クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
―浅尾和奈視点ー
真っ暗な夜の森の中
神獣マルハブシが、人間を襲っていた。
神獣マルハブシは、地面にはりつけにされた白フードの少女へと、接近すると。
カバのような口をひろげて、今にも少女を食べようとしていた。
そのマルハブシを囲むように、迷彩色の軍服をきた人たちが、みんな木の上に登って、じっとその様子を眺めている。
彼らは何をしているのだろうか?
人がモンスターに襲われているのに、逃げないのだろうか?
よく分からないけれど、私がすべきことは変わらない。
自慢のキックで、神獣マルハブシをブッ飛ばす!!
走る走る。
地面を蹴り上げてジャンプする。
大きく足を振りかぶり、私は光り輝く毛だるまに、得意のキックをお見舞いした。
「【
ガツン!!!
重い衝突音がなり、私の足に鈍い痛みが走る。
(重いっ……)
思わず顔をしかめた。
ふり抜いた足ジンジンと痺れる。
コイツの身体、硬くて重いっ。
いちおう、私のレベルは53なんだけどな。
全く歯が立たなかった。
でもおかしいな。
私は疲れているのだろうか? 身体がだるい。
ただひとつ、ハッキリしたことがある。
私では逆立ちしても、コイツを倒すのは不可能だと。
どうしよう?
逃げるしかないだろう。
白フードの女の子を背負って、遠くへ。
私は討伐を諦めて、倒れる少女へと駆けつけた。
「……え……?」
私は絶句した。
白フードの少女は、身体中に太い釘を刺されて、出血していた。
血まみれで、地面にはりつけにされていたのだ。
とても、現実とは思えない。悪夢。地獄。
心臓が凍えるようだった。
受け止めきれない衝撃に、私は息ができなかった。
これ……? 生きてるの??
私は動揺した。
でもすぐに、震える手をグッと押さえ込んだ。
大丈夫、大丈夫だ。
直穂がきっと、
地獄なら、さんざん見て来ただろう。
クラスメイトが血まみれで倒れていく、あのボス戦の地獄の景色を。
でも、私達は諦めなかったから。
今も私はここにいて、行宗くんと直穂がいる。
今回もきっと大丈夫だ。
「直穂っ!! この子を回復してっ! 早く来てっ!!」
私は叫んだ。
少女の細い腕から、太い釘を抜いていく。
釘を抜いた箇所から、真っ赤な血が、噴水のように噴き出して。
神獣マルハブシの発光によって、キラキラを赤く輝いていた。
チラリと、少女の白いフードの中を確認した。
赤茶色の髪の少女は気絶していた。
年齢は、十七才の私よりも少し下に見える。
さらに少女の頭には、私にないモノがあった。
大きなネコ耳がついていたのだ。
まさかこの子は、リリィちゃんが話していた「獣族」だろうか?
刺さった釘を全て抜き終えた私は、血まみれの少女の背中へ手を差しこんだ。
早く逃げよう。
そう思い、立ち上がったときには、すでに手遅れだった。
「危ないっ!!」
声の主は、前方で血まみれで倒れている男だった。
この少女と同様に、大きな釘を刺されている、30代くらいの男性。
その切羽詰まった顔をみて、私は慌てて後ろを振り返った。
そこには視界いっぱいに大きな口が広がっていた。
マルハブシの口がそばにあった。
私は、マルハブシに食べられる寸前だった。
あれ? おかしいな? 音も気配もしなかったのに。
というか、追いつくの早くない? バランス崩してたよね?
だめだ、詰んだ。間に合わないっ。
私は逃げようと焦ったが、身体がまったく動かなかった。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……
でも、私の腰は完全に抜けていた。
殺される。
私は後悔していた。
私の悪い癖だな。向こう見ずで突っ込む所。
ごめんね行宗くん。
せっかく2回も、私の命を助けてくれたのにっ。
ほんとに、ごめんなさいっ。
迷惑ばかりかけて、ごめんさない。
たすけて。
ドゴッ……
という、小さな鈍い音がした。
そしてモンスターの動きが止まった。
何が起こったのだろうか?
とにかく、助かった。
私は獣族の少女を抱え上げて、急いでモンスターから距離を取った。
全力で走りながら、チラリと目線を後ろにやった。
そこには、行宗くんがいた。
行宗くんが小さな拳で、マルハブシの左側面を、ぶん殴っていたのだ。
―万浪行宗視点ー
思い切り、拳を振り抜いた。
マルハブシの身体には、胴体を横断するほどの大きな傷があった。
その部分にだけ、真っ白な発光する体毛が生えていなかったのだ。
そこを殴れば、少しは効いてくれると思ったのだが。
マルハブシは少し震えて、動きを止めて。
凶暴な顔面を、俺へと向けたのだった。
攻撃が効いた気配はなかった。
賢者になれる時間はなかった。
俺は生身の身体である。
生身の俺の攻撃が、神獣なんていう強そうなモンスターに、効くわけがない。
でも……
俺の拳は、浅尾さんを助けた。
そしてマルハブシの意識を、俺へと移すことができた。
作戦は順調だ。
あとはリリィさんとユリィが、何とかしてくれるはずだ。
「行宗さんっ! 離れてくださいっ!!」
リリィさんの叫びが、マルハブシの足元から聞こえた。
どうやら無事に、マルハブシの真下へと、潜りこめたようだ。
「ユリィっ!! 今ですっ!!」
「はいっ!」
リリィさんに抱えられたユリィは、両手を空へ、マルハブシの巨体へと伸ばした。
誰もいない大空へと向けることで、ユリィは人の命を巻き込むことなく、思う存分魔法を放てる。
ユリィは、必殺の魔法を詠唱した。
「【
刹那、世界の色は真っ白に消し飛んで。
暗い夜は吹き飛ばされた。
耳をつんざく雷鳴と、衝撃波が襲いかかり、天と地が曖昧になる。
俺は、自分の鼓動の音しかしない、真っ白な世界に倒れ込んだ。
………
ゆっくりと目を開いて、空を眺める……
そこには、マルハブシの明かりは消えて、真っ暗闇の夜かあった。
満点の星空が広がっている。
宝石をばら撒いたような天の川が、大空を横切るように、壮大にあった。
綺麗だ……
昔、おじいちゃんおばあちゃんの家で見たような、田舎の澄んだ夜空。
月より明るく輝いていた、神獣マルハブシは、跡形もなく消滅していた。
大きな魔法の余韻が、いまだにビリビリと大気を震撼させている。
なんだ、この魔法は……
神獣マルハブシを、骨も残さず、消し去るほどの魔法なんて。
もしかしてユリィさんは、賢者の俺や天使の直穂よりも、強いのではないだろうか?
「【
直穂の声がした。
振り返ると直穂が、浅尾さんの抱えた白フードの少女へと駆けつけていたようで、
血まみれの少女に回復魔法を使っていた。
浅尾さんの安心した表情を見るに、どうやら少女は無事らしい。
一方、リリィさんとユリィは、魔法を撃った姿勢のままだった。
ぐったりとしたユリィを抱え込んだままのリリィさんは、地面に座り込んでいた。
「ユリィっ……流石ですよっ」
「おねぇさま……はぁ、はぁぁ……」
ユリィは疲れた様子で、リリィさんにもたれかかっていた。
あんなトンデモ魔法を放った直後である。
疲れるのは無理もない。
「おい……奴はどこにいった?」
「何がおこったんだ??」
「マルハブシが消えた??」
そして周囲の軍人たちが、混乱したような声をつぎつぎとあげた。
その声は次第に勢いを増して、
ついには怒号が飛んできた。
「貴様らっ!! 神獣マルハブシをどこへやったっ!? あれの生け捕りには、1100万ガロンの価値がある!! 吐けっ! やつをどこに隠したっ!!」
一際大きな声で、木の上から叫ぶ男は、小太りの中年だった。
身に着けているのは、威厳のある軍服。この軍隊のリーダーだろうか?
ご丁寧に、手から炎を出しているので、彼の位置や、怒った表情まで繊細にみえた。
神獣マルハブシを生け捕りにするだと?
「大きく光っていたモンスターなら、あたしの妹が魔法で倒しましたが? なにか文句でもありますか?」
リリィさんの声とは思えない、低い声だった。
リリィさんの言葉に、周囲の軍服たちは動揺した。
「は? 倒したって?」
「嘘つけよ…… 神獣を一撃なんて無理だ。骨も残さず倒すなんてあり得ない……」
「いや……だがしかし、これは……」
「どこかに転移させたのでは?」
そんな中で、小太り男は、目を血走らせて俺達へと怒鳴った。
「貴様ら……全員、両手を上げて降伏しろ!!」
あまりの迫力に、俺だけでなく直穂や浅尾さんも、ビクリと身体を硬直させた。
ユリィも、不安そうに姉を見上げていた。
ただ、リリィさんだけが、不安げな様子もなく、堂々とソイツを睨みつけた。
「それはこちらのセリフです、今なら見逃してあげますよ? 死にたくないのなら、あなた達全員、すぐにこの場から立ち去ってください」
リリィさんは、怒った声でそう言った。
「ふふっ。ガキのくせに面白い事をいうなぁ? 今お前らを囲んでいるのは、ガロン王国軍の精鋭部隊だぞ? たった五人で戦えるとでも?
さらに教えてやろう。お前たちの足元には、爆破魔法陣が仕掛けられている。俺の機嫌一つで、お前らは爆死するんだよ!!」
爆破魔法陣だと!?
俺は、自分の足元を確認した。
だが、目立った魔法陣の模様は見つからなかった。
「あなた方の多重詠唱型魔法陣と、あたしの高速詠唱、どちらが早いか勝負してみますか? 10秒だけ待ってあげます。 先ほどのモンスターと一緒に、天国に行きたい者は、どうぞご自由にこの場に残って下さい」
「貴様っ! うっ、嘘をつくなっ!! でまかせだろうつ!!」
小太り男は、嫌な汗を振りまきながら、両手をブンブンと左右に振った。
「10、9、8、7……」
リリィさんは静かな声で、でも確実に一つづつ、10から0までの数字を数え始めた。
リリィさんの伸ばした両手の先に、真っ白な光が集まっていく。
「……いっ……嫌だっ!! 俺はまだ死にたくねぇよっ!! 逃げるぞっ!!」
「……あいつは、きっと魔女だっ、バケモンだっ!!」
「でも、神獣は消えてるんだろ? なら、アイツらが倒したのは本当なんじゃないか?」
「おい! 俺を置いていくなっ!!」
周囲の軍服たちは、動揺を隠せずに、一人、また一人と、森の中へと駆けだした。
「おいまて貴様らっ!! 分かりやすい嘘に騙されおってっ!! 逃げるなっ!! 王国の反逆者として処刑されたいのか!?」
小太り男が激怒をするが、その口は隣にいた若者に塞がれた。
「大隊長…… ここは退くべきです。もし、あの少女の言葉が本当で、彼らが神獣マルハブシを一撃で倒したのなら、俺達に勝ち目はありません。強さの次元が違います」
「ギルア貴様っ、このまま尻尾を巻いて逃げろと言うのか!? ここで退けば、私は責任を取らされて、首を斬られてしまうっ!?」
「安心してください。俺がなんとかします。信じてください。
今回は相手が悪かったんです。あの少女は
「た……確かにそうだな」
「逃げましょう、ヤツの機嫌を損ねないうちに」
小太り男は、ギルアという青年の助言によって、背中を向けてこの場から走りだした。
王国軍が、みんな逃げていく。
この場に残っているのは、俺とリリィさんとユリィ。
白いフードの少女を抱えながら、唖然としている直穂と浅尾さん。
さらにもう一人、男がいたのだ。
30代くらいのおじさんである。
血まみれで釘を刺されたおじさんは、仰向けに倒れたまま、逃げていく王国軍を凝視していた。
そしてついに、大声をあげた。
「待てっ!! 待ちやがれえぇぇっ!! 頼むっ! 頼むっそこの金髪少女っ!! あいつらを皆殺しにしてくれっ!! ぶち殺してくれっ!! あいつらは、フィリアをっ!! あの純粋なフィリアを、ぐちゃぐちゃに汚しやがったんだっ!!!」
その男は、リリィさんに懇願した。
ボロボロと涙を流して、歯をぐっと噛み締めていた。
血まみれの惨状に気づいた直穂が、焦った様子で男に駆け寄った。
リリィさんは、男の叫びを無視した様子で、じっと王国軍を睨みながら、ただ数字を数えていた。
「……2、1、ゼロ。 ユリィ? 近くに潜伏している王国軍はいますか?」
「いませんっ…… みんな逃げました」
「そうですか…… はぁぁ………」
そのときリリィさんは、心底安堵した様子でため息をついた。
「なんでっ……! なぜ逃したんだっ! アイツらはフィリアをっ、酷い目にっ!! ゴホッ!! ごほっ!!」
血まみれのおじさんは涙目で、リリィさんを恨めしそうに睨んで、
そして吐血した。
新崎さんが、慌てた様子で男に駆け寄り。
「【
と、彼を治療した。
「はぁ………はぁ、あり、ありがとう……」
その男はぐったりとした様子で、新崎さんに感謝した。
「フィリアを、助けてくれてっ、本当にありがとうっ……彼女は無事なのか!? どうなのだっ!?」
「気絶してますけど、もう大丈夫ですよ。フィリアちゃんの怪我は、私が治しましたから」
直穂の優しい声に、男はフッと脱力して、ボロボロと涙を溢れかえした。
「ぅっ、ぅううっ、うわぁあぁぁぁあ!!」
大人の人が、こんなに泣いているのは初めてみた。
でも、それは悲し涙ではない。嬉し涙だろう。
彼にとって、フィリアという女の子は、すごく大切なのだろう。
俺は、胸が暖かくなった。
勇気を出して、マルハブシをぶん殴って良かったと思った。
俺の勇気で、この人は救われたのだ。
それは凄く嬉しくて、気分がいい。
「すいません。でも、あたしには、王国軍を皆殺しにする魔法なんて使えませんから。二人の命が無事なだけで、満足して下さい」
リリィさんが、申し訳なさそうにそう言った。
「あぁ、そうだなっ、ありがとう金髪少女っ」
「リリィです」
「そうか、リリィ。 ありがとうっ。ありがとうっ、私の名は
日本人っぽい名前だな、と思った。
ん? あれ?
リリィさん、なんか変なことを言わなかったか?
「あたしには、王国軍を皆殺しにする魔法なんて使えません」
って、
「ちょっと待って、リリィさん。皆殺しにすると言って王国軍を脅したのは、嘘をついていたのか?」
「そうですよ。 迫真の演技だったでしょう? 私は特殊スキルも強力な応用スキルも使えませんからね」
リリィさんは、ニヤリと意地悪そうな笑みでそう言った。
「えっ? 嘘で騙したってコトか?? もし見破られていたらどうなってたんだ?」
「そりゃあ、私も行宗さんも殺されてますよ。でも安心して下さい、あたしはバレるような嘘はつきませんから。王国の貴族にとって、嘘は最大の武器ですからね」
「そ、そうなのか……」
リリィさんが言うなら、そうなのか?
俺は、心臓がサッと冷えた感覚に陥った。
もしかして、実は先ほど、とんでもない大ピンチだったのか?
「ユリィの魔法は本物ですからね。 神獣マルハブシを一撃で倒したのも本当です。
それを目の当たりにした彼らなら、私の嘘も信じてしまうでしょう。
ユリィの魔法なら、王国軍を一瞬で皆殺しに出来たかもしれません。
まあユリィは、連続で魔法を使えないので無理でしたが。
ユリィは、私と違って天才なんです」
リリィさんは、少し辛そうな顔でそう言った。
俺はリリィさんに抱かれたユリィへと、視線を落とした。
いつのまにか、幼いユリィは、あどけない顔で、スヤスヤと眠りについていた。
「今日は、2回も魔法を使わせてしまいました。おまけに水泳までしたんです。ユリィには無理をさせました。明日のためにも、早くログハウスに戻らなければいけませんね」
リリィさんは微笑みながら、ユリィのおでこをさらさら撫でた。
そのリリィさんの表情は、寂しそうにも見えた。
突然。
ガサガサガサッ、と、木々が擦れる音がした。
何事だ、慌てて振り向くと、そこから化け物が現れた。
上半身裸でムキムキの、毛むくじゃらの男達。
顔立ちは、まるでドーベルマンのように険しく、両手には刀やら大斧やら、炎の燃え盛る松明など、各々の武器を握り締めている。
彼らには、大きな獣の耳があった。
まさか彼らが、獣族だろうか?
俺は、今日のあまりに全身が引きつった。
恐ろしい姿、オオカミ男のような人間の化け物。
「ーーー・・・ーー・・・・・・!!」
20匹ほどの獣族の、戦闘部隊囲まれて。
中央で腕を組んだ、背の高い獣男が、大声で雄叫びをあげた。
それは、獣の雄叫びにしか聞こえなかったが、何かを話しているようにもみえた。
俺は後ろを振り返ると、新崎さんと浅尾さんは怯えていた。
リリィさんだけが、冷静に彼らを見つめていた。
ユリィはぐっすりと眠っていた。
「ーー・・・・ーーーー・・・・・」
リリィさんが、雄叫びを返すように、低い呻き声をあげた。
俺には、ウーウーという獣の鳴き声にしか聞こえなかった。
「ーーー! ・・・ーーー・・・・・・・!!」
獣の戦士達はどよめいて、リリィさんへと雄叫びを返した。
俺の分からない領域で、リリィさんと獣族たちの、コミュニケーションが進んでいく。
「リリィ……… 獣族語が、分かるのか?? 彼らはなんと言っている?」
しばらくして、どうやら話し合いの結論が出たようで、
リリィさんは、はぁとため息をついて、俺達へと振り返ったり
「彼らは、獣族の娘のフィリアさんを助けてくれたことに、感謝しています。 私達を、すぐそばの獣族独立自地区に案内して、一晩、泊めてくれるそうです」
感謝してる? 泊めてくれるだと?
いやいや、あの獣族たち、怖くないか?
「どうですか? 行宗さん、新崎さん、誠也さん。 せっかくですので、彼らにもてなしてもらいませんか?」
リリィさんは、少しハイテンションで、興奮した様子だった。
「あの? 大丈夫なの? また襲われたりしない?」
不安そうに、浅尾さんが尋ねた。
「大丈夫ですよ、彼らの言葉は本当です。
王国貴族は、嘘を見抜くのも一流ですからねっ」
地震満々に胸を張るリリィだが、本当に大丈夫なのだろうか?
その自信はどこから?
「私は、行ってみたいかも…… この、フィリアちゃんと、友達になりたいし……」
そんな新崎さんの言葉に、
「王国貴族だと? お前はまさか? アキバハラ王国の貴族なのか? なぜこんな場所にっ?」
と驚く
それを聞いたリリィさんは、目をまんまるに見開らいた。
「あ…… そ、そうでしたね。あなたもいたんですね、
リリィさんは、それまでの自信が嘘のように、目をキョロキョロ泳がせながら、肩を縮こませた。
そういえば、このガロン王国と公国は、冷戦状態だったからな。
リリィさんとしても、公国の貴族だと知られるのは、リスクなのだろう。
しかし……今、アキバハラ公国と聞こえたのだが。
聞き間違いか? たまたま名前が、アキハバラに似ているだけなのだろうか?
「あぁ、もちろんだ。私は何も聞かなかったと約束する」
「はい……感謝します」
リリィさんは不安げに、冷や汗を拭っていた。
あのリリィさんが動揺するなんて……
俺は、不安を覚えずにはいられなかった。
「ーー・・・ーーー・・・・!!」
ドドドドドドドドッ!!
俺達に向かって駆け寄る音がした。
ハッと顔を上げると、小柄な獣族の少年だった。
彼は、凄い形相で、俺達に襲いかかってきたのだ。
「ーー・・!? ーーー・・・!! ーーー・!?」
他の獣族達も、心底驚いた様子で、彼を止めようと大声を上げる。
彼を追いかける者もいた。
俺は拳を握った。
俺は、レベル52だ。
きっと大丈夫、みんなを守れるっ!
え??
ちがった。
その少年は、大粒の涙を流していた。
くしゃくしゃに顔を歪めて、泣いていたのだ。
嬉し涙だろうか? 悲し涙だろうか?
彼の心の内は、分からないけど……
俺はそんな彼を、とてもじゃないが、殴れなかった。
「ーー・・!!」
彼は、俺を通り過ぎて、叫んだ。
そして浅尾さんが抱えたままの、白フードの少女、獣族のフィリアに駆け寄って。
抱きついた。
「ーー・・!! ーー・・!! ーー・・!!」
彼は、同じ言葉を連呼した。
曖昧な発音だけど、かすかに"フィリア"と、聞こえる気がする。
「ーー・・・・!! ・・・ーー!!」
獣族少年は、気絶したフィリアを強く抱きしめて。
そして、彼女の唇に、キスをした。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、と、
唇同士が甘く重なり、
その少年は、フィリアとの再会に喜んでいた。