クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

106 / 106
百一発目「葉桜音羽と血まみれの百合」

ー浅尾和奈視点ー

 

「……みんな……私は、助けにいかなきゃいけない人がいるの」

 

 私は、再会の雰囲気から後ずさるように、そう言った。

 

「何か、あったの?」

「言われてみれば。顔色が悪いぞ。困ってるのか?」

「手伝おうか、私たちに出来ることなら」

 

 私のことを、心配してくれる友達がいる。

 彼女たちに泣きついて、全てを任せてしまいたい自分がいる。

 

「ムリムリ。やめときな。お前じゃアイツは倒せんよ。

 私はこの目で、ナグサバ基地の王国軍がなすすべもなく、蹂躙されるのを見たんだ。

 お前たちには死んでほしくないからな」

 

 葉桜音羽(はざくらおとは)……

 私を抱っこして来た謎の女が、真剣な声で呟いた。

 

「……危ないのは、嫌かも」

「まぁ、ね……」

「おいオトハ、何ビビってんだよ! うちは和奈に協力するよ!」  

 

 小野優香、雅遥香、佐倉菜ノ葉がつづけて言った。

 久しぶりに、クラスメイト達に会うと、やっぱり不思議な感覚だった。

 彼女たちは、前の世界の教室で過ごした思い出が大半だから。

 あの現実を思い出すと、まるで夢を見ているような気分に陥るのだ。

 

「……それで、助けたい人って、誰なの?」

 

「万浪行宗だよ」

 

「……あぁ……」

 

 私が答えると、時が止まったみたいに、空気が静まり返った。

 あれ……そっか。

 彼女たちは、行宗について、良い印象を持っていないらしい。

 そりゃそっか、スイーツ阿修羅との戦いで、白昼堂々オ〇ニーしてたし。

 みんなの目線では、自慰スキルを出ししぶって、クラスメイトを危険に晒してるし。

 私と直穂を生き返らせる選択をして、クラスメイトみんな、元の世界に帰れなくなったんだからさ。

 

「……和奈ってさ、行宗のこと好きなの? 恋人だったりする?」

 

 揶揄うというよりは、探るように、雅遥香が尋ねてきた。

 

「付き合ってはないよ。でも、今では家族みないな関係かもね。ほら、義理の兄弟みたいな……? あはは……

 行宗はね、私を助けてくれた。何度も、何度もね。私にとって行宗は、ヒーローみたいな存在なんだよ……」

 

 四人は、ポカンと口を開けて、呆然としていた。

 眉を顰めて、首を傾げる人もいる。

(どうしてあんな男に)

(だまされてるんじゃない?)

 そんな心の声が聞こえてくる気がした。

 あぁ、そっか。ごめんなさい。

 行宗のことを、助けたいとは、思えないよね。

 

「……私、一人で戦えるから。再会できたばっかりだけど、私、行かなきゃいけない。……ごめんね」

 

 私は、後ろを向いて一人で走りだした。

 

「まてよ和奈っ!」

「えっ どういうことっ!」

 

 彼女たちと談笑している時間はない。

 行宗とリリィちゃんを助ける。

 あの獣族から、行宗の居場所を聞きだす……

 倒せるのかな……倒さなきゃいけない……

 ……また何も出来ないまま、殺されてしまうかもしれない。

 

 ……私が、殺されるとして、その結果は、行宗が望んでいるのかな?

 違うよね。間違いなく。

 私……どうすればいい。

 

「……分からない……たすけて……」

 

 足をもつらせて、地面に身体を打ちつけた。

 痛いなぁ……

 石造りの道路は、少し泥っぱくて、濡れていた。

 身体に力が、入らないなぁ。

 起き上がるだけなのに、全力を出しても、気力は湧いてこない……

 

「おーいっ! 和奈ぁっ! 待てっての!」

 

 遠くから、息切れした佐倉菜ノ葉の声がした。

 

「手伝うって言ってんだろ! 一人でつっぱりしるなよ!」

 

 彼女は私に向かって走ってくる。

 つづいて、複数の足音が近づいてきた。

 

「……なに、泣いてんだよ、和奈…… 一人で無理してんじゃねぇよ。バカ……」

 

 菜ノ葉は、私の身体を抱え込んで。汗ばんだ身体で抱きしめてきた。

 

「……なん……で? ……みんなは、行宗が嫌いなんじゃないの……?」

 

 温かい。

 私は、菜ノ葉の優しい身体に包まれて、涙がとめどなく溢れ出していた。

 

「……まぁ、好きではないかもね」

 

 落ち着いた声で、小野優香がぼそりと言った。

 

「なんか生理的に受け付けないし、彼の選択、現実世界に帰らない選択のせいで、もっと酷いことが起きた。……みんなバラバラになって、岡野大吾が処刑されたし……」

 

「……えぇと、その話だけど……」

 

 (……岡野大吾は生きてるよ。リリィちゃんに……アキバハラ公国の友達から訊いたから)

 

 と、言いかけて、止めた。

 たしか、リリィちゃんは、「処刑を偽装した」と話していた。

 特に、葉桜音羽(はざくらおとは)さんの素性が分からない以上……

 ここで話すのはよくないかもしれない。

 

「……ん?」

 

「……あ、えっと……その…… 行宗のこと、どうか許してあげてほしいの……」

 

 私は、ちょっと誤魔化しながら言った。

 

「……和奈がそういうなら、力になるって言ってんの! ……私は和奈を信じてるから、和奈が信じる人も信じてる!」

 

 菜ノ葉、相変わらず男前だなぁ……

 私の友達でいてくれて、ありがとう。

 

「……私はね。戦っても勝てない、って言っただけよ」

 

 葉桜音羽が口を開いた。

 

「……戦わずに助ける方法を、考えようって言ってんの。

 私があなたを助け出したみたいにね。

 必ずしも倒す必要はない。隙をついて助けるだけなら、不可能な話じゃない」

 

 葉桜音羽、彼女は明らかに年上のお姉さんだ。

 私たちのクラスメイトではない。でも既視感がある。一体何者なのだろう?

 

「……とにかく、やれるだけ精一杯手伝うよ。……他の同志たちにも連絡を頼める? 美冬?」

 

「了解…… 【遠隔思念(テレパス)】…………」

 

 神田美冬が、目を瞑って、何か呟くように口を動かしはじめる。

 

「ねぇ……みんなは、一体、なんの組織なの?」

 

 私は、呆気に取られながら質問をした。

 

「……私達は、桔梗(ききょう)……女だけの召喚勇者集団だよ」

 

 桔梗……?

 

「組織目的は、『みんなで日本に帰ること』。

 そして私が、桔梗のリーダー、葉桜音羽(はざくらおとは)だよ。

 この世界に転移したのは16年前……28才のピチピチお姉さんだぞ?」

 

 28才、16年前ってことは、12才の時に転移したのか?

 葉桜音羽って、聞き覚えのある名前だったけど。

 16年前って、ちょうど私が生まれた頃に、転移したってことだよね?

 もしかして現実世界では有名人だったのかもしれない。

 

 「……さ、積もる話は後にして、まずは二人で様子を見に行こうか?

 和奈と私なら、素早く離脱できるからね」

 

 葉桜音羽が手を伸ばしてくる。

 私は混乱しつつも、その手を取るのだった。

 

 

ーーーーー

 

ー万浪行宗視点ー

 

 ザバァ……

 

 俺は、南都蘭馬を抱えながら、川の底の檻から飛び出した。

 美しかった空の水色は、太陽が沈んで薄暗く染まっている。

 ここがガロン王国、ナグサバ地区。

 カラフルな色合いの、和風チックな建築が並び。目の前には立派な要塞と城がある。

 あぁ、火事が起きている。

 

 俺は……生命の気配を探っていた。

 この要塞も……ところどころ炎が立ちのぼり、ほとんど生命の気配が残っていない。

 見つけた。

 一箇所に複数固まっているようだ。

 生命の気配が、十人ほど密集しているのが見えた。

 

 自慰賢者による生命の気配の感知範囲は、せいぜい半径500m圏内である。

 抱きかかえた蘭馬くんに負担にならないように、人の集まる場所へと向かう。

 まずは状況を把握せねば。 

 蘭馬くんが言うには、和奈とリリィさんは、船から川に飛び込んで爆発を免れたらしいが……

 

 え?

 空の上から、遥か上空に、生命の気配が複数あった。

 見上げてみると、黒い竜の群れが見える。

 円環をなして徘徊している。

 あれは一体……なんで、ここに居るのか?

 あのモンスターは間違いない。復讐竜である。

 雲に隠れている巨大な影は、【漆黒の巨大龍(ブラックグレートドラゴン)】に違いない。

 3か月前にマグダーラ山脈に向かう道中で、俺が倒した黒い竜。

 しかし、奴らはただ、空をぐるぐると徘徊するだけである。

 復讐竜という別称の通り、手を出せば群れをなして襲ってくるため……こちらから安易に手出しは出来ない。

 しかし、あとで確認しておく必要があるな。

 

 キィィィィン……

 

 俺たちは、そこに降り立った。

 見つけた。

 見覚えのある大男が、見覚えのない獣族の特徴を発現させて、そこにいた。

 「獣耳を切り落として、人間に擬態している」と、蘭馬くんが話していたけれど。

 たしかに彼は獣族だった。船の上で話しているときは、全然気づかなかった。

 

「……貴様ら、沈んだと思っていたが、生きていたか」

 

 彼は、アドロギースというらしい。。

 船の上で、蘭馬くんの父親を偽っていた大男である。

 俺は両目に力を込めた。賢者の目、それは、対象のステータスを推し量ることができる。

 

ーーーーーー

アドロギース

レベル:???

特殊スキル:【透明付与(ギブ・インビジヴ)】

状態異常:マルハブシの猛毒

ーーーーーーー

 

 マルハブシの猛毒……!

 その文字列を見た瞬間、全身が沸騰するような感覚がした。

 マルハブシの猛毒と、獣族……

 二つの要素が相まって、あの地獄の夜が、今にもフラッシュバックしてきそうである。

 

「お前……マルハブシの猛毒を飲んだな……一体それを、誰から貰ったっ!」

 

 怒りのあまり、荒い言葉を吐き捨てる。

 くそっ、違うだろ。冷静になれよ俺。

 和奈とリリィの無事を確認することが、先なんじゃないのか。

 

「……猛毒、何を言うか。 この薬のお陰で俺は、忌々しき王国に復讐できるのだ」

 

 アドロギースは、淡々と答える。

 俺は、愕然とした。

 

「お前、マルハブシの猛毒の効果を知らないのか? 飲んだら最後、一時間後には死ぬんだぞ……」

 

「馬鹿が。もちろん知っている。貴様には到底理解できぬだろうよ。命を捧げて獣族の尊厳を取り戻そうとせん想いが……」

 

 俺は、あたりを見渡した。

 血と肉の焼けつく匂いが、そこらじゅうに充満していた。

 

「この短時間で、いったい何人殺した……?

 一方的な虐殺だったハズだ。お願いだから、この無意味な争いを止めてくれ。間違いなく戦争になるぞ。人も獣族も死に続ける、何の意味もない、取りかえしのつかないことになる……」

 

「勝つのは……我々獣族だ。我々には、マナ騎士団の加護がついているからな……」

 

 マナ騎士団……。

 関係しているのか。

 マルハブシの猛毒という文字列から、うすうす勘づいてはいたが……

 俺の知る限り、マルハブシの猛毒を所持しているのは、マナ騎士団だけである。

 薬に詳しいフィリアも、知らないかったからな。

 いや……小桑原啓介から知らされていなかったというべきか。

 

「一方的な虐殺が可哀そうか……おもしろいことを言う人間もいたものだな。お前たちが、いったいどれだけの獣族を、虐殺してきたと思っている!!」

 

 ……アドロギースは声を荒げる。

 俺の隣の蘭馬君は、耐えるように、静かに涙を流していた。

 俺の周囲を、ゆっくりと、複数の生命の気配が囲む様子が伺えた。

 しかし、目視では確認できない。

 6人が全員、透明人間のようだ。

 アドロギースの特殊スキル、【透明付与(ギブ・インビジヴ)】の効力だろう。

 

 姿を視認できないため、賢者の目でも、詳細なステータスを確認することはできなかった。

 

 それとは別に、まったく動かない生命の気配が幾つかあった。

 そのうち4つは、アドロギースの周囲に固まっている。

 アドロギース本人と、縄で縛られて気絶している子供と、男性の二人組。

 さらに後ろには、誰かがアドロギースを護衛するように立っている。これも透明人間で、視認することはできなかった。

 

 問題は、もう1つ。

 孤立した一つの生命の気配である。

 彼女は地面に伏せて、身体に槍を貫通させて、倒れていた。

 

 背丈は低い、暗さでよく見えないが、おそらく白色のツインテール……

 いや、少し黄みがかって……

 ……リリィさん……!

 

 俺は、蘭馬くんを抱え上げる。

 そして勢いよく、金髪の少女へと駆けつけた。

 

「……リリィ! おいリリィ! 無事なのか!?」

 

 軽く頬を叩いてみる。うぅ……と苦しそうに眉を顰めた。

 槍は……彼女の背中に突き刺さっていた。

 くそっ……回復魔法は使えないのか……

 この槍は、抜いてもいいものか、大量出血で死ぬかもしれない……

 もう、友達を失うのは嫌なんだ。何かあるはずだ。早く医者に診せにいく……医者を連れてくる……あぁくっそ……こんな時にフィリアが居れば……

 

 ……待てよ。思い出したぞ。

 俺は、フィリアから預かっていたものがあったはずだ。

 俺と和奈は、回復魔法と解毒魔法の魔法陣を、一枚づつ貰っていた。

 和奈の回復魔法陣は、フェロー地区の獣族を助ける時に、使ってしまっていたけれど。

 俺の魔法陣なら残っている……一か八か……

 いや……ダメだ!

 あれはバッグの中にしまっているから、手元にないじゃないか!

 

「……【回復(ヒール)】」

 

 突然、聞き覚えのある、リリィさんの澄んだ声がした。

 腹部を刺されていることを、全く感じさせないような声色だ。

 

「……死んだふりをしていたんですが、行宗さんに見つかってしまいました。無事そうで何よりです……」

 

 少々疲れているようだが……彼女は微笑んでいた。

 リリィさんの下半身の、悲惨な光景は幻だろうか?

 

「……おい、身体、大丈夫なのかよ」

 

「……みっともなく、盛大にお漏らしてしまいましたね。致命傷は避けられましたが……殺されかける機会なんて滅多にありませんから…… 行宗さん、槍を、抜いてくれませんか?」

 

 お漏らしって……

 いやいやもっと、大変なことがあるだろうが……

 たしかに、リリィさんの周りには、不自然な水たまりがつくられていた。血で赤く染まっていて、もはや血だまりというべきか。

 彼女に言われて、戸惑いながらも頷き、背中の槍を抜い取った。

 

「うぅ……あぁんっ……」 

 

 苦痛というより、どこか卑猥な声で、彼女は呻いた。

 まるでか弱い女の子を拷問しているみたいな気分になって……背筋が身震いする。何かこれは、いけない、危険な感覚だよ。

 

「……【回復(ヒール)】」

 

 彼女は回復魔法を詠唱した。

 頬を上気させながら、涙を溢すリリィさんを、不覚にも可愛いと思ってしまう。

 いろいろ気まずい気分になり、俺は彼女から目を逸らした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。