クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
シンプルな木造の部屋の中で、
ベッドの上の
お腹の上を聴診器の先が滑りながら、フィリアの顔がどんどんと険しくなるのが分かる。
俺はもう、生きた心地がしなかった。
まるで世界から、俺だけが消えたみたいに。
俺は身動きがとれず、何も考えられず。
ただ俺以外の時間が、せわしなく進んでいくのを、観測することしか出来なかった。
ドタドタドタドタ!!
そんな中で、二つの走る足音が、部屋の中へと飛び込んで来た。
汗びっしょりで、大小二つの本を抱えて興奮地味の、獣族少年ジルクと。
ジルクの背中に続くのは、フィリアのお母さんであった。
彼女の名前は分からない。見た目はすごく若い人だ。
「―――・・・―・・・・―・――・・・―・・・・――――!! ―――・・・―・・・――!!」
ジルクは、フィリアに駆け寄って、長い獣族語で何か叫んだ。
「あぁ、思い出した……」
ジルクの言葉を聞いたフィリアは、日本語で驚愕の声を漏らす。
そして、ジルクが運んできた資料を手に取り、血眼になって目を通した。
そしてフィリアは、疑うような目で俺を見上げた。
「お前ら本当に、【天ぷらうどん】に会ったのか? ヴァルファルキア大洞窟の最下層だぞ? お前らって滅茶苦茶強い冒険者なのか??」
フィリアの問いに、俺はどう答えようかと迷った。
俺は、強いのだろうか?
確かに賢者モードの俺や、天使となった
ただし、オ〇ニーが必要な上に、10分間限定というハンデがある。
浅尾さんやリリィさんもそこそこ強いけれど、【
おそらく、俺達の中の最強は、ユリィだ。
ユリィの真っ白な閃光は、【天ぷらうどん】も、【神獣マルハブシ】も、一撃で消滅されたのだから。
ただし、連続攻撃は出来ないというデメリットがある。
「・・・----・・・・---!! ー・・・ーーーー・・・!!」
隣にいたジルクが、フィリアに、興奮気味に何かを話していた。
「なるほどな」
フィリアは何かを理解したようで、また古びた本へと視線を落として、本の上で目線を走らせた。
俺は会話に置いてきぼりにされて、呆然としていた。
おかしいな。賢者タイムの時は、簡単に理解できた言語なのに、
今は、さっぱり分からない。
ダッダッダッダッダッ!!
さらに再び、二つの足音が、この部屋へと飛び込んで来た。
何事か? と俺は振り向いた。
ジルクもフィリアの母親も、今はこの部屋にいる。
フィリアの父
という事は、この二つの足音は誰だ?
まさか不審者か?
そう思って、振り返った先には。
目の前に、俺の大好きな
さらさらの黒髪短髪を暴れさせながら、泣きそうな顔で、俺の隣へと駆け込んできて、ベットの
「
俺は、何も言えなかった。
そんな事、口が裂けても言えなかった。
「うん……大丈夫みたいだよ、治せる薬はあるんだって……」
「心配しなくていいよ、
それを聞いた
「良かった……」
そんな
俺だけが知ってる。
俺は罪悪感から、二人を見ていられずに、フィリアの方を見た。
フィリアは、ボロボロと涙を流していた。
フィリアが見上げる先の正面には、
ガタイの良い男。
どうして、
「ごめんっ!!!
フィリアは
そうか。
先ほど部屋に入ってきたもう一つの足音は
「フィリアすまない! お前を守ってやれなかった! マグダーラ山脈に連れていくという約束も、守る事ができなかった!!」
感動の再会なのだろう。
気づけば
ジルクは一冊の本を抱えたまま、フィリアの母親は色とりどりの宝石を抱えたまま、茫然としていた。
「それでフィリア、
呼吸を整えた
フィリアは、少し顔を引きつらせて、
すぐに笑顔を作って、堂々と言い放った。
「当たり前だろ! オレは
「……そうか……頑張れ……」
「おう……任せとけ」
そしてフィリアの母から、宝石のようなものを受け取り、治療を再開するのであった。
(そういえば……リリィさんとユリィは、来ていないのだろうか?)
俺はふと気になった。
オ〇二ーをして天使になって、
リリィさんとユリィは、あの旅館に残ったままなのだろうか?
俺は、
「なぁ
「あぁ。あの二人はね、先に公国に出発しちゃったの」
「え……?」
「『早く公国に帰らなきゃいけないので、
そして、『
理解がおいつかずに混乱している俺に、
黒い腕輪には、きめ細かい紋章が刻まれていて、重厚な感じがした。
それは、リリィさんが付けていた腕輪だった。
リリィさんと出会った時に見た。
彼女の真っ白で細い腕に絡まった、真っ黒な腕輪が印象的で、よく覚えていたのだ。
確かユリィも、お揃いの腕輪をつけていた。
「『
獣族の人と少し話してから、私が天使になって旅館を発つのと同時に、二人は先に行っちゃった」
そうか。
確かにリリィさんは、早く帰らなければいけないと、何度も口に出していた記憶がある。
リリィさんにも、急ぐ事情があるのだろう。
「ごめんね……また私が、みんなに迷惑かけちゃって……」
ベッドの上の
「迷惑だなんて思ってないよ。
私達は絶対、みんなと元の世界に帰るの……」
「うん……」
手を取り合う二人を見て、俺の心臓がドクンドクンと跳ねた。
自分でもこの感情に、名前をつけられなかった。
でも、願うことは一つだ。
(頼む、フィリアさん。
俺は目を瞑って、祈った。
祈る事しか出来なかった。
―リリィさんとユリィ視点―
リリィとユリィは、獣族独立自治区の外へ出て、ガロン王国領内の森を、早歩きで歩いていた。
「はぁ……最後までしつこく勧誘されてしまいました。 断るのは骨が折れましたよ。心も痛みました」
リリィはため息をつき、愚痴を吐いた。
「お姉さま、少しは手を貸しても良かったのではないでしょうか? 獣族独立自治区は、乾季に多数の餓死者が出るんですよね? わたしの魔法なら、地下の川を掘り当てることだって、出来たかもしれません」
ユリィは、遠慮がちにそう言った。
「そこまでする義理はありません。あたし達は、公国を代表する立場の人間です。
もしガロン王国が「公国が、獣族独立自治区を支援した」と憤慨すれば、どうなるか想像できますか?
王国軍が兵を上げて、独立自治区で戦争が起きるかもしれません。
下手すれば、王国と公国の全面戦争に発展します。
公国貴族たる者。国全体を守るためには、時には、非情な決断をしなければいけません」
「でも……姉さま」
ぽつり、ぽつりと歩みを進めていく姉妹。
その姉の両腕には、何もついていなかった。
「ねぇユリィ。どうして独立自治区の獣族達が、反乱軍として、ガロン王国に無駄な特攻を仕掛けるのか分かりますか?」
「……物資を奪うため、でしょうか? まさか王国軍を倒すため、ということはないでしょうし」
「
「なるほど……」
ユリィは納得したように頷いた。
「戦争は国を不幸にします。ほとんどの場合、与えられた土地を豊かにしていく方が、国は良くなります。
反乱軍を解体して、兵士たちの熱量を、農業やインフラ整備に集中させるだけで、穀物高は増えるはずです。
そして、人間語を学び、本を読むべきです。
確かに獣族の平均知能指数は、人間より遥かに劣りますが、
努力すれば基礎スキルは習得できるはずです。
国民の基礎スキル習得率が増えれば、国は発展するということは、アキバハラ公国が証明していますしね。
なんて事を、彼らに伝えておきました」
「お姉さまは……やっぱり凄いです。 わたしはまだ、お姉さまの足元にも及びません」
ユリィが尊敬の眼差しを向けると、リリィはポリポリと頭を掻いた。
「とにかく、外の敵を倒すより、国民を幸せにしたほうがいいという事です。 分かりましたか?」
「はいっ!」
ユリィは満面の笑みで微笑んだ。
リリィは少し寂しそうな顔で笑った。
「ユリィ、はじめての外の世界はどうでしたか?」
「楽しかったですっ! 騎士様に早く、わたしも泳げたよって伝えたいですっ!」
「そうですね……」
二人は森の中を歩いていく。
西へ西へ、アキバハラ公国へと向かって。
あとがき。
急展開?
まさかのリリィ姉妹との別れ!
ストーリーが順調に進んでおり、充実感に溢れています!
夏休み、いかがお過ごしでしょうか?
私は祖父母の家で、海で泳いだり花火をしました。
あとは、甲子園を観て楽しんでおります!
やはり野球は、最後まで勝負が分からなくて、面白いです!
この作品でも、かなり先の展開で、野球回を用意しているので、お楽しみに!