クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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第C膜 ナロー世界とクラスメイト外伝(番外編)
七十四発目「クラスメイト外伝①」


 

 時間は10日ほど遡る。

 

 クラス転移一日目。

 

 マグダーラ山脈に召喚された万波行宗(まんなみゆきむね)含むクラスメイトは、謎の赤白装束の二人ギャベルとシルヴァの指示で、ボスモンスター「スイーツ阿修羅」との死闘を強制される。

 

 スイーツ阿修羅の討伐報酬は、3つの【ネザーストーン(願いを叶える石)】だった。

 

 一つ目は、クラスの野球部番長”岡野大吾(おかのだいご)によって、「全員のマルハブシの猛毒の解毒」として叶えられた。

 

 そして、残り2つの石を巡って、クラスの意見は対立した。

 それは残酷な選択だった。

 

浅尾和奈(あさおかずな)を蘇生させて、現実世界に帰還する。

新崎直穂(にいざきなおほ)を蘇生させて、現実世界に帰還する。

浅尾和奈(あさおかずな)新崎直穂(にいざきなおほ)をどちらも蘇生させる。

 

 クラス内で多くの意見反発が起こったものの、願いを叶える権利は、2つの頭にトドメを刺した万波行宗(まんなみゆきむね)が所持していた。

 

新崎直穂(にいざきなおほ)浅尾和奈(あさおかずな)を生き返らせてくれ」

 

 万波行宗(まんなみゆきむね)は、二人を蘇らせてこの世界に残る選択をした。

 その選択に、とある男がブチギレた。

 

「はぁ?! なんて言ったてめぇ!! ざけんな! 取り消せよ!!」

 

 岡野大吾(おかのだいご)。クラスの陽キャで中心的人物。将来の夢はプロ野球選手。

『クラスメイトなんて所詮は他人、ほとんどは卒業と共に関わりを無くす。だからどちらかの命を見捨てて現実世界に帰るべきだ』

 岡野大吾(おかのだいご)はそう強く主張していた。

 

 ドゴォ!ドゴォォ!!ドゴォォ!!

 

 岡野大吾(おかのだいご)は、万波行宗(まんなみゆきむね)を怒りのままに殴り続けた。

 

 気絶しても、殴るのをやめない岡野大吾に、クラスメイトも止めに入った。

 蘇生された新崎直穂(にいざきなおほ)が【超回復(ハイパヒール)】で行宗(ゆきむね)の怪我を治療し、

 浅尾和奈(あさおかずな)が【爆走(バーンダッシュ)】で二人をボス部屋の外に連れて逃げた。

 

「……くそが、邪魔すんなっ、ブチ殺すぞっ!!」

 

 多くのクラスメイトに囲まれて、行く手を阻まれる岡野大吾(おかのだいご)

 その時、

 ボス部屋全体にが、淡い碧色の光で満たされた。

 床を見れば、複雑な円形の模様、巨大な魔法陣が浮き出て回転をはじめる。

 

「……えっ!!」

「……なにっ!?」

「……っっ!」

 

 次の瞬間、クラスメイト達の視界全体が白く爆ぜた。

 白い爆発に飲み込まれるような感覚だった。

 

(でも、熱くねぇ、眩しくもねぇ……)

 

 この世界に召喚された時と同じ感覚。

 空間から身体が引き剥がされて、また別の空間へ。

 転移……

 

(……まったく、どうなってやがる……)

 

 ()岡野大吾(おかのだいご)は、諦めたように脱力し、目を閉じた。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

岡野大吾(おかのだいご)視点─

 

【これは、大洞窟でボス部屋ごと姿を消した、クラスメイト側の物語】

 

 目が覚める。

 また冷たい床の上、俺の身体は這いつくばっていた。

 俺はイライラしながら身体を起こした。

 

「……なんだ……ここ?」

「……死後の世界、とか?」

 

 クラスメイト達が息を飲むような声がした。

 

 見上げると、真っ白な光に包まれた空間があった。

 体育館ほどの直方体の空間、床を見ても影はない、ただ真っ白な床だった。

 気味が悪い。

 

「おい、これ見ろよ。お宝だっ!」

 

 直後、興奮気味な声が聞こえて、俺は後ろを振り返った。

 そこには、金銀財宝、宝石爛々、文字通りの宝の山があった。

 

「うひょー、すげぇ…… これ全部金だよな。そうだよなっ!?」

「転移したってこと……?」

「ねぇ、この部屋って、出口はどこなの?」

「もしかしてこれ、ダンジョン攻略報酬って奴じゃないの!? 俺達があのボスを倒したからっ!」

 

 クラスメイト達はとにかくうるさく騒ぎ立てた。

 そんななか俺はただ一人、万波行宗(まんなみゆきむね)だけを探していた。

 俺はあいつをぶっころさなくちゃいけない。

 こんな世界、もうこりごりだ。宝なんざには興味ねぇ。

 俺はこの野球部で、一年生でレギュラーだ。一ヶ月後には夏の大会が控えてる。

 早く帰って練習しなきゃいけないってのに、こんなんじゃ身体がなまっちまう。

 

「どこにいやがる!! おっぱい野郎!!」

 

 俺は本気で怒鳴りちらした。

 アイツが逃げていった穴は見当たらない。ここはボス部屋とは全く別の空間だ。白色に包まれた気味の悪い空間。

 

「ねぇ和奈(かずな)はっ!? 和奈(かずな)が見当たらないんだけどっ!」

 

 同時に、五十嵐真中(いがらしまなか)の切羽詰まった声が響いた。

 

和奈(かずな)新崎(にいざき)さんって、万波行宗(まんなみゆきむね)くんを逃がすために部屋の外に逃げてたよね……」

 

「……ここに居ないってことは、まさか穴の向こうに取り残されたってコト……?」

 

「うそ……うそだよね、なーちゃん……」

 

「ねぇ、この部屋出口がないよ!」

 

 行宗(ゆきむね)だけではない。

 新崎(にいざき)浅尾(あさお)もこの部屋には居ないようだった。

 あぁクソっ……

 

「ふざけんじゃねぇぞ! 好き放題やりやがって、逃げてんじゃねぇっ!!」

 

 俺は怒りのあまり、おかしくなってしまいそうだった。

 

「お前ら、邪魔しやがって……」

 

 俺は鋭い目で、周囲のクラスメイトに睨みつけた。

 すぐ近くには、地味メガネの金田大成(かねだたいせい)が、涙目で頭を抱えていた。

 

「とくにお前だァ金田(かねだ)っ! お前が穴を塞がなければ、俺様はアイツを逃さずに済んだってのにっ!!」

 

 金田大成(かねだたいせい)、コイツが土魔法で穴を塞いだせいで、俺の拳は行宗(ゆきむね)に届かなかった!

 

「やめろ、大吾(だいご)っ!」

 

 拳を振るう俺と、それを止めに入る後藤駿太(ごとうしゅんた)

 後藤駿太(ごとうしゅんた)は俺の野球部のチームメイトだ。

 下手くそだし気が弱い奴のクセに、顔がよくて女子にモテやがる。正直羨ましい。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 俺の拳が後藤の顔面にヒットするかと思われた瞬間。

 俺の拳を何の前触れもなく、ピタリと静止した。

 

「は……?」

「え?」

 

 互いの唖然とする声が重なる。

 

 俺の拳は、どれだけ力を入れても、それ以上進まなかった。

 まるで見えない壁に止められているようだ。しかし触れている感触はない。

 

「なんだよコレっ! クソっ!」

 

 俺は逆の腕を振ったが、同じだ。

 俺の拳は見えない何かに止められた。

 

「……この場所ではたぶん、人を傷つけることは出来ないんだと思う。

 ……俺の特殊スキルも使えないみたいだ。

 ダンジョンの報酬を受けとる場で、宝の奪い合いなんて愚かだからな。

 

 野球部のチームメイトの後藤(ごとう)は、俺を宥めるように言った。

 

「……っつ、あぁクソっ! なんでこんな目にっ!」

 

 俺は振り上げた拳をやけくそに振り下げた。

 

「落ち着けよ大吾(だいご)。気持ちは分かるよ、分かるけど。

 お前にとっての正解が、みんなにとっての正解って訳じゃない。

 どうか冷静になってくれ。あの化け物を倒せたのはお前がいてくれたお陰だ。

 お前のお陰で、俺たちクラスは毒死せず今も生きているんだ。

 これからも、クラスの皆が助かるには、お前の力が必要だ」

 

 後藤駿太(ごとうしゅんた)は俺にそう言う。

 

「勝手なこと言いやがって。俺様はヒーローなんかじゃねぇよ。自分勝手な自己中だ。クラスメイトやチームメイトの事なんざ心底どうでもいい……」

 

「……バカ言え、お前のバットが俺たちのチームを、何度救ってくれたと思ってる」

 

「そんなつもりはねぇ。俺がヒットを打つのは全部俺自身のため……

 って、もうめんどくせぇ。どうでもいいわ。

 それで? どうすりゃいいんだ、駿太(しゅんた)?」

 

「あぁ。ありがとう。

 いま女子たちが部屋から出れないって騒いでいるけど、ここが宝物庫である以上は、出口は必ずあると思うんだ。

 さらに、ここには大量の宝物と武器がある。

 出口の向こうで何が待ってるか分からない。なるべく持って出るのが良いと思う」

 

 後藤駿太(ごとうしゅんた)は頭が回る。

 身体が小さくパワーが無いが、野球の技術や判断力には光るものがある。

 

「なるほどな。

 ……って事で、聞けぇお前ら!

 俺らはまずこの部屋から出なくちゃならねぇ。

 そこの宝の山から、使えそうな武器と金になりそうなモノを中心に手に持っておけ! 出口の向こうで何があるか分からねぇからな。

 同時に手分けして出口を探すぞ。ここが宝物庫である以上、出口は必ずあるはずだ」

 

 俺はクラスメイトに指示を出した。

 

「了解!」

「分かった。なら手分けして壁を探ろう。叩いたら反響音で空洞が分かるかも知れない」

「なせだ。俺の【透視(とうし)】スキルが使えねぇ」

「やっぱりさ。出口のボタンとかって、真ん中とかにあるんじゃないかな?」

 

 途端にクラスが元気づいて、テキパキと役割分担が行われた。

 俺はキャプテンみたいな柄じゃないのにな。

 

「この剣めっちゃ強そうじゃね?」

「金みたいな見た目なのに、凄く軽いね。この鎧」

「は? どうなってる。壁を叩けない、空中で手が止まるんだが……」

「あ、ほらやっぱり、ここに丸い印があるよ!」

 

 騒がしい白い部屋の中で、一際明るい声が響いた。

 部屋の真ん中、床に四つん這いになりながら、雅遥香(みやびはるか)は声を弾ませていた。

 

「どうすれば良いんだろ? 動かせたりするのかな? ……えっ??」

 

 雅遥香(みやびはるか)が床に手を触れた瞬間、ガコンと大きな音がして。

 

 ギギギギギギギ……

 

 四面の壁のうちの一つが、大扉のように、大きな音を立てて開いていった。

 

「うぉぉ! 開いたっ!」

「空だ……」

 

 部屋を包む神聖な光は消えていき、ここはただの白い部屋へと褪せていった。

 みな、扉の向こうに注目していた。

 あの向こうに、何があるのか。

 

 まず空が見える。青い空だ。少なくともまた洞窟なんてことはないだろう。

 え……

 俺は、耳を疑った。

 扉の向こうからも、声がした。

 たくさんの声だ。

 

「扉が開いたぞ!」

「ここが、大ダンジョンの宝物庫か……」

「おかしい。マグダーラ山脈の方は転移するタイプだったろ?」

「おい、どういうつもりだ! お前らは何者なんだ!」

「【ネザーストーン(願いを叶える石)】はどうなった!? 誰が所有している!?」

 

 たくさんの男の声がした。

 聞く限り、若者から中年の男の声だ。

 

「……ひっ」

 

 俺の隣で、五十嵐真中(いがらしまなか)が青ざめた顔で、俺の腕を掴んできた。

 そりゃ怖いだろうな。

 扉の向こうには明るい地上と、鎧を着た屈強な男たち。

 完全武装の兵士達が、俺たちを待っていたのか、扉の前で待ち構えていた。

 

「なんなんだよお前らっ! なんなんだよこの世界はっ!

 もう異世界なんてこりごりだっ! 早く元の世界に返してくれっ!」

 

 恐ろしい兵士たちに囲まれて、クラスメイトの誰かが発狂するのが聞こえた。

 

「全員強えな。それに、数も多い……」

 

 俺の特殊スキル、【超感覚(ハイパセンス)】によって、扉の向こうの戦士団の戦力が読み取れてしまった。

 さすがに、あのラスボスと対峙した時ほどの絶望感は感じないが、

 身体も鍛えられているし、振る舞いに隙がない。

 ……あいつらがこの世界の人間ならば、スキルとやらについても俺たちより熟知しているだろう。

 

「……ねぇ岡野(おかの)……どうしよう。あいつら何者っ?」

 

 五十嵐真中(いがらしまなか)が、震え声で俺に尋ねる。

 

「知るかよ。……ただ、全員強えのは確かだ。特にあの真ん中の剣士は、俺様よりも確実に強い……」

 

 そう言い終わった瞬間。

 兵士たちの真ん中に居た。明らかに別格のその剣士が、さっと天に向かって剣を振り上げた。

 

 ドォォォォォォォ!!!

 

 次の瞬間、当たりが轟音と閃光に包まれた。

 思わず目を瞑りそうになるなか、俺は何とかそれを見た。

 

 雷が、その剣士の刀めがけて、降り落ちていたのだった。

 

「鎮まれぇぇぇぇぇえ!! 俺以外は口を開くなぁぁあ!!」

 

 直後、その剣士の大声は、騒ぎ立つこの場を一声で沈黙させた。

 

 となりの五十嵐真中(いがらしまなか)は、恐怖のあまり、ガクンと地面に膝をついていた。

 

「……ふむ。それでいい」

 

 フードを外した赤髪の剣士は、口を噤んだ兵士たちを見て満足そうに頷いた。

 

「失礼、ダンジョンを攻略した勇気ある者達よ。貴様らは何者だ? なぜこのダンジョンのボスに挑んだ?」

 

 筋骨隆々の赤髪の剣士は、俺たちに向かって、威厳のある声で尋ねてきた。

 

「……てめぇらこそ何者だ。

 人に名乗らせる前に、まずは自分が名乗るってのが礼儀じゃねぇのか?」

 

 俺はその剣士に聞き返した。

 俺以外のクラスメイトは、とてもじゃないが口を開ける状態じゃないからな。

 

「ふむ、ふはは。確かにそうだな。

 我々は、ヴァルファルキア大洞窟攻略連合軍である。

 そして俺の名は、ザザン・ラファレーズ!

 アキバハラ公国遠征隊の隊長であり、この攻略連合のリーダーでもある!

 さていま一度問おう。貴様らは何者だ?」

 

 余裕のある笑みを見せながら、赤髪の剣士はザザンと名乗った。

 

「俺様の名は岡野大吾(おかのだいご)だ。

 夕霧高校一年五組、出席番号七番、野球部の三番でピッチャーだ。

 俺たちは元の世界に帰りてぇんだよぉ! 魔法やモンスターなんざ飽き飽きた。

 てめぇらこそどういうつもりだ? 俺たちに何の用だ?」

 

 俺は大声で名乗り返した。

 途端に、向こうの兵士たちがどよめいていた。

 

「別の世界? まさか召喚勇者っ!」

「あの全員が、召喚勇者!? バカ言え。あんな大人数が一度に召喚されるなんて聞いたことがねぇ!」

「しかし、1700年前のともか様の降臨時にも、数千人の召喚勇者が召喚されたと聞くぞ」

「……なぜ召喚勇者がダンジョンを攻略している? 誰に指示された?」

「【ネザーストーン(願いを叶える石)】をどこへやった! まさか使ったとは言うまいな!?」

 

「黙れ! 今は俺が話しているだろうが!」

 

 赤髪剣士ザザンの一喝で、再びしんと鎮まる兵士達。

 

「我々の目的はただ一つだ。この食の大ダンジョンのラストボス【スイーツ阿修羅】がドロップする神のアイテム。【ネザーストーン(ネザーストーン)】を通して神に、"世界の真理"を問うことだ。

 【ネザーストーン(願いを叶える石)】は、因果律や等価法則等、世界の理に逆らうことは出来ないが、大きな願いを叶えることができる秘宝なのだ!

 答えろ、【ネザーストーン(願いを叶える石)】の所有者は誰だ?」

 

 赤髪のザザンは鋭い目で俺たちを見渡した。

 

「【ネザーストーン(願いを叶える石)】…… どいつもコイツも好き勝手言いやがって! もう使っちまったよそんな石ころ!」

 

 俺の一言で、あたりがシンと静まった。

 そして、

 

「使った!? ふざけるなよぉ!!」

「その石のためだけに、一体どれほどの命が犠牲になったと思っている!」

「【ネザーストーン(願いを叶える石)】はバーンブラッド様の悲願だったんだ!」

「ぶち殺してやる! 永遠の回復拷問に処すべきだ!」

「三十年間だ! 私が生まれる前から、このダンジョンに大人数がつぎ込まれたというのにっ!」

「皆殺しにしてやる! 首を並べてアキバハラ宮殿の見せ物行きだ!」

 

 激昂し、怒鳴り散らす兵士達。

 

「ひっ……」

「うぅう……」

 

 クラスメイト達はみな腰を抜かし、尻もちをついて涙目だった。

 情けねぇ。

 俺がやるしかねぇじゃねぇか。

 

「黙れ! 俺以外しゃべるなと言っただろうが!!

 ……大罪を犯した召喚勇者たちよ。悪いが我々についてきてもらう。

 安心しろ、処刑はしない。ただ質問をするだけだ」

 

 赤髪のザザンはそう言った。

 クラスメイト達は、恐怖で怯え続けるだけだった。

 

「へぇ? 舐めてんのかテメェ。信用するわけねぇだろうが」

 

「ふはっ、だよなぁ! 

 あーあ。バカどものせいで面倒くさいことになった……

 いいかお前ら、この攻略隊では俺がルールだ!

 必ず生け取りにしろ! 殺すことは許可しない!

 貴重な特殊スキルの喪失は、この世界の為にならない!」

 

 赤髪のザザンは大声を出し、背中の大きな剣を引き抜いた。

 

「く、くるぞっ!」

「早くっら武器を持って、戦うぞっ!」

「勝てるの、あんな人数に……」

「無理だよ、和奈(かずな)も居ないし、回復役の新崎(にいざき)さんだって居ない。行宗(ゆきむね)も……」

「………ううっ、どうして……なーちゃんっ……!」

「マルハブシの猛毒のバフもない、勝てるわけないよ……」

 

 クラスメイト達は、いよいよ恐怖でパニック状態だった。

 

「まったくお前ら、しっかりしやがれ! ボス戦の時の勢いはどうしたんだよ!

 良いか? ステータスオープンで確認してみろ! 俺らのレベルは上がってる!

 理屈は分からねぇが、ダンジョン攻略報酬ってやつなんじゃないのか?

 武器を持て! あいつら全員皆殺しにしろ! 戦うぞっ!!」

 

 俺は力の限り叫んだ。

 男子たちが慌てた様子で、宝の山から武器を探す。

 

「ねぇ、でも岡野(おかの)……あいつら皆人間だよ……全員が悪い奴って訳でもなさそうだし……

 私、殺すなんて、できないよ……」

 

 俺の隣で五十嵐真中(いがらしまなか)が、弱々しく震えていた。

 

「甘えんじゃねぇ! この世界の奴らは人間じゃねぇ、クズ野郎共だ!

 邪魔する奴は全員蹴散らせ! じゃなきゃ全員ここで死ぬ!

 クラス全員、生き延びろ! 俺が逃げ道を作ってやる!」

 

 俺はザザンを真似するように、宝の山から光り輝く大剣を引き抜いた。

 この剣が俺を呼ぶ声がしたのだ。

 適度に軽く。装飾も最小限。俺好みの剣だった。

 

「ステータスオープン」

 

 俺はそう口にして。自身のステータスを確認した。

 レベルが上がっていると感じたのは、【超感覚(ハイパセンス)】による実感だ。

 実際のレベルも確認しておこうと思った。

 

「レベル66、悪くないんじゃねぇか?」

 

 確認すると、俺のレベルは66になっていた。

 ボス戦直前のレベル52と比較すると、少なくない上昇だと思う。

 しかし相手は、あの【スイーツ阿修羅】に挑もうとするほど戦力を持った、ダンジョン攻略隊だ。

 マルハブシの三倍バフが無い今、勝てる見込みはあるのだろうか?

 

「しかし、この宝物庫には"神の加護"が付与されている……

 内側から出てくることは自由だが、外側からの侵入は絶対に不可能。 我々が侵入するすべはない……」

 

 赤髪のザザンは左手を伸ばし、部屋の内と外の境界に存在する見えない壁に手を当てた。

 

「我々はただ扉の前で待てば良い。

 一時間でも一日でも、食料が底を尽きれば奴らはこちらに出てくるだろう。飢餓状態では、拘束することも容易い」

 

 ザザンはそう言って、扉の前で胡座をかいて座り込んだ。

 

「お前ら、今すぐやるぞ! 今しかねぇ!」

 

 俺は叫んだ。

 兵士たちの軍団の向こうには、大きな砂漠が見えている。

 こいつら全員を倒しても、扉の向こうには過酷な状況が待っている。

 

 このままでは、時間が経つほど、俺たちは不利に追い込まれていく。

 

「全員で同じ方向を目指せ! 殺すことに躊躇するな! やらなきゃやられる! 絶対に一人になるな! 固まって動け! 自分が生き延びることだけ考えろ!

 ……全員が助かる保証はねぇ、迷った奴から死んでいく。ダメな奴は見捨てろ! できる限り多人数で生き残れ!」

 

 俺の言葉に、クラスメイト達は顔を真っ青にしながらも集まってきた。

 

「総員、警戒を緩めるな」

 

 赤髪のザザンは、剣を抜いたまま言い放つ。

 

「あの赤髪のザザンって奴は、俺様が相手する。

 あいつら全員俺がぶち殺してやるさ。

 お前らは一緒に固まって遠くへ逃げろ。それでいいな?」

 

 俺は、クラスメイト達に聞き返した。

 

「相手するって、お前は逃げないつもりなのか?」

 

 後藤駿太(ごとうしゅんた)が、慌てた様子で俺に聞いた。

 

「はっ、お前ら雑魚どもが近くにいると迷惑だって言ってるだよ! ろくに刀が振れやしねぇ!

 雑魚どもはとっとと逃げやがれ、俺様の戦いを邪魔すんな!」

 

 俺は強く言い放った。

 

「おい、大吾(だいご)、俺は足手纏いになんかならねぇよ!」

「そうだそうだ! 一人でカッコつけてんじゃねぇ。俺も逃げねぇぞ!」

 

 仲の良い運動部の男子達が、そんな風に騒ぎ立てた。

 

「バカか、お前らは雑魚どもが逃げるのを先導するんだよ!

 お前らがいなくちゃ雑魚どもだけで、どうやってこの先を生き延びるって言うんだ!

 残るのは俺一人で十分だ!」

 

 俺はそう言って、クラスメイトに背中を向けた。

 

「どういうつもりだ大吾(だいご)? お前、そんなキャラじゃないだろう!」

 

 サッカー部の竹田慎吾(たけだしんご)が、泣きそうな声でそう言っていた。

 

「アイツらが言ってただろ? 【ネザーストーン(願いを叶える石)】は30年間探し求めていた大秘宝なんだってよ。

 元の世界に帰る方法なんて、そうそう存在しねぇんだよ。

 俺の夢は終わった。俺の野球は終わったんだ。

 だったらせめて最後は、人の役に立つのも悪くねぇ」

 

「馬鹿野郎、お前……」

 

「うるせぇ黙れっ!

 負けの心配なんかするやつは大っ嫌いなんだよ! 俺様は!

 さぁいくぜ!

 全員ぶっ殺せば問題ねぇッ!」

 

 俺は剣を取り、戦闘に立って赤髪の剣士に向かって走り出した。

 

「おらぁぁああぁあ!!」

 

 境界を超える。外に出る。

 日光がギラリと照りつける。

 

「雷神剣──雷走」

 

「がぁぁぁあぁぉあ!!」

 

 赤髪のザザンが技を呟く。

 二本の光の剣が衝突する。

 

 ババババリィィィ!!

 

 岩肌がひび割れて、大地が震撼した。

 

「逃げろ!! 塊になって走れっ!!」

 

 俺が叫ぶと同時に、クラスメイト達が宝物庫から飛び出した。

 

「アクアソード!!」

「ヘルポイズン!!」

「ギラティック・ボムっ!!」

 

 魔法と剣が衝突し合う。

 草木の生えない砂の大地にて、俺達クラスと異世界人の逃亡戦が始まった。

 

第一部完結記念 特にお気に入りの章アンケート

  • 第一膜 日給19億円!?驚異の日雇いバイ
  • 第二膜 ドキドキ♡異世界ダンジョンハーレ
  • 第三膜 寝取られ撲滅パーティー編
  • 第F膜 奪われたオレのはじめて編
  • 第3.5膜 フィリアはお医者ちゃん編
  • 第四膜 ダンジョン雪山ダブルデート編
  • 第五膜 零れた朝露、蜜の残り香編
  • 第5.5膜 帰郷──遺された者達の子守唄
  • 選べない!!全部!!
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