クラス転移した俺のスキルが【マスター〇ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
ー浅尾和奈視点ー
良かったぁぁぁ。
私の涙腺が静かにほどけた。
あぁ、この感じ。
小さい頃、迷子になった時を思い出すなぁ。
小学2年生くらいだったっけ? 兄と両親の四人でディズニーランドに行った時。
グッズ売り場で歩き回っていたら、いつの間にか、私は迷子になっていた。
頭が真っ白になって、パニックになって……
私は店内をぐるぐる回ってから、お店の前で永遠に待つことを決意した。
このまま二度と両親と会えなくなったらどうしよう。
そんな不安が脳内で留まることを知らない。
実際は、10分も立たないうちに、お父さんが駆けつけてきてくれた。体感は1時間だったけれど。
どうやら、お兄ちゃんが携帯電話をどこかで落としてしまったらしい。お兄ちゃんもパニックになって大変な状況だそうだ。
そんな事情を知らない私は、人目を憚らず大声で泣き出した。
お父さんは私に、何度も何度も謝ってくれた。
そんなトラウマのせいで、私は千葉に住んでいながらディズニーランドは苦手なんだよね。
……お父さん、お母さん、お兄ちゃん……
いま、なにをしてるのかな?
……会いたいよ。
つい、家族を思い出して
寂しい気持ちを思い出した。。
いまの私は、ずっとずっと迷子だ。
もう数か月、父さんにも母さんにも、会えていない。
「和奈っ……!」
「ありゃ、もう解決できたの?」
明るい女の子達の声。
私が顔を上げてみれば、クラスメイトの女子四人が、飛び出してきていた。
加えて、知らない女性が二人、近づいてくる。
空飛ぶロボットが動き出す。
火炎放射器みたいな腕を振り、ナグサバ地区の彩り和風な街並みを、炎の噴射で蹂躙し始めた。
見上げれば、空の上。
私もうずくまっている場合じゃない。
私は膝を立てて、起き上がった。
辺りには血の匂いが充満していた。
獣族の子供の死体が四つ、大人の獣族の死体が一つ。
私は
やるせない罪悪感と共に、血の焦げたような匂いに慣れつつある自分の鼻に、私は驚いた。
「それでオトハ、これからどうするの?」
クラスメイトの
彼女はすばしっこくて、私以上に身体能力に長けていると思う。
使用武器は、「手裏剣ヨーヨー」正式名称は知らないけど。
二枚刃手裏剣のヨーヨーに、巻き取る糸を取り付けて。人の身体までぶら下げられる強靭な糸だった。
彼女は頭も良さそうだし、なるべく敵に回したくないタイプだ。
「
私は対人戦特化だからねー
あんな巨大なモンスター相手じゃ、あんたらならともかく、私は足出纏いだねぇ……」
「え? そうなんですか?」
「音羽さんは、対人戦では負け無しですから……モンスター戦も得意だと思っていたのですが」
「もちろん、普通のモンスターなら平気。
でも、ああいう図体がデカい防御タイプは、とことん相性が悪いのよね」
「よし、こうしましょう! 私はまず! この男の子と、そこの金髪少女を、安全な場所に送り届ける!
そのあと、逃げ遅れた人の救出を頑張ってみるよ。
あのロボットは皆に任せてもいい?。もちろん、無理はぜったいダメだよ。私たちは全員生きて、故郷日本に帰るんだから!」
「「了解!」」
葉桜音羽の指示に、女子達は声を揃えて返事した。
その雰囲気は、軍隊ほどの堅苦しい感じはなかった。 アットホームで温かい感じ。女子の運動部に似ている……
まるで強豪女子バレー部の円陣みたいな雰囲気だなと、少し胸が高鳴った。
「いやだ、汚い手で触るなっ! こんクソババアっ!」
「あらあら、元気な男の子でよろしい! ますます可愛がりたくなっちゃうー」
「触るなっ……気持ち悪い。酒臭いしっ……! この糸……ほどけよっ……!」
少し考えてみたが、私の頭では何も分からない。
「金髪お嬢さんも、血は止まってるみたいだけど……
寝転んで休める場所まで、連れて行ってあげるからね」
「はい……そういう事なら、助かります」
リリィちゃんがそう答えると、彼女もあっという間に抱えられた。
二人を抱いた
私が空へ連れ去られたときも、あんな感じだったのだろうか?
「……和奈、心配しないでいいよ。
「そうだね。今はあのロボットを倒すことに集中したほうがいいみたい」
私は足をストレッチした。久しぶりに暴れられる。
人間を蹴るのは、どんな相手だとしても、心が痛いけれど……
相手がモンスターやロボットなら一切の遠慮はいらない。
何の気兼ねも痛みもなく、私の心の赴くままに蹴り続けることができるのだ。
しかも、壊したとしても、弁償代を払わなくていい。
最高のサンドバックではないか。
「私も、久しぶりに和奈と遊べて、嬉しい!」
私も、久しぶりに胸が躍っていた。
今すぐ走りだしてしまいたい。
現在進行形で、巨大ロボット【天界の使者】は、街を燃やして闊歩しているのだから、
私は、病気明けからずっと、人と戦うことしかしてこなかった。
私は飢えていたんだ。
罪悪感なく蹴り飛ばせる相手の存在に。
ストレス発散には、退屈しない相手かな?
【アドロギース視点】
「はぁ、はぁ……」
我は息切れをしながら、大河ヘスティアのほとりまで、逃げてきた。
部下の子供たちを連れながら、捕獲したガロン王国第一皇子とその騎士の身柄を抱えて。
……まったく、酷い目にあったな。
マルハブシの猛毒の力で、圧倒的の力を手に入れても、我々のような凡人は、本物の強者には敵わない。
だが……目的は達成された。
➀軍港の爆破による、王国の北部と南部の交通の妨害
②アキバハラ公国から帰宅途中の、第一皇子「ピラウス・ガロン」の捕獲
③地上のかく乱と、襲撃。上空の作戦に、気づかれないようにするためだ。
……私にしては、上出来の仕事ができた。
「お前たち、獣族の未来のために、よく戦ってくれた」
我は、感慨深く、慕ってくれている子供たちに語りかけた。
「この先は、お前たちの仕事だ。第一皇子と、騎士アバルティスの身柄を、本部まで届けてくれ。絶対に傷つけず、丁重に扱うんだぞ。転移魔法陣の場所は分かるな?」
「分かりました。女神様に誓って……」
子供たちが、小舟に乗って行く。我の余命も終わりに近づいている。
「達者でやれよ。お前たち」
我はこれからを生きる彼らを、明るい未来へ送り届ける義務がある。
「ありがとうございました」
「お世話になりましたっ!」
手向けられた言葉を噛みしめて、私は最後の戦いに挑むのだ。
もし彼と出会わなければ、我は何も成せないまま、平穏に生を終えていたかもしれない。
二十二年前、突如として戦争の終わりが告げられた。
ガロン王国国王の計らいで、獣族独立自治区が設けられる。
私は怒りを収めることが出来なかった。
結婚したばかりの妻と、大切な娘と。命を預け合った戦友を何人も失ったというのに……
私だけが生き残って、復讐をする権利も、奪われてしまったのだから。
ガロン王国に服従し、独立自治区での安住を選んだ獣族たちにも、怒りを覚えたい。
いったい、獣族としての誇りはどこへ捨てたのか?
私は獣耳を切り落とした。
そして、ガロン王国の最南部……海沿いの都市トルキア地区に潜入した。
人間のふりをして。
南方の方言は、人間の標準語をよりはずっと簡単だった。
漁師をしたり、農業したり。
人間と一緒に暮らすのも、悪くはなかったさ。
十数年が過ぎて、久しぶりに上からの任務が届いた。
『獣族奴隷の密売が流行っている、購入者側に潜入して、調査と保護をして欲しい』
とのこと。
裏社会の商いに潜り込んでいくなかで、保護した獣族奴隷たちは、少しずつ増えて行った。
彼らの面倒を見ていくうちに、このままではいけないという想いが募る。
獣族の尊厳を取り戻したいという想いが、再び強く蘇ってきたのだ。
ギラギース地区の救出作戦にて、私はネメトという男に出会った。
彼を通じて
これを利用しない手はない。
それに、
それから間もないうち、私は上からの指示で、「シャイニング・エース」と名乗る獣族の男と出会った。
転移魔法陣や、マルハブシの猛毒など、
彼は王国軍でさえ知らないような機密情報を教えてくれた。
表向きの彼は、マナ騎士団の剣聖第五位と名乗っていた。
しかし私には、本当の正体を教えてくれている。
彼は、マナ騎士団を自称している。
しかし、マナ騎士団という組織は、現在も実在しているらしい。……大昔に滅びた王国の騎士団の名乗る、高い技術力を抱えた集団。
彼はマナ騎士団の施設にて、獣族に特殊スキルを付与する実験のモルモットとして、育てられたらしい。
彼は実験の、数少ない成功例だった。
【転移】スキルと【使役】スキル。
その両方を定着させて、生きているのだ。
『特殊スキル付与実験』の責任者は、アキバハラ公国の名医、「シャイニング・ジョーカー」であったという。
……にわかには信じがたい話だ。
しかし彼は、その研究に心を痛めたようで、獣族の女性と共に組織から逃亡を図ったらしい。
その際に、彼も助けられたと言っていた。
彼は、恩があるからこそ、自らを「シャイニング・エース」と名乗っている。
……彼の目的は、ガロン王国への復讐とは、また別にある。
それは、マナ騎士団への復讐だった。
……彼らは完全秘匿組織であり、施設から逃亡した後に探りを入れても、まったく尻尾を掴めなかったそうだ。
だからこそ、
彼の知り得るマナ騎士団の機密情報を、広く周知させてやる、と。
この世界には、逆立ちしても敵わない化け物がいる。
先ほどの白く輝く剣士も、そうだった。だが……それはお前も同じだろう。シャイニング・エース……
我は、彼を信じている。
きっと彼なら、獣族の未来を切り開ける。
その夢を見せて貰えるだけで、我がここで死ぬ意味もあるのだ。
………ん?
……誰かいる。
人間の子供だろうか?
細い路地を歩いていると、ぽつりと一人、隠れるようにうずくまっている子供がいる。
殺すのは心が痛い……
だが、この子供が大きく成長したとき、未来の獣族を殺めるかもしれない。
……獣族の未来のために。
白地に赤い線の入ったフードを被り、猫のようにうずくまり、背中を揺らしている子供……
私は小刀を抜き、突き殺そうとした、
その刹那。
フードの女の子は、まばゆい光で、発光をはじめた。
月の光でキラキラと靡く髪の毛……
その頭の上には、天使のような円形の輪っかが、ぷかぷかと光って浮かんでいた。
……ぐしゃり、
視界が歪んで、天地がぐるんとひっくり返る。
自分の身体が、地面にくっついたまま、遠ざかっていく。
視界が赤く褪せていく、
私は首を斬られたのだと、遅れて気がついた。
次の瞬間には、彼女は音を立てないまま、視界から気配を消していた。
痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……
地面に首がぽとりと落ちる。
空に浮かぶ月に向かって、流星のような光が飛んでいくのが、見つけられた。
今日はとことん運が悪いなぁ。
化け物から逃げられたと思ったら、それ以上の化け物に轢き殺された。
あっけない最後だったな。
……二十二年前も、たくさんの同胞たちが、あっけなく死んでいった。
そうだなぁ……彼ら彼女らに比べれば、仕事を完遂して死ねる我は、とても幸せ者なのだろう……
もうこの世に、未練などない。
最後に気持ちよく暴れさせてくれて、ありがとうよ。女神サマ。
もう、すぐに会いに行く。
愛する妻と息子たちへ。
やがて、強い眠気が襲ってきて。
我は静かに、その目を閉じた。