クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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六十七発目①(2)「届かぬ救い」

 

『私の大好きな二人へ』

 

 新崎直穂と万波行宗へ。

 この手紙を読んでいるということは、私はもう死んじゃったんだと思います。なんて月なみだけど。

 まずはお願いがあります。他のクラスメイトや現実世界の家族にも遺書を書くので、いつか届けてくれるとうれしいです。無理にとは言いません。

 さて、じゃあ二人へ向けて。

 二人のことだから、きっと私を助けるために死にものぐるいで頑張ってくれたんだと思います。私のためにありがとう。そして、死んじゃってごめんなさい。

 本当は私は、あのボス戦で殺さてたんだよね。それを行宗が助けてくれたから、私は二人とのかけがえのない数日間を過ごすことができました。

 私たちはほんの数日間の仲だったけれど、私にとって直穂と行宗は、人生で一番レベルに大切な仲間です。

 できることならもっと二人と過ごしたかった。何ヶ月でも何年でも、みんなでお爺ちゃんお婆ちゃんになるまで、ずっと仲良くしていたかった。

 私が死んで、きっと二人はすごく悲しんでくれていると思います。私のために涙を流してくれてありがとう。

 最後に、私は二人の幸せを願っています。

 個人的な願いですが、二人にはゴールインしてそのまま死ぬまで幸せなカップルでいて欲しいです。正直別れてほしくない。他のカプは考えられない。

 まあ無理にとは言わない。いつか別れるのかもしれないけど。私から見たら二人はこれ以上ないくらいお似合いだよ。

 私は二人が大好きです。二人の幸せを願っています。

 

 ――――――

 

 

 

 

 ………………

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

「…………かずな……」

 

 俺は浅尾和奈からの手紙を読んで、ぼろぼろに泣き崩れていた。

 

「……なぁ和奈、なぁ直穂……幸せって何なんだろうな……俺にはさっぱり分からないよ……」

 

 直穂からは、和奈の幸せを願われた。

 和奈からは、俺と直穂の幸せを願われた。

 でも、どっちも敵わなかった。

 

「……ごめんな直穂……お願い叶えられなかったよ。

 ごめんね和奈……お願い叶えられそうにないや……」

 

 俺は本当に、何にも出来なかった。

 たった一つ、最後の彼女たちの願いすら叶えられない。

 あぁダメだ。俺は何をやってもダメなんだ。

 もう疲れた、疲れたよ。

 どれだけ頑張っても、俺には何も救えない……

 

「ごめんなさい。俺はもう、幸せになんてなれないよ……」

 

 何度も何度も和奈の言葉を綴ったジルクの筆跡に目を通す。

 そのたびに涙が溢れて、小さな文字が何にも見えない。

 

 ……………

 

 俺はふと確認するみたいに、手紙の紙の裏側を見た。

 この世界特有の厚い紙の裏側には、とある二文字が書いてあった。

 それは今にも途絶えてしまいそうなほどの弱々しい筆跡で、はじめて文字を覚えた子供が書いたような大きい太字の汚い二文字。

 普段の彼女の綺麗な筆跡とは似ても似つかないけれど、俺にはそれが浅尾和奈そのものを表しているように見えて、戦慄を覚えて呼吸が止まった。

 ほとんど手足が動かせないなかで、最後に残った力とありったけの想いを込めて、この二文字を書き残したのだろう。

 

『すき』

 

 それは、僕たち二人に当てたものだったのか、それとも親友である直穂に向けてか、あるいは別の意図があったのか。

 その二文字は、和奈の真意を汲み取るにはあまりに短かすぎる。

 だけど俺は、その二文字に鳥肌が立ち。また涙がどんどんと溢れた。

 

「……っ……馬鹿かよ俺はっ……何勝手に諦めてるんだっ! 何足を止めてんだよっ!」

 

 俺はだらしない自分の太ももを思い切り引っ叩いた。

 

「まだ……直穂が死んだと決まった訳じゃないっ! 希望を捨てるな絶望するなっ! それでも必死に前を向いて生きていくんだよっ!」

 

 それがきっと和奈が望んでくれたことだから、直穂が望んでくれたことだから。

 

 俺は直穂を探しにいく。

 見つかるまで探し続ける。

 それが俺の幸せだ。それが直穂への愛の大きさなんだ。

 

 

 

 

「ありがとう、ジルク。お世話になりました、ジュリアさん」

 

 俺は二人に別れを告げて、獣族独立自治区を出た。

 直穂と再会するための一人旅だ。

 

 直穂の手紙と和奈の手紙をカバンの奥に大切にしまって、俺は来る日も来る日も直穂の行方を探し続けた。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 二年間の年月が流れた。

 この二年はあまりにも長かった。ずいぶんと顔が老けてしまったような気がする。

 今の俺が直穂に会ったら、ギョッとした目で見られるかもな。不細工で汚くて幻滅されるかもしれない。

 もう俺の脳内の新崎直穂のイメージは色褪せてしまっていた。顔がうまく思い出せない。この世界には写真のイメージなんて無いのだから。

 それでも俺は、必死に記憶を集めながら、新崎直穂をオカズとして使い続けてていた。

 

 しかし、だがしかし。

 

 俺はついに直穂(なおほ)に会いにいくための手がかりを発見した。

 

 五日ほど前。

 天空城塞ギラファクト(別名:浮遊の大ダンジョン)にて、俺はマナ騎士団の一員と遭遇した。

 特殊な顔文字の白い仮面に、赤と白の装束衣装。

 彼らを脅しても意味がないので、俺はじっとその装束の後を付けた。

 

 そして見つけたのである。洞窟の奥深くにて、マナ騎士団たちのアジトへと続く転移魔法陣を。

 俺は賢者モードで物陰に隠れて、その装束が転移魔法陣を起動するのを見てから、その輪のなかに飛び込んだ。

 転移の瞬間。人は例外なく、身体を硬直せざるを得ない。

 俺はそれを利用して、赤白装束の心臓に向かって賢者の剣を突き刺した。

 

「ぐはっ」

 

 青白い転移の光の上で、赤き鮮血が弾け飛ぶ。

 そのうめき声は、女の子の声らしかった。

 

 直後白い光に包まれた俺は、マナ騎士団の本拠地へと転移した。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 転移先はやはり水中だった。

 装束の女の死体を抱き寄せながら、俺は水面から飛び出し、空を飛んで道に降りた。

 転移した先は地下通路のような重苦しい石造りの壁に、冷たい空気が重たくて、薄暗くてじめじめした空間だった。

 ぽつりぽつりと回廊の壁に魔石灯の明かりが等間隔に灯り、ゆらゆらと風を受けて靡いていた。

 

俺はさっとマナ騎士団の仮面を外し、仮面の裏側を確認した。

 

 『7』、剣聖第七位か。

 

 マナ騎士団の一員は、それぞれ数字を持っており、数字が小さくなるほど強いとされている。

 特に第一位から第十位までの10人は"剣聖と呼ばれて、アジト外への外出が許可されている。

 だから俺達が目にしてきたマナ騎士団の奴らは、全員例外なく"剣聖"であったと言えるのである。

 

 急がなければ。

 

 俺は賢者の眼で生命の気配、そして施設の構造を把握していった。

 

 近くに人は居ない、が。

 右前の方から凄まじいエネルギーを感じる。

 なんだあれは、明らかに異常だ。桁が違う魔力の量。

 あそこで一体何が行われているんだ?

 

 俺は、まずそこを目指すことにした。

 

「剣聖一位でも二位でもかかって来いよ!」

 

 俺は急いで走りだした。

 賢者タイムは残り三分、だが問題ない。

 ある技術を使えば、あと3回30分は繋げれられる!

 

 俺が出会ったなかで、一番数字の小さい剣聖は、剣聖第四位のギルアだった。

 それ以上の強さは未知数だ。剣聖第一位ともなると、一体どれほどの強さなのか。

 

「……え?」

 

 その時俺は、信じられない声を耳にした。

 いや、実際に聞こえたのではない。賢者の地獄耳だった。

 聴き間違えるはずがない。間違いないんだ。

 それは新崎直穂(にいざきなおほ)の悲鳴だった。

 

『………―――…………』

 

 地獄の業火に焼かれるような、喉が壊れてしまいそうな、苦しくて痛くてたまらない心の絶叫が絶えず俺の耳に届いてきていた。

 

「直穂……」

 

 俺は身体中をガタガタと震わせて、全身に鳥肌が立っていた。

 直穂を見つけられた喜びよりも、今まで見つけてあげられなかった不甲斐なさが勝っていた。

 ごめん直穂……助けにくるのが遅れてごめん。

 もう少しだけ待ってて、いま助けるから。

 

 俺は二回目の賢者タイムを重ねて、直穂の悲鳴が聞こえる魔力の塊へと向かっていた。

 

 同時に、生命の気配が俺の方に迫っているのを感じた。

 その移動速度は賢者モードの俺に匹敵していた。間違いなく強い奴だ。

 

 ザシュ……

 

 風の切り裂く音とともに、そいつは俺の目の前に飛び込んできた。

 

「……誰かと思えば、お前か、万波行宗……」

 

 その男は、イケボというやつか。いかにも女の子に持てそうな声色で言った。

 白い仮面に赤白マント。声変わりはしているが、その仮面には見覚えが会った。忘れる訳もない。

 相変わらず身長は伸びてないんだな。

 

「……邪魔だ。どけ、シルヴァ」

 

 俺は短く言い放って、因縁のソイツへと斬りかかった。

 

 

「ほう、覚えていたのか、俺の名を……」

 

 シルヴァは身を翻して俺の剣を交わした。

 大きく後ろに飛び退り、着地する。

 

 

「俺はシルヴァだ。剣聖第二位。二年前のスイーツ阿修羅戦でお世話になったな」

 

 剣聖、第二位……そうかお前がシルヴァ。

 クラス転移したあの日、俺達をあの地獄のボス戦に巻き込んだ元凶。

 

 

 カツン、カツンカツン……

 

 そして、シルヴァの背後から、足音とともにもう一つの生命の気配が近づいてくるのが分かった。

 

 そして明かりの下で、もう一人の人物の素顔があらわになった。

 そいつは仮面をつけていなかった。

 

「は……?」

 

 俺は驚きのあまり、声を失ってしまった。

 どうして……ここに……?

 次の瞬間、俺の視界は宙に浮き、凄まじい痛みが視界を真っ黒に染め上げた。

 ゴトンと頭が落ちて、ようやく俺は自分の首が斬られたのだと悟った。

 

「――――…………――ー」

 

 直穂の泣き叫ぶ声は、絶えず俺の耳へと届いてくる。

 あと少しなんだ。

 もう100メートルか200メートル先に、直穂が居るのに……

 会いたい……会いたい……

 君に会うためだけに、俺は二年間……

 

「直穂……」

 

 俺は消えいく意識に抗うように、廊下の向こうを恨めしく眺めた。

 何も見えない、何も聞こえない。

 痛い、痛い痛い痛い……

 

「………ふふふ、あははっ」

 

 俺の首を斬ったソイツの笑い声を聴きながら、俺は無念のなかで息絶えた。

 





【あとがき】
 第五膜ラストにて、新崎直穂が居なくなった次の日、フィリアと別れて直穂を探しに行った世界線を書いてみました。
 バッドエンドになってしまいましたが、楽しんでいただけたなら幸いです。
 第C膜もあと一、二話ということで、そろそろ新展開に入ります!
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