クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
九十一発目「二人きりの村」
しまったな……
俺は、どうしようかと唇を噛んだ。
ガラガラガラ、ドッシャーン!!
「きゃぁあぁあっ!」
黒い空には雷鳴が轟く。
ザザザザザ……と、
森を切り刻むような激しい雨が降る。
「くそ、この天気じゃ、車も通らないよな……」
俺と
森のなかの小道のほとりの、ボロボロのバス停にいた。
この小道には、ガロン王国を北から南に横断する、馬車が行き来しているハズなのだが。
枯れ草の飛び出た砂利道の上で、大粒の雫が弾けていた。
この大雨では、馬車も運休しているだろう。
「
「ねぇ、あの雷、まさか落ちてこないよね……? 怖い、怖いよぉ、
幸い、バッグの中にあった、火魔石による防寒コート……
マグダーラ山脈の雪山に登った時の服装に着替えて、何とか寒さと雨は凌げているが。
雷の怖さだけは、どうにもならんよな……俺も怖いし。
俺は
とりあえず。ここで一夜明かそうか。
簡易的な毛布なら、バッグの中にあるはずだ。
前途多難だな……
そうして俺は、雨漏れの古いバス停のベンチから、立ち上がった、そのとき。
カラカラカラカラ……
と、木が軋むような音が、聞こえてくる。
音の方向は、砂利道の北のほう……
「バスだ!」
俺は、叫んだ。
いや、この際、なんでもいい。
乗せていってもらえるように、頼み込もう。
「え? 嘘?」
「
俺はバッグを置いて、雨の砂利道を駆け出した。
それは、すぐに視界に入った。
こっちへゆっくり、向かってくる馬車がいた。
「……すみません! あの、僕達を乗せていってくれませんか?」
俺は、大声を上げて、馬車に駆け寄る。
先導する馬が、俺の存在に気づいたのか、警戒した様子で足を止めた。
「……すみません、聞こえてますか?」
馬車が停止する。返事がない。
雨のうるさい音しか聞こえなかった。
ボロボロの木製の馬車だった。木がところどころ折れて補修されてる。
俺は、透明な窓を、覗き込んだ。
そこには、女の子がいた。
白い洋服を着た女の子だ。
女の子は馬の手綱を持ったまま、横に倒れ込むように、
助手席まで横たわって、気絶していた。
「え……?」
恐る恐る。扉を開けて、女の子の様子を確認した。
息はある。生きてる。
でも、息が荒いな。
「大丈夫ですか?」
肩を揺すって、そしておでこに手をあてがった。
焼けるような熱さが、雨で冷たくなった指先を、溶かしていくようだった。
「すごい熱だ……」
★★★
「【
二位馬車のなか、
ほどなくして、彼女はしずかに目を覚ました。
「ん……あれ……私、は……?」
「……大丈夫ですか? すごい熱だったから、回復魔法で治療したんです」
俺は、簡潔に説明した。
「……ホントだ。頭が、ぜんぜん痛くない……」
女の子は、目をぱちくりとさせて、両手の動きを確かめていた。
「……どうしたの? こんな酷い天気に、どこに行こうとしていたの?」
「そうだ。薬を買いに行かないと、いけないんですっ」
女の子は、ハッとして、慌てた様子で、手綱を握って馬に鞭を叩きこもうとする。
「待って! 薬が必要なの? だったらたぶん、大丈夫!
このバッグのなかには色んな薬が入っているし、
私には、回復魔法が使えるから!」
「え……?」
女の子は、期待と疑いの混ざったような表情で見上げる。
「分からない……治せるかどうかは分からないけど。こんな天気で急いでいるってことは、病状は一刻を争うんでしょう?
だったら、私を信じて! 治療が必要な人のところまで、案内してよ。
私たちも、寝泊まりする場所を、探してたから」
「……わかりました、そういうことなら、そうします」
女の子は、ペコリと頭を下げて、馬の背中に鞭を打った。
馬車がくるりと反転する。
俺と
★★★
女の子は、ユウという名前だった。
まるで、刑務所の尋問のようだった。
ユウちゃんはどこか不安そうにして、聞かれたことだけを、とても簡潔に答えていった。
「ユウちゃんは、誰と一緒に住んでいるの?」
「お婆ちゃんと二人です」
「だれか、友達はいる?」
「いません」
「…………」
気まずい間が流れる。
「私の村には、もう。私とお婆ちゃんの二人だけですから」
ユウちゃんが、はじめて自分から話してくれた。
「え? それは、どうして?」
「……仕事もないし。人も居ない。獣族の襲撃の危険もあるし……
もう何年も前から、このあたりは移住勧告を受けてますからね。王都から……
まだフェロー地区に住んでるのは、獣族狩りを楽しむ軍人か、頑固な老人共しかいませんよ。……私のお婆ちゃんみたいに」
「そう……」
獣族独立自治区の周囲から、年々人間が減っているのは、フィリアからも教えられた。
おかげで、ずいぶんと外出が楽になったそうだが。
「ユウちゃんは、どうしてこの村に残ってるの?」
「それは……ええと、お婆ちゃんを一人だけには、できないじゃないですか」
ユウちゃんの返事は、どこか歯切れが悪く。
「……英雄が命懸けで守ってくれたこの村を、見捨てる訳にはいかないって、お婆ちゃんが言うからです」
「英雄って……?」
「全然有名な人じゃないですよ。ただこの村を守ってくれた。それだけの人です」
「へぇ」
名も無き英雄ってやつか。
かっこいいな。
せっかく異世界に来たんだ。
いつかは俺も、誰かから英雄って言われる男に、なりたいな。
俺は場違いながら、そんなことを考えていた。
「ほら……着きましたよ。私たちの村です」
ユウちゃんが、少し声を張って言った。
視界に入ってきたのは、確かに、枯れた苔や蔓に侵食された、廃村だった。
「私が子供の頃は、まだ二十人は住んでたんですけどね……」
まだ中学生くらいに見えるユウちゃんは、哀愁を込めたようにため息をつく。
「ここです。……お二人にはここに泊まってもらいます」
そう言って、案内されたのは、木製の小屋だった。
壁際にそって、大きな二段ベッドが置いてある。
机と椅子、そして数冊の本と、機織り機? が目立って見える。
「すみません、
「ぜんぜん、気にしなくて大丈夫だよ。
それより、患者さんはどこにいるの?」
「それが、ええっと、魔法はしてもらわなくて結構です! 薬だけ貰えれば良いので!」
「……え? なんで?」
「……ユウちゃん、薬は貴重なんだ。
できるなら、まずは
回復魔法なら、簡単に治療できるから」
俺たちがバッグに入れている薬には、限りがある。
できれば、まず回復魔法が効くか試して欲しいのだが……
「……お金なら、頑張って出しますから。
薬だけ、貰えないでしょうか?」
ユウちゃんは、どこか怯えた様子で、訊いてくる。
……いや、しかし。これから先何が起こる分からないから。
薬のストックは、できる限り残しておきたいのだが。
「いいよ、これ使って」
「携帯用の、回復魔法陣。身体に貼るだけで回復魔法が発動するから。これ使ってよ」
「え? え? 嘘、こんなに高価なものを、なんで持ってるんですかっ!?」
ユウちゃんが、声を裏返しながら卒倒した。
「そんな、支払えるお金がありませんよっ!」
「大丈夫、この小屋に泊めてもらう、代金ってことで、受け取って」
「こんな汚い小屋っ、全然釣り合いませんって!」
「ほら、急がないといけないんじゃないの?
私たちのことは良いから、早く病気を治してあげなよ」
「わ、分かりましたっ! ありがとうございますっ!」
ユウちゃんは、目から涙を零しながら感謝を叫び、地面に頭を叩きつける勢いで頭を下げて、
小屋から、ダッシュで飛び出していった。
「良かったのかよ? あの紙は貴重な、緊急用のやつだろ」
フィリアから渡された。緊急用の携帯式回復魔法陣と、解毒魔法陣。
一人あたり一枚ずつを、俺と
貴族や精鋭冒険者しか持たないような、めちゃくちゃ高価なアイテムである。
「問題ない。私、回復魔法使えるし」
「回復魔法を使う余裕がない時のためだって、フィリアが言ってただろ」
「いいんだってば。ほら、あれ見てよ」
そこは、キッチンのような場所で、鍋やナイフがぶら下がってあった。
「ほら、コップも皿もスプーンも、ぜんぶ3つづつ乾かしてる」
「つまり、ユウちゃんは三人で暮らしてるってことか」
しかし、これでは、お婆ちゃんと二人暮らしだという供述に、矛盾が生じる。
ユウちゃんは、二人暮らしって嘘を付いたと言うことか?
何のために? まさか、俺たちを騙すためか!?
背筋にゾッと悪寒が走った。
「そういうことよ。そしてここで、二つ目のヒントだよ。床を見て」
俺の心配とは対照的に、
「床?」
ランプに照らされた薄暗い床に、よく目を凝らすと、
反射する糸のようなものが見えた。
拾い上げて見ると、それは、光沢のある毛だった。
人間のものではない。
つまり、
「そういう事か!」
俺は、全身に雷を受けたような衝撃を受けた。
ひらめくとは、電撃が走るとは、こういうことだったのか!
「そう。それは、獣族の毛だよ」
お互いに推理が通じ合って、
「この家には獣族が住んでる。
ガロン王国の法律では、獣族の奴隷の所持は禁止だし。
独立自治区の外で獣族を見つけたら、始末するルールだろうしね」
「なるほど。俺たちに、獣族の存在がバレてはいけない。
だから、回復魔法を直接かけるのを嫌がったのか」
「そゆこと」
「……しかし、獣族と人間の、同居とは……
マナトの家族みたいに、酷い目にあってないと良いけど」
マナト、そしてニーナやヨウコは、貴族の屋敷で奴隷として、酷い目に合っていたらしいからな。
「それは問題ないでしょ。
ユウちゃんはこの大雨のなか、高熱を出しながら、薬を求めて馬車で街へと向かってたんだよ?
……この家の獣族は、ちゃんと愛されてるよ」
「それもそうだ」
そこまで、話した時だった。
小屋の入り口の扉が、勢いよくバァンと開かれる。
そこには、はぁはぁと息を荒げて、全身びしょびしょのユウちゃんがいた。
「な、治りましたっ! 回復魔法が効いたみたいですっ!
……私のお婆ちゃんが、元気になりましたっ!
……本当に、ふたりとも、ありがとうございますっ!」
ユウちゃんの、嬉し涙まみれの笑顔に、
「それは良かった」
俺たちも、胸が熱くなるのだった。
──────
それから、お湯で身体を拭いたり、ご飯でもてなしてもらった。
ユウちゃんのお婆ちゃんも顔を見せて、「病気を治してくれてありがとう」と、感謝の言葉と共に、
深々と頭を下げてきた。
俺や
そして今。
俺と和奈は、ランプを消して、
二段ベッドに寝転んでいた。
俺が二段目で、
日が沈んでしばらく、いよいよ真っ暗な夜が訪れ。
ザザザザァァァァァァ
ガタガタガタガタ……
ピシャァ……ゴロゴロゴロゴロ……!
「ひいぅ! うぐっ……!」
暗闇のなか、目を閉じれば、雷雨の轟音がよく聞こえる。
加えて、
今日は朝から大変で、心も体も疲れているはずなのに。
「寝れる気がしないな……」
俺は、下の
「ねぇ、
一緒に寝ても良い?」
「……え? 一緒にって」
「同じ布団で、寝るってこと……
いや、ごめん……やっぱいい、忘れて」
布団に頭を埋めたような、くぐもった声で消え入りそうになりながら。
俺は、身体を起こして、ベッドの梯子を使って降りた。
「いいよ。一緒に寝よう。俺も、一人じゃ寝られそうにないから」
「でも……っ、本当に良いの?」
俺が頷くと。和奈は奥のほうへ寝返りをうった。
空いた手前のスペースに、俺は身体を滑り込ませる。
ふぅ。
周りのは
すぐ隣に
それは和奈も同じようで、彼女はふぅとゆっくり息を吐いて、隣で呼吸を整えていた。
体温がぐっと上昇して、外の雷雨の轟音が、すっと遠のいていくように感じていた。
「おやすみ、
「うん、おやすみ
そうして二人で、目を瞑った。
一人で寝る時よりも、暖かくて、怖さや不安も和らいでいた。
それから、言葉は交わさなくて。
お互いに、みじろぎやため息を挟みながら。
やがて疲れが押し寄せて、うとうとと、眠りの世界へいざなわれいった。
俺はまどろみへと、意識を手放した。
第六回 キャラクター人気投票
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-
浅尾和奈
-
フィリア
-
アイリス
-
ジャイガ
-
竹田慎吾
-
久那木玲香
-
成瀬くるみ
-
マナト
-
ジルク
-
新崎直穂
-
リリィ
-
ユリィ
-
誠也
-
ギルア
-
岡野大吾
-
ニーナ
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ヨウコ
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スイーツ阿修羅
-
その他