クラス転移した俺のスキルが【マスター〇ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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百二発目「嘘つきは殺人のはじまり」

 

「おい……」

 

 俺とリリィさんのやり取りに、アドロギースは痺れを切らしたようだった。

 苛立たしそうな表情で、こちらを睨んでいる。

 

「……我々には、貴様らを殺す理由はない。……貴様らはこの国の人間ではないだろう?」

 

 アドロギースは、迫力のある声で話しかけてきた。

 彼は、対話を望んでいるのか?

 すると蘭馬(らんま)くんが、アドロギースのほうへ一歩踏み出した。

 待ってくれ。遠くへ行くと、守りきれない。

 俺は蘭馬(らんま)くんの服を掴んで、この場に引き止めた。

 

「……アドロギース、獣族が平和に暮らせる世界を、実現させるって。あの約束は嘘だったのかよ……」

 

 マナト君は今にも泣きそうな声で、アドロギースに訴えかけた。

 

「……嘘な訳がないだろう、『獣族の未来に栄光あれ』、これは獣族がガロン王国を打ち滅ぼし、尊厳と自由を取り戻す戦いなのだ!」

 

「……話が違う! こんなの、真逆じゃないか!

 人を無差別に殺戮して、ナグサバの街をめちゃくちゃにして……

 頼むよ。おねがいだ。もう、やめてくれ。

 このままじゃ、獣族全員、王国軍に殺されちゃうよ!」

 

「……くははっ。そうか貴様は……獣族が人間に敵わないと、思っている訳だな……」

 

 アドロギースは手で顔を押さえて苦笑していた。

 

「我々は負けんぞ。この20年間……勝つためだけに、屈辱の日々に耐えてきた。

 ようやく、戦える時が来た。獣族が誇りを取り戻し、王国を服従させるための第一歩が、我の足跡になる。これほど名誉なことはないさ。

 それに、我々には『伝説』が味方している。勝てない道理はないのだよ」

 

 蘭馬(らんま)は、地面に膝をついた。

 何も言えず、「何を言ってもダメだ」と、絶望した様子だった。

 アドロギースの決意は固い。

 

「……僕はただ、フィリア様に、死んで欲しくないんだ……

 フィリア様の夢を手伝いたかった、だけなのに……」

 

 無力感に苛まれながら、ただ呟いていた。

 呆然自失とは、こういう状態をいうのだろう。

 

 しかし、まずいな……

 俺の賢者タイムは、残り7分間しかない。

 まだ和奈の居場所も、把握できていないのに。

 

「……行宗(ゆきむね)さん、彼らの目的は時間稼ぎです。倒すしか、選択肢はありませんよ……」

 

 俺の焦りを察したのか、リリィさんが、小声で耳打ちをしてきた。

 殺す、か。アドロギースを殺すのか。

 ……俺はすでに、ニーナとヨウコを殺めている。

 あの時と、変わらない。同じ状況。

 彼は、すでにマルハブシの猛毒を飲んでいる。

 俺が手をかけなくとも、一時間以内には死ぬ命なのだ。

 

「……あぁ、無情。人間語を話せるようになろうと、獣族と人間が分かり合えることは、決してありえないことだったのだ……」

 

 アドロギースの声は、怒り半分、悲しさ半分籠っているように聞こえた。

 アドロギースは、悪人ではない。

 こと戦争において、どちらが悪か語ること自体、おこがましい。

 彼は信念を持っている。

 俺には想像できないほどの地獄を味わってきたのだろう。

 

「……20年前に、我だけが生き残ってしまった。

 ようやく命を捧げられる。死んでいった戦友たちに、顔向けできる」 

 

 彼は、何度も絶望して。それでも希望を失うことなく、俺の前に立っている。

『獣族の未来に栄光あれ』、か……

 それでも……俺は、否定するよ。

 獣族と人間は、話せばきっと分かり合える。

 敵同士のフィリアと誠也が愛し合えたことが、その証明だから。

 

『そんなことはない』

 

 あえて獣族語で、俺は反論した。

 

『俺は三か月獣族と一緒に暮らしていた。人間の分際でな。

 アルム村の獣族たちに、優しくしてもらったよ。

 人間と獣族は共存できるよ。話せば分かり合える……いいや、言葉なんて無くても、分かり合えるはずなんだ。

 獣族も人間も、何も変わらない。見た目以外、変わらないんだ。

 お前は人間語を話せるくせに、なんで分からないんだよ……』

 

 俺は、怒りよりも、悲しい感情が強かった。

 人間語を話せる獣族は、ごくわずかだ。

 俺もたくさん獣族と出会ったけれど、人間語を話せるのは、フィリアとマナトの二人だけだ。

 小桑原啓介さんの研究で

『獣族の身体構造は人間とほぼ同じなのに、人間語を発音することができないのは不可解だ』とか、

『人間と獣族の混血のうち、人間の血が濃いほど、人間語の修得率が上がる』とか。

 フィリアが言っていた気がする。

 とにかく、人間語を話せる獣族は貴重なんだ。

 人間語を話せるなら、理解できるはずだろう。

 人間も獣族も、みんな同じ。

 外見や風習が違うだけだって。

 

「ふざけるな! 人間と我々が同じだと? 穢らわしい! 人間ごときが獣族を、分かったつもりいるんじゃねぇ!」

 

 アドロギースは声を荒げた。

 いいや……俺は、

 少なくともお前よりは、獣族と人間のことを分かっているつもりだ。

 

『獣族を、分かっていないのは、お前だ。…… 

 アルム村のみんなは、人間である俺に、優しく接してくれたよ。

 戦争を望まない獣族は居る。俺の友達は、こんな虐殺を平和とは呼ばないぞ。

 お前の復讐心も、理解できるけど……

 逃げたんだよお前は……! 簡単なやり方に逃げたんだよ!

 

 こんなやり方じゃ……誰にとっても不幸になる。

 戦争だけは、あってはならない。

 フィリア、誠也、和奈、直穂……

 俺の友達の夢を、否定されるのが、俺は許せなかった。

 

 

「ふざけるなよ! クソガキ!

 平和ボケした、甘ったれた野郎がよ! 理想論じゃ、世界は何も変わらなんだ!」

 

 アドロギースが、右手を空へと掲げた。

 透明な気配が、緊張感を漂わせた。

 攻撃が来る。

 その張り詰めた空気が、肌感覚でも感じとれた。

 

「獣族と人間が、仲良しこよしが平和だと?……バカバカしい。

 いいだろうよ。貴様らが、それを成し遂げるというのなら……証明してみるがいい。

 我らを阻止できなければ、全く話にならんぞ? ここで我々を止めてみろ! 

 獣族の未来に栄光あれ……【神の裁き(キリシランス)】……!」

 

 アドロギースが、なにか魔法を詠唱した。

 周囲の生命の気配が、一斉に襲いかかってくる。

 なるほど、これは、初見殺しにも程がある。

 もし俺に、生命の気配が見えなければ、何も気づけないまま透明人間に殺されていた可能性は大きい。

 

「行宗さん、透明人間がきます……」

 

 リリィさんが、慌て声を上げる。

 あぁ、だいじょうぶ、見えてる。

 

 ビュゥゥ……

 

 アドロギースが、手を降り下ろす。

 透明な気配が、三方向から三人、襲いかかってきた。

 どうする……

 殺さずに無力化したいが。もし相手がマルハブシの猛毒を飲んでいれば……

 俺は殺されるかもしれない。

 だったら……逃げるか? 

 いや……残り6分半の賢者タイムで、逃げてばかりで、何になる?

 

 俺は、後悔したんだ。

 ニーナとヨウコを殺すのを、躊躇ってしまったから。

 俺のせいで、誠也さんは死んだ。直穂が居なくなった。

 小桑原啓介さんの避魔病も、もしかしたら、間に合っていたかもしれない。

 

 …………

 

 こいつらも、王国軍の基地で、大量の人間を殺戮しているのだ。

 ……もし全員、マルハブシの猛毒を飲んでいるのなら、

 俺が殺さなくても、息絶える運命なら……

 ………………

 …………

 ……

 

 ズバァァァン……!

 

 俺は、透明な気配を、光の剣で切り落とした。

 勘づかれるとは、思っていなかっただろう。

 周囲の透明な気配が、露わになっていく。

 ……真っ赤な返り血が、顔と手に降りかかって、気持ち悪い。

 腹部を両断された、三人の子供の獣族。

 みんな即死の致命傷で、俺の目の前に倒れ込んでいた。

 

 ドク……ドク……ドク……

 

 また、殺してしまったな。

 心臓の音が、うるさくなっていく。

 身体が小刻みに震え出す。

 でも……思考は、恐ろしいほど冷静だった。

 ……ニーナとヨウコと、同じような年齢の、子供たちだった。

 

「ひっ……ひゃぁああああっ!」

 

 蘭馬(らんま)くんが、金切り声で発狂する。

 

『貴様ぁあああっ! よくも……よくもっ!!』

 

 獣族語で、叫び声が反響した。

 アドロギースの声では無い。

 

『死して償(つぐな)え……人間のクズがぁっ!』

 

 透明な気配が、叫びながら、襲いかかってきた。

 冷静さを欠いたのか……彼は自分が透明であることを、忘れているみたいだ。

 

 ギャァァン

 

 俺は、間髪入れず光の剣を薙ぐ。

 しかし、硬い感触に、防がれた。

 黒い鎧のようなもので、光の剣を、止められた。

 振動が木霊する。

 すぐに彼の姿が露わになった。

 その顔立ち、疲れきった顔であったが……俺は頭が真っ白になった。

 ……つり目と尖がった口元に……

 それは、獣族マナトの顔に、髭を生やしたような顔立ちだった。

 

 「マナトの父親が、ここに来ている」と、蘭馬(らんま)から聞いてはいたけれど。

 ……実際、目の辺りにすると、想像以上にそっくりだった。

 

 俺は……いつのまにか、視界を滲ませていた。

 あれ、おかしいな、

 思考は冷静なはずなのに……

 どうして、涙が溢れて止まらないのだろう。

 

「……ネメト、そこに居たのかよっ!」

 

 蘭馬(らんま)くんが、掠れ声で叫んだ。

 

「……なぁ行宗、獣族語で伝えてくれよ!

 ネメトの子供たちはまだ生きてるって! ニーナも、ヨウコも、マナトも! 元気に生きてるんだって!」

 

「あぁ、分かったよ」

 

 俺は、平静を装って返事をした。

 マナトの父親……ネメトは、獣族語を喋れないのか。

 ……ここでもし、違う内容を伝えれば、アドロギースに嘘を気づかれてしまうから。

 俺は、嘘を嘘のまま、本当みたいに伝えることにした。

 

『ネメト……あんたの子供たちは、生きているよ。

 ニーナも、ヨウコも、マナトも……獣族独立自治区で、幸せに暮らしているんだよ……』

 

「なんだとっ……!」

 

 ネメトの目が、驚愕で見開かれる。

 最低の人間だな、俺は。

 

「……マナト、ヨウコが、生きている……! バカなっ、あの夜はっ! 王国軍の大群に囲まれていたんだぞ! 南都蘭馬に騙されて……外に連れだされて、全員捕まって殺されたんだ……!

 俺だけは革命軍に助けてもらったが……ほかの家族は、誰も見つからなかった……

 いいや、まさか……生きているのか、本当なのか……?」

 

 剣を防ぐ装甲が、ネメトの動揺で震えているのが、分かった。

 

『……ネメト、お前はここで死ぬ。マルハブシの猛毒からは、逃れられないから』

 

俺は、震え声で彼に語りかけた。

 

『だが……子供たちに、言葉を残してくれないか……? マナトも、ヨウコも、ニーナも……みんなお父さんに会いたがっていた……必ず俺が伝えるから』

 

「あぁ……あぁ……」

 

 ネメトは、膝を落として、その場にうずくまっていた。

 

『よせ、ネメト……戯言に耳を貸すなっ! 

 獣族の子供たちが安心して暮らすために、戦うんだろ!? 

 生きていたとして、死んでたとしても……その誓いは変わらないだろうが!!』

 

 アドロギースが、慌てた口調で、喚いていた。

 いつの間にか、近くの生命の気配が、遠くへ離れていくのが分かる。

 

『マナトが言ってたよ、「父さんはいつでも身を挺して、俺たちを守ってくれた」って。「言葉を教えてくれて、知識を教えてくれた」、「拷問みたいな毎日のなかで、生きる楽しみを教えてくれたのは父さんだった」、って。

 ……ニーナも、ヨウコも、たくましく育ったのは、あんたのお陰なんだと、俺は思うよ』

 

 これは、本心だ。

 まったく、どの口が言っているんだろうな。

 あんなに綺麗な心を持った二人を、俺は、手にかけてしまったんだ。

 目の前のネメトも、アドロギースも……

 きっと俺と、何も変わらないのだ。

 俺も、大切なものを守るために、命を奪い取った殺人鬼だから。

 

「チッ……くそが……」

 

 アドロギースが、傍に倒れ込んだ二人を抱えて、どこかに逃げていくのが見えた。

 しかし、彼を追いかける気力は、俺にはない。

 今は、目の前のネメトに、向き合うだけの気力しかなかった。

 

『……マナトたちが……幸せに暮らせる世界は……俺が作ってやるから……』

 

 俺は、ネメトにそう誓った。

 我ながら、随分とカッコいい事を言ったものだ。殺人鬼の分際で。

 

『……ニーナ、ヨウコ、マナト……会いたい……今すぐに、会いたい……』

 

 ネメトは、虚ろな目をしていた。

 

『……必ず、伝えるから……遺言を届けるから……』

 

 俺は、ネメトの手を両手で握って、寄り添うようにしゃがみこんだ。

 あぁ……だめだ。

 このまま嘘を信じたまま、彼は死んでいくのだろうか?

 恨まれるだろうな……

 しかし……ここで真実を話すのは、あまりに自分都合で、俺自身が楽になりたいだけじゃないのか……

 苦しい……あまりに苦しくて。

 彼の遺言だけは、一言一句漏らさず聞き取って、届けなくてはいけないと思った。

 

 ザシュ……

 

「は……?」

 

 突如。

 目の前で、鮮血が噴き出した。

 ネメトの首に、頭に、

 手裏剣のような刃物が、突き刺さって、

 ぐちゃり…と、肉が刻みつけられていた。

 

 彼は、なんの言葉も発することなく……

 どしゃりと、地面に崩れ落ちた。

 二つの手裏剣には、それぞれ黒いヒモのようなものが付いており、

 俺の背中側からだらんと伸びていた。

 

 振り返る。

 そこには、二人の女がいた。

 

「行宗(ゆきむね)……! あぁっ! 良かったぁぁああっ!」

 

 そのうちの一人、浅尾和奈(あさおかずな)が、咳を切らしたように泣き出して、俺に飛びついてくる。

 ……ぶん殴りたいと思った。

 だけど、獣族の子供を三人切り刻んだ俺に、八つ当たりする資格はないよな。

 

「……ごめんね……! 役に立てなくてごめん。助けられなくてごめん……私がっ、行宗(ゆきむね)を女装させたせいで……!」

 

 浅尾和奈(あさおかずな)は、痛いくらい強く、俺を抱きしめていた。

 もう一人の女の人が、ゆっくりとした足取りで、近づいてくる。

 

「へぇ、あなたが噂の万浪行宗(まんなみゆきむね)ねぇ、その女装趣味は見なかったことにして……なかなかイケてる男じゃない……」

 

 年上のお姉さんは、そう言いながら、ネメトに刺さった手裏剣を回収していた。

 そうか、手裏剣を使ったのは、この人だったのか。

 良かった。和奈じゃなくて、本当に安心する。

 俺は和奈に人を殺してほしくないんだ。絶対に。

 手を汚すのは、俺だけで十分だ。

 

 彼女の手裏剣は、よく見ると二枚刃になっていた。

 二枚刃の間には、隙間があって、そこから黒いヒモが巻き付いていく。

 まるでヨーヨーみたいに。

 

「お前っ……なんでネメトを殺したんだ! 彼にはもう、戦う意思はなかったじゃないか!」

 

 蘭馬(らんま)が、彼女に噛みついて叫んでいた。

 俺の感じたやるせなさを、蘭馬(らんま)が代わりに、全部ぶちまけてくれた気がした。

 

「……あらあら、これまた可愛らしいショタ……いいえ、男の子がいたものね……南都蘭馬(らんま)くんかしら?」

 

 女は、飄々としていた。

 彼女は、誰だ?

 俺は、和奈(かずな)に耳打ちして聴いた。

 

「私もよく分からない。ただ、クラスメイトの恩人なんだって。雅遥香(みやびはるか)と佐倉菜乃葉(さくらなのは)ちゃん達、さっき会ってきたの」

 

 クラスメイト? 雅遥香(みやびはるか)と佐倉菜乃葉(さくらなのは)……

 

「聞き覚えはあるよ……たしか和奈(かずな)と、仲良かったよな……」

 

「ふふ……ホントにクラスメイトのこと、覚えていないんだね」

 

 和奈(かずな)と一緒に、少しだけ笑いあって。

 気持ちが軽くなった。そんな時だった。

 

 

 

 ィィィィィィィィィイイン……

 

 頭の上から、モスキート音のような、煩い轟音が突如として鳴り始めた。

 空気が、ドン、ドンと揺れている。

 飛行機の音より、もっと大きい。大空を歪ませるような音であった。

 夜空の上を、見上げてみれば。 

 

 ……え?

 

 俺は、目を疑った。

 空の上には、大空を覆い尽くす、巨大な魔法陣が広がっていたのだ。

 復讐竜の群れのなす円環を、なぞる様な、青色に輝く軌跡が描く、複雑な線模様。

 幾何学的で、立体的な、三重の魔法陣であった。

 この感じ、どこかで、見覚えがある。

 青く光る魔法陣……それをみたのは、ダンジョンのなかでも数回だけだった。

 

「……転移魔法陣……」

 

 リリィさんが呟いた。次の瞬間。

 空が、核爆発を起こしたみたいに、真っ白に消し飛んで色を失った。

 

 ギァアアアアァン……!!

 

 遅れて音、続いて熱波と暴風が押し寄せる。

 一体、何が起きているのか?

 落ち着いて、目を開けてみれば……

 

 空から舞い降りてきたのは、漆黒の巨大な金属の塊だった。

 宇宙戦艦とか、巨大ロボットとか、そういう呼称が似合いそうな物体。

 まるでこの世界に似つかわしくない。メタルチックな逆さ円錐型のモンスターが、空中に現れて浮かんでいた。

 

 モンスター名:【天国の番人(ヴァルテミス)】

 

 いったい、どこからこんなものを、転移させたのか?

 

《……おーい。よく聞けぇ。ガロン王国のクソどもがぁ!》

 

 続けて、空の上から、拡声器のような声が轟いた。

 空の上に、誰か居る。

 人の声の大きさではない。ナグサバ地区の街全体に轟くような大声である。

 その声は、転移魔法陣が存在した中心部……漆黒の巨大龍の影から、聞こえてくるようだった。

 

《オレの名はエース!

 マナ騎士団剣聖5位……シャイニング・エース様である!!!》

 

 力強くハスキーな男声は、空の上からそう名乗った。

 

《……これは、マナ王国が誇る伝説の禁術……【転移(テレポート)】である……!

 我こそが、獣族最強の戦士、シャイニング・エース……! 

 マナ王国による、獣族への特殊スキル移植実験……その成功例がこの俺だ》

 

 ……シャイニング・エースって……

 マナ騎士団の、剣聖第五位だと。

 転移魔法を使って、この機械モンスターを召喚した? ……なぜそんな、大逸れたことを……

 アイツは一体、何者なんだ?

 分からないことが多すぎて、俺の脳内はパニックになっていた。 

 

 ポン

 

 と肩を叩かれて、俺は我に返った。

 

「あんたしかいないね。あそこまで飛べるのは」

 

 手裏剣ヨーヨーのお姉さんが、神妙な面持ちで俺に言った。

 

「……賢者タイムには、時間制限があるんでしょう? 【天国の番人(ヴァルテミス)】ってモンスターは、うちらで何とかするから。さ、早く行って!」

 

「は、はいっ!」

 

 有無を言わせぬ口調に、俺は身体をこわばらせて返事した。

 残された賢者タイムは、3分10秒。

 ウルトラマンと活動限界と、同じくらいだね。

 そう考えると、凄いよな、ウルトラマン。

 

「生け捕りでお願いしますよ!」

 

「行宗(ゆきむね)っ、無茶しないでね」

 

 リリィさんと和奈(かずな)の声を、背中で受け止めながら、

 俺は全速力で、天へ昇った。

 

 

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