クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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八十七発目「じゃあな。またね」

 

和奈(かずな)。……ごめんね」

 

 後ろから声がして、か弱く肩を叩かれる。

 振り返ると、私の親友だった二人がいた。

 

 ー浅尾和奈(あさおかずな)視点ー

 

玲香(れいか)、くるみ……」

 

 久那木玲香(くなきれいか)と、成瀬(なるせ)くるみ。

 二人は、マナ騎士団の姿で獣族を殺戮し、私が呆然とする目の前で、アイリスちゃんの両親を殺したのだ。

 

「……分かってる。誰も悪くないって。頭では理解してる。大丈夫」

 

 私は、目を逸らして、感情を押し殺すように言った。

 正直、二人の顔を見たくない。

 思い出してしまう。

 ショックのあまり動けないなか、目の前で親友が人を殺す瞬間を。

 謝ろうが、何をしようが、人を殺した事実は変わらない。

 死んだ命は、二度と戻ってこないのだ。神様の力でも使わない限り。

 

「……あと、もう一つ謝らないと……

 直穂(なおほ)ちゃんと行宗(ゆきむね)くんのこと悪く言ってごめんなさい」

 

 成瀬(なるせ)くるみのその言葉に、私はびっくりして顔を上げた。

 

和奈(かずな)ちゃんの気持ちを知らずに、私の勝手な偏見で、『獣族に捕まってて可哀想』とか、『直穂ちゃんや行宗くんと一緒で辛かったでしょ』とか……言ってごめん。

 和奈(かずな)ちゃんのこと、すごく心配してたんだけど……私、最低な人間だ……」

 

 それを聞いて、私は、ふっと身体が軽くなった。

 申し訳なさそうに、濡れた子犬みたいに小さくなった二人を、ちゃんと両目で見ることができた。

 

「たしかに、最低だった。

 でも、ちゃんと謝って、分かってくれたから……許すよ」

 

「ほんとに?」

 

「うん、許した。玲香(れいか)も許した。……だからふたりとも、顔を上げて、ね?」

 

 二人は、私と同じように、不安そうに足元を見つめながら震えていたのだ。

 唇を噛みながら、恐る恐る、二人が私を見上げた瞬間。

 

 私は一歩を踏み出して、二人の身体を抱きしめた。

 

「会いたかった。寂しかったよ。……玲香(れいか)、くるみ。無事で良かった!」

 

 ぽんぽんと二人の背中を叩きながら、私は吹っ切れた声で叫んだ。

 声に出せば、それが本当になる。

 許した。と口に出してから。玲香やくるみに対する猜疑心やモヤモヤは弾け飛んで、

 ただのクラスメイト、私の可愛い親友の二人として、見ることができた。

 

「うっ……ぁあっ、和奈(かずな)っ、ごめぇぇんっ……!」

 

 久那木玲香(くなきれいか)が、見たことないくらい泣いていた。

 運動神経抜群のソフトボール部、黒髪ショートでクール系な玲香は、笑うときも泣くときも控えめな印象があったけれど。

 可愛い。

 咳き込みながら号泣する玲香(れいか)は、そのギャップも相まって、すごく可愛かった。

 

「……うぇぇぇぇっ、ごめんねぇ、ごめんねぇぇ……」

 

 一方、成瀬くるみが泣くのは、何度も見慣れてる。

 くるみはは何かある度に、冗談で泣いたりガチで泣いたり、とにかくよく泣いていた。

 私は二人の頭をさすりながら、おかしくて、たまらずクスリと笑ってしまう。

 

「せっかくの再会なのに、あんまり泣かないでよ……

 玲香(れいか)とくるみの笑ってる顔、見たいなぁ」

 

 私が言うと。

 

「無茶言うなよぉっ……くふっ」

 

 玲香(れいか)は下手くそな泣き笑いを作って。

 

「あははははっ、玲香(れいか)ちゃん。変な顔っ」

 

 それを見たくるみが噴き出した。

 

「っ……くるみおいっ……!」

「あははっ」

「ふふっ」

 

 あぁ、楽しい、懐かしい。

 私も笑いながら、いつのまにか目から涙を流していた。

 

 泣いて笑って、泣き止んだあとで。

 玲香(れいか)はある情報を、私に伝えてくれた。

 

「これは慎吾(しんご)に、誰にも言うなって口止めされてる事だけど。

 和奈(かずな)には伝えておくよ。

 ガロン王国の地下には、私達が元の世界に帰るための、【願いを叶える石(ネザーストーン)】が眠ってる。

 慎吾が、【透視(クリアアイ)】スキルで見つけたんだって」

 

「え? 【願いを叶える石(ネザーストーン)】って……!」

 

「うん。最初のボス戦のとき、和奈(かずな)新崎(にいざき)さんを生き返らせたり、猛毒の解毒に使ったやつね。

 本来は、大ダンジョンのラスボス討伐でしか手に入らないらしいんだけど。

 どういう訳か、ガロン王国の地下で同じものを見たんだって……あのときと違って一個だけだけど」

 

「なるほど……」

 

「……私達の目標は、ガロン王国の命令に従いながら、隙を見て【願いを叶える石(ネザーストーン)】を奪取すること。

 ……同時に、天空の大ダンジョンの攻略も進めてる。まぁこっちは念の為、ガロン王国からの命令だしね。攻略には相当時間がかかるだろうし」

 

 たしか行宗(ゆきむね)が、大ダンジョンの攻略には、大抵いつも数百年かかると言っていた。

 しかしヴァルファルキア大洞窟だけは例外で。

 たった30年で攻略に導いた人物が、「六人目の英雄バーンブラッド」の功績であるという。

 攻略には相当の時間がかかるのだ。

 

「だけどね。もし和奈(かずな)が、私達クラスが元の世界に帰ることよりも重要なことがあると判断したら……迷わず【願いを叶える石(ネザーストーン)】を使って」

 

「え?」

 

慎吾(しんご)は怒るだろうけど。私たちは許すからさ」

 

「何を言ってるの? 元の世界に帰る以上に大切なことなんて、あるわけないでしょ?」

 

 私も、行宗(ゆきむね)も、

 クラスの皆で元の世界に帰るためだけに、

 一生懸命やっているのに。

 

「仮定の話だよ」

 

 玲香(れいか)が言った。

 

「私の話はこれで終わり。ほら、行宗(ゆきむね)くんが待ってるよ。行ってあげなよ」

 

 玲香(れいか)が指を指すほうへ振り向くと、行宗(ゆきむね)とフィリアが私を見ていた。

 私たちの話が終わるのを待っているようだった。

 

「そっか、またしばらく、お別れだね」

 

「気をつけてね。またね……和奈(かずな)ちゃん」

 

 私は二人と握手した。

 そして名残惜しいながら、再び別れを告げるのだった。

 

「そうだ和奈。これ、もっていって」

 

 成瀬くるみが、ポケットから小さな袋を取り出した。

 

「なに、これ?」

 

 手のひらに乗せられた袋を見て、私は首を傾げた。

 

「避妊具、コンドームだよ。あと媚薬と精力剤」

 

「ファッ!?」

 

行宗(ゆきむね)くんとよろしくするとき、あったほうがいいでしょ。

 この世界ではね、こういうもの(・・・・・・)は貴重なんだよ」

 

「しないよ! 使わないよっ!!」

 

 私は真っ赤な顔で、必死に猛抗議した。

 

「だって、だって行宗(ゆきむね)には、他に好きな人がいるんだよっ!!?」

 

「まぁまぁ、四の五の言わず、もらっておきなよ。和奈(かずな)

 

 玲香(れいか)の手が、私の手に添えられて、私はその袋を握らされた。

 

「念の為に、ね。お守りだと思って」

 

 耳元で、生ぬるい吐息を吹きかけられて、私は頷くしかなかった。

 

「……分かった。持っていけばいいんでしょう」

 

 汗の滲んだ手で、私はそれをポケットにしまった。

 

「じゃあ。またね」

 

 私は、なんでもないふうに、行宗(ゆきむね)のほうへと歩いていく。

 

和奈(かずな)。話はもう良いのか?」

 

 行宗も涼しげな顔で訊いてくる。

 今の会話は、聞かれていただろうか?

 いや、大声を上げた部分は、聞かれていたはずだ。

 

「大丈夫。待っててくれて、ありがと」

 

 私も、何気ない顔で返事した。

 

 ★★★

 

 

 そして、私と行宗(ゆきむね)とフィリアは、小屋を出た。

 

 砂利道をさくさくと踏みしめながら、アルム村へと歩いていく。

 時刻は、もう昼下がり。

 空を飛び、戦い、気絶して、作戦会議をしていたから、かなり時間が経ったらしい。

 

「なぁ、和奈(かずな)。フィリアと話して、今日中にはこの獣族独立自治区を出発ようと思うんだが」

 

 行宗(ゆきむね)が口を開いた。

 一ヶ月という猶予があるのに、どうしてそこまで急いでいるのだろう? と一瞬疑問に思ったけれど。

 考えれば当然のことだ。

 人間の襲撃で、獣族が大量殺戮された今。

 獣族独立自治区に、人間である私達の居場所はない。

 

「そうだね。アルム村の人たちも、そうとう怒っているだろうから……」

 

 フィリアが避難誘導をしたお陰で、アルム村の住人は、ほとんど無事だったみたいだけど。

 村がことごとく破壊されたのだ。冷静でいられるハズがない。

 

 ただ、一つだけ、私には心残りがあった。

 

「でも、一つだけ。フィリアにお願いしてもいい?

 アイリスちゃんのこと、見てあげてほしい」

 

「アイリス……アルム村で暴れてたジャイガの娘だろう?」

 

「うん。アイリスちゃんは、歌の特殊スキルの力で、私と行宗の命を助けてくれたの。

 でも、私はアイリスの両親を守れなかった。目の前で、動けば助けられたのに。

 マナ騎士団がクラスメイトだったショックで、私の身体は固まって、全く動かなかった」

 

「なるほどそれで、アイリスの歌の力が、暴走状態になったってことか」

 

 行宗(ゆきむね)が言った。

 

「もともと、何かの病気だって言ってた。歌を歌うと、血を吐いて苦しんでいたから」

 

「へぇ」

 

 フィリアの目つきが、真剣なものに変わった。

 

「……私はもう、謝れない。仲直りなんてできないけど。

 アイリスちゃんは、優しくて強い女の子だから。

 

「まかせろ」

 

 フィリアは、私の肩をがしりと掴んだ。

 

「アイリスのことも、獣族独立自治区のことも、オレ達がなんとかする。

 だから、外のことは頼んだぜ、お前ら」

 

 フィリアの言葉に、応えるように。

 

「まかせて。私達二人で、世界を救ってみせるから!」

 

 大げさなセリフで、胸を叩いた。

 

 

 ★★★

 

 

 アルム村の、崖上にて、ジルクが荷物を揃えて待機していた。

 2人分の大きなリュックだ。

 中には保存食や着替え、武器や地図、ガロン金貨、図鑑や薬などが詰まっている。

 もともと、天空の大ダンジョンの攻略までを想定した荷物だ。

 ガロン王国の王都までなら、十分すぎる用意だろう。

 

「あった」

 

 私は弾んだ声で、草むらからボール拾い上げる。

 行宗(ゆきむね)の手作りのサッカーボールだ。

 今朝、北の街ぜピアに向かって飛んだとき、ここに置きっぱなしにしていたようだ。

 

「……持って行くのか?」

 

「もちろんだよ。わたしにとっての、大切なお守りだから」

 

 私は、サッカーボールをぎゅっと抱きしめてから、リュックの中へと押し込んだ。

 

 

 ★★★

 

 

「悪かったな。ちゃんと見送りできなくて。オレも早く診療所に戻らねぇと」

 

 フィリアが、寂しげな表情で言った。

 

「俺達もすぐに出発するよ。獣族とトラブルにならないうちに」

 

 行宗(ゆきむね)がそっけなく応える。

 

「じゃあな。行宗(ゆきむね)和奈(かずな)

 

 フィリアは、私たちに背中を向けて、ゆっくりと歩き出した。

 ジルクも名残惜しそうに、それに倣う。

 

 あっけない。

 私は、心臓がギュッと締め付けられるようだった。

 今まで、3ヶ月間。家族同然の生活をしてきた。

 私はフィリアちゃんに、命を救われた。

 今は焼け跡となった、このアルム村で、私は……

 

「今までありがとう。またねっ!」

 

 私は叫んだ。

 

「元気でな。フィリアっ! ジルク! ……マナトやジュリアさんにもよろしくな」

 

「おう!」

 

 遠くから、フィリアの声が聞こえて。

 それが私たちの別れになった。

 

 ふぅ、

 と、息を吐いく。

 雨の少ない独立自治区に、まばらに生えた木々の葉をみれば、かすかに赤みを帯びはじめている。

 紅葉の気配を感じる、初秋。

 

「よし、行くか」

 

「うん」

 

 私と行宗(ゆきむね)は、リュックを背負う。

 ときどき後ろを振り返りながらも、前に向かって歩き出した。

 

 最初の目的地は、南。

 ガロン王国、ギラギース地区の街である。

 

 最終目的地のガロン王国首都とは反対方向であるが、

 ギラギース地区には大きな河があり、船で北の上流へと登っていくのだ。

 それが一番早いらしい。

 

 行宗(ゆきむね)が言うには、ギラギース地区は、マグダーラ山脈に行くときも通った道らしい。

 そのときはメンバーに獣族のフィリアが居たから、大河を渡るために、空を飛んだり地下トンネルに潜ったり、苦労したみたいだけど。

 

 今回は、私も行宗(ゆきむね)も獣族ではないので、堂々と橋を渡って行けるだろう。

 

 

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