クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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八十九発目「原点」

 ーアイリスの回想ー

 

 目が覚めるとそこには、いつも灰色の天井があった。

 立方体のなかに、おしくらまんじゅうにされた、耳と毛の生えた仲間たち。

 

 この部屋の外側には、青くてどこまでも高い天井があると、お母さんから聞かされた。

 それは、空という。

 大きな空には、白いふらふらが浮かんで、

 ボクらが眠くなる時間になると、真っ暗になって無数のキラキラを浮かべるのだそうだ。

 

 ナシュリお母さんが語ってくれた。外の世界は、まるで理想の美しい世界だった。

 話を聞いているだけで、この灰色の箱から出た気分になるのだ。

 

 物心ついたときには、ボクの毎日は決まっていた。

 目が覚めて、朝ご飯を食べる。

 いつも、どこからか泣き声が聞こえてきていた。

 みんな、順番に列になる。

 じぶんの順番がきたら、うでを机の上にのばす。

 白い服を来た大きなひとが、ボクの腕に針を刺しこんで、緑色のとうめいな水を身体のなかに入れるのだ。

 すごく痛くて、あたまがズキズキして、叫びだしそうになるのを、必死で歯を食いしばる。

 ちゅうしゃ、って、いうものらしい。

 

 痛いことをしてくる人のほとんどは、みんな、耳が大きくなくて肌がキレイな人間だった。

 

 みんな、毎日ちゅうしゃされる。

 それから薬をのまされて、走らされたり、触られたり、叩かれたり、

 いろんなことをさせられた。

 

 灰色の部屋には、変なひとがいっぱいいた。

 耳がとけたみたいに垂れ下がっているひと、目がおおきく飛び出たひと、骨がからだをつきやぶってでてきたり、口からくさいにおいのドロドロをはきだしたり、

 

 かくいうボクも、ほかのひととくらべて、へんな髪の色をしていたらしい。

 まわりのみんなは、うんちの色みたいに地味な髪の色をしているのに、

 ボクの髪は、キレイな青色で、毛のさきっぽが桃色に染まっていた。

 その髪が綺麗だったのか、ボクの髪は、周りの人達に、引っ張られて引っこ抜かれたりすることも多かった。

 

 ナシュリお母さんのおなかが、だんだん大きくなっていった。

 赤ちゃん、あたらしい命がうまれるらしい。

 ボクにも、兄弟がうまれるのだ。

 弟か、妹か、

 おちんちんがついているかどうかは、うまれてみないと分からないらしいけれど。

 

 そとの世界の獣族は、みんな、人間と同じように、服を着ているそうだ。

 ボクも、周りの小さい子たちも、うまれてから一度も、服というものを着たことがなかった。

 大人の女の人たちは、寒くなる時期に、身につける衣がないことを酷くうらめしそうにしていた。

 ボクは、服が羨ましかった。

 白い透き通るような服、たくさんの可愛い飾りがあって、外にはいろんな服があるらしい。

 

 この灰色の箱には、女の大人しかいなかった。

 子どもは、男の子も女の子もいるのに、どうして大人は女しか居ないのだろう?

 と、不思議に思っていたけれど、ナシュリお母さんは教えてはくれなかった。

 

 周りの人が、苦しんで、泣いて、痛そうにして。

 動かなくなるのを、何度も見てきた。

 動かなくなった人は、人間に連れ去られていなくなる。

 そして、鼻を刺すような匂いを上書きするように、強烈な匂いの白いスプレーが、撒き散らされるのだ。

 それは、死、というらしい。

 ボクというものが、完全に、無かったことになってしまう。

 そういうものだった。

 

 ボクに話しかけてくれた男の子も、女の子も、ボクを置き去りにしてみんな死んでいった。

 ボクは怖くてたまらなかった。

 次はボクの番なんじゃないか、ボクが死んで消えてしまうんじゃないか。

 たくさん泣いて、身体が震えて、

 ボクは、おなかの大きなお母さんに、抱きしめてもらった。

 

「……ーーー………♪」

 

 ナシュリお母さんは、ボクを温かい身体で抱きしめながら、鼻をいろんな音で鳴らながら、ゆりかごをしてくれた。

 

「真似してごらん、アイリス」

 

 優しい声で、母さんが言う。

 

「ふん……ふん、ふん……♪」

 

 母さんを真似して、母さんに合わせるように、ゆっくりと、

 上から下へ、上げて下げて、音をだんだんと変えながら、

 ボクは鼻を鳴らしていった。

 そうすると、不思議と、怖いのが大丈夫になってくる。

 

「……ー…………ーーー♪」

 

 まるで、奇跡が起きているような気分だった。

 ボクの胸は踊り、高揚して、

 そのまま疲れて、うとうとと眠りかけそうになった。

 

「これはね、(うた)っていうんだよ」

 

「うた?」

 

「そう。これは歌を歌っているの」

 

「うたを、うたってる」

 

「一緒に歌うと、落ち着くでしょう?」

 

「……うん!」

 

 その日は、お母さんの鼻歌を聴きながら、ボクは安心して眠りについた。

 

 次の日から、ボクはたくさん、歌を歌うようになった。

 人間に見つかったら、何をされるか分からないから、こっそりとだ。

 

「アイリスは歌うのが好きなんだね」

 

 と、お母さんに頭を撫でられた。

 

「うるさい」 と叫ぶ男の子もいたけれど、「うまいね」と褒めてくれる女の子がいた。

 ボクは、楽しくて楽しくて、どんどん歌うのが好きになっていった。

 

 楽しいことを、メロディに乗せて、歌にしていく。

 まるで灰色の世界が、外の世界に繋がっていくみたいに。

 歌を歌っているときだけは、ボクはどんな凄い場所にだっていける気がしてた。

 

 ――――――

 

 そして、しばらく経ったある日のこと。

 目が覚めてからしばらくは、いつも通りの毎日だった。

 でも、朝ご飯の時間に、ある女の子が吐き出した。

 具合の悪そうに、おなかを押さえて、どろどろの血を吐き出したのだ。

 ボクの身体は、ガタガタと痙攣して、動けなくなった。

 その女の子は、ボクの歌を聞いてくれて、楽しんでくれた女の子だった。

 もう。名前は覚えていない。彼女に名前があったのかも分からない。

 

 お野菜の色の服を着た、人間の人たちが集まってきた。

 周りの獣族たちが、怯えたように、彼女から距離をとっていく。

 

 連れされる。

 いままで死んでいってしまった人と同じように、彼女もここから居なくなってしまう。

 もう、その女の子には、二度と会えない。

 

 そのときのボクには、それがたまらなく辛かった。

 気づけばボクは、大きな声で歌っていた。

 連れて行かないで、彼女をボクから引き剥がさないで、と願いながら。

 

 気がついたら、人間の人たちが、みんなうつ伏せに倒れていた。

 眠っているのだろうか? それとも死んだ?

 どうでもいい。

 ボクが心配するのは、その女の子のことだけだった。

 

 彼女は、おなかを押さえながら、苦しそうにうめき続けている。

 ボクは、また気づけば、歌っていた。

 死なないで、死んじゃだめ、大丈夫になって、大丈夫になってと、願いながら。

 すると、ボクの身体の中から、ぶわっと熱い感覚が溢れ出るのを感じた。

 女の子の身体を、淡い光が包みこんでいく。

 きらきらと輝きを帯びながら、彼女の吐いた血が、輝きながら消えていくのを感じた。

 女の子は、瞑っていた目を、ゆっくりと開ける。

 信じられないという表情をしていた。

 

 ボクは、その感覚に夢中になっていた。

 ボクが、やったのだ。

 ボクが、女の子の苦しみを、なくしたのだ、と。

 

 後ろで、人間がなにかを話しているのが聞こえた。

 ボクが記憶しているのは、そこまでだ。

 

 次に気づいたときには、ボクはお母さんといっしょに、白い部屋に閉じ込められていた。

 その女の子とは、これが最後の別れになった。

 

 それからボクは、お母さんとずっと二人きりだった。

 起きてから寝るまで、人間たちに、歌の練習をさせられる。

 ボクの歌の力で、獣族や人間の病気や怪我を治したら、美味しいご飯を食べさせてもらえた。

 

 友達みんなと別れてしまったけれど、ボクはつかのまの幸せを感じていた。

 お母さんは相変わらず、ボクにいろんな外の世界の話をしてくれた。

 神様の世界のお話や、昔のお話、

 獣族の英雄の話や、この世界の端っこのお話。

 だから、ふたりきりでも、ボクは幸せだった。

 

 次第に、歌の練習は、別のものへと変わっていった。

 毎日毎日、ボクは、獣族の男の人の部屋に入れられた。

 最初は、顔を叩かれた。

 次に、おなかを蹴られた。

 手に包丁を刺された。

 頭を顔に浸けられたり、身体にトゲを刺されたり、

 虫がいっぱいいるところに閉じ込められたり。

 何度も何度も殴られたとき、ボクは自分のなかの理性がプツリと切れるのを感じた。

 

 叫んだ。

 やめろ。ふざけるな。ボクを虐めるな。

 怒りのメロデイは、勢いを増し、赤黒い光が全身から吹き出す。

 気づけば、大きな獣族男は、血を吹いて倒れていた。

 ボクは、顔が真っ青になった。

 ボクがやったのだ。

 ボクの歌が、この男の人を、苦しめている。

 ボクが、この人を、殺した。

 

 全身に寒気がして、ボクは癒やしの歌を詠んだ。

 淡緑の光で、慈悲の歌声で、懸命に男を治療した。

 幸い、彼は、一命をとりとめたようだった。

 しかし、目が覚めることはなく、人間たちに連れ去れたあと、彼がどうなったのかは分からない。

 

 また、別の獣族の人が来て、ボクをたくさん痛めつけた。

 ボクは、また我慢できなくて、歌の力で男を傷つける。

 そして我に帰り、必死に治療の歌を歌う。

 

 その繰り返しだった。

 

 なんとなく、人間たちは、ボクを怒らせようとしているのだと、気づいた。

 人間たちは、ボクの歌に、攻撃性を求めている。

 ボクは人殺しを望まれているのだ。

 

 ボクが歌うたびに、眼の前のひとが、血を吐いて倒れていく。

 もう歌いたくない。

 歌なんて大嫌いだ。

 ボクは自分を呪った。

 死にたい。もうやだ。

 こんな地獄が、続くのなら、もういっそ……

 ボクは、自分を殺す歌を口ずさんだ。

 頭がずきずきと痛くなる。脳内が、ぐちゃぐちゃになっていくのを感じた。

 とても痛くて、ちょっとだけ気持ちいい。

 あぁ、やっと、これでボクも死ねるんだって。

 

「アイリス、やめなさいっ!」

 

 その時、ボクは母さんに口を押さえられた。

 ナシュリ母さんは、涙を流しながら、ボクが歌うのを止めてくる。

 どうして、どうして止めるの?

 

「もう、生きたくないよ」

 

 ボクは、苦しみを吐き出した。

 

「ボクの歌は、みんなを傷つける。誰かを殺すための歌なんだ……」

 

 もう、耐えられない。つらい。この地獄から居なくなって、楽になりたい。

 

「違う。それは違うよ、アイリス。あなたの歌はね……」

 

 ナシュリ母さんが、なだめるように言った。

 

「あなたの歌には、みんなを幸せにする力があるの……」

 

 その言葉を聞いて、ボクの中で、怒りが大爆発を起こした。

 

「……違うよっ! そんな訳ないっ! 綺麗事なんか言わないでっ!

 ボクの歌はみんなを不幸にする! 誰もボクの歌なんか必要としない! 誰かを傷つけるための道具で! 人間に悪いことに利用されるだけなんだっ!」

 

「母さんが必要としてる!」

 

 ナシュリ母さんが、怒鳴った。

 ボクはびっくりして、固まってしまった。

 怒りも苦しみも吹き飛ばされた。

 母さんはいつも、優しくてふわふわした声色だったのに。

 こんなふうに強く怒鳴るのは、みたことがなかった。

 

「アイリスの歌が聞けて、母さんは幸せなんだよ…… アイリスの歌は、母さんが必要としているの。

 あなたはお母さんの、生きる希望なんだから……」

 

「そんな、こと……言っても……」

 

「アイリスの歌声で、救われる人はたくさんいるよ。

 今じゃないかもしれない。アイリスが大人になってからかもしれない。

 今はお母さんだけだけど、いつかきっと、たくさんの人が聞いてくれる。

 アイリスの歌は、みんなを幸せにする力があるの……」

 

「ありえないよ。ボクはこのまま、ずっとここに閉じ込められたままだよ」

 

「誰かがここから助け出してくるかもしれない。アイリスはきっと、外の世界に出て、いっぱいの人に素敵な歌声を届けるの。

 そして、優しい王子様に出会う」

 

「バカにするなっ。そんな物語みたいなこと、絶対絶対起こらないよ」

 

 ボクは、またイライラした。

 

「アイリス、この世界に絶対なんてないよ。幸せな未来と不幸な未来、どっちが起きるのか分からないなら、幸せなほうを信じようよ」

 

「……ーー……」

 

 ボクはまだ、ナシュリ母さんの話を、頭の中がお花畑な空想だって、思っていた。

 

 でも、今すぐ死ぬのは、やめることにした。

 もう少しだけ、先延ばしにしよう。

 痛くて苦しい毎日だけど、かろうじて生きていこう。

 ボクの歌を、母さんが必要としてくれるから。

 

 獣族の男の人に、たくさんたくさん殴られて、ボクはやっぱり、痛みを押さえきれなかった。

 怒りを込めた歌は、毎日誰かを傷つけていた。

 でも、できるかぎり怒りを抑えようと努力した。

 

 ボクは歌うたびに、頭が痛くなっていた。

 ボクは怒りの矛先を、自分のなかで抑え込んだから。

 傷つける力を、外側に溢れされないようにした結果、歌声はボク自身を攻撃したのかもしれない。

 でも、構わなかった。

 

 男は、血を吐いても、気絶することは無くなった。

 ボクは、前よりも少しだけ、男を幸せにしている気がした。

 

 それから、しばらく経った後だった。

 お母さんの馬鹿げた未来は、驚くべきことに、現実になった。

 

 爆発音がして、人間たちが叫び、倒れていった。

 ぞろぞろを獣族たちが。流れ込んできた。

 獣族たちは、みんな硬そうな服を来ていた。

 

「大丈夫か? 助けにきたぞ」

 

 と、ひときわ目立った男は言う。

 彼こそが、母さんにとっての王子様。

 獣族独立自治区の、獣族反乱軍のリーダー、ジャイガだった。

 はじめて見た、獣族の男。

 1週間後、ボクの父さんとなる人だった。

 

 その日、ボクは初めて空をみた。

 まぶしくてまぶしくてたまらない。

 空はどこまでも青く、外の世界はこんなにも鮮やかで、明るいのだと。

 

 ボク達は、川にそって南へ向かい、獣族独立自治区まで逃げ込んできた。

 はじめてみる川、はじめてみる森、はじめてみる夜のそら。

 母さんが聞かせてくれて想像していた世界とは、少し違っていたけれど。

 想像の何倍も広く、鮮やかで、美しかった。

 

 ナシュリ母さんは、ジャイガ父さんに惚れて、結婚した。

 三人目の奥さんになった。

 

 ボクははじめての服を来た。

 ずっと憧れていた服だったけれど、そのときは夏だったから暑くて、布の肌触りが気持ち悪くて、

 裸のほうが過ごしやすいな、なんて思ったっけ。

 

 ジャイガ父さんは、ボクの歌を聞いて、大声を上げて褒めてくれた。

 その時、ボクはすでに、声は少しかすれて、歌声を出すたびに頭が痛くなっていたけれど。

 自由に歌えるのがたまらなく幸せだった。

 

 歌うたびに、どんどんと身体がしんどくなっていった。

 ジャイガ父さんは、悩んだ末に、南のアルム村に住む、フィリアというお医者さんに治療してもらおうということになった。

 

 父さんの願いは、人間への反逆だった。

 ボクは人間を恨んでいたけれど、自分の歌を攻撃につかうのは、どうしても抵抗感があった。

 だから、ボクの歌声は、治療や解毒や獣族たちの鼓舞に特化して使うと決めた。

 

 ボクは父さんにあこがれていた。

 母さんのことが大好きだった。

 

 ボクの歌は、やっとみんなを、獣族のみんなを幸せにするために使えるのだ。

 

 ーーーーー

 

 フィリアさんのお家にいったら、人間への攻撃をやめろと言われた。

 それを約束しない限り、ボクの治療はしてくれないと。

 

 そんな時だった。

 ゼピアの街に、たくさんの煙が上がった。

 

 人間たちに、襲撃された、と。

 

 馬にまたがり、父さんとともにゼビアに向かう。

 その途中、ひとだかりを見つけて。そこでボクは(めぐみ)にであった。

 小桑原恵(こくわばらめぐみ)

 明るい茶髪の人間の女は、フィリアの姉で、小桑原啓介(こくわばらけいすけ)の娘だと名乗った。

 隣の男の人を解毒してほしいと、獣族語で訴えていた。

 獣族語を話せる人間なんて、はじめてだった。

 

 父さんに言われて、ボクはしぶしぶ解毒をした。

 ボクが苦しんでいると、(めぐみ)は回復魔法をかけてくれた。

 人間とはじめて会話とした。少しだけ心を許せるようになった。

 

 でも……

 

 アルム村で煙が上がった。

 アルム村には、ジャイガ父さんと、ナシュリ母さんがいるはずだった。

 ボクは、恵と男の人にしがみついて、空を飛んだ。

 

 火が燃え盛り、煙の充満する大地に、怪我をした父さんを見つけた。

 地面に降りて、駆けつける。

 周囲では激しい殺戮が、行われている最中だった。

 

「早く、回復の歌を……」

 

 ボクが慌てて、前が見えなくなるなか。

 

「危ない! アイリスっ!」

 

 と声がした。

 お母さん、ナシュリの声がった。

 母さんは、血相を変えて、ボクの身体を突き飛ばして、父さんの身体に覆いかぶさる。

 

 次の瞬間。

 鉄の剣が、母さんと父さんを、まとめて(つらぬ)いた。

 致命傷だった。

 

 ーーーーー

 

 ボクの両親を指した白いマントは、小桑原恵(こくわばらめぐみ)と仲良さそうにしていた。

 カズナ、カズナって、誰だよ? お前は(めぐみ)じゃなかったのか?

 人間語はあまり聞き取れないが、雰囲気くらいは読み取れる。

 

 騙したな。よくもボクを騙したな。

 やはり人間は悪者だ。ボクの父さんと母さんを返せ。

 許さない。殺してやる。殺してやる。

 

 ボクは叫んだ。

 歌声に、ありったけの殺意を込めて。

 

 ーーーーーーー

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 …… 

 

 目が、覚めた。

 ぼんやりと視界に入ったのは、木製の天井だった。

 どこからか、温かい光が射しこんでいた。

 

─アイリス視点─

 

「……ん……」

 

 声を漏らす。

 身体が全く動かなかった。

 痛い、頭がじんじんする。

 ここは、どこだ? 知らない……

 

「アイリス、起きたのか?」

 

 近くで、知らない男の子の声がした。

 

「「アイリス??」」

 

 続いて、重なる女性の声。

 ボクの顔を、みっつの顔が覗き込んできた。

 

 二人の女性は、よく知ってる。

 レニムとビアンカ。

 母さん以外の、父さんの奥さんだ。

 

 もう一人の男の子は、同年代くらいだろうか? 知らない。

 どこかで、出会った、かもしれない。

 

「よう、具合はどうだ、アイリス」

 

 少し遠くから、低い女の人の声がした。

 ツカツカと、歩いてくる彼女は、白い服に包まれて。

 その顔には、見覚えがあった。

 医者の、フィリアさんだ。

 

「お前の血を調べさせてもらったけど、驚いたよぜ。

 血液のなかに、少なくとも4人以上の人間の血液が混じってる。

 いったい、人間に何をされたんだ?」

 

 フィリアさんがしゃべっていた。

 何を言っているのか、うまく頭が働かなくて、よく分からない。

 

「父さんと、お母さんは……」

 

 ボクが呟くと、みんなの表情がこわばって、瞳が動揺で震えていた。

 それだけで、分かってしまった。

 

「死んだよ。二人とも」

 

 フィリアさんが言った。

 ボクの頭は、真っ白になった。

 怒りも、悲しみも、通り越して。

 ただ寒くて、ただ涙が溢れて止まらなくて。

 頭のなかは、父さんと母さんの思い出でいっぱいだった。

 




更新遅くなってごめんなさい。書くのがすごく大変でした!
文章が、長くなってしまったので、第六膜、あと1話だけ続く予定です。
 
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