クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
ーアイリス視点ー
ボクのお父さんとお母さんは死んだ。
そんなの、とても現実だって思えなくて、
激情が、お腹の中で沸騰し、今にも溢れ出しそうだった。
「アイリス、歌っちゃだめだ」
え?
ボクの口が、塞がれた。
フィリアさんの両手が、ボクの口を覆う。
ボクは訳が分からなくて、涙で滲んだ視界で、フィリアさんを見上げる。
「……お前の歌の力は、お前自身まで傷つける。
……これ以上は歌っちゃだめだ。命の危険がある。
今回は何とか、応急処置ができたけど……このまま歌い続ければ、オレでも治せる自信がない」
フィリアさんの、深刻な表情。
ボクのことを、心配してくれているのは、よく分かる。
でも、何にも分かってない。
ボクは、怒りを感じずにはいられなかった。
「歌うな、だって、冗談じゃないっ! ボクにとって、歌は命なんだよっ! みんなを幸せにする歌声なんだっ……! ボクが歌おうが死のうが、ボクの勝手だろう!」
「アイリス……!」
今度は、レニ厶母さんに、口を塞がれた。
くそっ、放せよ。ほっておいてくれ。
ボクには、もう。
歌しか、残っていないってのにっ。
「……アイリス。オレは別に、二度と歌うのを我慢しろとは言ってねぇよ。
そうだな。一ヶ月だけ、我慢してほしい。
それだけあれば、治してみせるさ……」
「え……」
治せるの? フィリアさんなら?
この、歌うたびに体調が悪くなる症状を。
「【特殊スキル】が、自分自身に悪影響を与える例が……前にもあったんだ。
オレの父さん、
その代わりに、
今も
フィリアさんは、淡々と語った。
「オレの母さん、ジュリアは、人間たちに実験の道具として使われていたんだ。
たぶん、アイリスも、同じような境遇じゃないかと思うが、
【特殊スキルを創る実験】
……特殊スキルには、遺伝性が見出されているから、モンスターと交配させたり、複数人の遺伝子を組み合わせて、新しい強力な【特殊スキル】を生み出そうっていう実験だ。
当然、遺伝子の操作なんて、あまりにも危険すぎる。遺伝子異常、副作用が予想できねぇ。だから、命の軽い獣族で実験するんだ」
イデンシ? なにそれ?
フィリアさんの説明は、知らない言葉ばっかりで、まるで人間語みたいだった。
つまり、ボクは、どうなるんだ?
「……アイリス。よく聞いてくれ。
お前の歌声の。”願いを叶える力”は、身体への負荷が大きすぎる。このままじゃお前は死んでしまう。
これからお前に、”願いを叶える力”を無くす治療をする。
そうすれば、歌の力は無くなるけれど、また歌を歌えるようになるから」
嫌だ……
ボクは、頭をぶんぶんと振った。
レニ厶母さんの手を振りほどいて、
「ふざけるなっ、歌の力がなくちゃ、ボクの歌じゃないっ!」
叫んだ。
「ボクの歌は、みんなを幸せにする歌なんだっ!
母さんが希望にしてくれて、父さんが必要としてくれたっ!
……歌の力がないボクなんて、生きている価値がないっ……!」
フィリアさんは、困った顔で頭をかいた。
なんだよその、聞き分けのない子どもを見るような目は、
「……まぁ、すぐに決めなくても良いさ。
だがしばらくは、勝手に歌っちゃだめだ。
レニムさんと、ビアンカも、目を離さないように……」
ドタドタドタドタ……!!
突如、さわがしい足音が、部屋のそとから迫ってきた。
バアン!
と、部屋の扉が、乱暴に開かれる。
「アイリスちゃん、目が覚めたのか!?」
この声は……!
獣族の男の声、毛深くて片方の目がつぶれている、
たしか、お父さんの、昔からの友達だったはずの男。
「……ミヴィル、ここには入ってくるなって、念を押したよな?」
フィリアさんが、怒った低い声で、男を睨みつけた。
「歌声を無くすだと、とんでもない!
アイリスちゃんの歌声は、我らが獣族たちの希望だろう!
さっきも凄かったじゃねぇか? アイリスちゃんの歌声は、あの白い仮面の人間たちを、全員地面に這いつくばらせていた。
反乱軍が手も足も出なかった集団を、たった一人でだ!
……アイリスちゃんは、我ら獣族の救世主さ! その歌声なら、ガロン王国の人間どもに対抗できる!
アイリスちゃん! 父さんや母さんの、復讐が出来るってことだよっ!」
ふくしゅう……
復讐……受けたぶんの痛みを、相手にもやり返すこと……
でも、それは駄目なことで……
「黙れミヴィル! この部屋から出ていけ!
……これ以上は歌わせない! アイリスの命の危機なんだよっ!」
フィリアさんが、激昂していた。
「はっ! ふざけんな、どこまで頭ん中お花畑かよ!
もう戦争は始まってるんだ! 仮面どもは一旦は退却したようだが、いつまた攻めてくるかも分からない!
独立自治区が弱ってるのを見て、ガロン王国軍が停戦を破って攻めてくるかもしれない!
ジャイガが死んで、反乱軍の半数が壊滅した…… もう獣族独立自治区を守れるのは、アイリスちゃんの歌しかないんだよ!」
ボクの歌が、獣族のみんなを守る……
父さんに、さんざん言われた言葉だった。
父さんは言った。ボクの歌が必要だって。
ボクの歌の力で、仲間の怪我を治療して、
毒を解毒して、仲間を鼓舞して、
獣族反乱軍の戦線を、後ろから支える役割、
でも、それだけじゃない。
ボクは、もっとできる。
ボクの歌には、人間を殺す力がある……
「だからって、アイリスを危険にさらす気かよ!」
「どのみち、独立自治区の全員が危険だって分からないのか!
それに、お前の口ぶりじゃ、100%死ぬわけじゃないんだろう? 現にお前は、応急処置はできたと言っていた!」
「応急処置っていうのは、症状の進行を食い止めただけだ。何一つ解決しちゃいねぇっ!
アイリスは歌えば歌うほど、死に近づいていくんだぞっ!」
「はん、そういう都合の良いことを言って、お前はまさか人間の味方をしてるんじゃないか!
……戦いが収まったあと、フィリア、お前が仮面の人間たちと、こそこそ会話していたのを見たって聞いたぞ。
そのあと仮面どもは撤退していたようだが、お前一体、何を話してたんだ?
隠し事をしてるんじゃないだろうな!」
「……それはっ、交渉していただけだ。人間語で。
……攻撃をやめてくださいって。
奴らは、聞く耳をもっちゃくれなかったけどな。
それに、オレはアイリスも治療してる。お前が生きているのも、オレたちの治療のお陰じゃないか。
オレが仮に人間の仲間だとして、獣族の治療なんてすると思うか?」
「……するね、疑いを晴らすために。
じゃあ聞くぜ、お前は戦いが終わってから、村の診療所に戻ってくるまで、何をしていた?
しばらく、不在の時間があったようだが……」
あぁ…ムカつく。
「うるさいっ!!」
ボクは、ありったけの声で叫んだ。
喉に、小さな違和感がある。かすれた声しか出せかなった。
「……どいつもこいつも、勝手に上から決めつけんじゃねぇっ!
ボクのことは、ボクが決めるっ……!」
全身が熱かった。
父さんが死んで、母さんが死んで、それでやっと、
ボクはボクのすべきことがあるって、分かった気がするんだ。
「ボクの歌声には、人間の殺せる力がある……」
「アイリスっ……!」
「うるさいっ、いいから最後まで聞けっ!」
歪んだ顔をしたフィリアに、またボクは怒鳴った。
「分かったよ!
フィリアの言う通り、しばらく歌うのは我慢するさ、
でも……!
人間がまた攻めてきたら、その時は、みんなを守るためにボクは歌うよ。
ボクの歌で、人間を殺して、
ボクが獣族独立自治区を守る……」
ボクは、フィリアを睨みつけた。
「……父さんと母さんが愛した、この土地を守れるなら、ボクは死んだって構わない……
文句あるかよっ……」
「……分かった。……オレの負けだ。
それがアイリスの意思なら、オレには止める資格はねぇよ……
……応急処置の方法と、【特殊スキル】を無くす方法……
そして、【特殊スキル】を無くさずに症状を解決する方法……
全部、研究しておいてやる」
フィリアさんは、不本意そうにも、そう言った。
「そうか、ハハッ! フィリアも理解してくれたか!
アイリスの歌声は、人間どもに報いる力になるんだっ!」
獣族反乱軍の男が、険しい顔を解いて、はしゃいでいた。
★★★
フィリアさんが、疲れたため息を吐きながら、部屋の外へと出ていった。
反乱軍の男も、満足したように部屋をあとにする。
レニ厶母さんと、ビアンカ母さん。
ボクの血の繋がっていない母親が、心配そうにボクを見ていた。
そして、もう一人、男の子が。
「アイリス……君は強いんだな。もう前を向いてる。
……父さんと母さんが死んだっていうのに」
ボクと同い年くらいの男の子が、涙を流しながら、ボクを眺めていた。
「なんだよ。ぶっとばされたいのか? 何で泣いてんだよ!」
馬鹿にしてるのか?
「少なくとも、俺には無理だった。
俺のお父さんとお母さんが死んだとき、続いてお姉ちゃん二人が死んで一人になったとき、俺は生きることに絶望した。もう死にたいと思った……」
男の子は、ボロボロと涙を流しながら、言葉を吐き出していた。
それはもう、呆れるほどに号泣していた。
あぁ、そうか、思い出した。
こいつは、あのとき、ボクが歌うのを止めやがった野郎。
いや、止めてくれたんだ。
お陰でボクはまだ生きている。
これから歌うことができる。
「……あ、ありがとうな。お前。
ボクが歌うのを止めてくれただろ?
あとごめん、同情するなとか言って、あのときは心のなかがぐちゃぐちゃだったんだ。
お前は、ボクと境遇が似てる。家族がみんな死んじゃったから。
……ボクは、お前と仲良くなりたい……
お前の名前、何ていうんだ?」
「マナトだ。俺はマナトだ」
男の子は、マナトと名乗った。
「そっか、マナト」
「……俺はなぁ、アイリス。君の歌に感激したんだよ。
あのとき、まるで、女神さまが歌っているみたいだった。
俺のお姉ちゃんが、よく歌を歌っていたのを、思い出したんだ……」
「お前のお姉ちゃんと、一緒にするなよ……」
「あぁ! 君の歌はほんとうに綺麗だ。……透き通るような、心に染み渡るような、もう、何て言ったらいいんだろうな。言葉にならねぇよ……とにかく、この世のものとは思えないぐらい……」
「…………」
「……曇り空からは光がかかっているようで、ホントに天使が舞い降りたみたいな。周りのひとたちも涙を流して、君の姿を崇めていた……
「あぁもう、いいっ、分かった。分かったからっ!
……ありがとうっ! 嬉しいからっ……」
あまりに褒められるものだから、ボクは恥ずかしくなった。
ベットの向こう側に寝返りをうって、マナトの顔が見えない位置にいく。
「とにかく、俺はな。アイリスが誰かのために、歌っている歌が好きなんだよ。
……でも、誰かを呪う歌は、好きじゃない…… 痛々しくて、君が苦しそうで、
とてもじゃないけど、二度と聞きたくない……」
「…………」
「……歌の力がなくても、アイリスの歌は素敵だよ。世界一の歌姫だ。
だから、さ。自分勝手な願いだって、分かってるけど。
俺は君に、誰かを殺す歌なんて、歌ってほしくない。
アイリスは、優しい声の女の子だから……」
「……うるさい、分かってる。分かってるから……」
ボクは、布団のなかにくるまった。
「眠れないから、一人きりにさせて」
そんなお願いをした。
★★★
マナトも、二人のお母さんも部屋を出ていって、ボク一人きりになる。
部屋のランプも消えてしまって、窓の外はドス黒い空、
薄暗い、寂しい部屋になってしまった。
部屋の外から、小さな話し声や、物音が聞こえていた。
そして、ザアザアとしたどしゃぶりの雨音が、絶えず耳に届いていた。
「……父さん、母さん……安らかにお眠りください。……白菊ともか様の元へ、帰りたまえ……」
ボクは、小さな声で祈りをあげて、
「……二人の願いは、ボクが受け継ぐよ……
獣族独立自地区は、ボクが守るから。
ボクの歌で、獣族のみんなを、幸せにするんだ……」
そう、静かに誓うのだった。
【第六膜 見抜きと血煙の仮面舞踏会編 完】
【あとがき】
第二部の序章にあたる、第六膜。
いかがだったでしょうか?
お察しの通り、第二部はガロン王国が舞台です!
「人質のクラスメイトを助けに行く旅!」
「獣族のみんなの運命は如何に?」
次回から、波乱の第七膜に突入です!
万波行宗と浅尾和奈、そして〇〇の冒険をお楽しみに!
第六回 キャラクター人気投票
-
万波行宗
-
浅尾和奈
-
フィリア
-
アイリス
-
ジャイガ
-
竹田慎吾
-
久那木玲香
-
成瀬くるみ
-
マナト
-
ジルク
-
新崎直穂
-
リリィ
-
ユリィ
-
誠也
-
ギルア
-
岡野大吾
-
ニーナ
-
ヨウコ
-
スイーツ阿修羅
-
その他