クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
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「フィリア、頼む、私の剣を、取ってきてくれないか?」
私は、血を吐きながら言葉を繋ぐ……
「剣……って……!
まさか
そんな、無理だっ!
そんな身体で、立ち上がることすら出来ないくせにっ!!」
あぁそうさ、フィリアの言う通りだ。
だが……
「お願いだフィリア……剣を……」
戦わなければいけない、私が。
「っ……! 分かったっ!」
フィリアは立ち上がり、私の剣を探しに駆け出した。
そうだ、そのまま遠くへ、
もっと遠くへ行ってくれ、
フィリアが離れているうちに、私は……
「……う……ぐぅぅ……」
雑草を掴み、引っ張り、
身体を手繰り寄せて、
私は地面を這いずった。
早く、早く、あの場所まで、
ボロボロの手足を引きずりながら、まっすぐ前へ……
フィリアに、気づかれないように……
ズズ、ズズ、
と、
前へ、前へ……
「……あははぁ、惨めですねぇ
まだ諦めないつもりですかー? きっしょ。
……その大怪我で、その出血で、いったい何が出来るって言うんですか~~??
いい加減気づいてくださいよ、あなたじゃ誰も守れないんです。
鈴ちゃんも、フィリアちゃんも、
それからええっと……
ぷふ、まあ良いでしょう。
……地獄ってモノが何なのか、とことん教えてあげますよォォ!!」
そうだな。
私は、大切な人を失ってばっかりだ。
獣族を殺しまくり、復讐に燃え、多くの命を奪ってきた存在だ……
でも……
……フィリアだけは、必ず私が……
私は、誓ったんだ。
フィリアだけは、必ず私が、幸せにすると。
地面の草むらの向こうに手を伸ばす。
あぁ、駄目だ……
掴んだガラスのなかに、液体は残っていなかった。
「うぐぅっ……」
私は、もう一つ、前へ。
身体を手繰り寄せた。
そして、その地面の土を掘って……
「……せいや??」
あぁ、フィリアの声がする。
フィリアは私を許してくれるだろうか?
……きっと、一生許してくれないだろうな……
私は、マグダーラ山脈の上で誓った約束を、半分破ってしまったのだから……
両手で土を
「は??」
ギルアが声を上げた。
「は? はぁぁ?
土を食ってやがるぜ! 嘘だろおいおい……!
ぶはは、ははははぁ!! 笑わせないでくださいよぉぉお!!
ははははははぁ……はは……」
ギルアはゲラゲラと笑い転げた。
そしてフィリアは……
「……せいや……お前……まさか……」
あぁ。
やはり私は最低な男だ。
フィリアを、こんなにも、悲しませてしまう。
「せいやっ!?
いやだいやだいやだぁぁっ!!
やめろぉおっ!
その土を吐けっ!! その土の中には!!」
フィリアが血相を変えて、私の方へと走ってくる。
はは、もう遅い。
もう手遅れだ。
この土の中には……
「……まさか…… その場所はっ! あの時のッ!!」
ギルアも気づいたようだが、もう遅い。
もう飲み込んだ。
あぁそうさ。
ここにあるのは、割れたガラス瓶と、湿った地面。
ここは、
マナトくんが、ギルアに飲まされそうになったという、【マルハブシの猛毒】。
ポーション瓶を割り、地面に叩きつけた。
それがこの場所だ。
《この場所の地面には、マナトくんが飲むはずだった【マルハブシの猛毒】の液体が染み込んでいる》
【マルハブシの猛毒】
一時間後の死と引き換えに、戦う力を得る猛毒らしい。
つまり、約1時間後、私は死ぬ。
この力で、ギルアを倒した後でな。
全身から、力が漲る。
信じられない。これが力か……
出血の痛みも、身体のだるさも、何も感じない。
立ちあがれる……
「くたばれぇぇ!! 死にぞこないがぁぁ!!!」
ギルアが迫ってくる。
地面に手を突き、立ち上がる。
そして私は、フィリアの胸に抱えられた剣を握りしめた。
「いやっ……!」
フィリアの絶望顔が目に入る。
心が、ズキリと痛む。
…………。
ギルアに剣を構える。
もう、後ろは振り返らない。
もう、フィリアの傍には居れないから……
私の、最後の戦いだ。
あとは、前だけ見て、進むだけ。
「……ギルア、お前を、ぶち殺す……!!!」
さぁ走れ。
今の私は、まるで神にでもなったかのように強い。
負ける気がしないな。
「……ちっ! くそがッ! この野郎っ!!」
ギルアが私から逃げるように距離を取る。
逃さない。
叩き潰す。
「いやぁあぁあぁあぁあぁあああああああああ!!」
私の後ろで、フィリアが声を上げて泣いていた。
ごめん……
ごめんなフィリア……
つい昨日、将来を誓ったばっかりなのになぁ……
幸せな結婚生活を送りたかったなぁ。
子供も沢山産んで、お爺ちゃんお婆ちゃんになるまでずっと寄り添って……
……でも、そんな未来はもう無い。
私は、愛するフィリアに未来を託す。
私はここで死に……
宿敵ギルアを、ここで倒す!!
「……うあぁああああああぁぁぁああああっ!!」
叫べ!
大地を蹴れ!
剣を振れ!
私は
フィリアの旦那だっ!
フィリアを守る男の名前だっ!!
バギィィィィ!!!
耳障りな金属音が響く。
目の前には半透明の赤い壁。
赤色のバリアが、ギルアの周りを覆うように、球状に作られていた。
硬い……
「うらぁあああっ!!」
力を精一杯込める。
バリリリン!!
と無理やり、赤色の結界が割れた。
「……なっ!?」
目を見開くギルア。
そこに振り下ろす、渾身の一撃!
ビュッ!!!
私の剣は
ギルアに後ろ飛ばれ、
「ぐぅぅ、舐めるんじゃねーぞ!
俺を誰だと思ってやがるっ!!
いいぜぇ! ぐははぁ!
とことん付き合ってやるよぉぉ!!」
ギルアは、ポケットに手を突っ込み、ポーションの瓶を掴み出した。
その中には、赤色の液体。
「こちとら仕事で来てんだよぉぉ!
テメェとは格が違うっ!
覚悟が違うんだよぉぉ!!」
ギルアは
【マルハブシの猛毒】を、ごくりと飲み込んだ。
「……へぇ?
やっとお前の真剣な顔が見れた気がするよ、ギルア……」
ギルアがぐんぐんと強くなるのを肌で感じた。
恐怖、寒気、そして震え。
目の前のギルアは、一秒前とは桁違いの強さになった。
「さぁてぇ!
なかなか美味いじゃねぇかコレぇ……
これで同条件だぜ
こちとら命賭けてんだよぉぉ!
女にかまけてる
戦闘技術!
経験!覚悟!力!心!
全てにおいて俺の方が上なんだよぉ!」
ギルアの動きが、見違えるほど早くなる。
今まで戦ってきた敵のなかで、間違いなく最強の敵。
ギルアの言う事は真実だろう。
この男は戦闘のプロだ。
そして今、私とギルアの両方が【マルハブシの猛毒】を飲んだ状態。
ハンデはない、力と力の勝負だ。
そして素の実力において、私とギルアの間には、月とすっぽん以上の差が存在している。
王国軍にいた時は、手を抜いていたんだな。ギルア……
ガロン王国軍に入って、スパイ活動でもしてたのか?
マナ騎士団って、何なんだよ?
とっくの昔に滅んだ、王国の名前じゃないか……
……でも、不思議だな。
力の差は見えるのに、勝てるビジョンなんて見えないのに、
なぜだか負ける気がしなかった。
ギィィィ!!
ギルアが投げたナイフを弾き、剣を受け止める。
ズブゥ!!
腹部に剣を刺された。
でも大丈夫。
もともと穴だらけの腹だ。
血も止まらない。
しかしなぜだろう? 痛みはほとんど感じない。
毒のお陰だろうか?
集中力の成せる業だろうか?
「トドメだぁぁ!!死にぞこないがぁぁあああっ!!
この俺はぁ!! マナ
お前みたいな雑魚とはなァ! 強さの次元が違うんだよぉぉぉ!!!」
ギルアの剣が、鋭い速さで、
私の首元めがけて振り下ろされる。
……今だッ!!
私もタイミングを合わせて、剣を下から振り上げた。
「……なっ!!?」
ギルアが驚愕した。
ふふ、ようやく気付いたか? 間抜けめ。
私は最初から、これを狙っていたんだよ!
ざんねん大ハズレだ間抜け。
死を覚悟した私には、もう、防御なんて要らないんだよ。
……いいぜ。
望み通り、
「………せいやっ…!!」
フィリアの言葉が、胸に届く。
「せいや頑張れっ!!!」
臆病な私に力をくれる。
「せいやっ! 負けるなっ! 頑張れっ!! 頑張れぇぇっ!!!」
あぁ、頑張るさ。
負けないさ!
負けられないんだッ!!
退くな、ビビるな、前へ前へ。
私のすぐ後ろには、守るべき存在……私の愛する女がっ!
フィリアがいるんだぞっ!!!
「うらぁあああぁぁぁぁぁっ!!!」
私は、力の限りを振り絞り、
ただまっすぐ、綺麗な直線を斬り抜いた。
………ザシュゥゥゥゥッッ!!!
★★★
―フィリア視点―
剣は、
ぶつかることなく、上から、下から、
互いの肉を斬り合った。
一瞬の決着……
「せ……せいや……」
ギルアと
「勝った……のか??」
森の中が、突然に静かになる。
メラメラと燃える木々に囲まれながら、ただ、
オレの乱れた呼吸音がうるさかった。
終わった、のか?
「………はぁ……はぁっ………! っはぁ……」
涙で視界がぐちゃぐちゃになって、なんにも見えないよ……
……会いに行かなきゃ。
死にゆく
最後の言葉を聞きに行くんだ……
「……っつ……うあぁあ……」
……諦めるな。
諦めるなよオレ。
まだ助けられるかもしれないだろうが。
もし、
出血を止めて、あの猛毒の治療薬を回復して……
まだだ……
まだっ……
「あ……!」
倒れた場所から、誰か一人、フラフラと立ち上がった。
「……せ、せいや……??」
オレもふらふらと身体を起こす。
まだ生きているなら、オレが……
「……ぐぎぃぃ、紙一重だったなァ……
いやまさか、相討ち覚悟で踏み込んでくるとは思わなかったなァ……
携帯用の回復魔法陣に助けれたぜぇ……ふぅぅ……」
あぁ、そんなっ……!!
立ち上がったのは、
「………っ!」
……じゃあ
負けた、のか?
「……はぁぁ……
まさかここまで追い詰めれれるとはなぁ……作戦が甘かったか。
さすがですねぇ
俺はあんたのこと、すげぇヤツだったって認めますよ。
死ぬまで覚えておきますからねぇ……
って、もう聞いちゃいねぇか……はははッ」
ギルアは一歩一歩、オレの方へと歩み寄ってくる。
「……えぇと……1、2、3……
あと3人殺して終わりか。
いやぁ、まさか俺が、マルハブシの猛毒を飲むハメになるとはなぁ……
ほんと、信じられねえよ……
しかし、なんとか目的は達成できそうだ……」
……目的、だと??
オレは耳を疑った。
そして激怒した。
「……目的、だと? ふざけるなよっ!!」
オレは、力の限り叫んだ。
「こんな
真っ当な理由があってたまるかっ!
死ねっ! くそ野郎がっ! 外道のクズがっ!!」
オレは拳を握りしめ、泣き叫んだ。
オレは、無力だ。
戦う力がない。
男に守られるだけの弱い存在。
医者のくせに、
そして、挙げ句の果てには、
はは……はは……
ほんとに救いようもねぇ……
「……なんで、こんな事にっ……」
……もう、泣く元気もないよ。
もう疲れた……
キィィィィン……
??
なんだろう?
後ろの方から、不思議な音が鳴っている。
神聖な、神々しい、美しい音。
オレの後ろから、真っ白な眩しい光が射しこんでくる。
「……は? 嘘だろ??
この短時間でっ……!!?」
ギルアが目を見開き、冷や汗をかいて狼狽する。
「……
そうか。
オレの後ろにいるのは、”天使”だ。
天使となった、
もう一度、オ◯ニーをして、天使になったのか……
ザク、ザク……
まるで、彼女以外の時間が止まったかのように。
「許さない」
一言。
地面を蹴り上げ、空へ飛び上がった。
”天使”
「死ね」
ギィィィィィィン!!!
容赦のない閃光の一撃が、眼の前で爆ぜた。
凄まじい爆風で、オレの身体は後ろへ吹っ飛ばされた。
昼間以上の眩しさで、視界全部が真っ白にトんだ。
「逃がさない」
次の瞬間には、オレの視界から消えていた。