クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件   作:スイーツ阿修羅

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九十二発目「オ胡蝶ナ夢ニー」

─???─

 

 春の風の匂いがした。

 若草の匂いがそよ風とともに鼻孔をくすぐる。

 白亜の校舎、俺たちの千葉県立夕霧高等学校。

 校庭の奥、ピンク色の雨が降る、大きな桜の木の下で、

 彼女は、

 黒髪ショートで制服姿な愛しい君は、

 

行宗(ゆきむね)くん、好きです。ずっと前から、好きでした。

 ……どうか、わ、私と、結婚を前提にお付き合いしませんか?」

 

 中学の頃から、ずっと片思いしてきたはずの女の子。

 新崎直穂(にいざきなおほ)さんは、泣きそうな瞳と上ずった声で、俺にとびきりの告白をくれた。

 心臓が跳ねる。

 君が大切で、大好きな気持ちが溢れ出す。

 

(俺もあなたのことが、ずっとずっと好きでした)

 

 万感の想いが、溢れ出しそうなのに、声にならなくて、

 俺はただ口をパクパクとさせて、

 心を落ち着けるために、息を吐いて、大きく息を吸い込んだ。

 そんな時……

 

「まって、まってよ。お願い……」

 

 背中から、もう一人(・・・・)の声がした。

 

「私も好きだった。誰にも負けないくらい。負けたくないくらい、心の底から……」

 

 栗色の髪をした学校ジャージの女の子は、

 

「行宗のこと、好きだったんだよ……」

 

 クラスのモテ爆乳サッカー女子、浅尾和奈(あさおかずな)は、唇を噛み締めながら、大粒の涙を流していた。

 

「ねぇ」

「ねぇ」

「ゆきむね」

 

 二人の声に、両耳を挟まれる。

 生まれたままの姿の女の子二人に挟まれた、薄暗い寝室の濡れたベッドのなか。

 

「……私と直穂、どっちが好きなの?」

「……私と和奈、どっちが好きなの?」

 

 ……泣きそうな二人の女の子の声が、重なる。

 痛い、痛い。心臓が爆発しそうなほど、痛くて辛い。

 でも、それでも……

 俺の好きな人は……

 

 ★★★

 

「っ………!」

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 心臓の音が、ドクドクと早鐘を打っていた。

 薄暗い、木製のベッドの天井を見て。

 

 俺は、なんて夢を見ていたのだろう?

 ……こんな夢まるで、最低クズな優柔不断男じゃないか。

 

 それでも……俺の好きな人は、新崎直穂だ。

 って。

 それでもって何だよ。

 何様のつもりだよ、俺は。

 はぁ……

 

和奈(かずな)と添い寝したせいだろうか? ……こんな夢を見るなんてな)

 

 昨日は、和奈の身体をオカズにした。

 二度もオカズにした。

 それにキスもした。

 無理やり、突然に。

 ……もしかしたら、あれがファーストキスだったんじゃないだろうか? 和奈の。

 

 何やってんだよ、俺は。

 いつもいつも、浅尾和奈(あさおかずな)の優しさに、甘えすぎなんだよ。

 俺は最低な人間だ。

 

和奈(かずな)……」

 

 嫌われて当然のことを、何度も何度も繰り返した。

 それでも和奈は、俺の味方をしてくれて。

 俺のことをクラスメイトの前でもかばってくれて。

 クラスメイトと合流しても、俺に着いて来ることを選んでくれた。

 

 それがどんなに嬉しかったか。ありがたかったか。

 

「頭が上がらないな……」

 

 和奈の眠りを妨げないように、小さな声で囁いた。

 小屋の外では、リーンリーンと、秋の虫が鳴いていた。

 どうやら、しばらく寝ている間に、激しい雷も雨も止んだらしい。

 

 雨上がりの夜。

 あの轟音が嘘のように、静かで真っ暗な夜だった。

 虫の鳴く声しか、聞こえない……

 

 あれ……?

 

 チリリと、頭の隅に、違和感と危機感が膨らんだ。

 おかしい。

 ……眠気が一気に吹き飛んで、俺はベッドの隣を確認した。

 と、そこに、あるはずのものが無かった。

 

「え……?」

 

 一緒の布団に寝ていたはずの、浅尾和奈の存在が、跡形もなく消えていたのだ。

 

 一気に、世界の時間が止まったようだった。

 呼吸が、できない。

 まさか、まさかまさかまさかっ……!

 

 ……デジャブ。

 どうしても重ねざるを得ない記憶があった。

 三ヶ月前、俺が寝ている間に手紙を残して消えた、新崎直穂(にいざきなおほ)のトラウマが。

 

(和奈、どこだ!?)

 

 息を吸うこともままならなかった。

 ふらつく足で、ベッドから抜け出した。

 小屋のなかには、虫一匹の気配も無かった。

 

 ……和奈……かずな、かずな。

 

 今にも胃液を吐き出しそうだった。

 真っ暗闇の視界、立ち歩くこともままならず、二つの膝頭と左だけの腕で、小屋の入口へと這いずっていく。

 

 どうか無事でいてくれ。

 どうか遠くへいかないでくれ。

 浅尾和奈まで居なくなったら、俺はこの世界で生きる意味を、ほんとの本当に失ってしまう。

 和奈(かずな)……

 

 何か、聞こえる。

 俺は、扉の向こうへ、虫の鳴き声に隠れた声に、耳を澄ませて目を閉じた。

 

「……うっ、くっ……あ……」

 

 それは、うめき声だった。

 まるで首を締められてような、弱々しくて、声を出そうにも出せないような。

 間違いなく、浅尾和奈(あさおかずな)の声に違いなかった。

 

 和奈……

 

 俺は膝立ちになりながら、扉の取っ手に、左手を伸ばす。

 そのままゆっくりと俺は、玄関の扉を開け放った。

 

「……はぁ、っ……うぅ……っえっ!?」

 

 そこにいたのは、間違いなく、浅尾和奈だった。

 その光景を目撃して、俺は本当の意味で、絶句した。

 世界から、なんの音も聞こえなくなった。

 

 俺は確かに、その瞬間を目撃した。

 

 浅尾和奈は、玄関の外の木箱の上に座っていた。

 両足はガニ股で、はしたなく満月に向かって開け放ち、その付け根には白肌の指先を添えて、

 もう一方の腕は、上着のなかへ。もぞもぞと身体を動かしながら……

 次の瞬間、和奈はビクッと身体を震わせ、怯えた表情で俺のほうを見ていた。

 どうやら、玄関を開ける音で、気づかれたらしい。

 

 浅尾和奈がオナニーをしていた。

 

 満月の下、俺と和奈は無言のまま、見つめ合った。

 目を離したいのに、離せない。

 くっ。

 

「……ご、ごめん。お、俺は何も見てないからっ!」

 

 やっと状況を把握して、俺は慌てて頭を引っこめた。

 逃げ出すように、玄関の扉をぴしゃりと閉めようと、取っ手に指を引っ掛けた。

 

「ま、まってっ……!!」

 

 その前に、和奈が叫んだ。

 

「……行宗、お願い、わたしの話を聞いてよ」

 

 怒ったような、泣きそうなような。

 

「ちょっと、気になっただけだからっ、

 その……行宗(ゆきむね)がシてるの、さっき目の前でみちゃったから。

 どんな感じなのかなって、気になっちゃって。

 だ、だから……お願い……」

 

 和奈の声は震えていた。

 

「引かないで、変態だとか、思わないで……」

 

 最後は泣き出してしまいそうなほどに、弱々しい声で、和奈は言った。

 

「思うわけないよ。むしろ、なんか安心したな。和奈(かずな)もこういう事するんだなって、親近感が湧いた気がする」

 

 俺は和奈に背を向けたまま、本心を言った。

 

「だ、だから違うっ! いつもは全然しないから、今日のは魔が差したの、気の迷いなんだから……

 さっぱり忘れて。ぜんぶ。お願い……見なかったことに……」

 

「だめだ。忘れようと思っても、衝撃的すぎて、忘れられそうにない」

 

 和奈は、性欲とは無縁な、さっぱりした女の子だと思っていた。

 下ネタはからかう話題として苦手ではなさそうだったけど、

 こういうマジな下ネタそのものには、関心がないと、思っていたから。

 衝撃的光景すぎた。

 

「そ、そんなぁっ……わすれて、わすれて、わすれろびぃむ……」

 

 和奈はこわれたみたいに、忘れろビームを連打した。

 こういうとき、どう対応するのが、正解なのだろう?

 俺は頭をフル回転させて考えた。

 そして、でた結論は。

 

「でも、良かった。これでお互いお揃いじゃないか。

 俺も見せたし、和奈も見せた。

 俺達二人は、オナニーを見せあった仲だってことだ」

 

「なにその、すごく卑猥な見せあいっ子」

 

「俺達はお互いに、秘密の部分、弱い部分をさらけ出したんだ。

 ……そういうのは、俺達のさらなる固い絆や友情へと繋がるのが、王道で鉄板のストーリー展開だろ?」

 

「え? まぁ、少年漫画とか、そういうシーンも確かにあるけど」

 

「……そうだ。要するに、俺は和奈(かずな)の恥ずかしい部分を知ってしまったんだ!

 でも俺は嬉しく思ってる。和奈のことをもっと理解できたからだ。可愛いところを知れたから」

 

「はっ? えっ?」

 

「俺は和奈のことを、もっと深く理解したかったんだ。

 何が嫌いで、何が好きで。どうすると安心して、何が怖いのか……

 今見たことは、和奈の知らない一面だったから、すごく新鮮だった」

 

「ち、ちょ、ストップ、何言ってるの……行宗っ!?」

 

 和奈のたまらない絶叫に、俺の思考は吹き飛ばされてしまった。

 

「どうした、和奈、俺が何か言ったか?」

 

 思い出してみる。

 和奈のことを理解したい。

 和奈の知らない一面だったから、ギャップを感じた。

 うん、俺の本心だ。何一つ偽りはない。

 

「……俺は、何か変なことを言ったかな?」

 

 何も分からず、首を傾げて振り返ると、

 和奈は顔を茹でダコみたいに赤面させて、ぽかんと口を開けていた。

 

「……いや、ただ。えぇと…… 私のことを、そういうふうに思ってくれて、うれしいの」

 

 和奈は唇を結んで微笑んだ。満月の逆光が栗毛の髪を透かしていて、その肌はもちのように真っ白い。

 綺麗だった。

 

「じゃあ、やっぱり忘れないでね。私がこういう女の子だってコト。

 玄関の外で、服をはだけさせて、ドキドキ露出で興奮する女だってコト。

 ぜったい忘れちゃだめだよ」

 

「うん。覚えておくよ」

 

 そう俺の背中で語ったのだが。

 

「それじゃあだめ、目に焼き付けるの」

 

 途端に、和奈の声が、グンと近づく。

 接近される。すぐ後ろ。

 俺は両肩を、柔らかな手でがっしりと掴まれて。

 

「こっち向いて」

 

 そのままコーヒーカップを回すみたく、ぐるりと反対へ回転させられる。

 そして俺の目の前には、ほっぺたを赤く膨らました浅尾和奈(あさおかずな)が現れた。

 額は汗ばんでいて、しっとりとした湿り気と、熱感を感じる。

 潤んだように、溶けた瞳。

 羞恥心をもまるごと愉しむような、艶めかしい笑みの和奈に。

 俺の股間は、反応を押さえられるハズがなかった。

 

「私のこと、知りたいんでしょう? 私がどういう女の子で、どんな食べ物が好きで、どんな男がタイプで、どんな服が好みで、どこを触られると気持ちいいのか?

 ……ちゃんと見て、覚えて、私のこと……」

 

(………忘れないでね)

 

 誰かの声が、重なった。

 聞き覚えのある。よく知ってる声、でもモヤがかかったみたいに、彼女の顔は白くぼやけていた。

 

「心配すんな。ちゃんと覚えてるよ」

 

 俺は、和奈の頭に手のひらを乗せながら言った。

 

「俺にとって浅尾和奈(あさおかずな)は、すごく大切な親友だ」

 

 和奈は、顔を伏せながら、俺の手のひらに転がさせるよう、くらりくらりと首を回した。

 

「うん! 行宗と直穂も、私の大好きな二人だよ! だからっ!

 行宗が直穂と再会できるまで、私は全力で行宗をサポートさせてもらうよ!」

 

 和奈は叫んで、ドンと、

 俺の背中を強めに叩いた。

 正直、痛い。

 

「けっこう痛かったぞ、和奈」

 

「ふっ、これくらいで泣き言を吐いてちゃだめだよ。

 クラスメイトを救出して、ガロン王国の戦争を止めて、直穂を必ず助け出すんでしょ?

 もっともっと強くならないとね」

 

「……まぁ、そりゃそうだけど」

 

「ほーら、先に小屋に入ってて。明日の出発も遅くはないんでしょ? 今のうちに寝ておかないと」

 

「うん。和奈は、入らないのか?」

 

 俺は、自分からは動かない様子の和奈に問いかけた。

 

「私は、ちょっとオナってから行くから、ってもー、言わせんなってホラ、玄関にはいったはいった」

 

 無理やり作ったような満面の笑みで、小屋の中に押し込もうとする浅尾和奈に。

 途端に俺は、部屋に飛び込み、ベッドにダイブし、布団をかぶるのだった。

 

 横になる。

 一気にあたりが静かになって、

 虫の鳴く声しか、聞こえてこないのどかな夜。

 

「……うっ……ぁあっ……うぅぅっ……」

 

 そのはずだったが、玄関の向こうからは、浅尾和奈のすすり泣く声がした。

 何に泣いているのだろうか? 慰めにいったほうがいいだろうか?

 様々な思考が、頭の中で生まれては消えて、頭の中が浅尾和奈だらけになっていった。

 

 寝られそうで寝られない。股間の張りも収まらないなかで、

 外の和奈の泣き声は、しだいに静かになっていった。

 

 ガラガラガラと玄関の扉を開けて、すたすたと裸足で床を歩く、和奈の気配。

 

「結局、下の段で寝たんだ……」

 

 和奈が、俺の方を見て呟いたのだろう。

 俺は目を瞑って寝たフリをしているので、よく分からない。

 

 和奈は、はしごに足をかけて、ベッドの上段に登っていくようだった。

 しかし、真ん中あたりで、音は下の方向へと引き返した。

 

 浅尾和奈が、もぞもぞと、俺の布団の右側。ベッドの下段へと侵入してきた。

 

「……身体を見せてる私だけが恥ずかしいんだって思ってたけど、シてる行宗も充分恥ずかしかったんだなって。

 自分でシてみて、よく分かったよ」

 

 独り言のように、俺に語りかけてくる。

 和奈は俺が寝ていると勘違いしているのだろうが。

 これは、聴いて良い内容なのか?

 

「村を守らなくちゃいけないとか、クラスメイトを守らなくちゃいけないっていうプレッシャーのなかで、恥ずかしさを捨ててオナニーするなんて、簡単なことじゃないよ。

 最初のボス戦なんて、クラスメイトいるど真ん中で、堂々とパンツに手を突っ込んで。

 ふふ、カッコいい。めちゃくちゃカッコいいよ、行宗……」

 

 和奈らしくない、慈しむような口調とともに、俺は頭をゆっくりと撫でられた。

 

「この世界でそばに居てくれたのが、行宗(ゆきむね)で良かった。……別の誰かなんて考えられないよ。

 こんなにかわいい顔しちゃってさ、すごく頼りになるんだもん。そりゃ直穂(なおほ)ちゃんも惚れますわな」

 

 あぁ、だめだ、聴いていてすごくむず痒くなる。

 嬉し恥ずかし、しかし、これは……

 これ以上を聴くのは、よくない気が、している。

 

「これから、行宗(ゆきむね)が幸せでありますように、どうか、神様、女神様……

 大好きな彼女が居なくなって、クラスメイトたちに煙たがられて、尊敬していた誠也さんも無くなって。

 苦しいことが多い行宗だけど、彼は絶対に諦めないし、転んでもめげずに立ち上がるから。

 どうか行宗に、幸せな未来を、授けてください」

 

 和奈が、真剣な声で祈るのを聞いて。

 俺は泣きそうなほど震えていた。

 

「おやすみ。良い夢が見れるといいね」

 

 和奈は最後にそう残して。

 布団の隣で、寝息をかきはじめてしまった。

 

 ★★★

 

 

 その夜。寝息した俺が見た夢は、世にもいやらしい夢だった。

 放課後の学校の廊下を、二人で並んで、服を脱ぎながら歩く夢だった。

 

 いやらしい展開も、クライマックスになって、いよいよ波動砲発射という時に。

 

「行宗おきて、寝すぎ」

 

 そう言って、夢から現実に叩き起こされた。

 明るい朝だ。年季の入った木の匂い。

 浅尾和奈が、呆れた顔で俺を見ていた。

 

「……早く出ないと、船の出発時間に間に合わないんじゃないの?

 ご飯は用意して貰ったから、一緒に食べよ」

 

 そこには、昨日の恥ずかしさや艷やかさの欠片もない、浅尾和奈がいた。

 

「あ、れ?」

 

 どこまでが夢で、どこまでが現実か?

 俺は一瞬混乱した。

 だが、寝に入ったとき俺はベッドの手前側だったが、和奈に起こされたときは奥側だった。

 それはやはり、いや、一人で寝返りをうった可能性も。

 

「なぁ和奈?」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 

 いまさら聞ける訳がなかった。

 夜の記憶は曖昧だった。

 和奈と行為に及んだのは、きっと間違いなく夢だろうけど。

 あのオナニーは、(ゆめ)(うつつ)か。

 きっと真実は、和奈(かずな)だけが知っているのだ。

 

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