クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
無我夢中で、
王国軍が追ってくる気配はないが、安心はできない。
王国軍にいた私だから分かる、彼らはしつこく追いかけてくる筈だ。
さらに森の奥へ、グチグチと不満を漏らすフィリアを背負って走る。
若々しい五月の葉っぱが、ふくらはぎを切り刻む。
地面のデコボコが、足首を痛めつける。
それでも前へ、前へ、
足跡を魔法でけしながら、必死に走っている。
「ちょっ……へんなトコロを触んなっ!! くすぐったいだろうがっ!!」
フィリアは腰を抱えられて、前にお尻、後ろに頭の状態であった。
すごく不満なようで、地面に降ろせ、自分で走ると言ってくるのだ。
私は説明した。私は土魔法が得意だから、足跡を全て消して走る事が出来るのだと。
しかしフィリアは怒ったような声で、
「獣族を舐めんなよ!? 木の上を走れば足跡なんかつかないだろう!」
と、主張するのである。
フィリアは下着姿でほとんど裸である。
私が腕をまわしている腰やおへその辺りも、完全に露出している。
その素肌には柔らかな毛がわがあって、汗でびしょびしょに濡れている。
腕を伝わって、首や胸の中へと、フィリアの汗が流れて来た。
逆に左肩からは、真っ赤な血が流れてくる。
「分かったよフィリア。木の上を走れるというなら見せてみろ」
私はとうとう観念して、フィリアの足を地面に着かせた。
「マジか!? ありがとう。なら見せてやるよ!」
フィリアは勢いよく地面を蹴った。
柔らかな地面には大きな足跡がついた。
「おいっ、足跡を残すなと言っただろう!! 戻って来いっ!」
と私が言うと。
「嫌だねー」
という声が、真上からした。
天を見上げると、フィリアが、木の枝に掴まってぶらぶらと浮いていた。
そして身体を前後に振ると、前の木へ、さらに前の木へと飛び移っていく。
なるほど、これなら足跡が残らないな。
フィリアは下着姿で、激しく森林を駆ける。
その度に、膨れた乳房やハリのあるお尻が、ぶるんぶるんと上下に揺れる。
フィリアのくせ毛がヒラヒラと風になびいて、露出されたお腹や脇からにじんだ汗が、空へと飛び出し宙を舞う。
まさに野生、そしてエロス。
私は下半身が膨れ上がるのを感じた。
これは驚いた。この私が獣族に発情するなんて、あり得ないと思っていた。
私は獣族を、人とは思っていなかったからだ。イヌやネコと
でも、フィリアは違う。
彼女は人間の言葉が話せるのだ。
そして私は、フィリアを
だから私は、フィリアの半裸姿に興奮していた。
するとここで、何を思ったのだろうか、フィリアが木の上で動きを止めたのだ。
そして太い木の枝の上に立ち、無表情でコチラを振り返ってきた。
どうしたのだろうか?
するとフィリアは、少し頬を赤らめて、胸をプルンと震わせると。
「もう出血も止まってるよな? そろそろオレの服を、返してもらってもいいか?」
と言った。
「は、なんのことだ?」
と返事しながら、私は自身の胴体を見下ろした。
そこには確かにフィリアの服があった。
フィリアの薄茶色のTシャツが、私のお腹の中心、ギルアに槍を刺された部分を覆っていた。
そして背中を振り返ると、反対側には同じ色のズボンがあった。
フィリアの服は、下着を含めて全て薄茶色だったようだ。
それはおそらく、森の中で目立たないためだと考えられる。
私が今着ている王国軍の軍服も、迷彩服という、森の色を模した彩色になっているからな。似たようなものだろう。
そしてフィリアの服を、私の傷口に固定していたのは、同じく茶色のカバンの紐だ。
私の腰を締めつけるように、カバンの紐がぐるりと一周していた。
「フィリア!? お前はまさか、自分の服を包帯がわりに使ったのか!?」
「あぁ、そうだ。感謝しろよな?」
フィリアはそう言って、私の方に戻ってきて、木の上から手を伸ばしてきた。
下着姿で、唇をかたく結び、頬を赤らめてはじらいながら、「早くしろ」と目で訴えかけてくる。
私は慌てて腰についたカバンの紐をほどき、血まみれになったTシャツとズボンを手渡した。
私の腹の傷は、跡は残っているものの、完全に塞がっていた。
「ありがとうフィリア。お前は命の恩人だ。しかし、大切な服を血まみれにしてしまってすまない」
「心配すんな、オレは医者だぞ? 手術には清潔さが命。これぐらい一瞬で綺麗にできるさ」
フィリアはそう言うと、【
聞いたことのないスキルだった。
黄色く輝く光が宙を舞い、フィリアの服から私の血が、みるみるうちに消滅していく。
私が見惚れていると、フィリアはそれをみて、満足そうにニヤリと笑った。
「フィリア、お前の服がちゃんとあって良かった。てっきり私はフィリアの事を、露出が好きな変態娘か、下着以外を全て無くしたバカな娘のどちらかだと思っていた。」
私がほっと息をつくと。
フィリアはズボンにつま先を通しながら、私をギョッと見つめてきた。
「はぁ!!? だれが変態娘だ!!? お前の方が変態だろうがっ! オレの唇に二回もキスしやがって、はじめてだったんだぞっ!?」
フィリアは顔を真っ赤にして怒った。
大きな猫耳が、ピンと立ち上がった。
「それは……すまない。一回目は寝ぼけてたんだ…… 二回目は泣き止ませるためだったし…… すでに一回してるからな、一回増えても変わらないかと……」
「はぁ!? ひっでぇ! もっと大切にしてくれよっ! オレのセカンドキスだぞっ!?」
フィリアは、拳をわなわなと握りしめながら、悔しそうに私を睨んでいた。
「本当にすまなかった。フィリアには誰か、好きな人がいるのか?」
「別にいねえよ…… そもそもオレには、スキって気持ちがよく分からねぇ…… でもだからといって、ファーストキスはいちおう大事にしてたんだからなっ!」
フィリアは顔を真っ赤にしていたが、表情を隠すように私を睨んでいた。
どうやら私がどれだけ謝っても、許してくれそうな気配はない。
私は話題を変える事にした。
「なぁフィリア? 気になっていたのだが。どうして自分の事を"オレ"と呼ぶのだ? そもそもどうして人間語を話せる? 誰かに教えて貰ったのか?」
私はずっと抱えていた謎について質問した。
「たぶん……父さんの喋り方を真似してるからだ…… じつはオレの父さんは人間なんだ。 まあ父さんには「頼むから女の子らしく、自分の事は”わたし”と呼んでくれ」って、何度も土下座されたけどな。 でもオレは、"わたし"なんて嫌だ。だって"オレ"の方がカッコいいじゃないか!!?」
フィリアは、熱を込めて語り出した。
フィリアの父親、小桑原啓介という医者は人間なのか?
つまりフィリアは、獣族と人間の混血ということだろうか?
「それに誠也! お前の方こそ、男なのに、自分の事を"私"と呼ぶじゃないか!?」
フィリアは鋭い指摘を繰り出した。
「た……確かにその通りだな………」
「ほらぁ! 人の事を言えないじゃないかぁ」
フィリアは得意げな顔になって、私に人差し指を突き付けた。
その生意気さに私は少しイラっとしたが。今のやり取りは私の方が悪い。
フィリアの喋り方は、父さんの真似をしているのか。本当に父さんが大好きなんだな。
だからこそ、フィリアは父さんを、病気から助けたいのだろう。
私はそんなフィリアの願いを叶える。
必ず薬草を手に入れて、フィリアのお父さんを治療するのだ。
「フィリア。念のため、もう少し遠くへ行こう。 そして早い内に、
フィリアは私の話を聞いて、難しそうな顔でウゥンと考え込んだ。
そして、口を開いた。
「そうだな。焦っても仕方ないよな…… 焦った結果が今のオレなんだからな……
……もちろんだ。
フィリアはそう言って、私に軽く微笑みかけた。
それは少し悲しそうだった。
一見元気そうだが、フィリアはまだ、先ほどの絶望から立ち直れていないようだった。
遭難して出発地点に戻ってきてしまったフィリア。
内心はとても焦っているのだろう。
「なぁフィリア、聞いていいか、父さんの余命はどれぐらいなのだ?」
フィリアは私の方へ顔を上げて、ほとんど泣きそうな顔だった。
「あと……1か月か2か月だ……でも余命なんて当てにならねぇ……ひょっとしたらっ……もう死んでいるかも知れないっ………!!」
フィリアは思い出したように泣きそうになっていた。
一か月か二ヶ月か……
フィリアの焦る気持ちもよく分かる。
山脈までは、山頂までいく事を考えれば、往復二週間はかかるだろう。
もしトラブルに巻き込まれれば、もっと時間が掛かるはずだ。
「フィリア、もう一つ聞いておかなければならない。
今から薬を取りにいけば、父さんの死に間に合わない可能性も高い。
でも幸いに、獣族独立自治区はここから近い。
もしここで諦めて村に帰れば、父さんの命を救える可能性はなくなってしまうが、
残された最後の時間を、共に過ごす事が出来るかもしれない………」
バチィィィィィ
私の頬が、おもいっきり引っぱたかれた。
目の前のフィリアが、手を振り切って、涙を堪えるようにフーフーと息を荒くしながら、私を睨みつけていた。
「分かってる!! 分かってる!! 分かってるよっ!!
オレは死にかけの父さんを置いて、家出をした最低な娘だ!! 遭難して何もせずに戻って来たバカ野郎だっ!! でもっ……それでもオレは……父さんを死なせたくないんだ!! オレは医者だっ!! 医者なんだっ!!」
フィリアは私の胸に手を当てて、顔を埋めて泣き喚いた。
私はどうするべきかと考えて、彼女の頭を抱きしめた。
先ほどは王国軍の邪魔が入り、思う存分泣かせてやれなかったからな。
気の効いた言葉が思いつかなかったから、私は無言でフィリアを抱きしめた。
フィリアは私の胸の中で嗚咽して、咳き込み、鼻水を垂れ流していた。
「フィリア……お前は父さんが大好きなんだな…… 大丈夫だ……こんなに可愛い娘が頑張っているんだ。父さんはきっと、フィリアを待ってくれている。だから頑張ろう。大丈夫だ……大丈夫……全部上手くいくから……
私が絶対に、お前と父さんを幸せにするから……」
私の口から、自然とそんな言葉が出た。
フィリアは、小さな肩を震わせながら
「う"んっ"……」
小さく、されど力強く頷いた。
それからフィリアは、私の胸に顔を埋めて、先ほど中途された涙を、全て流しきった。
私達は、
ふもとに
そして女神様と
【大地に降り立ちて天命を全うせし者よ、"白菊ともか"の求めるままに、"神の世界"へと還り
私達は女神様に祈った。
「どうか
女神、"白菊ともか"は、この世界の創造主であり、伝説の勇者達を従え"悪神"を滅ぼしたという、神話上の存在である。
白菊ともか教という、アキバハラ公国発祥の、長い歴史を持つ宗教の祈りである。
1700年前の歴史書――「五大英雄伝」に基づいた信仰であるが。
私も子供の頃、
なかなかに面白い冒険譚だった。