クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
8,
「なぁ、
殺気の籠った低い声。
俺は、はっと振り返る。
そこにはクラスで隣の席の、
今にも飛び掛かってきそうな勢いで、俺を睨んでいる。
ぼっちの俺なんかにも、気さくに話しかけてくれる、優しい奴だ。
サッカー部の、爽やかイケメン。
しかし俺は、動揺で頭が真っ白になり、いつも会話のキャッチボールが返せない。
彼は鬼の形相で俺を睨む。
普段の優しい彼と同一人物とは思えない。
俺は恐怖で、おしっこチビりそうになっていた。
コイツどうして? さっきまで俺が、
バレない為に、時間を空けて出てきたのに。
それになんで、そんな怒って……?
「な、なにもしてない。です」
「あぁ!? んな訳あるか! 嘘つくんじゃねぇ!!」
(ひぃぃっ!!)
誤魔化そうとしたら、怒鳴られた。
拳を震わせ、今にも殴りかかってきそうな迫力。
でも、言えない、言えないのだ!!
二人きりの秘密だから!!
「お、お前……洞窟の中で、
え? なんで知ってる?
まさか、ストーカーみたく俺たちを監視してたのか?
何の為に??
「俺さ……あんな楽しそうに笑う
可愛いくて、優しくて、幸せそうで……
ううっ……こんな惨めな思いをするなら、【
もう、ハッキリいってくれよ……行宗くんっ。
俺は、ただ唖然と眺めていた。
そして、俺と
中学校の頃の俺と同じ、失恋の涙を流しているのか。
「いやいや、付き合ってないよ! たまたま会って、たまたま話しただけだ!
俺は必死に否定した。
新崎さんとは付き合ってないし、話していた内容も何一つ言えない。
「はぁ……嘘つけよ。じゃあ
そうだな。わかる。
でも俺、フラれたんだよ。
そして脅迫されて、奴隷にされたんだ。
「俺は、
としか、説明できない。
「はぁマジ!?初耳なんだが!?
早く言ってくれよぉっ!
それじゃあおっ、おおっ、教えてくれよっ!
視界が揺れる。
この野郎め。
そんなもの俺が聞きたいっての!!
二回も振られた俺を馬鹿にしているのか?! 甘えんじゃねぇ!
「いや、振られた俺に分かる訳ないだろ」
(俺は思わず、そう言った)
「え? フラれた??」
「あ、」
(やば、口が滑った)
「え、お前フラれたの?
露骨に嬉しそうな声の竹田。
「あー。まあ、ちゅ、中学校の頃にな」
嘘はついていない。
ついさきほども振られて、さらには奴隷になったことは、死んでも言えない。
「へぇマジか!! どんなふうに告ったんだ?! 告白の言葉は!?
コイツめ、人の失恋話で喜んでやがる。
しかし、この
かなり俺の話に興味をもっているご様子。
ひょっとして、友達になれるかもしれない。
「分かった分かった。全部話すから。
でもまずは、 早く、集合場所に向かわないと」
「あぁ、そうだったな。駆け足で話そう」
集合場所へと急ぐ道中。
俺は、
「……
最初は友達のままでいようと頑張ったけど……でも、気まずくなって。
いつの間にか、人と話すのが緊張するようになって……」
「そうか、それはガチ辛ぇな。
悪かった。辛いこと思い出させて」
「いや、聞いてくれありがとう。少し気持ちが楽になった」
誰にも打ち明けなかった痛みを、吐き出して。
俺は、スッキリとした気分になっていた。
「なぁ、俺で良ければ。
「うん、俺も
人の痛みに関心を持ち、まるで自分事のように、共感できる男だった。
それに
「
(すっげぇ分かる!)
こうして俺に、高校初の友達が出来た。
同時に、恋のライバルだ。
ーー
そうこうしている内に、クラスメイトの声が聞こえてくる。
集合場所の床には、直径15メートルほどの、青く光る巨大な魔法陣があった。
クラスメイト達は「何匹討伐した」とか「ヌルゲー過ぎる」とか思い思いの会話をしている。
「おせぇよ!」
「全員集まりました」
学級委員長の
そしてふと、こちらを振り返り。
なんかキッと睨まれた気がした。
「い、今!!
隣の
頼むから、
俺は、
「皆様お集まりのようですね。
それでは、第10階。ラストボスの扉の前へと、集団転移をさせて頂きます」
仮面男ギャベルの宣言で、床の巨大な魔法陣が青く輝きだした。
また、焼かれて溶けるような感覚。
俺は、意識を手放した。
───────────
9.
目が覚める。
とても薄暗い空間。
蛍のような緑色の光が漂っていて。
奥には、巨大な石扉が、ぼんやりと見える。
息をのむ音があちこちでした。
空気が異様に重い。身体が勝手に震え出す…
異様な焦燥感が、身体の中で這いずり回る。
パッ!
空間が、明るい光に包まれた。
「はい、こちらに注目してください」
呼ばれた方を見れば。例の仮面二人が、テーブルの挟んで立っていた。
テーブルの上には、ガラス瓶。
赤と緑と青のガラス瓶が、色別に分けられて、大量に置いてある。
「皆様、よく聞いて下さい。
ボスモンスターは、今までの敵と比べて二回りほど強力です。
まぁ勇者の皆様にとっては、大した相手ではないですがね。
絶対安全を保証するため、三種類のポーションを配布しようとおもいます。
右から解毒ポーション、回復ポーション、強化ポーションと並んでおります。
青色の解毒ポーションは毒を治癒します。緑色の回復ポーションは傷を治します。これらは戦闘中に使用してください。
最後に赤い強化ポーションについてですが、効果時間が短いので、一人一本。ボスと戦う直前に、私の合図で飲んで下さい」
仮面の男はそう告げた。
(ポーションとか、テンションと上がるな!
これこそ異世界って感じがする。
俺のスキルじゃ、活躍できそうにないけれど。
一撃くらいは加えたいなぁ)
「ではボス部屋へと参りましょう。このボスを倒した暁には、19億円の報酬を差し上げます」
仮面の男ギャベルは、そう締めた。
「よっしゃー。俺が全部ぶっ倒したら、19億円は全部俺様のな!」
「はぁー? ざけんな! 均等に分配だろう?」
「なんか不安だけど、大丈夫、だよね?」
「大丈夫だって! もし危ない事があっても、あたしが守るから!」
大きな石扉が、ギギギギギと開いていく。
クラスみんなは、緊張しつつ。
ボス部屋へと入っていった。
――――――――――
ボス部屋は、白い壁で覆われた円形闘技場のような、円柱の空間だった。
だが、モンスターの気配なんて、どこにもない。
石扉がギィィィと閉まる。
体育館サイズのボス部屋に。
クラス全員と、仮面の二人が閉じ込められた。
「みなさん、強化ポーションをお飲み下さい。もうじき、ボスモンスターが出現します」
俺たちはギャベルに言われるがまま、赤いポーションを、ごく、ごく、ごく、と飲み込んだを
(うっま!!)
あまりの美味しさに衝撃を受けた。
舌で溶けるまろやかな舌触り、南国のフルーツに、パチパチと刺激的な甘味が合わさり、喉を潤していく。
うまい、うま過ぎる。
力が湧き上がってくる。
「うますぎだろ!!」
「異世界ジュース、最高?!!」
「力がみなぎってくるぜ。すげぇ」
これこそが本物のエナジードリンクなのだと確信した。
まるで別人になったように身体が軽く、エネルギーが溢れ出てくる。
すげぇ、これ、毎日飲みたいな。
「お、おい、ちょっと待て!? 死ぬってなんだよ?! 毒って何だよ!!?」
突然、そんな叫びが聞こえた。
「ハァ? どうした、お前??」
「おいっ! 今すぐ自分のステータスを見てみろよ!
確かにステータスはすげぇアップしてるけど!! 猛毒って!! 書いてある!」
「え?」
「毒……どういう事だよ?」
(なんだ?)
体温が急降下していく。
心臓が悪魔に掴まれる感覚、バクバクと鼓動が加速する。
息が出来ない。とてつもない恐怖。
俺は跳ね回る心臓を抑えながら、
『ステータスオープン』と、心で唱えた。
――――――――――
身長 165cm
体重 59㎏
ルックス 21
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レベル 27→97/100
職業 召喚勇者
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攻撃力 18→76
防御力 28→113
魔法力 58→153
魔法防御力 32→95
敏捷性 14→67
知能 42→83
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総合値 162→587/600
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状態異常 マルハブシの猛毒
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特殊スキル【
――――――――――
はぁ!!?
ステータスの数字が、おかしいぐらい上がっている!
レベル27からレベル97って、嘘だろ??
だけど・・・、
「状態異常」、マルハブシの「猛毒」って……
疑問に思うと、勝手に詳細説明が開かれた。
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状態異常 ハルハブシの猛毒
約一時間の間、ステータスを限界値まで引き上げ、その後、死に至らしめる。
治療法のない猛毒。
ーーーーーーーーーー
は???
一時間……その後……死に至らしめる?
その文字列が信じられかった。
いや、信じたくなかった。
嘘だ。嘘であってくれ。
ただ、体はすぐに理解した。
吐き気、めまい、
あらゆる体調不良に襲われて、俺は膝を崩し、その場にしゃがみ込んだ。
「フフフフフッ、ハハハハハッ、アハハハ!!!」
下品な男の笑い声が、俺の脳みそを掻き回した。
仮面男ギャベルが、大爆笑していた。
「ハッハッハッ!まんまとハマってくれたなぁ!!
さーてぇコレでお前らみんな、一時間だけ世界最強クラスの戦士だぜぇ!
まぁすぐに死ぬんだけどよぉ!
さあさぁ! 死にたくなけりゃ必死に戦え!!
助かる道をう教えてやるよ、その毒を解く方法はこの世に一つだけだ!!
この部屋に現れるボスモンスター、ヴァルファルキア大洞窟!深層第九十二階のラストボス……【スイーツ
さあ、俺達の為に踊れ! 戦え!
生き残りたいならなぁ!!」
(は? 待てよ。おい?
安全じゃなかったのか??
簡単な仕事って言ってたよな??
日帰りで報酬が19億円で。安全に元の世界に、返してくれるって、言ったよな?)
「ふざけんじゃねぇっ!!騙しやがったなぁっ!!?」
「いやぁ、嘘でしょぅ、夢、夢だよ、やだぁぁっ……!!!」
「なんでよっ!話が違うじゃん!!」
「いやぁっ!! むりむりぃ、死にたくないよぉ!!」
皆、錯乱し。パニックは波及する。
走り回る人、倒れ込む人、壁に張り付く人、
泣き叫ぶ人、笑い出す人、強がる人、逃げ出そうとする人、暴れる人……
突然の詐欺と、死の感覚によって、
俺達は筆舌に尽くし難い、不安と恐怖の渦に呑まれた。
そして無常にも、円形の部屋は虹色に輝きだした。
遥か高い天井から、色鮮やかな巨大物体が、姿を現した。
ヤマタノオロチのような、足の枝分かれした蛇の下半身。
カラフルな女性の上半身。
左右三本づつの手は阿修羅の如く、それぞれパフェやケーキを掴み。
頭部には女の頭が三つ生えている。
ボスモンスター【
「おやおや、うまそうな子達だねぇ…」
「ありゃあ手強いぜぇ、マルハブシの毒で、レベルを無理やりあげられてるな…」
「うわぁぁなんて酷い。可愛いそうな子達。マナ騎士団も酷い事するねぇ……」
大きな三つの女性顔が、何やらペラペラ喋っている。
三つの頭それぞれに、【
真っ暗なHPバーがついていた。
「「「さぁ!、アガトン神の試練だよ、君たちは神の祝福を得るに足りるかな??」」」
三つの頭は、楽しそうに叫び。
地面に落下……ドゴォォォォォ! と俺たちの前に降り立った。
その衝撃は、俺たちを、さらなる絶望へと突き落とした。