クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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四十八発目「刺客(しかく)は空から」

 

「それじゃ、いくぞ」

 

「うんっ」

 

 直穂(なおほ)が隣で返事した。

 

「作戦、開始ッ!」

 

 ダンッと強く地面を蹴り上げ、

 直穂(なおほ)と俺は、【サルファ・メルファ】へと突撃する。

 

 体長15メートル強のサソリ型モンスター。

 4つに分かれた硬いしっぽがそり返り、先っぽには大きな毒針がついている。

 

 モンスターは、雪の壁を掘り進めていた。

 積雪に埋もれた上半身には、四本の大きなハサミ腕がついているハズだ。

 

「【流星群(メテオシャワー)】!!」

 

 空へ飛びあがった天使――直穂(なおほ)が、先にスキルを放った。

 天使の纏う光の円環は無数の光の矢となり、

 光の豪雨が【サルファ・メルファ】へと、襲い掛かる。

 

 バキィ、ゴキィ、ジュゥゥ!!

 

 サソリの甲殻が火花を散らしながら、バキバキと破壊音を立てる。

 モンスターの周囲の豪雪が、みるみるうちに蒸発していく。

 

 激しい閃光に、俺は思わず目を細めた。

 

 雪の大地はジュワァァと溶けて、あたりは霧に包まれた温泉のようになった。

 白い霧に包まれて視界が悪い。

 

 だがしかし、俺には見えている。

 ジタバタと動きながら、濃霧のなかで、淡く光っている【サルファ・メルファ】の生命の気配が。

 頭上のHPバーが、少しばかり減っているのが見えた。

 

 っと!

 

 濃霧を切り裂くように、2本の尻尾が襲いかかってきた。

 サソリの太い尻尾が、毒針を向けて突っ込んでくる。

 

 俺は後ろに飛んで回避した。

 どうやら向こうも、濃霧の中で俺の位置を把握しているらしい。

 まあ当然か。 

 今の俺は賢者状態、全身が白く光ってるんだから。

 

行宗(ゆきむね)! 私が空から牽制(けんせい)するから、行宗(ゆきむね)は頭を狙って!」

 

「了解!!」

 

 頭上から直穂(なおほ)の声が聞こえた。

 

 湯気の霧が少しずつ晴れていく。

 あたりの雪が蒸発して、()き出しになった地面。

 体長15メートルのモンスター、【サルファ・メルファ】が姿をあらわした。

 夕日に照らされた霧は、綺麗な虹を(うつ)していた。

 

「でかいな……

 ……それに、あんまり効いてない」

 

 俺は息を漏らした。

 【サルファ・メルファ】の身体は、甲殻がボコボコと凹んでいるものの、血は流れていなかった。

 このモンスターは、遠距離の魔法に耐性があるらしいが、直穂(なおほ)の魔法が有効打になっていない。

 

行宗(ゆきむね)っ! 次だ! オレの血を喰らわせてやれ!」

 

 フィリアが後方、安全な場所から声を張り上げる。

 

「分かってる!」

 

 俺は返事して、空を飛び。

 【サルファ・メルファ】の頭を目指した。

 4本のサソリの腕をかいくぐる。

 フィリアから採血した、"獣族の血"の瓶を取り出して、

 賢者の白い大剣で、バチィィィと叩き割った。

 

 "獣族の血" 

 獣族の血は匂いが強く、多くのモンスターの大好物で、

 匂いでモンスターを呼び寄せる力を持っている。

 

 俺達とフィリアが出会った時も、ガロン王国軍はフィリアの血を使って、【神獣マルハブシ】をおびき寄せていたそうだ。

 

 しかし獣族の血は、モンスターを集める以外に、別の使い道もある。

 

 目眩(めくらま)しとしても有用なのだ。

 フィリアの濃い血を、モンスターの鼻先でぶちまけると、

 あまりに強すぎる匂いに、モンスターは泥酔(でいすい)状態になるのだ。

 

 効果は的面(てきめん)だった。

 【サルファ・メルファ】はグラリと身体のバランスを崩し、明らかに動きを鈍らせた。

 

「勝ったな」

 

 思わず口から笑みが溢れた。

 俺は間髪入れずに、サソリの頭部を白い大剣で、切って切って切り刻む。

 甲殻を貫通するたびに、面白いぐらいにHPが減っていく。

 

 脳を剣でめった刺しにされて、【サルファ・メルファ】は弱々しく痙攣(けいれん)していた。

 

行宗(ゆきむね)! 油断はするなよ! 直穂(なおほ)もっ!」

 

 フィリアが不安そうな声で叫ぶ。

 あたり前だ。油断なんかできるか。下手したら死ぬんだぞ。

 【サルファ・メルファ】は回復力、耐久力、毒の分解能力に優れているらしい。

 回復する暇を与えず、一気に倒しきる!

 

「尻尾はちゃんと見張ってるから、行宗(ゆきむね)はダメージを与えることに集中して!」

 

「助かる!」

 

 直穂(なおほ)が空から、毒の尻尾に注意を配ってくれている。

 俺はグリグリと、サソリの脳みそを大剣でかき回している。

 1分も経たずに、HPは半分を切った。

 作戦は順調だ。

 

 順調なハズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーフィリア視点ー

 

 オレは離れた岩陰から、直穂(なおほ)行宗(ゆきむね)の戦闘を見守っていた。

 誠也(せいや)はオレの前で、オレを守りながら不測の事態に備えている。

 

行宗(ゆきむね)! 油断はするなよ! 直穂(なおほ)もっ!」

 

 オレは、二人に向けて叫んだ。

 作戦は上手くいき、オレの血の匂いでモンスターの動きが鈍くなった。

 賢者と天使になった二人は最強だ。

 オレや誠也(せいや)では絶対に敵わない敵、【サルファ・メルファ】に対して、一方的に攻撃を与え続けている。

 

 二人に出会えてよかった。

 みんなを信じて、ここまで来て良かった。

 オレは二人をみて、胸を熱くしていた。

 

 父さんが病気になって、一人で村を飛び出して、迷ったあげくに誠也(せいや)に出会った。

 その後、ガロン王国軍に(とら)われたけど、諦めないで生きのびて、

 行宗(ゆきむね)浅尾(あさお)さん、直穂(なおほ)。リリィさんにユリィさんが助けてくれた。

 

 オレ一人じゃ辿り着けなかった場所に、いま、オレはいる。

 みんなのお陰だ。ありがとう。

 

 今のオレには共に戦う仲間がいて、

 それが嬉しくて、ちょっと泣きそうになった。

 しかし、

 そんな涙は、次の瞬間に、弾け飛ぶ事になる。

 

 

「フィリア!!?」

 

 誠也(せいや)の、緊迫(きんぱく)した焦り声が、

 足元(・・)から聞こえた。

 

「え??」

 

 オレがハッと足元を見ると、すぐ足元には地面が無くて。

 オレの身体は、宙を浮いていた。

 

「ええぇ??」

 

 オレはぐんぐん、地面から離れて、

 空へと吸い上げられていたのだ。

 なんで!?

 

 

 

 

 バサッ! バサッ!!

 

 という、翼が空を叩く音を聞いて、

 オレはようやく理解した。

 オレは腰を大きな鳥に捕まえられて、空へと連れ去られていたのだ。

 

「あ……ぁあ……」

 

 大きな鳥に腰をガッチリと掴まれて、身動きが取れない。

 魔法で抵抗しようと考えても、恐怖のあまり何も出来なかった。

 

 キェェェェェ!!

 

 大きな白い羽毛の鳥は、甲高い声で鳴きながら、夕方の寒空をのぼっていった。

 ぐんぐんと高く。

 壮大な雪原に、オレンジの夕日がギラギラと照りつける。

 視界の端には、大きくて立派なくちばしが見えた。

 

 地面からどんどんと遠ざかる。

 突風がびゅうびゅうと鳴り響く。

 

 怖い、怖い……

 

 オレは、高い所は苦手なんだ。

 

 死ぬ……死ぬっ……

 

 恐怖のあまり、声が出なかった。

 は、はやく終わってくれ!

 オレを楽にしてくれ!

 夢なら、さめてくれぇ!

 

「フィリアちゃんっ……」

 

 直穂(なおほ)が遠くから、オレを名を呼んだ気がして……

 

 オレは大きな鳥に連れ去られながら、空の上で意識を手ばなした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万波行宗(まんなみゆきむね)視点ー

 

「まずいっ!!」

 

 叫んだ時には遅かった。

 大きな鳥が、生命の気配の索敵範囲内に、突然(とつぜん)姿をあらわすと、

 一瞬のうちに、フィリアを大空へと連れ去った。

 

 フィリアを掴んだ鳥は、ぐんぐんと空へあがっていく。

 ここはマグダーラ山脈。

 フィリアを見失えば、再び見つかる可能性は少ない。

 それにフィリアには、戦闘能力がない。

 ここでフィリアを連れ去られれば、フィリアはきっと、あの大きな鳥の胃袋のなかだ。

 

「フィリアちゃん!!」

 

 直穂(なおほ)が咄嗟に空へと両手をかざして、閃光の魔法を放とうとしたが、

 すぐに両手を下ろした。

 遠距離攻撃は、フィリアを巻き込んでしまうため使えない。

 そのため、接近戦に持ち込むのだろう。

 直穂(なおほ)は、大きな鳥を追いかけるように、上空へ飛んだ。

 俺は息を呑みながら、ただ空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時だ。

 止まっていた【サルファ・メルファ】が、動き出したのだ。

 背中側から俺に向かって、毒針の尻尾が三本、凄い勢いで伸びてきた。

 うっかりしていた。

 

 フィリアに、さんざん注意されていたではないか。

「フィリアの血を嗅がせた後は、攻撃の手を止めてはいけない」

 と……

 

 【サルファ・メルファ】は、回復力も毒の分解能力も高いモンスターだから、

 攻撃の手を緩めると、フィリアの血はすぐに、分解されてしまうのだ。

 

 フィリアの誘拐に動揺し、俺の手は止まってしまった。

 その(すき)を突かれたり

 【サルファ・メルファ】は一瞬で、泥酔(でいすい)状態から回復していた。

 動きも機敏(きびん)さを取り戻し、感覚も研ぎ澄まされて、

 素早い3本の毒針が、俺の命を狙ってくる。

 

 危ねぇ!

 

 俺は咄嗟の判断で、後方に飛んで回避した。

 その判断が間違いだった。

 

 ブスッ!

 

 と、背中から、割れるような激痛が襲いかかった。

 刺されたのだ、

 もう一つの毒針に。

 

 4本目の毒針が俺の背中から回りこむように、忍び寄っていたのだ。

 俺はまんまと背中を向けて、そこに飛び込んでしまった。

 

 ドクン!!

 

 心臓が揺れ、視界が歪む。

 

 間髪入れず、前方から、3本の毒針が襲いかかってくる。

 

(まずい……毒だっ。 次に毒を喰らえば、俺は確実に死ぬ……)

 

 心臓の凍るような恐怖が、背筋を襲う。

 

 時間の進みが、スローモーションに見えた。

 走馬灯だろうか。

 心臓の音がいやにうるさい。

 外の音が聞こえない。

 

 逃げなきゃ……

 早く、毒の解毒を……

 

 気持ちばかりが焦って、身体は金縛りにあったように動かない。

 

 ポケットの中の解毒薬へ、手を伸ばさなきゃいけない……

 早く、飲まなきゃ、死ぬ……

 3本の毒針を、うまく(かわ)してっ……

 

 だめだ、だめだ、時間が止まったみたいに動けないっ。

 

 

 

 

「ゆきむねっ!?

 やめろぉぉぉ!!」

 

 直穂(なおほ)の、はち切れそうな絶叫が近づいてきて、

 次の瞬間。

 目の前が、まばゆい閃光(せんこう)に包まれた。

 

 

 キィィィィィィィィン!!!

 

 バギィ! ゴキィ!! ビキビキィ!!

 

 世界が震撼した。

 

 俺は猛毒で朦朧(もうろう)として、プツンと意識を失った。

 

 

 ………………

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆきむね……

 

 ゆきむね……ゆきむね……起きてよっ

 

(寒い……)

 

(寒い……寒い……) 

 

 直穂(なおほ)の声が聞こえる。

 目の前が真っ暗だ。

 背中には温かさを感じる。

 でも身体の中は、凍えるように寒い。

 

行宗(ゆきむね)……起きてよっ! 目を覚ましてっ!!」

 

 直穂(なおほ)??

 泣いているのか? 

 誰だよ行宗(ゆきむね)って奴は?

 可愛い直穂(ゆきむね)を泣かせやがって、許さねぇ。

 いや行宗(ゆきむね)って、俺の名前じゃないか。

 いったいどうしたってんだ。

 

「嫌だよ……死んじゃヤダ……私はあなたが居ないと、なにも出来ない……」

 

 くそ! ……なに心配かけてるんだ、俺。

 早く起きないと……

 

 なおほ……

 

 だめだ、声が出ない。

 目を開けろ。そうだ、頑張れ。

 

 視界が開けた。

 空には土の天井が見えた。

 まだぼやける視界のなか、直穂(なおほ)が俺の身体にしがみつき、

 俺の胸に顔を埋めて、肩を震わせ泣いているのが見えた。

 

 直穂(なおほ)の冷たい濡れ髪が、首元をくすぐって気持ちよかった。

 

 なおほ……起きたぞ。

 ……もう大丈夫だ。

 

 だめだ、上手く声が出ない。

 喉のなかに(ねば)ついたような不快感。

 そうか俺は、サルファ・メルファの毒を喰らって……その後……

 

 声が出ないなら、手は動かせないだろうか?

 俺は左手の指を握った。

 うん、大丈夫だ。ちゃんと握れる。

 

 俺は、重い左手をなんとか持ち上げて、俺の胸で泣いている直穂(なおほ)の頭の上に左手をのせた。

 

「えっ……?」

 

 直穂(なおほ)は、高いすっとんきょうな声を上げる。

 俺がいつもみたく、優しく頭を撫でてやると。

 

 直穂(なおほ)はハッと頭を上げて、ひどい泣き顔で、俺の顔をを(のぞ)きこんだ。

 俺は精一杯の笑顔で、震える唇を開いて、声を漏らした。

 

「おは……よう」

 

 

 

 

「うわぁぁあああっ!! 行宗(ゆきむね)ぇぇ!」

 

 直穂(なおほ)は涙腺が決壊したように、見たこともないほど大声で泣き出して、俺の身体を強く抱きしめた。

 痛いぐらいに、ギュウと抱きしめられて、ちょっと息が止まりそうになった。

 

 直穂(なおほ)が俺に、解毒剤を飲ませてくれたのだろうか?

 ありがとう……

 

「よがったぁぁ…… ごめんっ、行宗(ゆきむね)っ! 私のせいで、痛かったよね。辛かったよねぇっ! っうぅ…… ごめんなさいっ…… 私はっ、フィリアちゃんを助けられないかったっ……」

 

 そうか……

 俺は直穂(なおほ)を、抱きしめかえすことしか出来なかった。

 それに、違う……

 毒針に刺されたのは、俺のせいじゃないか。

 俺のドジのせいで、フィリアを助けに行った直穂(なおほ)は、俺のために足を止めた。

 全部……俺のせいじゃないか……

 

 俺の目尻からも、涙が出てきた。

 二人で一緒に抱き合って、わんわんと泣いていた。

 

 少しずつ、視界が鮮明になっていく。

 サルファ・メルファの毒が、抜けていくのが分かる。

 

「……誠也(せいや)さんは、どこだ? そばにいるのか?」

 

 俺はやっと口を開いて、まともな言葉を離した。

 

「うん…… そこにいるよ。でも……」

 

 直穂(なおほ)は、暗い顔で答えた。

 

 あたりを見渡すと、ここはお馴染み、誠也(せいや)さんの作った地下室だった。

 

 

 

 

 

「山場は越えたようだな。行宗(ゆきむね)くん。

 ……では私は、フィリアを探しにいってくる」

 

 誠也(せいや)さんは、聞いたことのない低い声でそう言った。

 

「ダメですっ!! こんな吹雪のなかじゃ、遭難するだけですよ! フィリアさんの連れさられた方向すら、まったく分からないんですよっ!?」

 

 直穂(なおほ)が必死の声でそう言った。

 吹雪?

 俺は不思議に思って耳を澄ますと、確かに地下室の外から、ごうごうと激しく雪が吹き荒れる音がした。

 

「フィリアを見捨てろというのか!? 私は約束通り、行宗(ゆきむね)が目を覚ますまで待ったぞ!?

 こんな猛吹雪だからこそ、早くいかねばフィリアが死んでしまう!」

 

 誠也(せいや)さんが、凄い剣幕で直穂(なおほ)に怒鳴った。

 息は荒くて、鋭い目は涙の痕で真っ赤だった。

 

「そんな分かってますよ! でも真っ暗な極寒の夜に、猛吹雪のなか、どうやって探すつもりですか?」

 

「気合いで探せばどうにかなる!

 この【ステュムパーリデス】とかいう鳥型モンスターの巣を探せばいいんだろう?」

 

 誠也(せいや)さんは激昂(げきこう)し、モンスター図鑑を地面に叩きつけた。

 

「この悪天候と視界(しかい)じゃ、どう考えても無謀(むぼう)ですっ! せめて吹雪が止んで、夜が明けるまで!」

 

「ふざけるなっ! そんなに待てるかっ!

 フィリアは今も、どこかで私たちの助けを待ってるんだぞっ! 

 なあ知ってるか!? 

 アイツは、あいつは、絶対にあきらめないんだっ!

 王国軍に捕まって、どんな酷い事をされても、アイツの目は死ななかったっ!

 ずっとっ、未来を見てたんだよっ!」

 

 誠也(せいや)さんは拳を震わせて、ボロボロと涙を溢れさせた。

 

「すまないフィリア。……いつも私のせいなんだっ。

 私がクソ鳥の接近に気づいていれば、私がフィリアを守れたハズなのにっ……!

 一番そばにいたのは私なのに、また守れなかった。

 王国軍に捕まった時と同じだっ……

 私は、お前たちのように強くない…… 

 愛する女ひとり守れないっ……!」

 

 膝をついて泣き崩れる誠也(せいや)さん。

 直穂(なおほ)は、誠也(せいや)さんの隣まで歩き、しゃがみ込んで、

 誠也(せいや)さんの丸まった背中を、優しい手つきでさすっていた。

 

 いたい、いたい。

 心が重たい。

 深刻な事態に(おちい)ってしまった。

 

 この雪山で、フィリアと(はぐ)れるという事。

 猛吹雪のなか、真っ暗な極寒の夜。

 大きな鳥に捕まえられたフィリアは、どこかに連れていかれて……

 

 死んでしまっただろうか? 

 バカか!

 そんなはずはないだろう!

 

 死んでるわけがない!

 だって、フィリアと約束したじゃないか!

 四人で薬を持ち帰って、浅尾(あさお)さんとフィリアの父親の病気を治すって!

 

 なあフィリア?

 これぐらいでくたばるお前じゃないよな?

 

誠也(せいや)さん…… 直穂(なおほ)

 俺が毒を喰らったせいで、フィリアさんを助けられなくて、本当にごめんなさい……」

 

 俺は自分の失態を後悔し、深く謝罪した。

 

「でも大丈夫です。フィリアは生きています。

 そして絶対に、また再会できます」

 

 続けて俺は、強くそう言った。

 

「なぜ……そう断言できる? もしかしたらフィリアはもう……」

 

 誠也(せいや)さんは両手で頭を抱えながら、震え声で弱音を吐いた。

 

「フィリアは絶対に生きています。

 誠也(せいや)さんも言ったじゃないですか。フィリアは諦めない奴だって。

 だから俺達も諦めません。

 誠也(せいや)さん。この猛吹雪の中で外に出るのは、どう考えても無謀(むぼう)です。玉砕(ぎょくさい)です。

 それは…… フィリアを助けにいくという恰好(かっこう)だけつけたい、ただの自己満足のオ〇ニーですよ」

 

「なんだと!?」

 

 誠也(せいや)さんがギロリと(にら)んできた。

 

「フィリアは、誠也(せいや)さんが死んだら悲しみます。

 フィリアはきっと、たとえ自分が死んだとしても、誠也(せいや)さんには生きていてほしいと思うはずです。 

 違いますか?」

 

「……っ ……ああ。 まぁ……そう……だな……」

 

 誠也(せいや)さんは、唇を噛み締めながら、なんとか納得してくれた。

 

「俺達も、自分の命は大事にいきます。 

 吹雪が止むのを待ってから、全力でフィリアを探します。

 それでいいですか?」

 

「いや……分かった。

 確かに私は、自暴自棄になっていた。

 ……すまんな」

 

 誠也(せいや)さんは、ぐったり疲れた様子で頷いた。

 

 俺は誠也(せいや)さんを、偉そうな言葉で言いくるめてしまったが、俺にも責任があるし、なにが正解かなんて分からない。

 

 なあ神様。

 この世界の神様は「白菊ともか」って言うんだっけか?

 なぜか俺の最推しVtuberと同性同名なのだか、このさいそんなことどうでもいい。

 神様どうか教えてくれ。

 俺たちの進む先に、ハッピーエンドはありますか?

 

 地下室の外で、ゴウゴウと吹雪の音が激しさを増していた。

 狭い地下室の中、

 俺たちは静かに作戦を練りながら、吹雪が弱まるのをただ待っていた。

 

 

 

 

 ちなみに、俺が気絶した後、【サルファ・メルファ】は、

 半狂乱になった直穂(なおほ)が泣き叫びながら、俺の攻撃でむきだしになったヤツ脳髄に、閃光(せんこう)の魔法を乱発して倒したそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 【あとがき】
 もしも!
 この作品が書籍化またはアニメ化されたときは、
 作品名の省略形は、
「クラ(けん)」または「クラ(てん)賢者(けんじゃ)
 にしようと思います!

 ここから第四膜もクライマックスです!
 楽しんでいきましょう!!
(そんなテンションじゃないかも)
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