クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
パチパチ、パチンと、
静かな土のなかで、
長い一日が終わり、
俺たち4人は火を囲みながら、
「あったかいね……」
「うん、あったかい……」
日が沈んでしばらく経ち。
俺たちは焚き火を囲んでいた。
「しかし流石だぜ、
まさか一日で19匹も集まるなんてな!
希望が見えてきた。父さんも
ご飯を口にかき込んだあとで、フィリアは元気いっぱい叫んだ。
俺たちは今日、日が暮れるまで、必死に薬剤を集めた。
部屋の隅には、今日殺して捕まえたモンスター達の死体の欠片が、山積みになっている。
「……私への感謝はないのか? フィリア……」
「あ、そうだなっ! もちろん
「ああ、ありがとう」
二人とも顔が真っ赤だ。
「なあフィリア。集めなきゃいけないモンスターは、あと幾つだ?」
俺はフィリアに尋ねた。
「あと7体だ」
「7体!?」
俺は耳を疑った。
「今日は19匹集めたんだよな? もう楽勝じゃないか?」
「まあ数字だけ見れば楽勝だがな……。しかし残りの7体は、どれも厄介なモンスターばかりだ」
フィリアはグビグビとお湯を飲むと、モンスター図鑑を拾って開いて、俺に見せてきた。
「一番問題なのはコイツだ。 背高ノッポのデカい奴、
今朝、出くわしただろう?」
フィリアの開いた図鑑のページには、
【エルヴァルード】というモンスターが乗っていた。
身長30メートルほどの、キリンのようなモンスター。
俺たちが今朝、転移魔法陣でマグダーラ山脈上層に上がり、その直後に見かけたヤツだ。
「コイツはどんなモンスターなんだ?」
「とにかく戦闘において強い。
野生勘もするどくて隙の少ないヤツだ。
コイツの血は、強力な解毒作用があってな。
フィリアは言葉を切って、また図鑑のページをめくった。
「そしてもう一体。危険なモンスターがいる。 コイツだ」
次に開いたページには、
【サルファ・メルファ】というモンスターが載っていた。
それは巨大な甲殻類、サソリのようなモンスターだ。
手のハサミが四本、しっぽが四本。
毒の針が4本あった。
「
問題はしっぽの猛毒だ。
今日手に入れた薬剤とオレの腕があれば、一度だけ使える解毒剤はつくれるんだが……
二回、二か所以上を刺されたら、どんな医者でもお手上げだ。
確実に死ぬ」
フィリアの真剣な表情に、俺は背筋を凍らせた。
二回刺されたら死ぬ。
スズメバチみたいなものだろうか?
「とにかく、この2体が超危険だ。
集めた貴重な薬材で、解毒薬やポーションも作って挑みたいけど、時間がかかるんだよな。
明日もコイツらは後回しだ。 簡単なモンスターから狩っていく」
なるほど。
残り7体と聞いた俺は、順調すぎると浮かれたが、
そうでもないらしい。
「それに……まだ父さんの治療に必要な、"キルギリス"も見つかってない……」
フィリアは低い声でぼそりと呟いた。
"キルギリス"
フィリアが今日一日中、一生懸命探していたモンスターである。
フィリアの父親――
【
「見つからないってことはつまり、隠れるのがうまいモンスターなのか?」
「いや、そういう訳じゃない……
動きが鈍くて戦闘能力もなくて、単純に生存能力が低いから、
周囲のモンスターの格好の獲物になり、個体数が少ないんだ……」
「なるほどな……
なぁフィリア、一つだけ確認してもいいか?
あと何日までここにいれる?
もしその時までに、必要なモンスターが集め切れていなかったら、
どうする?」
俺たちは5日後までに、
もしも必要な薬が、時間内に集まりきらなかったら。
その時は……
「そうだな……
まさか2日目の朝、モンスターを半分以上集められるなんて思ってなかったからな。
ペースは順調なんだが……
「2日後か、同意見だ」
そんな時、コツンと、俺の肩に、丸い何かがぶつかった。
隣を見れば、目を瞑って脱力した
「んぁ……ごめん
俺は彼女を労るように、頭にそっと手を乗せた。
「
自慰行為なんて、女の子として凄く恥ずかしいだろうに、
今日も頑張って戦ってくれて、ありがとう」
「んぇ? あ、ありがとう。褒められちゃった。
確かに恥ずかしいけどね。幸せだよ。
「俺もだ。俺も幸せだ……」
眠気でクラクラと倒れそうな
「もう寝るか。仲良し夫婦は、二人でお幸せにしてくれ。
オレはむさ苦しいオッサンと寝るから」
フィリアがニヤニヤと、
「誰がむさ苦しいオッサンだ。フィリアが嫌なら、私は寝袋の外で寝るぞ?」
「ダメだ! 風邪ひくだろうが。こういう雪山では、お互いの身体を密着させて
「そうか、なら仕方ないな」
「そうだ!
「それを言うならフィリアの身体も、毛皮があってぬいぐるみみたいで可愛いだろう」
「は、はぁ!? ぬいぐるみ!? 可愛い!? オレをばっかにしてんのか!?」
「あぁそうだ。フィリアは可愛いんだ。一緒に寝ると落ち着くんだ」
「そうかよ! じゃあオレも言ってやるよ。
優しくて男らしくて、抱きしめられると心が落ち着くんだっ!」
……………
はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ。
二人の言葉が途切れた。
こんなセリフ、もう告白同然だと思うのだが……
二人とも顔を耳まで赤く染めて、恥じらっていた。
しばしの沈黙、緊張の瞬間。
俺は瞬き一つせず、固唾を飲んで見守った。
先に口を開いたのは、フィリアだった。
「もう、寝ようぜ、明日も忙しいんだ」
「……そうだな。 いっしょに寝よう」
「ああ」
フィリアは俺たちの方を振り返ると、焚き火の火を弱めた。
「
赤面したままのフィリアは、はにかんだ顔で俺たちに笑いかけた。
「おやすみ、フィリア」
薄暗い部屋で、
むにゃむにゃと寝ぼけた
疲労感と幸福感のなかで、目を閉じた。
ごぉぉぉお!!
遠くから、騒がしい音が響いてくる。
ドゴゴゴゴゴ……
なんだ? 何が起こっている。
ドゴゴゴゴゴゴゴォ!!!
地面がガタガタと揺れていた。
炎揺らめく地下室。
俺は思わず飛び起きた。
「な、
慌てて身体を起こし、あたりを見渡すと。
そこには何気ない日常があった。
フィリアと
手作業をしながら、ギョッと驚いた顔で俺を見ていた。
「ブッ!! あははははっ!」
直後、
われんばかりの大爆笑が、地下室の中にこだました。
「おはよ、ぷふっ、
うははっ! だいじょーぶだよ。落ち着いて。
この凄い音は、上の
「ったく
「
俺は聞き返した。
確かにこのゴォォォという音は、外から絶え間なく聞こえてきていた。
外は
「かなり激しい
「それは、薬を作ってるんですか?」
「ああ。
【サルファ・メルファ】討伐用の解毒薬だ」
「なるほど……」
俺は寝袋から出て、
「おはよう
「おはよ、
「俺にも手伝えることはあるか?」
「勿論あるけど。お腹すいてないの? まずは何か食べなよ」
「確かにそうだな」
俺は、
柑橘系のジャムを、丸いパンに塗りながら、三人に尋ねてみる。
「凄い轟音だな…… 今日はここから出られないって事か?」
「うん。
外に出たら強すぎる暴風で、身体が空へと舞いあがって……
腕と足がバラバラに千切れちゃうらしいよ?」
「冗談だろ!? 怖っ」
「うんっ冗談だよ。ぷふふっ!」
俺をからかって、ふきだした
くそ可愛かったのでやめた。
「身体が吹き飛ぶっていうのは本当らしいよ。 視界も最悪だし。おとなしく嵐が過ぎるのを待つしかないって」
「しかしマズくないか? この吹雪はいつ止むんだ?
吹雪が収まるまでこの地下室で、何もせず時が過ぎるのを待てというのか?
「俺が賢者になれば、たぶん嵐のなかでも動けるはずだ……」
そうだ、俺の賢者は、"生命の気配"が見えるんだ。
視界の悪い吹雪の中でも、俺の賢者なら、モンスターを集められるはずだ。
「だめだ、危険すぎる。
この嵐のなかで、たった十分間で何ができる?」
「気持ちはわかるが
ゆっくり薬やポーションの調合する時間ができたから、むしろ幸運と思おうぜ。
大丈夫、いつかきっと嵐はやむ。
今は、いまできる事をするしかない」
フィリアは、ニヤリと笑って、そう言った。
だがその声は、少し震えていた。
フィリアだって不安なんだろう。
父さんの病気を治すために必要な、"キルギリスの骨"が見つからず、下山のタイムリミットが迫るなかで、この大吹雪だ。
不安にならない訳がない。
「そうだな。嵐はきっとやむ。
俺たちは絶対にみんなで、ハッピーエンドを迎えるんだ!」
俺は、力強く拳を握った。
すごく不安で、災難ばかりだけど……
不安で怖い時だからこそ、
そばで励ましてくれる仲間の存在が温かかった。
「そうだ。せっかく時間があるのだ。
「
外の吹雪は、ごうごうと
焚き火がぱちぱちと鳴る。
地下室の中は、かまくらのようなものだ。
なかなか暖かい。
俺と
今までずっと、ゆっくり腰を下ろせる状況じゃなかったからな。
クラス転移してから、今までずっと、歩き続けていた気がする。
4人で作業する。
ときに静かで、ときに賑やかな時間。
とても心地よくて、安心していた。
フィリアの薬の調合を手伝い、
時間はあっという間に過ぎていく。
「出来たぞ! これが対【サルファ・メルファ】解毒剤だ。
飲むだけで解毒してくれる
ただし忠告だ。飲んでいいのは人生で一度だけだからな?
二度目以降は、命を落とす
まじかよフィリアさん。さらっと怖い事をいう。
「あとはポーションを作ってから、
フィリアの作業が終わる頃には、吹雪の轟音が止んできて、
急にシーンと、外が静かになった。
嵐が止んだ。
「これは酷いな……」
地上に出た俺達は、その場で四人で立ちすくんだ。
地上に出た俺たちは、高雪の壁にぐるりと囲まれていた。
すごい積雪量だ。
身長の何倍もあるほど積もっている。
高さは6メートルほどだろうか?
「どうする? 日もだいぶ傾いているが、動くか?」
夕暮れ前の寒空を見上げながら、
「もちろんだ。 地下室にいても、もうやることないからな」
「同意見だ」
俺たちは火魔法で、雪の壁を溶かしながら、地道に地道に進みはじめた。
生き物の気配は感じない。
炎の魔法で雪を溶かしながら、寒空の下を歩いていく。
ザザザザ……
すると、
突然、目の前の視界が開けた。
掘り進めた先に、雪が積もっていない空間があった。
「なんだ、ここは?」
厚い雪の大地を、まっすぐ横切る道があった。
まるでモーゼが、
深い雪の海が、直線上に切り裂かれていた。
半径10メートル程の一本道である。
「なにかのモンスターの通った後か?」
「あぁそうだ!
それにこいつは、おそらくだが、俺たちが探してるモンスター
【サルファ・メルファ】の通った跡だ!」
フィリアは、興奮した様子で答えた。
【サルファ・メルファ】
フィリアがピックアップした、2体の超危険モンスターのうちの一つ。
猛毒を持っているが、その解毒薬はさきほどまさに完成した。
「解毒薬もポーションの準備も万全だ! まだ遠くへは行ってないはず。
もうあまり時間もないからな。
全員腹をくくれ! 戦闘準備だ!」
「おうっ!」
フィリアのかけ声に、みんなが呼応した。
雪を切り裂く一本道を、俺たちはまっすぐ走りだした。
【サルファ・メルファ】の背中を見つけるまで、そう時間はかからなかった。
切り開かれた道の先に、ギシギシと甲殻の鎧を軋まながら、雪を掘り進める【サルファ・メルファ】の姿があった。
「見つけた!
まずは
「「了解!」」
フィリアの声に、二人で返事をする。
もう慣れたものだ。
俺たちは手を繋いでいた。
足を止め、互いに体を向かい合い、見つめ合う。
両手はプルプルと震えていた。
これから、二回刺されたら確実に死ぬモンスターと戦うのだ。
俺だってめちゃくちゃ怖い。怖くない訳がないんだ。
「寒すぎて、手が
「そうだね。こんな時は」
「キスしようぜ」
「うん」
互いに抱きしめ合い、背中に手を回して、舌同士を絡め合う。
興奮が高まって、体温が跳ね上がる。
ぽかぽかと温まって、あつくて火傷しそうだ。
ゆっくりと、舌を離した。
決意を持った目で見つめ合う。
もう、手の震えはおさまっていた。
「
「ああ! 変態カップルの力、見せてやろうぜ」
「そうだね。外でするなんてね。 とんだ変態がいたもんだっ」
「頑張ろうぜ」
「うんっ!」
俺たちはパンと両手でハイタッチをした。
そしてそれぞれ距離をとり、雪の壁の中へ穴を堀り、
別々の場所で、仲良くズボンに手を入れた。
【あとがき】
・久しぶりです! 三週間ぶりです。
更新が大変遅れて、申し訳ありません!
執筆スランプで手こずっておりました。
これからも頑張ります!
・執筆のイメージのために、
YouTubeで、「吹雪と焚き火のリラックスbgm」を聞いてみましたが、
コレ、よく眠れます。
【挿絵表示】
メインキャラ集合イラスト、ラフ。
左から、
フィリア、
ハロウィンイメージ予定のため、