クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

39 / 103
三十六発目「フィリアはお医者ちゃん」

 

 見たところ浅尾(あさお)さんの容態は、ある程度落ち着いているようだ。

 しかし、呼吸は乱れていた。

 そして心臓の拍動も早い。

 

 急がないとな……

 またいつ、容態が悪化するか分からない。

 それに、こんなに強い日差しの下に、病人を晒しておく訳にはいかないからな。

 

 ……割と本気で、もう一度賢者になるべきだろうか?

 そうすれば早く病院につける。

 しかし、連続発射は苦手なのだが……

 どうしようかと迷っていた時。

 

 

 

 タッタッタッタッ……

 

 前方から、見覚えのある女の子が走ってきた。

 ケモ耳の少女は、ハァハァと息を切らしながら、山道を駆けおりてきていた。

 そして俺と和奈(かずな)を見るなり、目の色を変えて体を震わせた。

 

「ど、どうして……人間がここに??」

 

 その女の子は、昨晩俺たちが助け出した少女。

 フィリアちゃんだった。

 

 

―――――----ー

 

 

「お前は、フィリアさん、だよな?」

 

 俺は目の前の女の子に尋ねた。

 目の前の少女は、昨日みたフィリアちゃんにそっくりだった。

 赤灰色のクセ毛に、赤いルビーのような瞳。

 ジト目童顔のケモ耳娘である。

 女の子は、俺達を見て、明らかに動揺していた。

 おびえているようにも見えた。

 

「なんで、オレの名を知ってる? まさかお前らっ、王国軍か?」

 

 あぁ分かった。

 それは、恐怖に染まった顔だった。

 フィリアちゃんは、顔を引きつらせて、全身は震えながらに硬直していた。

 

「王国軍じゃなくて、俺は万浪行宗(まんなみゆきむね)だ! 

 誠也(せいや)さんから聞いたんだ。フィリアさんは医者なんだろ?

 頼む、俺の友達を助けてくれ、急に血を吐いて、酷い腹痛なんだ。回復魔法を使っても治らないんだっ!!」

 

誠也(せいや)? 誠也(せいや)だと……! じゃあまさか、お前が背負っている女がリリィさんか? 

 お前たちが、オレと誠也(せいや)を助けてくれた人間なのか?」

 

「あぁ、そうだ。 昨日、王国軍に殺されかけていたフィリアさんと誠也(せいや)さんを、助けだしたのは俺たちだ。

 でも、俺の背中に乗っているのはリリィさんじゃない、浅尾和奈(あさおかずな)さんだ。

 俺は、浅尾(あさお)さんの病気を治してもらう為に、フィリアさんに会いにきた。

 リリィさんなら、誠也(せいや)さんと一緒に、独立自治区の入り口近くの旅館に残ってる」

 

 フィリアちゃんは、目を丸くして驚愕した。

 

「そうか……じゃあ、誠也(せいや)も無事なんだな……」

 

 フィリアは肩の力を抜いて、俯きながら、ゆっくりとオレに近づいてきた。

 

 ぽろり、ぽろりと涙を流して……

 

「任せろ。浅尾(あさお)さんだったよな? ……オレの命に代えてでも、絶対に治してみせる……」

 

 フィリアはそう言って、俺と浅尾(あさお)さんの手を強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【超回復(ハイパヒール)】スキルも、【解毒(ディスポイズン)】スキルも試しましたが、効かないどころかむしろ痛みが増していくようで」

 

「……【超回復(ハイパヒール)】って、特殊スキルだよな、それも効かないのか?」

 

 フィリアは目の色を変えて、深刻な顔で、浅尾(あさお)さんの腹部に手を当てた。

 そして魔法を唱えた。

 

「【回復(ヒール)】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぅ!! がはぁぁぁっ!!! 痛いぃぃ痛いよぉぉ!!」

 

 浅尾(あさお)さんは、フィリアの回復魔法によって、金切り声で悶絶した。

 ごほごほと咳き込んで吐き出した痰は、血で真っ赤に染まっていた。

 フィリアは浅尾(あさお)さんのお腹の上で、探るように手を動かしながら、回復魔法を止めなかった。

 

「やめっ!! やめてぇぇぇ!! 死ぬっ!! 死んじゃうっ!!」

 

 浅尾(あさお)さんは回復魔法から逃げ出そうとして、足をジタバタと動かすが、そこに力はなかった。

 ただフィリアになされるがまま、痛みのあまりにガクガクと痙攣し、腹の底から絶叫を吐いていた。

 流石に見ていられない。

 

「おいフィリアさん、もうこれ以上は!」

 

「あと少し我慢してくれっ、すぐに見つけるからっ!」

 

 フィリアは焦った顔で、浅尾(あさお)さんの身体中に、手を這わせて探っていく。

 そして、浅尾(あさお)さんのお腹へと、頭を近づけた。

 

 フィリアは、右手で回復魔法を続けたまま、左手で、浅尾(あさお)さんの浴衣の上着を脱がせた。

 浅尾(あさお)さんの浴衣が正面からひらかれる。

 ブラジャーを付けていない浅尾(あさお)さんの上裸が、山道の真っ只中で露わになった。

 

 俺は思わず目を背けた。

 直穂(なおほ)の裸を見るより先に、浅尾(あさお)さんの裸をみるのは、罪悪感があった。

 浅尾(なおほ)さんの上半身は、恐ろしいほど汗びっしょりで、荒い呼吸に合わせて膨らみが揺れているのが少し見えてしまった。

 

「なっ! なにやってんだっ! フィリアさんっ!」    

 

「なっ……」

 

 俺が、たまらず声を上げるのと、フィリアが声を漏らして回復魔法を中止したのは、ほとんど同時だった。

 フィリアは、空を見上げた俺へと顔を近づけ、俺の耳元でこう囁いた。

 

行宗(ゆきむね)、落ち着いて聞いてくれ。浅尾(あさお)さんの身体は、強力なモンスターに寄生されてるみたいだ……」

 

「え……?」

 

 思わず俺は、フィリアの方をみた。

 彼女の動揺した目と声色から、その深刻さが嫌でも伝わってくる。

 

「だから回復魔法は逆効果なんだ。 魔法は全て、浅尾(あさお)さんの体内のモンスターに横取りされてるから。 逆に、モンスターに栄養を与えるようなもので……」

 

 フィリアさんは説明を続けた。

 なるほど、そういうことか。

 浅尾(あさお)さんにかけた魔法は全て、体内のモンスターに奪われてしまうのか。

 

「治療法は、あるんだよな?」

 

 俺はすがるように、フィリアさんの耳元で囁き返した。

 この会話の内容は、浅尾(あさお)さんに伝えるべきではない。

 自分の身体の中に、モンスターがいるなんて聞いたら、パニックになってしまうだろう。

 

「寄生したモンスターの種類次第では、何とかなる……

 でも、厳しいかもしれない。……とにかく検査が必要だ」

 

「厳しい……? って、どういう意味だ?」

 

「最悪の場合、今日中に死に至るって事だ……」

 

 フィリアさんの口から、残酷な真実を伝えられて、俺は目の前が真っ暗になった。

 死ぬ? 今日中に?

 それは到底受け入れ難い、認めたくない宣告だった。

 

 

 

「ねぇ? フィリアちゃん、どうしたの? 治してくれるん、だよね?」

 

 足元からの震え声に、俺は思わず浅尾(あさお)さんを見下ろした。

 仰向けの浅尾(あさお)さんは、上の浴衣が開かれて、乳房が丸見えだったが、

 彼女はそんな些細なことを、気にする様子もなく、わなわなと震えながら、フィリアさんの身体を引っ張るように掴んでいた。

 

 死ぬ? のか?

 こんなに美しい身体の女の子が、明日を迎える事もなく?

 俺は、悲痛そうな顔の浅尾さんに、なんて声をかけていいのか分からなかった。

 事実をそのまま伝えるのは、あまりに残酷すぎる。

 

「あぁ、治療法は見つかった。

 でも今のオレは、薬を持っていないから、オレの診療所まで行かなきゃ行けない。

 行宗(ゆきむね)! 疲れてるみたいだけど、もう一度浅尾(あさお)さんを背負ってくれ!」

 

 フィリアはそう言って、力強い目つきでオレを見つめてきた。

 焼き付けるように熱い、真っ赤な瞳は、

「絶対に助けてやる」と訴えていた。

 

「そ、そっか、良かった……良かったぁ……」

 

 浅尾(あさお)さんは、心の底から安堵の声を漏らして、涙をポロリと溢れさせた。

 フィリアさんの嘘に騙されて、心底安心した様子で、全身のぐったりとさせて目を瞑った。

 

 俺は思う。

 こんな可愛い女の子、イキイキとした人を、見殺しにする訳にはいかない。

 俺はどんな手を使ってでも、目の前の浅尾(あさお)さんを助けたいと思った。

 きっと直穂(なおほ)も、同じ風に思うだろう。

 俺達が今まで、浅尾(あさお)さんの笑顔に、何度救われた事だろう。

 浅尾(あさお)さんが一番に、新しい道に飛び込んでくれたから、俺たちはここまで来れたのだ。

 俺たちは、大切な仲間だ。

 死なせてたまるものか。

 そうだよな? 直穂(なおほ)

 

 そして俺は、決断した。

 

「フィリアさん、ちょっと待ってくれっ! 俺は空を飛べるんだっ!」

 

 俺は叫んで、パンツの中へと右手を入れた。

 そして、すでに立っていたモノを、勢いよく育てていく……

 

「なっ、何やってんだお前っ!? こんな時にっ!?」

 

 フィリアは、真っ赤な顔で発狂していた。

 

「いいかフィリア! 俺の特殊スキルは【自慰(マスター○ーション)】!! 自慰行為の発射後に賢者になれるスキルだ! 賢者になった俺は、空も飛べる!! ここから診療所まで一直線だ!!」

 

 もう俺は、恥も外聞も捨て去った。

 大切なモノを守るためなら、オレは、どんなに恥ずかしいシュチュエーションでも、死ぬ気でオ○ニーしてやるよ!!

 なんて、カッコ悪いセリフを脳内再生して、

 俺は、必死で必死で、高みへと登っていった。

 

「あーぁ、行宗(ゆきむね)っ……いけないんだぁ、病気で弱ってる同級生をオカズにするなんて…… 直穂(なおほ)ちゃんに言ってやろー」

 

 浅尾(あさと)さんが、イタズラっぽい笑みを浮かべて、楽しそうに、ケラケラと俺をからかってきた。

 上半身の肌が、すべて丸見えの状態である。

 俺は、初めて見る同級生女子の上裸を、オカズにしていた。

 他に彼女がいる身でありながら。

 

 浅尾(あさお)さんの楽しそうな笑顔が、俺には救いだった。

 やっぱり浅尾(あさお)さんは、怯えている時より笑っている時の方が可愛い。

 異論は認めない。

 

「すまない。他に、ちょうどいいオカズがないんだ」

 

「ふーん、認めたね。ちゃんと私のことオカズにしてるんだ。ヘンタイっ」

 

 浅尾(あさお)さんは、上半身が裸のままで、なぜだか上機嫌にクスクスと笑った。

 病気が治ると聞いて、安心したせいだろうか?

 俺は今、怒られても仕方ない事をしているのだが?

 

 なんて言っている間に、快楽の頂上が見えてきた。

 はじめて見る美少女の生爆乳は、破壊力抜群だった。

 

 そして、俺は、賢者になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

 賢者となった俺は、浅尾(あさお)さんを胸の前に抱えて、

 フィリアちゃんには、背中にしがみついてもらい、

 空へと舞い上がった。

 

 流石に浅尾さんの浴衣は直してから、俺達はフィリアの父さんの診療所へと、飛び立ったのだが……

 

「ひぃぃいぁあああ!! 怖いっ!! 高いぃぃ!! 落ちる落ちる落ちるっ!! もっと低い所を飛べぇぇ!!」

 

 フィリアが俺の身体に背中にしがみつきながら、恐怖のあまりに身体を痙攣させて、絶叫していた。

 

「手を離さないかぎり大丈夫だ。 しっかり俺を掴んでいればっ……」

 

「無理っ……こんなの無理だァァ…落ちるぅぅ!! 死ぬってぇ!! オレは高所恐怖症なんだぁ!!」

 

 フィリアは子供みたいに泣きながら、俺の腰をギリギリと締め付け、必死にしがみついていた。

 

 一方、浅尾(あさお)さんは、目を瞑ってぐったりとして、浅い息を繰り返していた。

 また具合が悪くなったのだろうか?

 分からない。

 

 フィリアさんの診断では、浅尾(あさお)さんの体内には、寄生したモンスターがいるらしい。

 

 浅尾(あさお)さんに、本当のことを伝えるべきだろうか?

 浅尾(あさお)さんの心は、すでに不安でいっぱいだ。

 さらに追い討ちをかける訳にはいかない。

 でも、嘘で騙してぬか喜びさせるのも、また心が痛むのだ。

 

 そんな事を悩んでいる時、俺はふと、ある事に気づいた。   

 

 賢者の力である。

 賢者の瞳によって見える、"生命の気配"を探れば、

 浅尾(あさお)さんの体内の寄生生物の"正体"を、突き止められるかもしれない。

 

 そして俺は空を飛びながら、

 浅尾(あさお)さんのお腹の内側へと意識を向けた。

 

 よく分からないかった。

 浅尾(あさお)さん自身の、生命の気配が強すぎるため、

 体内に生き物がいるかどうかなんて、よく分からない。

 さらに集中してみる。

 空を飛ぶ速度を落として、目を瞑って、

 浅尾(あさお)さんのお腹の中に、意識を研ぎ澄ました。

 

 いた。見つかった。 

 浅尾(あさお)さんの下腹部に、小さく蠢く気配があった。

 気持ち悪い。ミミズのようなものが、何匹も。

 

 気持ち悪い。

 俺は目を背けたくなったが、なんとか集中し続ける。

 なにやらヌルヌルしている。

 どこかで、感じたことのある気配だった。

 

 まるで、うどん、みたいな……!

 

 そして、俺は思い出した。

 そうか、そういえばあの時。

 温泉型モンスター【天ぷらうどん】の中身のクソジジイだ。

 あの時、クソジジイに人質にされた浅尾さんは、細い触手で腹に穴を開けられて、胎内を弄られていた。

 

 まさかあの時に、あのクソジジイに寄生された、とか、

 ありえるか? 

 

 

 そんな中、俺たちは山の山頂を越えて、ポツポツと家の集まった小さな村を、目視で確認した。

 

「フィリア、診療所はどこにある。教えてくれないか?」

 

「うぅうぅぅっ! 目ぇ開けられねぇよぉ! 東の端っこの、崖の中腹だ! 見りゃ分かるだろっ?」

 

 フィリアは震え声でそう言った。

 俺は、太陽の方向を探すと、それはすぐに見つかった。

 

 空飛ぶ俺たちが見下ろすのは、フィリアの故郷の村である。

 たしか、アルム村という名前だった。

 獣族の住民たちが、怯えた様子で、空飛ぶ俺たちを見ていた。

 俺はまっすぐに、フィリアの診療所へと降り立った。

 

「うぅぅ………あぁぁ……やだぁぁ……」

 

 地面に降り立つと、フィリアは膝を落として、地面を抱きしめるように、泣き崩れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅尾(あそお)さんの体内のモンスターの正体は、【天ぷらうどん】かもしれない」

 

 ゼーゼーと息を切らしながら、久しぶりに大地を大切そうに踏みしめるフィリアの耳元へ、

 俺は口を近づけて囁いた。

 

「【天ぷらうどん】……? なんだよそれ?」

 

「【天ぷらうどん】は、ヴァルファルキア大洞窟の最下層付近の、温泉に扮したうどん型モンスターだ。

 昨日浅尾(あさお)さんは、ソイツに捕まって、腹の中を触手で弄られたんだ」

 

「は? ヴァルファルキア大洞窟って、公国より遥かに西の大ダンジョンじゃねぇか? 移動に少なくとも一か月はかかる距離だぞ? 」

 

「え……? 俺たちは、転移魔法陣で来たんだが?」

 

「ん?……なんだそりゃ?」

 

 フィリアは、不思議そうに首を傾げた。

 あれ? フィリアさんって、

 転移魔法陣の存在を知らないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャン!!!

 

 と、診療所の玄関が、勢いよく開かれた。

 診療所の玄関から出てきたのは、武装した獣族の男の子だった。

 

 

 フィリアの父、小桑原啓介が経営するという診療所は、2階立ての洋風木造建築であった。

 崖の中腹に存在して、フィリアの故郷、アルム村を一望できる立地だ。

 

 玄関から飛び出してきた獣族の男の子は、どこかで見覚えがある顔だった。

 年は中学生ぐらいだろう。 

 鋭い目をして、両手には2本の剣を握りしめていた。

 

 そうだ思い出した。

 彼は昨日の夜、フィリアちゃんにキスをしていた男の子であった。

 

『おいお前らっ! フィリアに何してっ!? んぁ? 

 ……昨日の人間!? ……なんでここに?』

 

 彼の獣族語は、賢者の力で聞き取ることが出来た。

 もうすぐ"賢者の10分間"が切れるのだが、今だけ俺は、獣族語が理解できるのだ。

 

『ジルクっ!! 急病患者だ! すぐに父さんと母さんを呼んでくれっ!! 

 そしてお前は文献の中から、【天ぷらうどん】っていうモンスターを探すんだっ!!』

 

 フィリアが、男の子に獣族語で指示を出した。

 ジルクと呼ばれた男の子は、すぐに目の色を変えて、事情を理解したようで、

 

『分かったっ!!』

 

 と獣族語で叫び、2本の剣をもって、玄関の中へと走っていった。

 

行宗(ゆきむね)! 浅尾(あさお)さんをベッドまで運んでくれ、ついてこい』

 

 フィリアは日本語でそう言うと、玄関へと足早に向かった。

 

 俺は、少し不安そうな顔の浅尾(あさお)さんを抱きかかえて、フィリアさんに続いて、診療所へと入った。

 

 洋風な外見と異なり、内装は和風であった。

 俺は廊下を歩き、襖を開けて、大きな部屋へと案内される。

 布団の敷かれた台の上へ、浅尾(あさお)さんを横に下ろした。

 

 

 

 

 

 

 ドタドタドタドタ……!!

 

 

 

 浅尾(あさお)さんの眠るこの部屋に、せわしない足跡が駆け込んできた。

 フィリアに似た雰囲気を持った、赤みがかった瞳の、獣人女性である。

 おそらく彼女は、フィリアの母親だろう。

 

『ねぇフィリア。啓介(けいすけ)さんは、たった今、寝たばかりなの。 昨晩から徹夜で助産手術だったから、疲れているの…… それでも起こした方がいい?』

 

『いや……起こさなくていい。オレがやる。母さんは、二階から検魔石と魔導石、魔吸石を持って来てくれ』

 

 母親の問いに、フィリアは即座に答えた。

 

 そのタイミングで、俺の"賢者モード"が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 絹製の手袋をつけたフィリアが、駆け足で、

 浅尾(あさお)さんに寄り添う俺へと、駆け寄ってきた。

 

行宗(ゆきむね)。お前は浅尾(あさお)さんが不安にならないように、手を握って、そばに居てやってくれ」

 

 と、フィリアに耳元で囁かれた。

 フィリアの顔は、真剣そのもので、歴戦の戦士のような迫力があった。

 

「フィリアさん、お願いします。浅尾(あさお)さんを、助けて下さい」

 

「あぁ、勿論だ」

 

 フィリアは俺の目を見て、確かにそう言った。

 そしてフィリアは、ベットに寝転がった浅尾(あさお)さんの腹部へと、補聴器のような道具を当てがった。

 

 俺は、浅尾(あさお)さんの左手に、両手を重ねて、ギュッと握りしめた。

 不安にならないように、彼女の手を握る。

 

「浅尾さん、大丈夫だよ」

 

 ありきたりセリフを言った。

 こんな事で、浅尾(あさお)さんの不安が、どれだけ減るのか分からないけど。

 できる限り、不安や恐怖心が、和らいでほしいと思った。

 

 ぎゅ……

 

 浅尾(あさお)さんの手は、細くて柔らかくて、ねばついた汗でにじんでいた。

 

「……ありがとう」

 

 浅尾(あさお)さんは、笑顔を返してきた。

 それは線香花火みたいに、小さくて、(はかな)くて、

 今にも消えてしまいそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。