クラス転移した俺のスキルが【マスター〇ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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百三発目「見上げた一等星は、希望の色」

ー浅尾和奈視点ー

 行宗(ゆきむね)が生きていた。

 良かったぁぁぁ。

 私の涙腺が静かにほどけた。

 あぁ、この感じ。

 小さい頃、迷子になった時を思い出すなぁ。

 小学2年生くらいだったっけ? 兄と両親の四人でディズニーランドに行った時。

 グッズ売り場で歩き回っていたら、いつの間にか、私は迷子になっていた。

 頭が真っ白になって、パニックになって……

 私は店内をぐるぐる回ってから、お店の前で永遠に待つことを決意した。

 このまま二度と両親と会えなくなったらどうしよう。

 そんな不安が脳内で留まることを知らない。

 実際は、10分も立たないうちに、お父さんが駆けつけてきてくれた。体感は1時間だったけれど。

 どうやら、お兄ちゃんが携帯電話をどこかで落としてしまったらしい。お兄ちゃんもパニックになって大変な状況だそうだ。

 そんな事情を知らない私は、人目を憚らず大声で泣き出した。

 お父さんは私に、何度も何度も謝ってくれた。

 そんなトラウマのせいで、私は千葉に住んでいながらディズニーランドは苦手なんだよね。

……お父さん、お母さん、お兄ちゃん……

 いま、なにをしてるのかな?

……会いたいよ。

 つい、家族を思い出して

寂しい気持ちを思い出した。。

 いまの私は、ずっとずっと迷子だ。

 もう数か月、父さんにも母さんにも、会えていない。

「和奈っ……!」

 

「ありゃ、もう解決できたの?」

 明るい女の子達の声。

 私が顔を上げてみれば、クラスメイトの女子四人が、飛び出してきていた。

 加えて、知らない女性が二人、近づいてくる。

 行宗(ゆきむね)を空に送り出してから、ほんの十秒、泣いていた。

 空飛ぶロボットが動き出す。

 火炎放射器みたいな腕を振り、ナグサバ地区の彩り和風な街並みを、炎の噴射で蹂躙し始めた。

 見上げれば、空の上。行宗(ゆきむへ)の賢者の光が戦いを始めている。

 私もうずくまっている場合じゃない。

 私は膝を立てて、起き上がった。

 辺りには血の匂いが充満していた。

 獣族の子供の死体が四つ、大人の獣族の死体が一つ。

 私は行宗(ゆきむね)に、また人を殺させてしまったのか。

 やるせない罪悪感と共に、血の焦げたような匂いに慣れつつある自分の鼻に、私は驚いた。

「それでオトハ、これからどうするの?」

 クラスメイトの小野優香(おのゆうか)が、音羽(おとは)に尋ねた。

 葉桜音羽(はざくらおとは)。

 彼女はすばしっこくて、私以上に身体能力に長けていると思う。

 使用武器は、「手裏剣ヨーヨー」正式名称は知らないけど。

 二枚刃手裏剣のヨーヨーに、巻き取る糸を取り付けて。人の身体までぶら下げられる強靭な糸だった。

 彼女は頭も良さそうだし、なるべく敵に回したくないタイプだ。

「行宗(ゆきむね)くんには、大見えを切ったけどね……実際あんな巨大ロボット、どうしろっていうのよ?

 私は対人戦特化だからねー

 あんな巨大なモンスター相手じゃ、あんたらならともかく、私は足出纏いだねぇ……」

 

「え? そうなんですか?」

「音羽さんは、対人戦では負け無しですから……モンスター戦も得意だと思っていたのですが」

「もちろん、普通のモンスターなら平気。

 でも、ああいう図体がデカい防御タイプは、とことん相性が悪いのよね」

 

 葉桜音羽(はざくらおとは)の弱気に、クラスメイト四人は意外そうな様子だった。

「よし、こうしましょう!  私はまず! この男の子と、そこの金髪少女を、安全な場所に送り届ける!

 そのあと、逃げ遅れた人の救出を頑張ってみるよ。

 あのロボットは皆に任せてもいい?。もちろん、無理はぜったいダメだよ。私たちは全員生きて、故郷日本に帰るんだから!」

「「了解!」」

 葉桜音羽の指示に、女子達は声を揃えて返事した。

 その雰囲気は、軍隊ほどの堅苦しい感じはなかった。  アットホームで温かい感じ。女子の運動部に似ている……

 まるで強豪女子バレー部の円陣みたいな雰囲気だなと、少し胸が高鳴った。

「いやだ、汚い手で触るなっ! こんクソババアっ!」

蘭馬(らんま)くんが、額に血管を浮かせながら、葉桜音羽(はざくらおとは)の手を振り払う。

「あらあら、元気な男の子でよろしい! ますます可愛がりたくなっちゃうー」

 葉桜音羽(はざくらおとは)は飄々とした態度で、手裏剣ヨーヨーの糸を絡めて、蘭馬(らんま)の身体ををぐるぐるに縛り、ひょいと抱え上げた。

「触るなっ……気持ち悪い。酒臭いしっ……! この糸……ほどけよっ……!」

 

 蘭馬(らんま)くんはなんで、音羽(おとは)に対して怒っているんだろう?

 少し考えてみたが、私の頭では何も分からない。

「金髪お嬢さんも、血は止まってるみたいだけど……

 寝転んで休める場所まで、連れて行ってあげるからね」

「はい……そういう事なら、助かります」

 リリィちゃんがそう答えると、彼女もあっという間に抱えられた。

 二人を抱いた葉桜音羽(はざくらおとは)は走り出し、夜の闇へと姿を消した。

 私が空へ連れ去られたときも、あんな感じだったのだろうか?

「……和奈、心配しないでいいよ。

 音羽(おとは)は純粋に、仲間想いで情に熱いお姉さんだよ……ちょっとカッコつけてるだけなんだよ」

 佐倉菜乃葉(さくらなのは)が、私の肩に手を乗せてくる。

 

「そうだね。今はあのロボットを倒すことに集中したほうがいいみたい」

 私は足をストレッチした。久しぶりに暴れられる。

 人間を蹴るのは、どんな相手だとしても、心が痛いけれど……

 相手がモンスターやロボットなら一切の遠慮はいらない。

 何の気兼ねも痛みもなく、私の心の赴くままに蹴り続けることができるのだ。

 しかも、壊したとしても、弁償代を払わなくていい。

 最高のサンドバックではないか。

「私も、久しぶりに和奈と遊べて、嬉しい!」

 菜乃葉(なのは)は白い歯を見せて笑った。

 私も、久しぶりに胸が躍っていた。

 今すぐ走りだしてしまいたい。

 現在進行形で、巨大ロボット【天界の使者】は、街を燃やして闊歩しているのだから、

 私は、病気明けからずっと、人と戦うことしかしてこなかった。

 私は飢えていたんだ。

 罪悪感なく蹴り飛ばせる相手の存在に。

 ストレス発散には、退屈しない相手かな?

 

 

 

 

【アドロギース視点】

「はぁ、はぁ……」

 我は息切れをしながら、大河ヘスティアのほとりまで、逃げてきた。

 部下の子供たちを連れながら、捕獲したガロン王国第一皇子とその騎士の身柄を抱えて。

 ……まったく、酷い目にあったな。

 マルハブシの猛毒の力で、圧倒的の力を手に入れても、我々のような凡人は、本物の強者には敵わない。

 だが……目的は達成された。

 

➀軍港の爆破による、王国の北部と南部の交通の妨害

 

②アキバハラ公国から帰宅途中の、第一皇子「ピラウス・ガロン」の捕獲

 

③地上のかく乱と、襲撃。上空の作戦に、気づかれないようにするためだ。

 

 ……私にしては、上出来の仕事ができた。

「お前たち、獣族の未来のために、よく戦ってくれた」

 我は、感慨深く、慕ってくれている子供たちに語りかけた。

「この先は、お前たちの仕事だ。第一皇子と、騎士アバルティスの身柄を、本部まで届けてくれ。絶対に傷つけず、丁重に扱うんだぞ。転移魔法陣の場所は分かるな?」

「分かりました。女神様に誓って……」

 子供たちが、小舟に乗って行く。我の余命も終わりに近づいている。

 

「達者でやれよ。お前たち」

 我はこれからを生きる彼らを、明るい未来へ送り届ける義務がある。

「ありがとうございました」

 

「お世話になりましたっ!」

 手向けられた言葉を噛みしめて、私は最後の戦いに挑むのだ。

 もし彼と出会わなければ、我は何も成せないまま、平穏に生を終えていたかもしれない。

 

 二十二年前、突如として戦争の終わりが告げられた。

 ガロン王国国王の計らいで、獣族独立自治区が設けられる。

 私は怒りを収めることが出来なかった。

 結婚したばかりの妻と、大切な娘と。命を預け合った戦友を何人も失ったというのに……

 私だけが生き残って、復讐をする権利も、奪われてしまったのだから。

 

 ガロン王国に服従し、独立自治区での安住を選んだ獣族たちにも、怒りを覚えたい。

 いったい、獣族としての誇りはどこへ捨てたのか?

 

 私は獣耳を切り落とした。

 そして、ガロン王国の最南部……海沿いの都市トルキア地区に潜入した。

 人間のふりをして。

 

 南方の方言は、人間の標準語をよりはずっと簡単だった。

 漁師をしたり、農業したり。

 人間と一緒に暮らすのも、悪くはなかったさ。

 十数年が過ぎて、久しぶりに上からの任務が届いた。

 『獣族奴隷の密売が流行っている、購入者側に潜入して、調査と保護をして欲しい』

 とのこと。

 裏社会の商いに潜り込んでいくなかで、保護した獣族奴隷たちは、少しずつ増えて行った。

 彼らの面倒を見ていくうちに、このままではいけないという想いが募る。

 獣族の尊厳を取り戻したいという想いが、再び強く蘇ってきたのだ。

 

 ギラギース地区の救出作戦にて、私はネメトという男に出会った。

 彼を通じて南都蘭馬(何度らんま)という貴族と、関係を持つことができたのだ。

 これを利用しない手はない。

 それに、南都蘭馬(なんとらんま)の父親は、獣族奴隷市場の権力者でもあったから。

 

 それから間もないうち、私は上からの指示で、「シャイニング・エース」と名乗る獣族の男と出会った。

 転移魔法陣や、マルハブシの猛毒など、

 彼は王国軍でさえ知らないような機密情報を教えてくれた。

 表向きの彼は、マナ騎士団の剣聖第五位と名乗っていた。

 しかし私には、本当の正体を教えてくれている。

 彼は、マナ騎士団を自称している。

 しかし、マナ騎士団という組織は、現在も実在しているらしい。……大昔に滅びた王国の騎士団の名乗る、高い技術力を抱えた集団。

 彼はマナ騎士団の施設にて、獣族に特殊スキルを付与する実験のモルモットとして、育てられたらしい。

 彼は実験の、数少ない成功例だった。

【転移】スキルと【使役】スキル。

 その両方を定着させて、生きているのだ。

 『特殊スキル付与実験』の責任者は、アキバハラ公国の名医、「シャイニング・ジョーカー」であったという。

……にわかには信じがたい話だ。

 しかし彼は、その研究に心を痛めたようで、獣族の女性と共に組織から逃亡を図ったらしい。

 その際に、彼も助けられたと言っていた。

 彼は、恩があるからこそ、自らを「シャイニング・エース」と名乗っている。

……彼の目的は、ガロン王国への復讐とは、また別にある。

 それは、マナ騎士団への復讐だった。

 

……彼らは完全秘匿組織であり、施設から逃亡した後に探りを入れても、まったく尻尾を掴めなかったそうだ。

 だからこそ、暴露(ばくろ)してやるのだと、彼は言った。

 彼の知り得るマナ騎士団の機密情報を、広く周知させてやる、と。

 

 この世界には、逆立ちしても敵わない化け物がいる。

 先ほどの白く輝く剣士も、そうだった。だが……それはお前も同じだろう。シャイニング・エース……

 

 我は、彼を信じている。

 きっと彼なら、獣族の未来を切り開ける。

 その夢を見せて貰えるだけで、我がここで死ぬ意味もあるのだ。

 

 ………ん?

 ……誰かいる。

 人間の子供だろうか?

 細い路地を歩いていると、ぽつりと一人、隠れるようにうずくまっている子供がいる。

 殺すのは心が痛い……

 だが、この子供が大きく成長したとき、未来の獣族を殺めるかもしれない。

 ……獣族の未来のために。

 

 白地に赤い線の入ったフードを被り、猫のようにうずくまり、背中を揺らしている子供……

 

 私は小刀を抜き、突き殺そうとした、

 その刹那。

 フードの女の子は、まばゆい光で、発光をはじめた。

 月の光でキラキラと靡く髪の毛……

 その頭の上には、天使のような円形の輪っかが、ぷかぷかと光って浮かんでいた。

 

 ……ぐしゃり、

 

 視界が歪んで、天地がぐるんとひっくり返る。

 自分の身体が、地面にくっついたまま、遠ざかっていく。

 視界が赤く褪せていく、

 私は首を斬られたのだと、遅れて気がついた。

 次の瞬間には、彼女は音を立てないまま、視界から気配を消していた。

 

 痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……

 

 地面に首がぽとりと落ちる。

 空に浮かぶ月に向かって、流星のような光が飛んでいくのが、見つけられた。

 

 今日はとことん運が悪いなぁ。

 化け物から逃げられたと思ったら、それ以上の化け物に轢き殺された。

 あっけない最後だったな。

 ……二十二年前も、たくさんの同胞たちが、あっけなく死んでいった。

 そうだなぁ……彼ら彼女らに比べれば、仕事を完遂して死ねる我は、とても幸せ者なのだろう……

 もうこの世に、未練などない。

 最後に気持ちよく暴れさせてくれて、ありがとうよ。女神サマ。

 

 もう、すぐに会いに行く。

 愛する妻と息子たちへ。

 

 やがて、強い眠気が襲ってきて。

 我は静かに、その目を閉じた。

 

 

 

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