クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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三十七発目「それぞれの道」

 

 シンプルな木造の部屋の中で、

 ベッドの上の浅尾(あさお)さんはフィリアに聴診されていた。

 お腹の上を聴診器の先が滑りながら、フィリアの顔がどんどんと険しくなるのが分かる。

 

 俺はもう、生きた心地がしなかった。

 まるで世界から、俺だけが消えたみたいに。

 俺は身動きがとれず、何も考えられず。

 ただ俺以外の時間が、せわしなく進んでいくのを、観測することしか出来なかった。

 

 

 

 

 ドタドタドタドタ!!

 

 そんな中で、二つの走る足音が、部屋の中へと飛び込んで来た。

 汗びっしょりで、大小二つの本を抱えて興奮地味の、獣族少年ジルクと。

 ジルクの背中に続くのは、フィリアのお母さんであった。

 彼女の名前は分からない。見た目はすごく若い人だ。

 

「―――・・・―・・・・―・――・・・―・・・・――――!! ―――・・・―・・・――!!」

 

 ジルクは、フィリアに駆け寄って、長い獣族語で何か叫んだ。

 

「あぁ、思い出した……」

 

 ジルクの言葉を聞いたフィリアは、日本語で驚愕の声を漏らす。

 そして、ジルクが運んできた資料を手に取り、血眼になって目を通した。

 そしてフィリアは、疑うような目で俺を見上げた。

 

「お前ら本当に、【天ぷらうどん】に会ったのか? ヴァルファルキア大洞窟の最下層だぞ? お前らって滅茶苦茶強い冒険者なのか??」

 

 フィリアの問いに、俺はどう答えようかと迷った。

 俺は、強いのだろうか?

 確かに賢者モードの俺や、天使となった直穂(なおほ)は強い。

 ただし、オ〇ニーが必要な上に、10分間限定というハンデがある。

 浅尾さんやリリィさんもそこそこ強いけれど、【自慰(マスター〇ーション)】スキルに比べれば火力不足だ。

 おそらく、俺達の中の最強は、ユリィだ。

 ユリィの真っ白な閃光は、【天ぷらうどん】も、【神獣マルハブシ】も、一撃で消滅されたのだから。

 ただし、連続攻撃は出来ないというデメリットがある。

 

「・・・----・・・・---!! ー・・・ーーーー・・・!!」

 

 隣にいたジルクが、フィリアに、興奮気味に何かを話していた。

 

「なるほどな」

 

 フィリアは何かを理解したようで、また古びた本へと視線を落として、本の上で目線を走らせた。

 

 俺は会話に置いてきぼりにされて、呆然としていた。

 おかしいな。賢者タイムの時は、簡単に理解できた言語なのに、

 今は、さっぱり分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダッダッダッダッダッ!!

 

 さらに再び、二つの足音が、この部屋へと飛び込んで来た。

 何事か? と俺は振り向いた。

 ジルクもフィリアの母親も、今はこの部屋にいる。

 フィリアの父小桑原啓介(こくわばらけいすけ)は、寝室で眠っているらしい。

 

 という事は、この二つの足音は誰だ?

 まさか不審者か?

 そう思って、振り返った先には。

 

 目の前に、俺の大好きな直穂(なおほ)がいた。

 直穂(なおほ)が、二つの駆け足のうちの一つだった。

 さらさらの黒髪短髪を暴れさせながら、泣きそうな顔で、俺の隣へと駆け込んできて、ベットの浅尾(あさお)さんを覗きこんだ。

 

行宗(ゆきむね)っ! 和奈(かすな)! 大丈夫なのっ!?」

 

 直穂(なおほ)は不安に染まった顔で、俺と浅尾(あさお)さんを交互に見た。

 俺は、何も言えなかった。

 浅尾(あさお)さんは、今日にでも死ぬかもしれないらしい。

 そんな事、口が裂けても言えなかった。

 

「うん……大丈夫みたいだよ、治せる薬はあるんだって……」

 

 浅尾(あさお)さんは、汗まみれの笑顔で、直穂(なおほ)の頬を撫でて笑いかけた。

 

「心配しなくていいよ、直穂(なおほ)……」

 

 それを聞いた直穂(なおほ)は、安心したようすで、ため息を漏らして浅尾(あさお)さんの手を握った。

 

「良かった……」

 

 そんな直穂(なおほ)の言葉を聞いて、心がズキンと痛んだ。

 俺だけが知ってる。

 浅尾(あさお)さんの命が危うい事を。

 

 浅尾(あさお)さんは純粋だから、フィリアのついた嘘を信じきって、安心しきっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は罪悪感から、二人を見ていられずに、フィリアの方を見た。

 

 フィリアは、ボロボロと涙を流していた。

 フィリアが見上げる先の正面には、

 ガタイの良い男。

 誠也(せいや)さんがいた。

 どうして、直穂(なおほ)誠也(せいや)さんがここに?

 

「ごめんっ!!! 誠也(せいや)ごめんっ!! オレのせいで酷い目に遭わせてごめんっ!!!」

 

 フィリアは誠也(せいや)さんの大きな胸に頭を押し込んで、嗚咽しながら謝っていた。

 そうか。

 先ほど部屋に入ってきたもう一つの足音は

 誠也(せいや)さんだったのか。

 

「フィリアすまない! お前を守ってやれなかった! マグダーラ山脈に連れていくという約束も、守る事ができなかった!!」

 

 

 誠也(せいや)さんも、フィリアの小さな肩を掴み、わんわんと泣いていた。

 感動の再会なのだろう。

 気づけば浅尾(あさお)さんと直穂(なおほ)も、会話をやめて、フィリアさんと誠也さんを見ていた。

 ジルクは一冊の本を抱えたまま、フィリアの母親は色とりどりの宝石を抱えたまま、茫然としていた。

 

「それでフィリア、浅尾(あさお)さんは治せるのか?」

 

 呼吸を整えた誠也(せいや)さんは、涙で濡れた顔のまま、フィリアに尋ねた。

 フィリアは、少し顔を引きつらせて、

 すぐに笑顔を作って、堂々と言い放った。

 

「当たり前だろ! オレは小桑原啓介(こくわばらけいすけ)の弟子だ」

 

「……そうか……頑張れ……」

 

「おう……任せとけ」

 

 誠也(せいや)さんに笑顔で答え、フィリアは、くるり、とベッドの方を向いた。

 そしてフィリアの母から、宝石のようなものを受け取り、治療を再開するのであった。

 

 

 

(そういえば……リリィさんとユリィは、来ていないのだろうか?)

 

 俺はふと気になった。

 直穂(なおほ)がどうやってここまで来たのかも、聞いていなかったな。

 オ〇二ーをして天使になって、誠也(せいや)さんを乗せて空を飛んできたのだろうか?

 リリィさんとユリィは、あの旅館に残ったままなのだろうか?

 俺は、直穂(なおほ)に聞くことにした。

 

 

「なぁ直穂(なおほ)、リリィさんとユリィはどうしたんだ?」

 

「あぁ。あの二人はね、先に公国に出発しちゃったの」

 

「え……?」

 

 直穂(なおほ)の言葉は、にわかには信じられなかった。

 

「『早く公国に帰らなきゃいけないので、浅尾(あさお)さんの回復は待てません』って言われちゃった。リリィさんにね。 

 そして、『浅尾(あさお)さんの治療がすんでから来てください、公国で待っています』って言われて、

 コレ(・・)を渡されたの」

 

 

 理解がおいつかずに混乱している俺に、直穂(なおほ)は大きく膨らんだポケットから、真っ黒な装飾された腕輪を取り出した。

 黒い腕輪には、きめ細かい紋章が刻まれていて、重厚な感じがした。

 

 それは、リリィさんが付けていた腕輪だった。

 リリィさんと出会った時に見た。

 彼女の真っ白で細い腕に絡まった、真っ黒な腕輪が印象的で、よく覚えていたのだ。

 確かユリィも、お揃いの腕輪をつけていた。

 

「『この腕輪(・・・・)を持って、ここから一番近い関所に向かって、そこにいるアキバハラ公国の兵士に見せて下さい。 公国首都まで案内してくれるはずです』って言い残して、 

 獣族の人と少し話してから、私が天使になって旅館を発つのと同時に、二人は先に行っちゃった」

 

 そうか。

 確かにリリィさんは、早く帰らなければいけないと、何度も口に出していた記憶がある。

 リリィさんにも、急ぐ事情があるのだろう。 

 浅尾(あさお)さん治療を、待っている時間はないのだろう。 

 

「ごめんね……また私が、みんなに迷惑かけちゃって……」

 

 ベッドの上の浅尾(あさお)さんが、消え入りそうな声で、直穂の手をギュッと握った。

 

「迷惑だなんて思ってないよ。和奈(かずな)が無事で、ホントに良かったの。 だから焦らず、ゆっくり行こう。

 私達は絶対、みんなと元の世界に帰るの……」

 

「うん……」

 

 手を取り合う二人を見て、俺の心臓がドクンドクンと跳ねた。

 自分でもこの感情に、名前をつけられなかった。

 でも、願うことは一つだ。

 

(頼む、フィリアさん。 浅尾(あさお)さんの命を救ってください)

 

 俺は目を瞑って、祈った。

 祈る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―リリィさんとユリィ視点―

 

 リリィとユリィは、獣族独立自治区の外へ出て、ガロン王国領内の森を、早歩きで歩いていた。

 

「はぁ……最後までしつこく勧誘されてしまいました。 断るのは骨が折れましたよ。心も痛みました」

 

 リリィはため息をつき、愚痴を吐いた。

 

「お姉さま、少しは手を貸しても良かったのではないでしょうか? 獣族独立自治区は、乾季に多数の餓死者が出るんですよね? わたしの魔法なら、地下の川を掘り当てることだって、出来たかもしれません」

 

 ユリィは、遠慮がちにそう言った。

 

「そこまでする義理はありません。あたし達は、公国を代表する立場の人間です。 

 もしガロン王国が「公国が、獣族独立自治区を支援した」と憤慨すれば、どうなるか想像できますか? 

 王国軍が兵を上げて、独立自治区で戦争が起きるかもしれません。

 下手すれば、王国と公国の全面戦争に発展します。 

 公国貴族たる者。国全体を守るためには、時には、非情な決断をしなければいけません」

 

「でも……姉さま」

 

 ぽつり、ぽつりと歩みを進めていく姉妹。

 その姉の両腕には、何もついていなかった。

 

「ねぇユリィ。どうして独立自治区の獣族達が、反乱軍として、ガロン王国に無駄な特攻を仕掛けるのか分かりますか?」

 

「……物資を奪うため、でしょうか? まさか王国軍を倒すため、ということはないでしょうし」

 

口減(くちべら)しですよ。 一人一人がお腹いっぱい食べるために、戦死させて人口を減らすんです。 まあ最前線で戦う方々には、大義名分があるのでしょうが」

 

「なるほど……」

 

 ユリィは納得したように頷いた。

 

「戦争は国を不幸にします。ほとんどの場合、与えられた土地を豊かにしていく方が、国は良くなります。

 反乱軍を解体して、兵士たちの熱量を、農業やインフラ整備に集中させるだけで、穀物高は増えるはずです。

 そして、人間語を学び、本を読むべきです。

 確かに獣族の平均知能指数は、人間より遥かに劣りますが、

 努力すれば基礎スキルは習得できるはずです。

 国民の基礎スキル習得率が増えれば、国は発展するということは、アキバハラ公国が証明していますしね。

 なんて事を、彼らに伝えておきました」

 

「お姉さまは……やっぱり凄いです。 わたしはまだ、お姉さまの足元にも及びません」

 

 ユリィが尊敬の眼差しを向けると、リリィはポリポリと頭を掻いた。

 

「とにかく、外の敵を倒すより、国民を幸せにしたほうがいいという事です。 分かりましたか?」

 

「はいっ!」

 

 ユリィは満面の笑みで微笑んだ。

 リリィは少し寂しそうな顔で笑った。

 

「ユリィ、はじめての外の世界はどうでしたか?」

 

「楽しかったですっ! 騎士様に早く、わたしも泳げたよって伝えたいですっ!」

 

「そうですね……」

 

 二人は森の中を歩いていく。

 西へ西へ、アキバハラ公国へと向かって。

 

 

 

 

 

 




 あとがき。
 急展開?
 まさかのリリィ姉妹との別れ!
 直穂(なおほ)誠也(せいや)の合流!
 ストーリーが順調に進んでおり、充実感に溢れています!
 
 夏休み、いかがお過ごしでしょうか?
 私は祖父母の家で、海で泳いだり花火をしました。
 
 あとは、甲子園を観て楽しんでおります!
 やはり野球は、最後まで勝負が分からなくて、面白いです!
 この作品でも、かなり先の展開で、野球回を用意しているので、お楽しみに!
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