クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
あれから22年が経った。
私はガロン王国軍フェロー地区駐屯部隊、中隊長となっていた。
今年で32才の独り身である。
私は王国の兵として、獣族との戦争に身を捧げてきた。
私の原動力は、
戦争は激しさを増し、昨日まで同じ釜の飯を食べた仲間が、死に絶えてゆく日常だった。
しかし、戦争の終止符は唐突に打たれた。
ガロン王国の国王ーーガルマーンが、獣族奴隷の解放を、宣言したのだ。
それは、獣族の独立自治区を認め、互いに不可侵条約を守るというものだった。
その協定は決して平等ではなく、獣族達を土地の痩せた地域に追いやるものだった。
だが、約束された平和と奴隷の解放宣言に満足する獣族も多く。
獣族反乱軍は勢力を失っていき、戦争は終わりを告げた。
この22年間、私は沢山のものを失った。
仲間を失い、獣族皆殺しの夢も失い、残ったのは惰性だけ……
今日も国境の近くで、国境を越えた獣族達を処分している。
「
悲しそうな叫びで、私の部屋に飛び込んできた若者は、私の部下のギルアだ。
基本的に、獣族の罪人に人権はない。
よってギルアのように、獣族の罪人を、性奴隷として欲しがる者も多いのだが……
「アイツは立派な女戦士だった。恥を晒すよりも死を選ぶヤツだった。ならば応えるのが礼儀だろう」
私は、バカな部下にそう言った。
私には、獣族の言葉は分からない。
だが彼女の瞳を一目見て、信念の大きさぐらいは分かったのだ。
今日つれて来られた獣族の女戦士は、勇敢な目をしていた。
痣だらけで泥だらけ、裸に
ボロボロの姿で、鋭い眼光で
私には、その勇敢な女戦士を、それ以上
だから、その場で殺してやったのだ。
私も、戦士としての礼儀を持って。
「えぇぇ? 戦士といっても罪人ですよ? 殺しちゃあもったいないじゃないですかぁ! まだ若くてピチピチの女ですよ!? 一回くらい使わせて欲しかったのにぃ!!」
私の部下――ギルアは、涙を浮かべた顔で、私を非難した。
やはり彼女を、性奴隷として飼いたかったようだ。
王国の法律では、女性を無理やり犯す事は、禁止されている。
ただし、獣族の罪人にだけは人権はない。
つまり、どんな仕打ちをしても構わないのだ。
まあ罪人といっても、王国の領土に足を踏み入れた時点で罪人となる。
「脱出者」と言った方が、正しいかもしれない。
脱出者のほとんどは、テロリストだ。
独立自治区の貧しさに不満をもち、王国にテロを目論む獣族達だ。
獣族戦士のほとんどは男である。
もちろん女戦士もいるにはいるが、容姿端麗な女戦士なんてなかなかいない。
脱出者として次に多いのが、獣族の土地を追放された者だ。
獣族の社会での、軽罪人や身体障害者、社会不適合者。
いわゆる嫌われ者たちである。
男をみても女をみても、ほとんどが死んだ目をしていて、魅力的とは程遠い。
一方で、今日捕まえた女戦士は強く気高く、瞳には強い信念が宿っていた。
獣族が憎い私だが、信念のある獣族に対しては、ある程度の尊敬の念を持っている。
しかし……
「お前は、
私にとっては、獣族との性○為など、考えただけで吐きそうなのだが。
獣臭い、汚い、頭が悪い。
気持ち悪い、言葉が通じない、すぐに引っ掻いてくる。
お金を積まれたってお断りだ。
「そういう事は、愛する女性とするものだろう。
大嫌いな獣との、殺意を向けられながらの行為なんて、どこが良いんだ?」
そうだ、セ○クスとは、女の子と愛で繋がる行為である。
「それが良いんじゃないですか~! 屈辱感と羞恥にゆがんだ泣き顔をながめながら、好き放題にもてあそぶ、最高でしょう!
優越感というか、支配している感じが気持ちいんです。
俺は女の泣き顔が大好きなんすよ〜。分かりませんか~?」
「分からんな」
ギルアは、ふざけた口調でケラケラと笑った。
何がおかしいのか分からなかった。
本気で言っているのか、冗談なのかも分からない。
しかし、私の意見は一つである。
女性が可愛いのは、泣き顔なんかじゃない、笑顔に決まっているだろう。
私は
「そんなこと言って〜。
獣族だってナカミは人間と同じですよ〜 しかも何をしても犯罪にならない、最高ですよね〜! あ、まさか
ギルアは、そう続けた。
私はまだ結婚しておらず、彼女もいない。
それどころか、10才の頃に
もちろん、惚れかけた事はあった。告白されたこともあった。
しかし、
あの日以来、私の想い人は、
今でも
記憶に刻まれた13才の彼女が、私のお嫁さんだった。
「必要ない。お前も仕事に戻れ。 この頃、反乱軍の動きが活発化している。
今日の女戦士は口を割らなかったが、何か隠している様子だった。
近いうちに、大きな戦いになるかもしれない」
「了解ッス。俺も次の出会いに期待します。
あ、でも、最初に俺が可愛い子を捕まえたら、俺のものですからね?」
ギルアはニッコニコの笑顔で、部屋を出ていった。
扉が閉められて、駐屯基地の自室に、シンとした静寂がおとずれる。
ギルアは掴みどころのない男である。
ずる賢くて戦略家であり、戦闘術も優れているのだが。
腹の底がよめないというか、何を考えているのか分からない。
発言の全てが冗談に聞こえるのだ。
まあいい。
私はまた、机に座りなおした。
そして、コーヒーを口にする。
翌日、早朝。
近くの村が、獣族の部隊に襲われたという情報が入った。
死者46人 負傷者67人。
ここまでの大きな被害はいつぶりだろうか。
村の警備たちは全滅したらしい。
現場に駆けつけた時には、時すでに遅し。
獣族は去った後で、村は火で全焼して、焼け野原となった後だった。
「いやぁぁ!! なんで守ってくれなかったのっ!? 何のためにあなた達がいるのよっ!! 娘を返せェェ!!」
救助した女性に、ブン殴られた。
半狂乱となって私に襲いかかる女性を、部下達が抑えつける。
地獄絵図だ。
母を失った子供に、手足を失った負傷者。
夢や命を奪われた人たち。
戦争の時には、日常だった景色だ。
私にとっては見慣れたものだが、15年以上前のことだ。
戦争を知らない若い部下は、ボロボロと涙を流していた。
「
おかしいですよ! こっちは一方的に攻撃を受けているのに、獣族の領土に入ることは禁止されているなんて」
女軍人ーー私の部下の
気持ちはよく分かる。
私達は不可侵協定で、獣族の領土に入ることは禁止されている。
「それが法律だ。
獣族の領土には、戦いを望まずに平和に暮らす獣族もいる。
……戦う意志のない者を殺せば、また戦争が始まってしまう」
「ですが! こんな事が許されて良いんですか!? 私たちの仕事は民を守る事です! 何が不可侵協定ですか!? こんなの偽りの平和です!」
軍服に似つかわしくない童顔の、優秀な軍人である。
魔法操作も優れていて、回復術師として部隊を支えている。
私の中隊は、40人余りで構成されている。
国境付近の部隊であるため、全員が精鋭の戦士である。
まあ、本当の戦争を知る私にとっては、ケツの青いガキばかりだが。
「それにっ………今日は魔力の調子が悪いんですっ……うまく回復できなくて、
消えゆく命を、助けられなかったんです……
自分は……何のためにここに来たのでしょうか?
全て出遅れで、敵を追うことも出来ず、悔しさに歯を食い締めるしかできません……
自分は無力です……」
その場にしゃがんでうずくまり、人目もはばからずにワンワンと泣いた。
静かな焼け野原に、
焼け野原は森に囲まれていた。
……魔力の調子が悪い……だと?
同じような事が、昔にあった気がする。
悪い予感がした……
身体中の細胞が、危険信号を発していた。
「
魔力探知機もあります。これで生存者を探せます!」
突然の背中からの男声に、私は驚かされた。
俺の後ろには、迷彩の軍服をまとった青年達が20人ほど、敬礼で整列していた、
悪い予感が高まっていく……
魔力の調子が悪いのは、おそらく魔力場が歪んでいるのだ……
それは、魔力場を歪ませるほどに巨大な魔力塊が、ある事を意味する。
そして、恐ろしい結論に辿り着いた。
おそらく、原因は巨大魔法陣である。
仕掛けたのは獣族、標的は私達ーーガロン王国軍だ。
この場に駆けつけた部隊を、殺す為のトラップだろう。
私の顔が、みるみるうちに青ざめていくのが分かる。
忘れていた。
平和ボケをしていた、考えが甘かった。
獣族とは、どんな卑怯な手も使う。
平気で人を殺しにくる奴らだ。
早く、この場を離れなければいけない。
私のミスだ。
部下達を巻き込む訳にはいかない。
「全員
私は叫んだ。
だが遅かった。
キィィィィンという音がなり、
村全体を覆い尽くす巨大魔法陣が、大地に姿を現した。
後方部隊が集まるタイミングを狙われたようだ。
もう逃げられない。間に合わない。
「間に合わないっ!!
私は、叫んだ。
地面に向かって【
足元から守るように、何十もの岩石の壁が生成される。
だが、規模が大きすぎる……
魔力場の歪みのせいで、魔力が上手く発動しない。
私は、必死に詠唱を続ける。
私の不注意で、部下の命を奪うなど、あってはならない事だ。
そして、視界を白い光が覆い、身体中が熱に包まれる。
痛い、痛い……痛すぎる。
身体が溶けていって、
大爆発が起こる。
「……せ……せいやさん……せいやさんっ!!」
「……あ……」
身体中が痛くて、すぐに立てそうになかった。
「【
このままじゃ、皆死んじゃいますっ!!」
どうやら私は、仰向けで倒れているようだった。
目の前には、心配そうな顔の
遥か高い青空が眩しい。
周囲からは、戦闘音が響いていた。
「獣族ですっ! 獣族の襲撃ですよっ!!
一緒に戦いましょう! やっと復讐ができるんですっ!
起きてください
私は
30人以上の、私の部下達は、ほとんどが即死したようだ。
巨大魔法陣の爆破を喰らい、肉塊へと姿を変えていた。
獣の咆哮が響き渡る。
ざっと50匹以上の獣族達が、満身創痍の私達を包囲していた。
また、部下達を失ってしまった。
すべて私のせいだ。
震えるほどの後悔が押し寄せてくる。
「
私はハッと顔を上げ、
こちらの戦力は、ほぼ壊滅している。
人数差では、圧倒的な不利だ。
しかし、
愛する存在を失い、恨みと復讐心だけで生きているのだ。
どんなに不利な戦でも、命尽きるまで戦い続けるのだ。
ただ、獣族への殺意だけが、彼女の原動力だ。
そして、戦闘が始まった。
敵は、全滅した。
50匹以上いた獣どもは、全て死体となって、焼け野原にひれ伏している。
すべての獣どもを殺戮し、私たちは勝利した。
決して簡単な勝利ではなかった。
生き残りは、私を含めてたった三人だ。
ほかの32人の部下達が、この戦闘で
「……いやー。カッコよかったですねー。
俺はまさか、生き残れるとは思ってませんでしたよー」
生き残りの一人、ギルアは、能天気な声でケラケラと笑った。
仲間が死んだというのに、どういう神経をしているのだろうか?
「はい!
もう一人の生き残り、
獣族を
大嫌いな獣族を殺すことができて、満面の笑みである。
仲間の死なんて、忘れてしまった様子だ。
「とりあえず顔を洗え、可愛い顔が台無しだぞ」
私は、
血まみれの顔を見るのは、いい気分ではない。
ギルアも
だから戦いで生き残れた。
同様に私も、獣族を殺す事に
「可愛いだなんて……そんなっ……!!
……あの、真面目な話なんですが、
……私と結婚してくれませんか? 正直、惚れました‥…」
は?
結婚だと?
このタイミングで?
何を言っているんだ?
「
「大真面目ですよっ! 私は
私は呆気にとられて、まじまじと
瞳の中にハートが浮かんで見える。
鈴の私に向ける行為は、どうやら本物のようだ。
正気か……この女……
もちろん
しかし、どこか頭のネジが飛んでいるのだ。
さらに天然である。
自分の価値観のあり方を、疑うことすらしないのだ。
「いや……ちょっと考えさせてくれ……
………なあ
「どこって、全てですっ!! か弱い自分を守る男らしい姿! 悪い獣族を殺してまわる姿! あなたの全てが、私を
欲情の視線をぶつけられて、私は思わず目を逸らした。
鼻息が荒い、おっぱいを露骨に当ててくる。
私は
興奮してしまった。不可抗力だ。
「あちゃー。ダメっすよー。
頭の後ろで手を組みながら、ギルアがケラケラと笑っていた。
ピリッと、緊張が張り詰める感覚がした。
殺気だ。
「お~こわいこわい。
早く帰ってご飯にしましょうよ〜! きっと報酬も破格ですよぉ。
なにしろ獣族部隊の全滅ですからね~! 特に
ギルアの問いに、私は首をひねる。
今回の報酬は、かなりの大金が貰えるだろう。
なにしろ50人規模の獣族部隊を、全滅させたのだ。
ここまで大きな戦いは、戦後では片手で数えるほどしかなかった。
報酬を貰ったら、なにに使うべきだろうか……
考えてみたが、分からなかった。
私にはもう、夢がなかった。
やりたい事も、やるべき事もなかったのだ。
「分からんな……。貧しい子供に配るかもしれん……」
私はそう言った。
すると、
そして無理やり、
「目を逸らさないでくださいっ! 私は本気です! あなたの事を、
逃しませんよ! プロポーズの答えを聞くまで、手を離しませんから!!」
どうやら私は、逃げられないようだ。
もしプロポーズを断れば、殺されそうなほどの迫力がある。
私はきちんと、返事をしなければならない。
「
グサッ……
私の言葉は、そこで途切れてしまった。
お腹に、死ぬほどの痛みを感じたからだ……
「がはっ………!」
私のお腹には、金属の棒が貫通していた。
その金属棒は血に染まり、真っ直ぐに前方に伸びていて、
一本の金属棒が、向かい合う二人のはらわたを貫通して、私達の内臓を冷たく繋げていたのだ。
視界の輪郭がグニャリと歪む。
焼けるような痛みが身体中を支配する。
その金属の棒を、私は知っていた。
王国産の金属槍である。
猛毒のついた特別製だ。
今回の戦いでも活躍した。私の部下の得意武器だ。
「……どういうつもりだ? ………ギルア!?」
私はかろうじて声を出した。
既に声は掠れていた。
出血が酷い、毒がどんどんと体を蝕んでいく、
ギルアが、猛毒の金属槍を握っていて
お腹が割れるように痛い。
頭がガンガンと殴られるようだ。
腹部の風穴から、血がドバドバとあふれだす。
「いやー。すいませんねー
俺、考えたんです。そしたら気づいちゃったんですよ〜。
あなた達を殺したら、俺が報酬を独り占めに出来るじゃないですかぁ!
そうなれば俺は大出世ですよ〜! 中隊長も夢じゃないッス! 念願の贅沢生活ですよ〜!! もう二度と、貧しい思いをしなくていいんっス!
そういうことで、すいません
ギルアは、いつもの調子でケラケラと笑っていた。
私は正気を疑った。
ギルアの言葉の意味が分からなかった。
なぜ私達を刺したのだ?
私と
「じゃあそういう事で、俺は失礼しますよー。
今までお世話になりましたー! 天国でまた会いましょう〜!」
ギルアは能天気な声で、鼻歌を歌いながら、山道を去っていく。
待て…待てよ……
……言葉が出なかった。
信じられない。
私にはギルアという人物が、とてつもなく恐ろしい生き物に見えた。
お前は、人の心を持ち合わせていないのか?
一体何を考えているのか?
私は立っている事が出来ずに、
私にしがみついていた
「……
「
私の胸の上で、浅く息をしていた。
猛毒が身体中を侵していく。
私も
「死ぬのが怖いか?」
私が尋ねると、
「ぜんぜん、こわくないですよ…。だいすきな人と一緒に
「
私はそう返事した。
普通の人間は、死は恐怖の対象だ。
私だって、死ぬのは恐ろしい。
「……え? それって……私が特別ってことですか?
………私のことが、すきってことですか……?
おしえてくださいっ……へんじをきくまで……てをはなしませんから……」
私の意識も消えかけていた。
このまま私達は、穏やかに死んでいくのだろう。
私は小刻みに震える唇を、なんとか開いた。
「……あぁそうだ。私にとって
大切な存在だ。死んで欲しくない仲間だ。
私は、お前が好きだ……」
………大切な、仕事仲間として。
そう続けようとして、やめた。
私は嘘をついてしまった。
ちいさな
「よかった……」
幼くて可愛い
それを最後に、その
愛しあう男の胸の中で、幸せにつつまれながら、静かに息をひきとった。