クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
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「え……?」
仮面の人物に向かって剣を振りおろそうとした瞬間。
なぜだか分からないが、身体に悪寒が走り、身体が動かなくなった。
斬ってはいけない。殺してはいけない。
自分の身体が、必死にそう訴えかけているようだった。
(なんだ……これは?)
マナ騎士団を、躊躇なく殺す覚悟はしてきたハズなのに。
違和感、既視感……頭のなかにひっかかる何かがあって、
俺は混乱に陥った。
「まさかお前、
仮面の男が声を発して、俺は雷を食らったような衝撃を受けた。
その声色には聞き覚えがあったのだ。
「は? なっ、
同じクラスの隣の席で、いつも陰キャの俺に優しく話しかけてくれた、サッカー部のモテモテイケメン。
「お前生きてたのか!
俺は、その明るい声に、心底腹が立ってしかたがなかった。
「……なんでっ! お前がっ!
マナ騎士団の格好をしてるんだよっ!!」
「え……?」
「いますぐ攻撃をやめろッ! 獣族たちへの攻撃を止めろっ!」
俺は
突き飛ばして馬乗りになり、仮面を吹き飛ばして、彼の爽やかイケメンな顔面と再会すると、死なない程度に首をギリギリと締め上げた。
「いでぇ……くそっ、なんのつもりだよっ……!
「ふざけんなよっ! それはこっちのセリフだっての!
獣族は俺達の恩人なんだよ! なんでお前がマナ騎士団なんだ!?
お前がクラスメイトじゃなかったら、俺はとっくにお前を殺してるからなぁっ!!」
涙を溢れさせながら、沸き立つ怒りが爆発していた。
こいつの顔をみるに、どうやら悪気はないらしい。
……悪気がない?
どういうことだよ!?
これほどの大殺戮を遂行しておいて、悪意が無いっていうのか? ふざけるのも大概にしろよ。
「落ち着けっ……ぐぶっ……分かった! 襲撃は中止するっ……! クラスのみんなに今すぐ伝えるっ……!
落ち着いては話し合おう……だからっ、この手を離してくれっ……!」
慎吾はゴホゴホと咳き込みながら、俺の前でゆっくりと立ち上がる。
「
しかし、周囲は絶えず、轟音が鳴り響いていて煩い。
果たして声は届くのか?
「なんだぁ?」
どうやら、声は届いたらしい。
まるで教室で友達に呼びかけられた時みたいな、呑気な声で返事をしながら、駆け寄ってきた。
なんだよそれは、その軽い感じは……
こんな奴らに……
覚悟も決意も何もない、頭のなかお花畑で生きているような奴らに……獣族たちは殺戮されたっていうのか?
「……どうした? って、え!
もしかしてお前、
なんでこんな場所に!?」
俺はそいつに睨み返した。
「今から俺のいう言葉を拡声してくれ、できるな?」
「おうよ、まかせろ。
【
「両耳を塞いどいたほうがいいぜ」
爽やかな声で俺にそういう。
俺は両手で耳を塞いだ。
『みんなぁぁぁ!! 作戦中止、作戦中止だぁっ!! 全員今すぐ撤退してくれっ!』
キィィィィンという耳鳴りと共に、
耳を両手で塞いでいるのに、まるで効果がないみたいだ。
声が貫通して響いてくる。
なるほど、
周囲を駆け回っていた10人程度の生命の気配が、パタリと足を止めるのを感じた。
あぁ、良かった。
一歩間違えれば、クラスメイトと殺し合いになる所だった。
フィリアは無事だろうか?
アルム村のみんなは、子供たちや老人達は無事だろうか?
分からない、けれど。
これでひとまず、クラスメイト達による獣族の殺戮は、止まったようだった。
「
俺はふと、彼女のことが心配になっていた。
「
俺はそう伝えて、
「え、まて。
あぁ、そうか……
やっぱりか。
「お前ら
俺は、諦念とともに、吐き捨てた。
★★★
ー
ぼぉぉん、ぼぉぉぉんと耳鳴りがする。
周囲の音はほとんど聞き取ることができなかった。
視界いっぱい真っ黒だった。起きているのか寝ているのか分からないような感覚に陥った。
私はずっと吐き続けているのだろうか?
《………許さない……》
私は、自分の耳を疑った。
ついに幻聴まで聞こえてきたのだ。
魂に直接響いてくるような、ドスの聞いた、恐ろしい女性の声がしたのだ。
《……よくも、よくもよくもよくもよくもぉぉぉ……!》
ガハァ……
私は、また酸っぱいものを吐き出してしまう。
その反動で、少しだけ、まぶたがひらいた。
え……?
それは赤く染まった世界だった。
地獄のような、昏い赤に染まった空と大地…
そして目の前には、白い仮面を地面に落とした
「痛い……痛い……
呻くようにほそぼそと声を漏らした。
そして、私は鏡うつしのように、それは私自身にも起こっていることなのだと、確信した。
視界が真っ赤に染まっているのは、幻覚でも何でもない。
私の目から、血が溢れて止まらないからだ。
何が、起こっているのか?
身体を内側がら蹂躙されるような痛み、痺れ、狂気……
「
鮮血塗れの、私にすがりつく
私は少しだけ理性を取り戻した。回復魔法の存在を思い出した。
私は、
詠唱した。詠唱した。
あれ……? たしかに、詠唱しているハズなのに……あれ? あれ?
私の魔法は発動しなかった。
ただむなしく指先が震えるだけで、魔力が流れていく感覚がない。
《……
……お前は、
騙したな……騙したなぁぁ!
よくも騙したな騙したなぁぁッ……!!》
またおぞましい女性の声がして、私の心臓はギュッと潰されるように圧迫された。
「……何……何て言ってるの? わっかんない、よ……」
私はようやく、答えにたどり着いた。
これは、獣族語じゃないか。
《死ね……死ね死ね死ね死ね……消えろ消えろ……父さんと母さんを返せ地獄へ堕ちろ……みんな殺してやる許さない許さない許さないぃぃい!!》
アイリス……!
この脳内に響く、おぞましい魔女のような歪んだ声は、たしかにアイリスの名残があった……!
落ちていくまぶた、それを抑えて、
ちらりと目線を、声のする方へと向けた。
そこには、2つの死体の前でうずくまって、地面を壊れたように叩くアイリスが見えた。
父さんと母さんが無惨に殺された死体を凝視しながら、泣き叫ぶように呪いの歌を詠唱する。
ドクン、ドクンと、彼女の起こす波動が、私の身体をめちゃくちゃに壊してくるのだ。
「ごめ……んな……さい」
私は、絞り出すように泣いた。
私はアイリスと約束したのに。
絶対に仮面の集団を倒すって、獣族を守るって……
父さんと母さんは殺させやしないって……
約束したのに……!
アイリスの両親が、目の前で殺される瞬間、私の身体は動かなかった。
動揺とショックで何ひとつできなかったのだ。
ごめん、ごめんね。ごめんなさい……
私は、約束、守れなかった。
「ギィァアァアアアアアア!!」
今度は何だ?
鼓膜を切り裂くような男の悲鳴に、私は混乱に陥った。
脳みそが震える。
絶叫と発狂が衝突し合って、
アイリスが私にもたらした呪いの歌声が、少しだけ和らいだ気がしたのだ。
男の絶叫が響いたお陰で、アイリスの歌の魔力が弱まって、
今だけなら、回復魔法が使えると確信できた。
「【
私は最大出力で回復をした。
淡緑の光は、私と
痛みが消えて、血が止まる。
私の視界の赤が薄まっていき、空が青さを取り戻していった。
「今だっ!」
叫び声とともに、氷魔法が、アイリスの方へと向かっていった。
しかし、途中で勢いが殺される。アイリスに触れる直前で停止してしまう。
つぎの瞬間、一斉に、
マナ騎士団の仮面たちが、数人がかりでアイリスに飛びがかった。
いや……きっとクラスメイトの男子たちだ。
アイリスへ向かって、剣や槍を片手に、目を血眼にして襲いかかる。
あぁ、だめ。殺しちゃだめだよ……!
私は、胸の奥にするどい痛みを感じていた。
私はあと少しで、アイリスに殺されるところだった。
彼女が悲しみにうちひしがれて、私たちに向けた強力な殺意は、歌の力で、呪いのようなかたちで具現化したのだ。
殺されなければ殺される。
アイリスは私達を敵だと認定している。
今この機会を逃せば、今度は私達の命が危うくなるのかもしれないのだ。
でも……それでも、悪いのは私達なんだ。
罪を犯したのは、私なんだよ。
アイリスは、心の優しい女の子だ。
苦しみながら歌を歌って、
人間である私たちに、偏見はあっただろうけど、なんだかんだ手を差し伸べてくれた。
……たった1時間前に出会った。短い付き合いだったけれど。
私はアイリスと、仲良くありたかった。
だからっ……!
殺さないでっ……!
私は痙攣して動かない喉を、必死に動かそうと努力した。
「絶対に殺すなっ! 殺したら許さないからなっ!」
私のすぐ後ろから、力強い大声がした。
私のか弱い声を、かき消すように、
私が叫びたかったことを、彼が代わりに叫んでくれたのだ。
「
私は涙が溢れて止まらなくなった。
「【
私のクラスメイト、たしか吹奏楽部の男子
アイリスの歌声は、ぴたりと聞こえなくなってしまった。
はぁ……はぁ…はぁ……
私の中から、倦怠感や痛みが消えていく。
意識や五感が鮮明になるのを感じながら、私は
「
行宗の声がして、私の背中がポンと叩かれた。
途端に私は、身体じゅうから力が抜けた。
疲れた。もう一ミリも体を動かしたくなかった。
「だいじょーぶ、だよ……」
私は、最後の力を振り絞って言うと、
疲労感に襲われて、消えゆく意識にあらがうことができずに、気絶した。
★★★
「なんだ……ただ寝てるだけか……」
俺は
身体は汗と血に塗れていたけれど、回復魔法をかけたのだろう、外傷自体は見られなかった。
すぐ隣を見ると、仮面の女の子が一人、和奈に寄り添うように眠っていた。
おそらく、
他のクラスメイト達は、吐く者はいても、出血している様子はなかったからな。
俺は二人の状態を確認すると、アイリスの方に集まった男子達に向かっていった。
アイリスの様子を見ると、嬉しいことに泣き疲れたのか、気絶して地面に突っ伏していた。
アイリスを傷つけることなく無力化できた。
振動の重ね合わせで声を大きくすることができるのならば、
逆に打ち消しあう振動を重ねて声を消すことだってできるハズだ。
要するに、ノイズキャンセリングの原理である。少し高価なヘッドホンやイヤホンについてるやつな。
すぐにアイリスが気絶してくれたのは、想定外の幸運だった……
ただの幸運だと、俺は思っているけれど、
もしかしたら、歌声を消した影響で気絶した可能性もあるか?
……わからん。
「みんな、一度ここを離れよう。
事情を聞かせてくれよ。 こんな……仮面を被って、獣族を殺戮しなくちゃならなかった事情をな」
俺が憎悪を込めていうと、
「……そうだな。どこへ行こうか……?」
「その話、オレたちにも聞かせてくれねぇか?」
後ろから、聞き覚えのある声がして、
俺は思わず振り返った。
そこにはフィリアが、そしてマナトが、ジルクが、
険しい顔つきで立っていた。
「よぉ。
あーあ、そんなに警戒すんなよな……
オレ達に攻撃の意思はねぇよ。
第一、勝てるわけねぇだろうが……」
フィリアは仮面のクラスメイト達を見渡しながら両手を上げた。
疲れたような投げやりな声に、オレは戦慄して鳥肌が立った。
そこそこ長い付き合いだから分かる。
フィリアは心のなかで、めちゃくちゃに怒っている。
「フィリ……ア……」
オレは言葉に詰まりながら、恐る恐る彼女の名を呼んだ。
「獣族が、しゃべってる!?」
俺の後ろでは、
「……ありがとうな。
フィリアは一転、愛しむような声色で、俺の目を見た。
「なっ……何を……
何も、ありがたくないだろ……」
俺は言葉を失った。
この惨状の、地獄絵図の、いったいどこがありがたいというのか。
「……泣くなって、
「んな、ことは、ねぇよっ!」
「……この戦いを止めてくれたのは、紛れもなくお前達だよ。
敵も味方も、誰も死なないのが一番良いんだ。そうだろ?」
オレは涙でぐちゃぐちゃになった。
その仏様みたいな慈悲の心に、俺は泣かずにはいられなかった。
「……オレたち獣族は、お前ら人間と何ひとつ変わらない! 感情や思考や五感を持っているっ!」
フィリアは人間語で、力強く宣言する。
クラスメイト達の、息が詰まる音が聞こえた。
「……オレ名前はフィリアだ!
獣族と人間が分け隔てなく、対等で仲良く暮らしていける世界を目指してる!
だから、お願いだ!
どうかオレの話を聞いてほしい。獣族が安全に暮らしていけるように、オレたちに力を貸して欲しいんだ!」
フィリアは深々と頭を下げた。
俺は信じられない思いだった。
フィリアは怪我人の治療をジルク達に任せて、俺たちクラスメイトに着いてきた。
人気のない。岩山にひっそりと立つ廃墟へと、歩いていく。
「……俺たちは、本物のマナ騎士団じゃない」
隣の
「ガロン王国軍の幹部のひとり、ナラクから命令されたんだ。
マナ騎士団のふりをして、獣族独立自治区を襲撃しろって」
「ガロン王国軍の幹部が?」
信じがたい話だった。
「俺たちは、クラスメイトのうち数人を、ガロン王国に、人質に取られてる。
人質を取られて脅されて、俺たちは命令に逆らえなかった、従うしかなかったんだ。本当に、ごめん……」
「あぁ、そうか、そうだったのか……」
俺は頭を抱え込んだ。
「……お互い、大変だったんだな」
俺は噛み締めるように言った。
まだ、頭の中はぐちゃぐちゃで、クラスメイト達の殺戮行為を簡単に許せるわけなかったけれど、
向こうにも、たしかに事情があったのだ。
「……それで? ソイツの命令に背いたらどうなるんだ?」
フィリアが後ろから口を挟んだ。
「大切なクラスメイトを、一人づつランダムで殺していく、ってさ」
【年末のご挨拶】
これが、2024年、最後の更新になりそうです。
今年は、2年生になって大学が忙しくなり、授業期間はほとんど満足に執筆が出来ませんでした。
今年2024年は、六十発目「白い仮面と赤白マント」から始まり、八十五発目「呪詛・号哭・それでも」まで、
ifルートを含め二十八話分を更新したことになります。(たぶん……)
来年は、第二部を書ききって、少なくとも最終章(第三部)に突入できることを目指して、
精一杯書いていこうと思います!
それでは、よいお年を!
2025年もよろしくお願いします!