クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
俺とフィリアとマナトは、七人分だったはずの荷物を抱えて、三人でひたすら森の中を歩いた。
(もちろん、食糧分は荷物を減らして)
コンパスを頼りに、草木を掻き分け、獣族独立自治区を目指した。
一時間も立たないうちに、俺達は森を抜けて立ち尽くした。
目の前には、驚くべき光景があった。
「………―――!?」
「……こりゃ、ひでぇな……」
川沿いに家屋が立ち並ぶ美しい街、ガロン王国ギラギース地区の人口密集地。
……だったはずの場所は、瓦礫まみれの焼け跡になっていた。
そう、俺達がマグダーラ山脈に行く途中に空中で出くわした、黒竜の群れの襲撃による被害である。
五日前くらいだっただろうか?
深夜、空を飛んで川を渡ろうとしたとき、黒竜の群れがギラギースの街が襲撃していたのだ。
空にいた俺達も黒竜の襲撃を受けて、やむなく戦闘に突入したのだった。
あの夜、この街は、ところどころで火事が広がっていた。
もう、ずいぶんと昔のことのように思える。
「……オレはずっと気絶してたから、全く記憶にないが、外はこんな惨劇になっていたのか……」
俺達三人は、思わず息を飲みこんでいた。
瓦礫まみれの街のなかを、ガロン王国軍の軍服が何人も飛び回っていた。
救助活動を続けているのだろうか?
そして街の奥へ目を凝らして見ると、大きな川をまたいで対岸のフェロー地区へ繋がる橋に、大量の人がごったがえしていた。
新しく泊まる場所を求めての移民だろうか?
目の前に広がる光景は、災害時のように慌ただしく、ところどころ騒がしかった。
「……歩いていけるのはここまでかな。
この川を越えるには、やはり空を飛ぶしかないか……」
俺はそう口を開いた。
「少し待っててくれ、賢者になってくる」
俺はそう言い残し、草むらの影に隠れてズボンを下げた。
……やはり、この街や大きな川を越えるには、空を飛ぶしかなさそうだ。
獣族であるフィリアやマナトを連れて、人間だらけの街を突っ切るなんて、いくらなんでも危険すぎる。
二人が獣族だということが知られれば、すぐに捕らえられて、処刑されてしまうだろう。
……ズボンを下げて、ふと首を傾げた。
あれ? オ◯ニーって、どうやるんだっけ??
そんな疑問をもった自分に、強烈な違和感を感じていた。
……そうだ、手を上下に動かすんだ……
不安に駆られるように、俺は手を動かした。
でも……
あれ……? あれ? あれ……?
いっこうに膨らまなかった。
どうして、だろう……?
あぁ、そうか。
そういえば俺は、オ◯ズがないと、オ◯ニ―できない人間だったじゃないか……
俺は想像するのが苦手だから、スマホやパソコンで検索して、それを見ながらじゃないと興奮できない人間なのだ……
でも、そうだ、唯一ひとり。
彼女しかいないんだ。
俺が脳内だけで想像できるのは、直穂だけしか……
「
今はもう傍にいない、彼女の名前を口に出した。
「
全身が震えはじめ、手先がプルプルと震えて、俺の目から涙がポロポロと溢れはじめた……
だめだ……だめだだめだだめだ……
「辛い…… なんで、いなくなっちゃったんだよぉ……」
頭のなかで彼女を想像するたびに、昨夜の彼女を思い出すたびに、涙が溢れて止まらなかった。
「……う、うぅぅ……うぁぁあぁあっ……!」
そして俺は、みっともなくすすり泣いた。
でも、左手を止めるわけにはいかなかった。
もう、オ◯ニ―どころじゃなかったけれど
……それでも俺は、賢者にならないといけないんだ!
「……フィリアとマナトを、川の向こうに届けないといけないんだっ……!」
心が壊れそうになりながら、ちっとも興奮しないまま、ただがむしゃらに手を動かしていたとき……
俺の背中が、温かい感触に包みこまれた。
「……もういい、無理するな。
フィリアの声だった。
フィリアがうずくまる俺の背中を、後ろから抱きしめてくれて、
俺の左手に、やさしく手を置いてくれた。
「……俺は、賢者にならないと、駄目なんだ……
川の向こうで、
一刻も早く、帰らなくちゃいけないのにっ!!」
「
俺は声を荒げた。
ほとんど不甲斐ない自分に対する怒りだった。
フィリアは俺の背中を優しくさすり続けていた。
「……オレが、オ◯ズになってやろうか?
そんなフィリアの言葉にたいして、俺はまた怒りを覚えた。
「バカ言うな、できるわけないだろうが?
……
フィリアを性的な目で見るなんて、できない。
絶対にしてはいけない。
「……はは、まぁな。……冗談だよ……」
フィリアは力ない投げやりな声で言った。
「……でも、現実問題。どうやってあの川を渡るんだ?」
フィリアにそう言われて、俺も言葉を詰まらせた。
ない……
空を飛ばずに、正攻法であの川を越える方法なんて、思いつかない。
大きな川を繋ぐ橋はいま、例外なく多くの人間達でごったがえしているのだから……
ガサ……
そんな時、マナトも俺たちのほうへ、草むらへと踏み入ってきた。
そして、
「……―――………」
なにか獣族語で、フィリアに向かって話しかけた。
「……なに? 地下通路がある、だと??」
フィリアの驚いた声に、マナトは頷いて肯定した。
★★★
マナトいわく、ギラギース地区とフェロー地区に挟まれた川を渡る方法は、橋や渡し船以外にも存在するらしい。
それが"地下通路"であると。
”地下通路”の存在は、王国軍には知られていない裏社会の極秘情報らしい。
マナトやニーナやヨウコを屋敷から逃がした男の子――
その男の子が、父親の書斎を探って知り得た情報だそうだ。
”地下通路”は、闇商人や盗賊団の移動経路として、おもに"獣族奴隷の流通ルート"として使われているらしい。
ガロン王国の法律では、獣族奴隷の所持は表向き禁止されている。
しかし、マナトやヨウコやニーナが捕まっていた”屋敷の貴族”は、国に内緒で、盗賊団や裏社会と繋がりをもっていた……
秘密裏に獣族奴隷を入手するルートを所持していたそうだ。
その一つが、川の底をつなぐ"地下通路"、だということだ。
「信用できるのか? その
俺は二人に尋ねてみた。
「オレは、数時間一緒に居ただけだが、
フィリアがまず答えた。
フィリアは俺たちと出会う一周間ほど前のこと、
森で怪我をして迷子になっていた
自分の屋敷で酷い目に合わされている獣族達に、心を痛めてしまった。
そして、約1週間後。
その夜は俺達がちょうど、ヴァルファルキア大洞窟からリリィさん達と脱出して、王国軍に殺されそうになっていた
ニーナやヨウコやマナトたち家族を、独立自治区まで逃がそうとしたのだ。
でも……
ここからは、マナトたち獣族三姉妹が語った内容であるが、
逃亡作戦は、上手くいかなかった。
その夜は運悪く、王国軍の警備がいつもの何倍も厳重だったそうだ。
(その理由は、”マグダーラ山脈から神獣マルハブシが山を降りて、フェロー地区に向かっている最中だったから”だろう。
結局その夜、"神獣マルハブシ"は、王国軍に捕らえられたフィリアに襲いかかる直前で、
マナト達家族が、夜が更けて街の警備が緩むのを待つ間、
食糧を盗みに行った父親はなかなか戻って来なかった。
マナトとヨウコとニーナは母親と共に、何時間も父の帰りを待ったのだが、夜も空けそうになる頃、ついに母親の判断で、父親を見捨てて"地下通路"を目指す決断をした。
しかし、地下通路へ向かう道中、王国軍に出くわしてしまい。
先行して偵察していた母親は惨殺されてしまった。
すぐ後ろで身を潜めていたマナト達獣族三人姉弟は、父を失い母を失い、泣く泣く川越えを諦めて、森の中へと入り込んだ。
三人は、山のなか遭難しそうになりながら、奇跡的にあの"温泉宿"にたどり着いたらしい。
その温泉宿の裏口を、家にすることを決めたのだった。
そのさらに一週間後。
つまり昨日のこと。
マグダーラ山脈の帰り道の温泉宿にて、俺たちは、ニーナ、ヨウコ、マナトの獣族三姉弟と出会うことになる。
★★★
「これが、地下通路か……」
人が通れるほどの縦穴。
ハシゴを掛けられた闇に向かう穴を覗き込みながら、フィリアが呟いた。
町はずれの立ち入り禁止の廃墟のなか、
マナトの案内によって、俺たちは"地下通路"の入口にたどり着いた。
マナトは複雑そうな表情をしていた。
もしもあの夜、地下通路の入口にたどり着くことができ、川を越えられていたのなら、
ニーナもヨウコも、死ななかったかもしれないのだ。
まぁ、結果論だが……
「行こう」
真っ暗な闇のなか、俺たちは金属製の梯子を降りていった。
足をつけた場所は、トンネルのような場所だった。
おどろおどろしい雰囲気の割には、そこまで悪臭は感じなかった。
それはつまり、定期的に清掃されているということ。
「……盗賊団や闇商人に、出くわさないと良いがな……」
真っ暗な地下通路のなか、俺は怖くなった。
「……盗賊なんかが活動するのは、基本的に夜だからな、
こういう場所はむしろ、昼間のほうが安全さ」
フィリアが小声で囁いてくる。
「念の為、明かりはつけずに、気配を消していくつもりだが、
……手、繋いでやる」
そういってフィリアは、俺の左手を捕まえた。
「そういえば獣族は、夜目が効くんだっけか?」
「あぁ。ちゃんと見えてるから安心しろ。
慎重にいくぞ……」
カツ、カツ、カツ、
俺たちは闇のなか、一歩一歩確かめるように前に進んだ。
正直、なにも見えない。
ざざざざざ、と遠くから水音がしたり、ピチョンピチョンと水滴が垂れて、ごごぉぉと冷風が吹き抜ける。
その度に俺の体は震えて、全身に鳥肌が立っていた。
必死に、声が飛び出しそうになるのを抑えこみながら。
カツ、カツ、カツ、
限りなく抑えた足音が、通路のなかに反響する。
トンネルのような通路は、意外と道幅があった。
中央には荷馬車が一つ通れる道があり、両脇には木箱や金属檻があちこちに散らばっていた。
長い長い道のりだった。
ずいぶんと歩いた気がするのだが、今、どの辺だろうか?
カツ……
急にフィリアとマナトの足音が止まった。
(??)
開きかけた俺の口が、フィリアの手のひらで塞がれる。
(静かに……)
耳元で、フィリアに囁かれて、
道の端へと誘導された。
物陰に隠れた俺たち。
やっと俺は、進行方向から来る足音とランプの明かりを察知した。
カラ、カラカラ……カラカラ……
地下通路を、大きな荷馬車が向かってきていた。
道端にしゃがみこんだ俺たちは、音を殺して、
ゆっくりと寝袋を頭から被って、身を隠した。
視界は完全に奪われて、もう音しか聞こえない。
カラ……カラカラカラ……カララ……
アレは、盗賊団か?
それとも闇商人か?
どちらにせよ、絶対に見つかる訳にはいかない。
左手越しに、フィリアの右手の震えが伝わってきた。
マナトが、俺の身体にしがみついて、泣きそうになっている。
あぁ、頼む、頼むから……
俺達に気づかず、そのまま通りすぎてくれ……
カラ……カラカラ……カラカラカラ……
「ふぁあぁぁ」
突然外から、場違いなあくび声がした。
「……ずいぶんとお疲れのようだなぁ」
続いて、別の男の声もした。
「……そりゃあくびも出るもんさぁ。
また大量に収穫できたみてぇで、王国軍の混乱に乗じて、できる限り運びだすって話だそうだが、
まったく俺達を人として扱ってほしいぜぇ。もう三日まともに寝れてねぇよ」
そんな男達の声が、荷馬車とともに近づいてきて。
「そりゃてめぇ、真面目すぎるんだよぉ。
適当に手ぇ抜かねぇと続かねぇぜ? 下っ端はよ。
ほら後ろを見てみろよぉ、荷台の獣族どもはみんな呑気に昼寝だぜ?
今のてめぇより獣族どものほうが、よっぼど幸せそうじゃねぇかぁ!?」
「ぶっはっはっはぁ! こりゃ一本取られたなぁ!
まぁ昼寝くらい好きにさせりゃいいさ、これから死ぬまで地獄をあじわうんだからよぉ!!」
下衆な笑い声を上げながら、男たちは横を通り過ぎた。
フィリアの右手が汗ばんで、俺の左手を強く握りしめ小刻みに震えていた。
あの荷馬車には、獣族が乗っている。
あそこに捕まった獣族たちは、川を越え、裏社会で売りさばかれて、
どこかに監禁されたまま、これからの一生を過ごすのだろうか?
「………───……!」
マナトが静かに、肩を震わせて泣いていた。
俺がいま飛び出して戦えば、あの男たちに勝てるだろうか?
正直俺は、賢者状態じゃなくてもそこそこ強い。
俺の力なら荷馬車を襲って、あそこに捕まった獣族たちを助け出すことができるかもしれない……
でも、その後は……??
助けた獣族を含めて、たくさんの獣族たちを連れながら、
異変を察して襲いかかる盗賊たちを撒き、"地下通路"を越えて、
王国軍の包囲網をくぐり抜けて、獣族独立自治区まで、全員連れていくことは出来るだろうか……?
(無理だ……)
どう想像しても、無理だとしか思えなかった。
もちろん、やってみなくちゃ分からない。
意外と上手くいくかもしれない。
そんな事は分かってる。
だけど……
いま、他の獣族を助ける余裕なんてない。
俺たち三人がアルム村に帰りつくことが最優先。
気づかれなくて、良かった。
このまま、やり過ごそう。
彼らを助けたい気持ちとは裏腹に、
当たり前のように"見て見ぬふりをする判断"をしている自分に、心底嫌気がさした。
カラ……カラカラカラ……
荷馬車は通り過ぎて、そして闇に消えていった。
「行こう……」
フィリアの声は震えていた。
「アルム村に、帰るんだ……」
俺たちは静かに立ち上がり、
再び前へと歩き出した。
★★★
地下通路を越えて、フェロー地区へと踏み込んで、
地上に出た俺たちは、また森の中へと歩き出した。
★★★
真夜中の森。
とっくに日は沈み、闇のなか、
俺たちは休むことなく山道を進んできた。
「あと……少しだ……」
自然と足が早くなっていく。
疲労なんか忘れて、俺たちは無我夢中で走り出した。
「やっと、帰ってこれたっ……!」
獣族独立自治区の外壁が見えた。
間違いない。六日前、俺たちが出発した場所だった。
「あ、ぁあ、あぁ……」
フィリアは、歓喜きわまって涙を流していた。
俺たちはついに、獣族独立自治区まで、たどり着いたのだった。
★★★
「……──……、……──……──…─!?」
外壁の上から、聞き覚えのある男の子の声がした。
「……ジルク!?
ずっと、オレ達を待ってたのか!?
いま帰ったぞ!!
マグダーラ山脈からあらゆる薬を持ってきた!
……これでっ! 父さんの命は助けられる!!」
フィリアは壁の上のジルクに向かって、満面の笑みで手を振った。
ジルク──彼はフィリアにとっての
フィリアの父"
ジルクは自尊心が高く、少し前までは、兄弟子であるフィリアを敵視して、いつも口喧嘩が絶えなかった仲だそうだが、
俺たちがフィリアを救出した後、気絶したフィリアに飛びついてキスをしたのもこのジルクである。
つまりジルクは分かりやすく、兄弟子であるフィリアに恋している。
「……──……─………!」
ジルクがまた大声で叫んだ。
しかし俺には、その声は、フィリアの帰郷を喜ぶ声には聞こえなかった。
もっと切羽詰まった。胸騒ぎのする、そんな叫び声だった。
「な……なにを、言ってる? 冗談だよな、ジルク……」
フィリアの表情が、またたく間にひきつった。
俺には、獣族語の会話は分からない。
でも……なにか大変なことが……
「……父さんが……
どうして……嘘だ……
余命はまだ、じゅうぶん………」
ガクン、とフィリアが地面に膝を落とした。
そして、地面に俯き、肩を震わせてうなだれていた。
「……やだ……いやだ……そんなのやだ……
……父さんまで居なくなったら、オレは、何のために……
いや……オレが、治すんだ……
オレは、一人前の医者なんだ……」
フィリアは目の焦点が合っておらず、完全に死んだ目でしゃがみこんでいた。
俺はそんなフィリアの手を取った。
「……あぁぁ、ううぅ……ううぅぅ……!」
俺は、赤ちゃんのように泣き続けるフィリアを背負いあげて、言った。
「しっかりしろフィリア! 立って! 今すぐ父さんに会いにいくぞっ!
まだ間に合うんじゃないのか!? まだ終わっていないっ! 諦めんなフィリア!
かならず助けるぞっ! お前ならできるだろうがっ!」
「ぅうぅううっ、あぁああああぁあっ!!」
泣きわめくフィリアを背負いに、網ハシゴに足をかけて登り、壁をのり越えた。
獣族独立自治区へと、足を踏み入れる。
降り立った場所には松明が灯り、十人ほどの獣族たちが俺達を待っていた。
それぞれ早馬にまたがりながら。
俺たちは息をつく暇もなく、荷物をほかの馬にあずけて、騎手の背中にしがみつき、
夜の闇のなかを、一目散に走り出した。
十頭ばかりの馬たちで、アルム村へ向かって、全速力で向かっていく。
早く着け、早く着け……
フィリアも俺も、心のなかでそう念じるしかなかった。
もしも俺が賢者になれたら、もっと早くフィリアを届けられるかもしれないけれど、
今の俺は、とべない鳥だ。
俺は、賢者に、なれない……
アルム村の崖の中腹、ぽつんと立つ小さな診療所。
そこに、フィリアの父親
【あとがき】告知!!
ハーメルンにて、「【R-18版】クラス転移した俺のスキルが、【マスター〇ーション】だった件」を投稿しました。
「六十六発目「零れた朝露、蜜の残り香」【裏】
ギルアとの死闘を終えて、第五膜のラスト。
本編ではカットした、
18歳未満の読者は、残念ですが読めません!
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