クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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 ※これは本編とは別のルート分岐です。
 ※iFストーリー。
 ※第五膜のラストにて、直穂が手紙を残して居なくなった時、

「①直穂を探しに行く ②アルム村に向かう」

  という二択が提示されたと思います。

 ※この物語は後者。
 ※フィリアやマナトと別れて新崎直穂(にいざきなおほ)を探しにいった世界線です。



六十七発目①(1)「直穂を探しに」

 

 身体を重ねた次の朝。

 新崎直穂(にいざきなおほ)は居なくなった。

 たった一枚、手紙だけを残して……

 

―――――――――――

 ――万波行宗へ――

 

 私のことは忘れてください。

 私のことは探さないでください。

 あなたが大嫌いです。

 

 さようなら。

 二度と会うことはないでしょう。

 

 浅尾和奈(あさおかずな)を幸せにしてあげてください。

 

 ――新崎直穂(にいざきなおほ)より――

 

――――――――――

 

 なんど読み返しても、意味が分からなかった。

 だって昨日の夜は、あんなにも甘く愛し合っていたのに……

 手紙の言葉が直穂(なおほ)の本心だなんて、俺は絶対に信じない。

 

 でも、この字は、見間違えるはずもない。

 達筆だけど可愛げのある、俺の愛する女の子――新崎直穂の筆跡だ。

 

 では、この手紙が本心では無いとして……

 新崎直穂(にいざきなおほ)に何があった?

 直穂は俺に、何を伝えようとしたんだ。

 

 ……こんな文を書かざるを得ない理由があったのだとしたら……

 ……全身から寒気がした。

 俺の全身の細胞が、考えることを拒否していた。

 ……想像してしまったら、直穂のことを考えてしまったら、

 悪い想像と嫌な予感にさいなまれ、発狂してしまいそうだった。

 俺の身体は自己防衛本能として、「直穂の身に起こったことを想像するな」と訴えてくる。

 

「……行かなきゃ。俺はっ……!

 早く……直穂(なおほ)を助けに行かないとっ!」

 

 俺は震えや怯えを振り払うように叫んだ。

 

「……きっと直穂はいま……どこかで泣いてるっ!

 ……待ってろ。直穂! 俺が助けるからっ! ……」

 

 俺は焦燥に駆られて森の中を走り出した。

 絶対見つける。絶対助けてやるっ!

 どこかに足跡か痕跡があるはずなんだっ!

 直穂は俺の彼女だっ! 絶対に絶対に諦めないっ! 諦めてなるものかっ!!

 

「……おい、行宗(ゆきむね)っ! 待ってくれよ!」

 

 ふと、後ろから聞こえたフィリアの声に、俺ははっと我に帰って振り向いた。

 

「……フィリア……」

 

「……行宗。お前は直穂を探しに行くんだ。浅尾さんや父さんの事はオレに任せろ、絶対に助けてやるから、安心して行ってこい」

 

 フィリアは、俺に詰め寄って、笑顔で肩を押してくれた。

 

「……直穂は死んだと決まった訳じゃない。だったら追いかけるしかねぇだろ。ここで諦めたら一生後悔するぞ」

 

「あぁ……そうだな」

 

 オレはあらためてフィリアの顔をまじまじと見た。

 赤みがかったふわふわの髪に、優しくて綺麗な瞳、太い眉、そして側頭部から生えた大きなネコ耳。

 昨日の夜、大切な人を失ったフィリアの言葉は、誰の言葉よりも説得力があった。

 

「……ありがとうフィリア。行ってくる」

 

「あぁ。お互い頑張ろうぜ。またな」

 

 軽い挨拶をして、俺はフィリアと別れた。

 フィリアはマナトは獣族独立自治区へと向かうのだ。そこで待つフィリアの父さんや浅尾和奈の命を救うために。

 

 俺は一人で、直穂(なおほ)を探しにいく。

 

 絶対に俺が、直穂(なおほ)を助けてやる。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 直穂探索一日目。

 

 俺は賢者になって辺りを探すことにした。

 

 この状況で、直穂のことを想像してオ◯二―するのは、たまらなく苦しくて辛かった。

 昨日の夜の幸せな時間、二人で溶け合った一夜を思い出しながら、何度も何度も吐きながら、俺は残った片腕の左手を動かした。

 いつもと違う手だから、やはり慣れない。

 でもっ、どんなに辛くても、心が痛くても……

 

『俺は絶対に直穂を助ける』

 

 その強い決意が、僕を頂上まで連れて行った。

 俺は、賢者になった。

 

 しかしその奮闘も虚しく、足跡らしきものは見つかったが途絶えていて、決定的なものは掴めなかった。

 

 

 夜が来た。

 でも、眠りたくなかった。

 クタクタで疲れていても、お腹が空いていても、

 直穂の事が心配でそれどころではなかったのだ。

 

 

 

 ★★★ 

 

 

 

 二日目。

 

 痛い……!

 俺を叩き起こしたのは、すさまじい痛みだった。

 目を開けると、俺の左腕がオオカミのようなモンスターに噛みつかれていたのだ。

 くそっ、

 

「【火素(フレイム)】っ!」

 

 即座に基礎魔法を詠唱すると、オオカミのモンスターはうめき声と共に息絶えた。

 

「はぁ……はぁ……痛……」

 

 思わず顔をしかめる。

 左腕から出血が溢れていた。

 

(いつの間にか俺は、気絶していたのか……)

 

 身体が重たい。頭の中がズキズキする。

 

「あぁそうか。直穂の【超回復(ハイパヒール)】もフィリアの【回復(ヒール)】も無いんだった……」

 

 ふと呟いて、虚しくなった。

 そうだ俺は、一人じゃこの出血も止められないんだな……

 

「ふっ」

 

 悲しくって乾いた笑いが漏れ出した。

 【自慰(マスター◯ーション)】スキルを持ってる俺は特別だ。なんて思っていたけど、全然そんなことないじゃないか。

 沢山みんなに助けられてたんだ。一人になって、はじめて気付いたよ。

 

「……あ」

 

 自分の視界が水の中みたいにぐにゃぐにゃと歪んでいるのに気付いた。

 僕は涙を流していた。

 

「……う……うぅぅ………うぅぅぅぅっ……!」

 

 寂しくて、一人ぼっちで、心細かった。

 

「会いたい……直穂に会いたいっ……! どこにいっちゃったんだよぉぉぉっ!!」

 

 あぁ。惨めだ。

 これだけ叫んだところで、僕の叫びは誰にも聞こえないだろう。

 森の中でひとりぼっち。

 もう高く上がった暴力的な日差しが、俺の体力をじわじわと削っていった。

 

 俺は焼き尽くしたオオカミに食らいついた。

 苦くて臭くて吐き気がしたけど、そんなことはどうでも良かった。

 直穂のこと以外、どうでもいい。今はとにかく腹を満たせれば良い。

 そして僕はフラフラと立ち上がった。

 

「……直穂……直穂……」

 

 俺はもう、直穂を助けにいくというより、直穂に会ってこの苦しみから解放されるために、直穂を探し続けていた。

 自分が救われるために直穂を探していた。

 俺にはもう直穂しか居ないから。

 新崎直穂は俺のものだ。誰にも渡さない。どこにも行くんじゃねぇ。

 ずっと俺のそばに居てよ。結婚するって約束したじゃないか。

 君の居ない人生なんて俺は、生きる意味がないんだ。

 

 結局、見つからなかった。

 太陽が落ちて、僕は疲労のあまり身体が動かなくなった。

 そのまま泥のように眠りについた。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 五日目の朝が来た。

 

 なぜだか身体に力が入らない。

 起き上がろうと思っても、身体が重たくて仕方なかった。

 

「くそっ……なんで……」

 

 俺は直穂を探しにいかないといけないのに……!

 

 力を踏ん張っても入らない。

『おかしい、毒か何かか?』

 

 それが疲労だということは、分かっていた。

 もう丸五日、探し続けて何の手がかりもないんだ。

 もう……諦め

 

「諦めんじゃねぇよバカがっ! 俺にとって新崎直穂はその程度じゃねぇだろうがっ!!」

 

 俺は自分自身を怒鳴りつけた。

 

「この程度で諦めてんじゃねぇっ! 立てよっ!! 立てよっ! 戦えっ!」

 

 俺は最後の手段として、左手をズボンの中へと突っ込んだ。

 力で立ち上がれないなら、もっと強い力で起き上がればいい。

 

 賢者。

 

 賢者となった俺はふありと空中に浮かび、ゆっくりと地面に足をつけた。

 

「探索範囲を広げよう。絶対に手がかりはあるはずなんだ……」

 

 俺はそう自分に言い聞かせて、北の方角を目指した。

 北にはガロン王国ギラギース地区の都市がある。大きな川の対岸にはフェロー地区がある。

 つまりフィリア達が獣族独立自治区へと向かった方向だった。

 

 直穂(なおほ)が大きな街へと向かった可能性もある。

 今は獣族とフィリアやマナトとは別行動だから、コソコソ隠れて移動する必要はない。堂々と町中を歩けるはずだ。

 一成(かずなり)さんから貰った「ガロン王国一級通行許可証」もあるしな。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 森のなかの道中。俺は信じられない光景を目撃していた。

 

「え……?」

 

 そこには血溜まりがあった。

 見覚えのあるバッグが転がっていた。

 食いちぎられた手がそのまま転がって、虫に食われて骨が露出している。

 

「……フィリア……マナト……」

 

 それは間違いない。

 死骸はないけれど、おそらく何かのモンスターに丸呑みにでもされたのだろう。

 マグダーラ山脈帰りの荷物。フィリアとマナトが背負っていた荷物だけが、地面に転がって残っていた。

 

「……そんな……」

 

 フィリアとマナトが死んだ場所。

 

「……はぁ、はぁ……はぁ……」

 

 ドクドクと心臓が暴れた。ガクンと膝が壊れて、俺は地面に這いつくばった。

 

「……ごめん……ごめんフィリア……ごめんマナト……」

 

 俺のせいだ……

 俺が、二人から離れたから……そのくせして何の成果も得られずに、ただ無駄に森の中を散歩して……

 何やってるんだ。俺は……

 

 あ……

 

 そして俺はまた、恐ろしい事実に気がついてしまう。

 

 フィリアやマナトがここで息絶えたということは、アルム村に帰れていないということは、

 アルム村で薬を待つ浅尾さんはどうなる? 啓介さんはどうなる……?

 いや、小桑原啓介さんにはまだ寿命があったと思うけれど、和奈の余命は出発時から一週間。

 今日は……えぇと、うん……

 アルム村を出発してから、11日目の昼だった。

 

『浅尾和奈を幸せにしてあげてください』

 

 直穂の声が聞こえてきた。

 直穂が手紙に残した最後の一文、俺に託した願いだった。

 

「……あぁ、ホントに俺は、何やってるんだ……!」

 

 みんな……みんな居なくなった。

 みんなの期待を裏切った。

 俺には誰も救えない。むしろ、沢山殺してばっかりだ……

 

 俺は、食いちぎられて捨てられた。フィリアの虫に食われた冷たい左手に手を当てた。

 

「ごめんなぁフィリア……ごめんなさい誠也さん……ごめんなさい……」

 

 俺はフラフラした足取りで、土の上に転がったマグダーラ山脈の薬剤をカバンに詰め直した。

 俺たちが一週間かけて、必死にかき集めた薬剤の数々。

 でも、あの時の四人は、もう俺しか残っていない。

 フィリアの腕もカバンの中へと入れた。

 

「アルム村に帰ろう、フィリア」

 

 まだだ……まだ間に合うかもしれない。

 俺が連れて行くんだ。

 浅尾さんとフィリアの父を助けることが、俺達の願いだったはずだ。

 せめて、俺だけでも帰らないと。

 この薬を届けるんだ。まだ助けられるかもしれない。

 

 

 ギラギース地区の関所は、一成さんから貰った通行証を見せると簡単に通過できた。

 川をわたりフェロー地区へ。俺は急いで森の中を進んでいった。

 

 獣族独立自治区に辿り着いた頃には、もうすっかり日が暮れていた。

 アルム村の位置は正確には覚えていないが、賢者状態ならみえるはずだ。

 

 俺は、直穂を想いながら感情を高ぶらせた。

 

 

 俺は賢者になった。

 

 白い流れ星が空を駆け抜け、俺はアルム村の崖の上の診療所へと辿り着いた。

 

 ガチャリ……

 と明かりのついた扉を開けた。

 診療所の中は多くの患者でごったがえしていた。

 みんな俺の姿をみるなりぎょっとした目で、

『人間』『人間だぁ』と怯え騒いでいた。

 

『フィリアかっ!!?』

 

 そんな中、大きな声を出して玄関に飛び出しきた白衣の男の子がいた。

 たしか、ジルクという名前だったはずだ。

 慌てて出てきた彼は、俺の顔を見るなり、露骨に引き攣った顔をしていた。

 

万波(まんなみ)……行宗(ゆきむね)……』

 

 それはまるで、親の敵でも見るような目だった。

 ジルクは歯を食いしばりながら俺のほうへゆっくりと歩みを進めていた。

 

『フィリアは……どこへ行ったんだ……?』

 

 何かを堪えるように、明らかな敵意を持って、ジルクは俺に訊いてきた。

 

「ごめんなさい。フィリアは、死んだ

 

 ドゴォ!

 

 言い終わらない内に、俺は顔面をぶん殴られていた。

 

『なにやってんだよっ! クソ野郎っ! 何のための護衛だよっ!!

 お前らが遅いからっ、和奈さんも啓介さんも死んじまってるんだよぉ!!』

 

 ジルクから知らされた事実を、俺は無感情で受け入れていた。

 そうか、やっぱりそうだよな。

 

「……ごめん、ジルク……全部俺のせいなんだ……」

 

『当たり前だボケぇ、死んで詫びろ! お前が死ねばよかったんだっ! なんで無能が生き残ってんだよぉ!』

 

 泣きじゃくりながらジルクが叫ぶ言葉が、ストンと俺の胸の中に落ちていく。

 そうだよな。本当に俺もそう思うよ。

 どうして俺だけ生き残ったのか。俺なんかよりもっと生きるべき人はいただろう。

 

 ニーナ、ヨウコ、誠也さん……直穂、フィリア、マナト……

 和奈、フィリアのお父さん……

 

 全員、俺が無能なせいで死んでいった人たち……

 ホント、なんで生きてんだ俺。

 

『やめなさいジルクっ! 行宗さんも怪我だらけじゃない! 右腕も、失って……!』

 

 そんな時、向こうから獣族の女性が飛び出してきた。

 慌てたように俺達のほうに駆け寄り、

 

「【回復(ヒール)】」

 

 と詠唱して俺の傷だらけの身体を癒やしてくれた。

 

 そうか、彼女は、フィリアのお母さんか。

 名前は確か……

 

『ジュリアさん……でもコイツは……』

 

『でもじゃありません…… ほら、こんなにボロボロの身体じゃないですか……』

 

 ジュリアさんはジルクを軽くたしなめて、土下座した俺の頭の上に、ポンと温かい手を乗せてくれた。

 

『よくここまで帰ってきてくれました。

 ……仲間や大切な人を失って、とてもお辛い想いをしたでしょう……

 どうか、ここでゆっくりとお休みになってください。

 お風呂も湧いています。美味しいご飯も炊けています。

 ここでいくらでもおやすみになってください……』

 

 ジュリアさんに優しい声色で、頭を撫でられて。

 俺の中でずっと溜まっていた苦しいものや辛いものが、一気に溶かされていくような感覚がしたんだ。

 

「……うっ、うぁああああああっ!!! あぁああああああっ!!! あぁあああああああああっ!!」

 

 俺は胸が張り裂けそうなほど泣き叫んだ。

 涙と震えが止まらない俺を、ジュリアさんは抱き上げて抱きしめてくれた。

 

『辛かったですね…… 行宗さんは悪くありません。自分を責めないで下さい…… よく頑張り……』

 

 そこで、俺の賢者タイムが終わりを迎えた。

 俺の身体を包む白い光は消滅して、獣族語の自動翻訳機能も消えて、ジュリアさんが何を話しているのか分からなくなってしまった。

 でも、言葉じゃないのだ。

 抱きしめて包んでくれるぬくもりと、すべてを肯定してくれる優しい言葉に、

 俺はひとりぼっちじゃないんだって思えた。

 

 直穂(なおほ)が居なくなってから、俺はずっと一人だった。

 一人きりで自分を責めてばっかりだったけれど。

 ジュリアさんに自分そのものを肯定してくれて、俺はやっと何も我慢せずに泣くことができた気がした。

 それは苦しい涙ではなく、気持ちが楽になれるような涙だった。

 

 ふと顔を上げると、ジュリアさんの肩越しに、ジルクがバツの悪そうな目で俺をみていた。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 お風呂に入り、ご飯を食べて、落ち着いて。

 俺はジルクやジュリアさんと、人間語(日本語)を紙に書いて筆談した。

 ジルクやジュリアさんは人間語の発話は苦手だけれど、紙に書いた文字は読めるらしい。

 左手で文字を書くのは難しかった。

 俺は元々右利きなのだが、その右腕を失ってしまった。

 逆にジルクやジュリアさんの文字はすごく綺麗だった。獣族は手先が器用だと、フィリアがいつか言っていたな。

 

 俺は簡単にことの顛末を正直に話した。

 二人はうなずきながら訊いてくれた。

 

『それで、フィリアが死んだ場所で。俺はフィリアの右腕を拾ったんだ』

 

 そう書いた時、ジルクとジュリアさんが息を飲むような音がした。

 

 俺はカバンから、布で包んだフィリアの腕を取り出した。

 それをジルクに手渡すと、ジルクは丁寧に机の上に置いた。

 

『開けてもいいですか?』、『ええ』

 会話の内容はわからないけど、おそらくそんな風に確認をし合って。

 ジルクはおそるおそる。布を剥がしていった。

 

『あぁ!』

 

 フィリアの上であらわになった瞬間、ジュリアさんが声を上げた。

 時間が経ってぐちゃぐちゃに腐って、虫のたかったフィリアの右腕。

 

『あぁ……あぁあっ、あぁああああっ!』

 

 そしてそのまま、フィリアの片腕にすがるようにガタンと腰を落として泣き崩れていった。

 

『ジュリアさんっ!』

 

 慌ててジルクがジュリアさんの身体を支える。

 

『あぁ……フィリア…… フィリアぁああああっ!!』

 

 ジュリアさんは今度はジルクの服をひっぱりながら、心配なほど泣き叫んでいた。

 

 

(ごめんなさい……ごめんなさい)

 

 

 俺は心の中で何度も何度も謝った。

 俺がフィリアについていけば、フィリアを死なせることは無かったのに。

 俺のせいだ。フィリアが死んでしまったのは。

 

『……ありがとう、ございます、行宗さん。……フィリアを、連れて帰ってきてくださって……』

 

 それなのに、ジュリアさんは俺に感謝をくれた。

 俺の心はズキズキと痛くなった。

 あぁ、違うんだ。違うんだ。

 俺が全部悪いんです。ごめんなさい。

 

 

 そんな時、ジルクがペンを持って、さらさらと紙に文字を書いた。

 そして俺に目配せして、読めと訴えかけてくる。

 俺は紙の覗きこんだ。

 

『俺達も、浅尾和奈から遺書を預かってる。もし私が死んだら行宗と直穂に届けて欲しいって、頼まれてるんだ』

 

 和奈の、遺書……

 

『……ん』

 

 ジルクは鼻を鳴らして、俺に白い封筒を手渡した。

 表にはジルクの筆跡で、

 

『私の大好きな二人へ』

 

 と書かれていた。

 

『浅尾さんは手を動かせなかったから、俺が浅尾さんの言葉を書き残したんだ。読んであげてほしい』

 

 ジルクはそんな文章を紙の上に書き加えた。

 

「うん、読むよ」

 

 俺は、何が書いてあるのかと少し怖くなりながらも、浅尾和奈の手紙の封を切った。

 

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