ。 浅尾和奈は、浮き輪がないと泳げないんだ……」
ギリギリと、力を込めて、拘束を解こうしてもが、左腕をかろうじて動かせる程度。
左手一本じゃ、力が思うように出せない。
魔法を使うのは、最終手段にしたいな。
俺にはリリィさんやフィリアのような、繊細な魔法制御ができないから。
「んんっ!?」
俺は自分の身体を眺めて、絶句した。
縄で縛られている、それだけではない。
(なんじゃこりゃあ!?)
俺は、女の子のスカートを履いていた。
白のフリルと、濃い青のスカート、黒のニーソックス……!
これって和奈の服だよな?
訳が分からない……!
……本当に何があった? 何で俺が、和奈の服を着て……?
ふぅ……落ち着け行宗。冷静になって、思い出せ……
眠るれる俺の、最後の記憶……
和奈と船に乗っていた。
溺れかけの男の子を助けた。それが目の前の彼。
男装したリリィちゃんと再会した。
いたずらっぽく笑う和奈……からかわれて……
そうだ。俺は、和奈の服を着て、女装した。
男子トイレで、興奮気味に着替えていたら、足音がして……
獣族二人組に、拉致られた……
獣族……犯人はアイツ等か……
そういえば、目の前の彼に、聞きたいことがあったんだ。
「ねぇマナトくん、フィリアという名前に、聞き覚えはある? ニーナ、ヨウコ、そしてマナトという響きに、心当たりは?」
あえて、獣族語の訛りで喋った。
彼が息を飲む音が、こちらまで聞こえた。
「………えっ……どうして、その名前を」
「南都蘭馬くん……だろう? フィリアが森で助けた少年。そして、自分の家の屋敷からマナト達家族を逃がした男の子……君なんだろう?」
「……お前は、誰だ? お前は獣族の味方なのか、敵なのか?」
彼は狼狽し、威嚇するように声を低くした。
「俺の名前は
「フィリア様と、お知り合いなんですか?」
「さ、さま??」
あまりに自然に、"様"づけするから、俺は反射で聞き返してしまう。
「はい。彼女は僕の命の恩人。僕にとっての神様なんです」
キラキラした目でフィリアを語る、南都蘭馬くん。
「俺とフィリアは、三か月一緒に暮らしていた」
いたずらしたくなってしまう。
「い、一緒にっ! ……それはいつ、どういう感じで?」
一気に赤面して、狼狽える蘭馬。
「そんなことはどうでもいいだろう?
君は南都蘭馬くんだよな? 君の知っていることを、話して欲しい。
お返しに、俺もフィリアのことについて、あれこれ教えてあげるから」
「うっ……分かりました。等価交換ってやつですね。
そのとおり、僕は、南都蘭馬。ギラギース地区を統治する、南都家の跡取りです」
ようやく彼は、蘭馬と名乗ってくれた。
「あれは五月頃のこと、森の中で死にかけたとき、僕はフィリア様に出会いました。
彼女は獣族なのに、王国軍に捕まる危険を顧みず、人間である僕の命を助けてくれた。
僕は、自分の過ちに気がついたんです。獣族は人間語を話せないだけで、人間と同じ。心はあるんだって」
「そして君は、マナト達、獣族家族を逃がしたんだな?」
「はい。僕は屋敷に囚われていた獣族を、
あとで父上にはバレましたが、ガロン王国で獣族の奴隷は禁止されていますから、告発すると脅せば父は泣き寝入りするしかありません。
まぁ、おそらく今も、僕の知らない場所で楽しんでいるかと思いますけど……」
「ニーナとヨウコとマナトと、その両親の五人だね」
「そうです。父上が呼んでいたので、名前は覚えています。彼らはあのあと、どうなったんですか?」
俺は、ニーナとヨウコと出会ったよる。彼女たちの息の根を止めた感触が、フラッシュバックしてくる。
「……両親は死んだよ。俺が会ったのは、ニーナと、ヨウコと、マナトの三人だけだ……」
必死に平静を装うけれど、声の震えは止められなかった。
「いえ、父親はまだ生きてます」
「え……?」
予想外の事実が、彼の口から飛び出した。
「マナト達の父親は、たしか……逃亡中に食糧を探しに行って、そのまま帰って来なかったと、言ってたよ?」
「はい……彼はたしかに、王国軍に一度捕まりました。しかし、獣族革命軍によって救出されたんです。
彼は今、この街に来ています。おそらく彼は、ここで死ぬつもりです」
「……この街に来ている? ナグサバ地区に、マナトの父親が!?」
「彼の名前はネメトですよ。……彼を含む獣族五人は、僕達の船に乗っていたんです」
えぇっ!?
五人か。
女装した俺を誘拐した二人組のどちらかが、マナトの父親の可能性も?
「僕が父親と呼んでいた大男も、耳を切り落としていますが獣族です。名をアドロギースと言って、獣族革命軍の幹部でした」
まてまて、情報が多いな。
そもそも、獣族革命軍って何だよ。獣族反乱軍しか聞いたことがないんだが。
「とにかく、俺は獣族の二人組に眠らされて縛られたんだぞ……ここに俺たちが閉じ込められてるのは、そいつらの仕業じゃないか!?」
困惑や興奮、興味など、感情が混ざって高ぶって。
俺は大きな声を上げた。
蘭馬は泣き出しそうに顔を歪めて、そのまま俯いて、両手で顔を隠してしまった。
「そうですね。……これは全部、僕のせいなんです。獣族革命軍から、『獣族を北部に逃がすのを手伝って欲しい』と頼まれまして、吸魔石で加工された箱を利用して、彼らを船に乗せたんです。
ちょうど、僕らが閉じ込められている"この箱"ですよ。軍の検問で、魔力探知を掻い潜れるんです」
吸魔石……魔力を吸い込む石。
フィリアの診療所に、大量に置いてあったよな。
うまく加工すれば、魔法耐性の高い盾や防具を作れるらしい。
「……あれ? この箱の壁って、魔法は効くのか?」
「効きません。だから出られないんです。外に出るには内側の鍵を開けるしかない、しかしこの箱の鍵は、壊されています」
魔法が効かない。
薬の大ダンジョンの宝物庫に似た仕様だな。
魔法の原動力は、大気中の魔素いわゆるダークマター。
これを体内で四大基礎スキルに変換し、その組み合わせで応用スキルが発動する。
基礎スキルの組み合わせでは再現不可能なスキルを、特殊スキルという。
特殊スキルも、魔素がなければ発動できないのは、変わらない。
魔法無効空間?
そんなチートアイテムが、存在するっていうのか?
少なくとも、一般に流通するようなものじゃないよな。
獣族が貴族(蘭馬)に頼むくらいだから。
いや……まてよ。
吸魔石の効果を思い出せ。
マグダーラ山脈に出かけるとき、浅尾和奈を延命させるために使ったのが、吸魔石だった。
体内の魔力濃度を減らして、【天ぷらうどん】の寄生を遅らせるために。
そうだ、吸魔石は、魔力を吸うのだ。
原料である魔素は吸わない? 吸わないってことは。
魔素はこの空間にも存在する。
問題は、体内で魔素を魔力へと変換した瞬間に、吸収されてしまう可能性。
しかし、限度があるだろう?
【
そもそも、魔法が効かないってのは机上の空論だ。
蘭馬も実際にやってみたわけではないだろうし。
「僕が川で溺れたのは、わざとなんです。
あの時は、理由は聞かされていませんでした。
今から話すのは、後で獣族達から聞いた話です。
僕が川で溺れることで、警備の隙を生み出して、その隙にエンジン室に爆魔石を仕掛ける作戦だったそうです。
次に、僕を助けるなかで川の龍を一刀両断した
なるほどね。
実際に龍を斬ったのは、俺でなく、リリィさんだったけど。
「さらに、行宗さんを探しにエンジン室に忍び込んだ、和奈さんでしたっけ? 彼女たちに爆弾魔の罪を被せたそうです。
二人は王国軍に鎮圧、拘束されて、その先は分かりません。
獣族達は、『廊下の爆弾は誘爆用であり、エンジン内部に取りつけた爆弾が本命だから、問題ない』と、話していました」
は?
「なんでそれを、もっと早く言わかなった?」
和奈とリリィさんが、王国軍に捕まっただと?
「その後どうなった? 二人は無事か、無事なんだよなっ!」
俺は、蘭馬に詰め寄って、発言を急かす。
「爆発前の甲板に、解放された二人を見ました。おそらく川に飛び込んで……おそらく無事だと思います……ごめんなさい……」
彼の声は、震えていた。
怒鳴った形になってしまった。
俺も、いちいち声を荒げるべきじゃないな。
「俺こそ悪かった。……怒鳴ってごめん」
申し訳なく、頭を下げた。
「いえ……あなたの怒りはもっともです。全部僕が悪いんですから……」
彼は、暗い目をして顔を歪めた。
「さいごに彼らは、僕に全てを伝えました。
獣族革命軍は、ナグサバ地区とギラギース地区を同時に襲撃し、南北の勢力を分断すること。
その先の、王都襲撃計画についても。
彼らは僕を人質に取り、王国軍を牽制しました。僕が貴族の長男だから。
そして、爆弾を積んだ船は、港に停泊した軍艦に突撃し、爆発したようです……」
「………そうか」
「……巻き込んでしまって、ごめんなさい。全て僕の責任です……
この程度では、きっと終わらない。彼らは止まりません。命が尽きるまで、憎い人間を殺し続けるでしょう……」
蘭馬くんは、震えた声で紡いだ。
抱え込んだものを吐露して、ほっとしたようにも聞こえた。
「フィリア様の願い……『人間と獣族が仲良く暮らせる世界』のために……
僕は獣族に、力を貸したつもりでした。
……でも、この結果は真逆です……
僕のせいで、獣族と人間が殺し合う。たくさんの血が流れる……こうなるとは、想像できなかった……
獣族革命軍のみんなが、優しい人だから、僕は復讐に手を貸してしまった……」
蘭馬くんの、気持ちが、痛いほど分かった。
「……そうか、俺も同じだよ。獣族と人間が共存できる世界を願ってる」
それでも俺は、獣族を殺した。
気づけたはず、知っていたはず、
……助けられたはずなんだ
「僕はフィリア様に……顔向けできません。この箱のなかで朽ちていく、それが国賊である僕には、ふさわしい最後なのかもしれません……」
蘭馬は、泣かない。乾いたように笑う。
生きる事に絶望した目をしていた。
俺が直穂を失った朝みたいに。
俺にはまだ、和奈が助けを求めていたから、すぐに歩きだせたけれど。
蘭馬は王国を裏切り、獣族にも利用され裏切られた。
「……そんな事いうな。蘭馬は頑張っただろう? 獣族を助けようと必死だった。
結果は確かに、争いを助長したかもしれない。それがどうした。
間違えることは誰にでもある。それでも前を向いて償うんだろ?
フィリア様はな、何もしない奴らより、獣族を助けようとしたお前を、立派だと認めるはずだ。
そして、絶望して足を止めるお前より、挽回しようと足掻くお前を、カッコいいと思うだろうよ。
……蘭馬、君は、人間なのに獣族を思いやれる。貴重な人間なんだ。
俺たちしかいない。野垂れ死ぬなんてありえない。俺たちでこの戦争を止めるんだよ」
蘭馬は、俺の言葉を、顔を上げて聴いていた。
「……ありがとうございます。こんな僕に、そんなに優しい言葉を……」
まだまだ彼は、辛そうな顔をしていた。
少しは、彼の心を軽くする言葉が言えただろうか?
「まずは、ここから脱出しないとな」
俺は、明るい声で言った。
「無理ですよ……」
蘭馬くんは、渇いた声でわらう。。
「一つだけ方法がある。俺の特殊スキルを使うんだ……」
「無理です。魔法が使えませんから」
「やってみなくちゃ、分からないだろ。いいか良く聞け。俺のスキルは【
オ〇ニーして賢者タイムになると、最強賢者になれるスキルだ」
「はぁ? な、なんだって?」
困惑する蘭馬くん。
「聞こえなかったか? ならもう一度だ。俺のスキルは【
今から俺はオ〇ニーをする。先に謝っておく。みぐるしい姿を見せて、大変申し訳ございません」
「聞こえてるよっ! 最悪だ! なんで密室の死に際に、男のナニを見なきゃいけないだ!」
「死に際だからこそ、ヤルんだよ。修羅場でオ〇ニーできないやつは、この世界で生きていけないんだよ!」
「……そん……なことないだろう? 僕には相手がいるから、一人でしたこと、一回もない……」
さすがは貴族のおぼっちゃまか。羨ましい限りで。
そんなことあるんだな。俺に限って言えば。
おれはこの
「一人プレイも捨てたもんじゃないぜ。ほら目を瞑って、大好きなフィリアの、裸で乱れる姿を想像してみろよ」
こんな事いうと、天国の
「なっ、バ、バ、バカなっ……フィリア"様"を邪な目で見るなっ、死罪に値するぞ……」
「……ふふっ、顔を赤くしてるじゃないか、邪な目はどっちだろうな」
「な、なんだとう? お、お前まさか……フィリアとそういうこと、してる訳じゃないよな?」
「あぁ、俺"は"してないよ」
「俺は? "は"ってなんだよぉ! フィリア"様"には伴侶がいるのか? あの時一緒にいたおっさんか? そうなんだろう??」
「教えない。本人に会って、聞いてみることだな」
「おぃぃっ、教えて、教えてくれよぉ」
さてと……
俺は、目を瞑る。
「俺にはさ、好きな女がいるんだ。新崎直穂っていう女」
「……フィリアのこと教えてくれよ。等価交換じゃなかったのか……?」
そうだ。
俺は、新崎直穂を愛している。
直穂はきっと、俺を守る形で、俺の前から姿を消した。
これは都合のいい解釈かもしれない。
直穂、今、何を見て何を想ってる?
俺は、直穂に関してひどいトラウマを背負った。
彼女と別れたあの一夜から、彼女を想って自慰したことは、一度もない。
直穂と入れ替わるように、この三か月、俺の隣には和奈がいた。
この世界で共に過ごした時間は、直穂より和奈の方が圧倒的に長い。
和奈は優しいし、可愛いし、エロい。
和奈を女として意識する瞬間は、数えきれないほどあった。
独立自治区への襲撃の日から、俺は何度も、浅尾和奈をオカズに使った。
緊急事態とはいえ、和奈に対しても、直穂に対しても、俺は不誠実なことをしたと思う。
今の俺なら、新崎直穂と向き合えるんじゃないか。
もう不誠実はしたくない。
俺は、新崎直穂を愛している。
もう寂しい思いはさせないよ。
俺はずっと、直穂のことを想っている。
ねぇ、直穂。
和奈がピンチかもしれないんだ。
俺に力を貸してくれ。
ーーーーーーー
想像の世界で、直穂の姿が蘇る。
透き通った黒髪、華奢な二の腕。
今はもう、触れる事のできない唇。
うなじの匂いも、もう嗅ぐことはできない……
心がズキズキと、痛みだす。
まぶたが涙で滲んでくる。
いつもはここで、やめてしまう。目を背けてしまう。
……でも、直穂……
僕は君を、直視する。
必ずもう一度、君に会って、話して、キスをして。
匂いを嗅いで、抱きしめて……くすぐりながら、笑い合うんだ。
『……行宗っ……大好き……ずっと一緒だよ……』
直穂と交わった夜を、記憶をなぞるように、思い出していく。
あぁ、良い感じだ。息子も反応しているようだ。
俺は、残された左手を伸ばして……
「ん……?」
絶妙に、手が届かないっ……!
左手は縄で縛られたままだ。
指先がギリギリ届く程度。
これじゃあ、満足に出来ないっ!
(こうなったら……! これしかない)
俺は、壁を使用した。
うまく妄想できている。彼女を直視できている。
惜しい所まで上がっていける。
しかし、だめた、あと一押し。
賢者になるためには、致命的な何かが足りなかった。
くそぉ。触りたい。
触れないんじゃ、どうにもできない……!
想像上の直穂も、どんどん、色褪せていく。
もどかしさで、頭がおかしくなりそうだ。
必死に壁で身体を擦って、俺はなんて惨めで滑稽なのだろうか。
縄を緩めようと、手を暴れさせる。
ふと俺は、ポケットの中に手を突っ込んだ。
ポケットのなかに、何かがある……
これは……布だ。
手から床へ、ポロリと白い布が落ちる。
あぁ思い出した。トイレで着替えている途中に、便器のなかに落ちそうになったハンカチか。
そのままポケットに突っ込んだんだっけ。
この布を、ナニかに使えないか?
俺は、手を止めてしゃがみこんだ。
和奈の白いハンカチ、それは、よく見るとハンカチではなかった。
「……和奈の、パンツだ……」
真っ白な、ショーツだった。
こんな綺麗な白のパンツ、診療所に置いてたっけ?
干した記憶はない気がする。
……使用済みなのかな?
見た目だけじゃ分からない。
だが、これが目の前にある以上。やることは決まっていた。
「直穂、ごめん……」
俺は、床を使った。
「和奈、本当にごめんなさい……」
這いつくばって、白い布へ、鼻先を強く押し当てる。
背徳感と、罪悪感。それを上回る興奮の濁流が押し寄せる。
俺は夢中になっていた。
頭のなかで二人に謝りながら、それでも最後は、和奈を助けて守るために。
言い訳しながら、二人の力で、俺は賢者になった。
「いこう……蘭馬くん。俺の身体に捕まって」
縄を引きちぎり、俺は彼に両手を伸ばした。
「嫌だ。汚い、気持ち悪い……」
彼は、俺から逃げるように後ずさった。
「ここから出るぞ……俺たちでこの戦争を、止めるんだよ」
俺は、賢者の光に包まれながら言った。
部屋は昼間以上に明るくなり、蘭馬くんの狼狽顔がハッキリと見えた
「……全然カッコよくないよ! もう何言っても変態だよ!」
叫ぶ蘭馬を抱え込んで、俺は、吸魔石の檻を突破した。
川の水をかき分け、水面へと上がっていく。
吸魔石に魔力を吸われる感覚は、確かにあったが、微々たる量だった。
特殊スキルに限らず、ある程度強力な魔法なら、吸魔石の壁を突破できるのだろう。
ただ、強力な魔法を、狭い箱の中で使うとなると、内部で被害を出さないためには相当な技術が必要だろうな。