クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

91 / 103
八十六発目「絶望を砕く光明」

 

「獣族の皆殺しなんて、やりたくないに決まってるさ。……でも、仕方なかったんだよ。俺達は戦う奴隷だ。命令には逆らえないから」

 

 竹田慎吾が、情けない声でそう言った。

 命令された。仕方がなかった。

 頭では理解できる。

 

「それによ、獣族たちも人間の村を襲ってたんだろ? フェロー地区の村を破壊したり、研究施設の人間を皆殺しにしたり……

 だったら、やり返されても文句は言えないっつーか…… いちおう俺達にも、正義はあるだろ?」

 

 竹田慎吾の言い分は、いちおうは理解できる。

 ガロン王国の住人から見れば、獣族は命を脅かす脅威である。

 もしも、運命が少し違っていて。

 直穂や和奈が、獣族に殺されているような運命があったとしたら。

 俺は獣族を、皆殺しにしようとしていたかもしれない。

 若い頃に誠也さんが、獣族に復讐を誓ったように。

 

「ふざっけんなよッ!」

 

 突如、フィリアの大声が木霊した。

 

「人質を取られて、脅されて……殺すのは仕方がなかったって……理解はできるよ……でもっ!

 本当に殺戮しか道は無かったのか!? 人質の救出は本当に不可能だったのか?

 それだけの力を持っておきながら……なんで言いなりになってるんだよッ!

 人を殺して、仕方がないだって!? 命は二度と戻って来ないんだぞッ!」

 

 フィリアの涙が、勢いよく弾け飛んだ。

 ずっと、感情を押さえつけていたのだろう。

 俺達のよく知るフェロー地区の住人達は、あらかじめの避難によって、誰ひとりとして死ななかった。

 今回大きな被害を受けたのは、北の街ぜピアの住人と、果敢に戦った獣族反乱軍の人たちだった。

 

 俺は自分自身が、怒っているのか絶望しているのか分からかった。

 正確には、激怒していたが、その怒りをぶつける場所が見つからなかったのだ。

 敵だと思ったマナ騎士団の仮面の裏は、俺のクラスメイトだったのだから。

 

「俺達がどれだけ強くても、反抗は不可能なんだよ。ほら」

 

 竹田慎吾は、赤白いマントで覆われた首筋をめくって露出させる。

 

「首輪……!?」

 

 彼の首には、銀色の首輪がかけられていた。

 

「この首輪で、俺達は監視されている。……俺達の位置情報はガロン王国の奴らに筒抜けなんだ」

 

「壊すことはできないのか?」

 

「壊したらすぐにバレるだろ?、人質のクラスメイトがひどい目に遭う」

 

 確かに……

 俺は口を噤んでしまった。位置情報を把握されてるのは厄介だ。

 あたりが静かになって、クラスメイトと俺とフィリアの足音だけが静かに響いていく。

 俺は、不気味のあまり身震いした。

 クラスメイトの皆は、何も言わず俺たちの会話に耳を傾けていたようだった。

 その奥で、ひそひそ声で話す二人がいた。

 その後ろには、眠っている和奈を背負った女の子がいた。名前は分からない。

 

「理解したか、俺達は今、命令に逆らえない奴隷なんだ。

 しかし、確かな希望もある。

 クラスメイト全員で、現実世界に帰る方法が見つかった」

 

 「は?」

 

 俺は、耳を疑った。

 現実世界に帰る方法!? それは俺が、俺達が心の底から望んでいたことだ。

 

「現実世界に帰る方法って、一体どうするんだよ!? 教えてくれッ!」

 

 俺は血相を変えて、竹田慎吾に問い詰めた。

 

「教えられるかよ! ネザーストーン(願いを叶える石)を無駄遣いした野郎なんかに!」

 

 後ろから、野太い怒号が飛んでくる。

 反射で振り返ると、陽キャな男子が俺を鋭い目で睨んでいた。

 名前は確か、奥村遥輝だ。いつもゲラゲラ笑っているお調子ものだったはずだ。こんな怖い顔ははじめて見た。

 

「遥輝、下手に情報を与えるな。

 ……いいか行宗、お前がどう思ってるか知らないが、俺達は現実世界に帰らなくちゃいけない」

 

 竹田慎吾が言う。

 

「……当たり前だ。俺だって、クラス皆で元の世界に帰りたいと思ってるよ。クラス全員でだ!

 だからあの時、俺は和奈と直穂を生き返らせる道を選んだんだ! 分かるだろ!?」

 

 あの瞬間、俺が叶えられる願いは2つしか無かった。

 俺は元の世界に帰ることを諦め、新崎直穂と浅尾和奈を蘇生させる選択をしたのだ。

 

「だが、岡野大吾は処刑された。アキバハラ公国に7人が捕まってるんだ。

 さらに4人が行方不明になって、俺達も首輪で管理されてる。それに、新崎直穂も行方不明になんだろ?」

 

 その事実を指摘されて、俺の頭のなかは真っ白になった。

 

「認めろよ行宗…… 全部お前のせいだ。お前の選択は間違いだったと」

 

「俺、は……」

 

 胸が苦しくなり、動機が止まらなくなった。

 俺が一番後悔して、迷って、目を背け続けていた部分。

 一ヶ月前、岡野大吾が処刑されたという新聞記事に、目を通した瞬間から、

 クラス全員で元の世界に帰るという理想は、絶望的なものになっていた。

 

「……安心しろよ。俺達がお前の尻拭いをしてやる。

 あと数ヶ月以内には、生き残っているクラスメイト全員で、元の現実世界に帰ってみせるさ。だから……」

 

 竹田慎吾が片手を上げる。

 すると、誰かが【緊縛(ロイブ)】と唱えて、

 俺の身体は一瞬のうちに、金属製の鎖に拘束された。

 

「俺達は、獣族を皆殺しにしなくちゃいけない」

 

 竹田慎吾は、そう言い放った。

 

「てめぇらっ! それだけは絶対に許さねぇぞっ!」

 

 フィリアが、鎖の拘束にガチャガチャと抵抗しながら叫んだ。

 

「久那木さん。浅尾和奈も拘束しておこう」

 

 竹田慎吾が、気絶した和奈を背負った女子に向かって言った。

 

「え? でもっ…… 和奈は悪くないでしょ?」

 

「念の為だ。……念の為に拘束しておく。変なことはしないから」

 

 竹田慎吾の言葉で、九那木さんという女子はしぶしぶ浅尾和奈の身体を地面に下ろしていた。

 すかさず、和奈の身体が鉄の鎖で拘束される。

 

「待てよっ。勝手に話を進めてんじゃねぇっ! 本気で言ってるのか?

 獣族はモンスター達とは違う! 感情や言語を持った存在だッ!

 お前らがやろうとしていることは人殺しだぞ?」

 

 フィリアが泣きながら叫んだ。

 

「俺達だって、こんな事やりたい訳がない。でも、仕方がないんだよ……」

 

 竹田慎吾は、悲痛そうな顔で、しかし決意は変わらないらしい。

 

 そんな中、俺は必死に頭を回転させていた。

 なにか、この状況を打破する方法はないだろうか?

 

 クラスメイト達は、首輪を付けられて支配されている。

 ガロン王国には、数人の人質が捕まっている。

 だから命令に逆らえない。

 獣族を殺戮しなきゃいけない。

 元の世界に帰る方法がある。

 そのためには、こうするしか無い、と。

 

「なぁ、捕まった”人質”のクラスメイトを救出すれば、お前らは獣族の殺戮をやめてくれるか?」

 

 俺は、冷静な声で言った。

 

「は? だから、それは無理だって言ってるだろ。

 俺達は位置情報を管理されているから、変な動きはできない」

 

「違ぇよ。お前らじゃない。俺が一人でやるんだよ!」

 

 俺は強い声で言った。

 

「ハッ! そりゃ何の冗談だ? たしかに行宗は強いのかもしれない。

 位置情報も知られないし、素性も知られていない。

 だが、相手は国家だぞ? 強力な特殊スキルの持ち主もうじゃうじゃいる。

 お前一人で何ができる?」

 

「なんだってやってやるさ! 俺は生粋のアニメオタクだ!

 鬱エンドやベターエンドは、フィクションの世界では許せるけどな…… 現実ではハッピーエンド以外ありえないんだよ!

 俺一人で、何もかも解決してやる!

 俺にとっては、獣族独立自治区を守れる。お前らにとっては、首輪や人質から開放される。

 互いにWIN-WNな話だろう!?」

 

 俺の叫びに、クラスメイトたちは唖然としていた。

 呆れたようなため息が木霊した。

 不信感、苛立ち、可愛そうなものを見る目が、周囲のクラスメイトから向けられる。

 

「残念だが、俺達はもう、お前の理想を信用できねぇよ」

 

 冷たい声で、突き放される。

 俺、万波行宗という人物は、クラスメイト達に信用されていないらしい。

 当然のことだ。俺は何度も何度も間違いを犯した。

 陰キャで自分勝手なアニメオタク。このクラスに友達なんて、誰一人、居なかったのだから……

 

「……行宗……オレはどうすれば……っ」

 

 フィリアは、力なくうなだれていた。

 きっと、クラスメイトを説得するつもりで、俺達についてきたのだろう。

 彼女のお腹の中には、フィリアと誠也の赤ちゃんがいる。

 生まれてくる子が、なんの不自由もなく幸せに暮らせる世界をつくりたいと、

 フィリアはいつも口にしていたというのに。

 

「ごめん……全部、俺のせいだよ……」

 

 俺の魂の主張は、クラスメイト達の心に響かなかった。

 信用されなかった。届かなかった。

 歯を食いしばり、自責を吐くと、俺の視界が涙でぐちゃぐちゃに滲んでいった。

 

 「たしかにね。行宗一人じゃ何もできないよ。

 今日も、毒を食らって死にかけるし、私の裸を見ないと賢者にもなれない……」

 

 え?

 聞き覚えのある声がした。

 溌剌で、明るくて、されど力強い声。

 

 「和奈!?」と驚く女の子の声がした。

 鉄の鎖に拘束された。栗色の髪の巨乳な彼女は、目を覚まして。

 きれいな瞳で、俺のほうを力強い目で見つめながら、

 

「だから、私もついていく。

 私と行宗の二人なら、捕まっているクラスの皆を助けられるっ。

 慎吾、玲香、涼太、遥輝、くるみ……みゆちゃん、咲良、玲央くん……お願いします。

 私たちを信じて…… 足掻くチャンスをくださいっ。

 ……私、獣族のみんなに命を助けられたからっ!

 優しい人たちばっかりで、悪い人たちもいるけど、獣族は私たち人間と何にも変わらないよっ!

 ……万波行宗くんもね。みんなが思ってるような悪人じゃない!

 行宗はただ、誰よりも優しくて……どんなに難しいことでも、絶対に諦めない人なのっ!

 全員が無事じゃないと気がすまない。ハッピーエンド以外あり得ないって。

 私が何度絶望しても、行宗は私に、いつも希望をくれたから!」

 

 和奈は、涙ながらに訴える。

 クラスメイトたちも、息を飲むように彼女の話を聞いていた。

 同じように泣き出したり、罪の意識からごめんなさいと呟く女の子もいた。

 

 優しくて、希望。

 和奈が俺について語るのを聞いて、俺は感動して、心が震えていた。

 クラスメイトたちと再開されて、冷たい目で見放されて、誰も俺を理想を信じてくれない状況で……

 浅尾和奈だけは、俺の理想を信じてくれた。

 寄り添って、俺の味方をしてくれた。

 

「だから、私と行宗を信じて、任せてください! お願いしますッ!」

 

 和奈は目を瞑って頼みこんだ。

 しん、とその場が静まりかえり、啜り泣く声だけが絶え間なく響いていた。

 

「和奈……万波くんと二人きりなんて、そんなの危ない、無理だよっ」

「みんな、どうする」

「和奈もこういってるんだしさ。信じてみない?」

「なぁ、やっぱり殺戮なんか、ここでやめるべきじゃね」

 

 クラスメイトたちが、互いの様子を伺いながら意見を交わしていた。

 俺が訴えたときは、誰も耳を傾けなかったというのに。

 クラスメイトたちの決意が揺らいでいるのは、発言者が浅尾和奈だからだ。

 明るくて活発で、クラスで一番のモテ女子で、友達も多い浅尾和奈だからこそ。

 クラスのみんなから信頼されているのだ。

 

「一旦、多数決をとろうか?」

 

 竹田慎吾が、大声を上げてその場を仕切った。

 浅尾和奈の案に賛成か?反対か?

 結果は一目瞭然だった。

 賛成は約半数を締めていたのに対して、反対に手を上げた人は一人として居なかった。

 手を上げなかった人たちが、約反数。

 浅尾和奈の涙が、反対させない同調圧力の空気を作ったのだ。

 彼女のカリスマと信頼が、この場の空気を、180度ひっくり返した。

 

「みんな、ほんとに、ありがとう」

 

 和奈和奈は、嗚咽しながら安堵の表情で涙を流していた。

 彼女はこれを、無意識にやるから恐ろしい。

 

 ★★★

 

「まず、現状を整理してみよう」

 

 と、竹田慎吾が口を開いた。

 

「三ヶ月前のこの世界に来た日、スイーツ阿修羅を討伐した後、

 ボス部屋の中にいた全員が、巨大な転移魔法陣で地上へと転移した。

 そのときボス部屋の外にいた三人、万波行宗、浅尾和奈、新崎直穂は、洞窟のなかに取り残された。

 ってことで、あってるよな?」

 

「うん。気づいたときには、ボス部屋の扉が跡形もなく消えてた」

 

 浅尾和奈が答える。

 

「それから俺達は、洞窟のなかで出会った少女たちーーリリィさんとユリィちゃんと協力して、洞窟内からここ獣族独立地区まで転移してきた。

 その翌日、和奈が深刻な病気になって、助けてくれたのはこのフィリア……獣族達だった」

 

 俺は、フィリアに手を向けながら説明した。

 クラスメイトたちは、苦虫を潰したみたいな表情になる。

 

「行宗くんと直穂ちゃん、そしてフィリアちゃん達は、私の病気を治すために、薬の大ダンジョンであるマグダーラ山脈まで薬を取りに行ってきてくれたの。

 でもその帰り道、マナ騎士団と遭遇して戦闘になり、新崎直穂は行方不明になった」

 

「マナ騎士団って、俺達をこの世界に召喚したあのシルヴァやギャベルと同じ、本物(・・)のマナ騎士団か?」

 

 竹田慎吾が、驚いたように訊いてきた。

 和奈は眉をひそめて、俺のほうへと視線を向ける。

 

「99%本物だと思う。ギルアって名前の20代くらいの男、人の身体を操る【使役(テイム)】って特殊スキルを使ってきた。

 そして【マルハブシの猛毒】を持っていた」

 

 ……俺達がスイーツ阿修羅戦で飲まされた、命と引き換えに大幅に強化される猛毒だ

 

「なるほど、ギルアね……ソイツはまだ生きてるのか?」

 

 直穂が殺したよ。

 と言おうとして、俺は思いとどまった。

 新崎直穂が、【自慰(マスター◯ーション)】スキルの持ち主だということは、俺と和奈しか知らないハズだ。

 彼女の名誉や尊厳のためにも、直穂の自慰スキルのことは隠しておこう。

 

「俺が殺したよ。得られた情報は少ないけど。アイツは自分を「マナ騎士団剣聖第四位」と名乗ってた。

 五代英雄伝の記述と同じなら、マナ騎士団の”剣聖”は、1位から10位までで10人いるはずだ」

 

 だから、今日は肝が冷えた。

 アルム村を襲っていた赤白マントは、全部で10人ほど居たのだから。

 まさかマナ騎士団の剣聖全員が、獣族独立自治区のアルム村へと攻め込んできたのか? そんなバカな!?

 とパニックになった。

 実際は、マナ騎士団ではなく、マナ騎士団のコスプレをしたクラスメイト一同だったのだが……

 

「それから三ヶ月、私はずっと入院して、医者のフィリアちゃんに面倒を見てもらってた。

 知っている情報は、クラスメイトが指名手配されてることとか、ガロン王国の北のはずれに新しい天空の大ダンジョンが出来たとか、

 岡野大吾がアキバハラ公国で公開処刑されたことくらい……」

 

 浅尾和奈が消え入るような声で言う。

 

「……あぁ。大吾は、俺達を逃がすために、囮になってくれたんだよ。

 お前らと別れた直後の話だ、ボス部屋から地上に転移した俺達の前に現れたのは、攻略連合って奴らだった。

 俺達は、大ダンジョン攻略報酬の【ネザーストーン(願いを叶える石)】を無駄遣いした罪を糾弾されて。

 アキバハラ公国の何とか隊のリーダーの、ザザンって言ったっけ? その赤髪が俺達を捕まえろと命令しやがったんだ。岡野大吾を筆頭に、数人が囮になってくれて……

 結果、捕まったのは7人だ、えぇっと……」

 

 慎吾は、バックの中から紙を取り出し、名簿のようなものを見せてくれた。

 

 ーーーーーーー

 

【ヴァルファルキア大洞窟に取り残された組】(3人)

 浅尾和奈 新崎直穂 万波行宗

 

【アキバハラ公国に捕まった組】(7人)

 五十嵐真中 ※岡野大吾 後藤駿太 桜井明美 鈴木楓 花園カレン 水島彩

 

【天空の大ダンジョン攻略組】(8人)

 朝霧もね 池田澪 尾崎誠士郎 琴峰翡翠 近藤湊 高木旭 山田新手 渡辺碧

 

【ガロン王国戦士組】(11人)

 岩崎玲央 奥村遥輝 加藤菫 九那木玲香 清水涼太 芹沢一輝 竹田慎吾 成瀬くるみ 森部桐斗 山本みゆ 結城咲良 

 

【ガロン王国捕虜組】(4人)

 植松なぎさ 加賀美杏珠 平田大河 松田航洋

 

【ガロン王国行方不明組】(4人)

 神田美冬 小島優香 佐倉菜乃葉 雅遥香

 

ーーーーー

 

「これは……」

 

 浅尾和奈が、食い入るように名簿を眺める。

 俺も隣で目を通してみるが、クラスメイトの名前はよく分からない。

 顔と名前が一致しているクラスメイトは、たった7人程度しかいないのだ。

 陰キャぼっちアニメオタクの性だな。

 

 「【ガロン王国捕虜組】の四人が捕虜にされて、【天空の大ダンジョン攻略組】と【ガロン王国戦士組】には、”首輪”が付けられてる。

 ……この【ガロン王国戦士組】が、今ここにいる、獣族を攻め込んだメンバーだな。

 一番下の【行方不明組】は、首輪を付けられる前に居なくなった。

 今どこにいるかは分からない」

 

 なるほど。

 俺のクラスメイトって、こんなに多かったのか。

 皆の名前を、俺は全然知らないでいた。

 

「つまり、死亡が判明してるのは、岡野大吾だけってことで良いの?」

 

「あぁ、少なくとも、首輪のついてるメンバーは生きてるよ」

 

「そう……」

 

 和奈は、険しい顔で考え込む。

 俺は口を開いた。

 

「それで、俺達はどうすれば良い?

 【天空の大ダンジョン攻略組】の奴らも首輪を付けられているなら、【捕虜組】を解放するだけじゃ、問題は解決しないんじゃないか?」

 

「……いや、方法はあるが。一ヶ月だ。タイムリミットは。 

 俺達の任務は、ガロン王国と無関係な組織のフリをして、獣族独立自治区に先制攻撃することだった。

 その上で、マナ騎士団に(ふん)するのが、色々都合が良かったんだ。

 獣族独立自治区への不可侵協定は、ガロン王国の住人にしか適用されないからな。……身元不明の組織の襲撃には、泣き寝入りをするしかないだろ?」

 

 なるほど、と納得した。

 しかし、卑怯な手口だな。

 

「それで、獣族たちがたまらず反撃してくるのを(とが)めて、ガロン王国軍で一網打尽。そういう計画だ。 

 今、一ヶ月後の開戦を目指して、独立自治区のまわりに少しづつ戦力が集められている。

 表向きは、対獣族の防衛強化を目指してな」

 

「一ヶ月後……」

 

「そう。一ヶ月以内に、ガロン王国首都に囚われた捕虜組を救出すること。

 さらに、俺達に首輪を付けたガロン王国軍幹部”ナラク”の持つ、携帯用の”紅い宝玉”と、それが場所を示す”巨大な紅い宝玉”を、できれば破壊して欲しい。

 そうすれば、俺達は首輪の支配から開放される」

 

 紅い宝玉を壊す。ガロン王国の幹部”ナラク”ね……

 ガロン王国の幹部といえば、一成(かずなり)さんを思い出す。

 マグダーラ山脈の道中で出会い、俺達を牛車で送ってくれた、心優しいおじさんだった。

 

「ふっ、なーんだ。大したことないじゃん」

 

 浅尾和奈は、不敵に笑った。

 

「こちとら、一週間ってタイムリミットをくぐり抜けてきたんだから、一ヶ月もあれば余裕余裕、でしょ?」

 

「あ、あぁ」

 

 和奈に至近距離で覗き込まれて、俺はたじろぎながら返事する。 

 

「任せてよ! 捕まってる人たちの救出と、紅い宝玉の破壊は、私と行宗で何とかする。

 だから、お願いがあるの……」

 

 和奈は、一旦息を切って、

 

「もし、戦争が始まっちゃったら…… もちろん命を優先してほしいけど、

 ……獣族独立自治区を、守ってほしい……」

 

 和奈は、両手を震わせて、泣きそうな声をしぼりだした。

 

「……もちろんだよ!」

 

 と女の子が言う。

 

「善処するよ」

 

 と竹田慎吾が言った。

 




更新遅れてごめんなさい。大学期末試験もろもろ忙しかったのです。
あと2話くらいで、一区切りの予定。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。