クラス転移した俺のスキルが【マスター◯ーション】だった件 作:スイーツ阿修羅
─???─
春の風の匂いがした。
若草の匂いがそよ風とともに鼻孔をくすぐる。
白亜の校舎、俺たちの千葉県立夕霧高等学校。
校庭の奥、ピンク色の雨が降る、大きな桜の木の下で、
彼女は、
黒髪ショートで制服姿な愛しい君は、
「
……どうか、わ、私と、結婚を前提にお付き合いしませんか?」
中学の頃から、ずっと片思いしてきたはずの女の子。
心臓が跳ねる。
君が大切で、大好きな気持ちが溢れ出す。
(俺もあなたのことが、ずっとずっと好きでした)
万感の想いが、溢れ出しそうなのに、声にならなくて、
俺はただ口をパクパクとさせて、
心を落ち着けるために、息を吐いて、大きく息を吸い込んだ。
そんな時……
「まって、まってよ。お願い……」
背中から、
「私も好きだった。誰にも負けないくらい。負けたくないくらい、心の底から……」
栗色の髪をした学校ジャージの女の子は、
「行宗のこと、好きだったんだよ……」
クラスのモテ爆乳サッカー女子、
「ねぇ」
「ねぇ」
「ゆきむね」
二人の声に、両耳を挟まれる。
生まれたままの姿の女の子二人に挟まれた、薄暗い寝室の濡れたベッドのなか。
「……私と直穂、どっちが好きなの?」
「……私と和奈、どっちが好きなの?」
……泣きそうな二人の女の子の声が、重なる。
痛い、痛い。心臓が爆発しそうなほど、痛くて辛い。
でも、それでも……
俺の好きな人は……
★★★
「っ………!」
………………
…………
……
心臓の音が、ドクドクと早鐘を打っていた。
薄暗い、木製のベッドの天井を見て。
俺は、なんて夢を見ていたのだろう?
……こんな夢まるで、最低クズな優柔不断男じゃないか。
それでも……俺の好きな人は、新崎直穂だ。
って。
それでもって何だよ。
何様のつもりだよ、俺は。
はぁ……
(
昨日は、和奈の身体をオカズにした。
二度もオカズにした。
それにキスもした。
無理やり、突然に。
……もしかしたら、あれがファーストキスだったんじゃないだろうか? 和奈の。
何やってんだよ、俺は。
いつもいつも、
俺は最低な人間だ。
「
嫌われて当然のことを、何度も何度も繰り返した。
それでも和奈は、俺の味方をしてくれて。
俺のことをクラスメイトの前でもかばってくれて。
クラスメイトと合流しても、俺に着いて来ることを選んでくれた。
それがどんなに嬉しかったか。ありがたかったか。
「頭が上がらないな……」
和奈の眠りを妨げないように、小さな声で囁いた。
小屋の外では、リーンリーンと、秋の虫が鳴いていた。
どうやら、しばらく寝ている間に、激しい雷も雨も止んだらしい。
雨上がりの夜。
あの轟音が嘘のように、静かで真っ暗な夜だった。
虫の鳴く声しか、聞こえない……
あれ……?
チリリと、頭の隅に、違和感と危機感が膨らんだ。
おかしい。
……眠気が一気に吹き飛んで、俺はベッドの隣を確認した。
と、そこに、あるはずのものが無かった。
「え……?」
一緒の布団に寝ていたはずの、浅尾和奈の存在が、跡形もなく消えていたのだ。
一気に、世界の時間が止まったようだった。
呼吸が、できない。
まさか、まさかまさかまさかっ……!
……デジャブ。
どうしても重ねざるを得ない記憶があった。
三ヶ月前、俺が寝ている間に手紙を残して消えた、
(和奈、どこだ!?)
息を吸うこともままならなかった。
ふらつく足で、ベッドから抜け出した。
小屋のなかには、虫一匹の気配も無かった。
……和奈……かずな、かずな。
今にも胃液を吐き出しそうだった。
真っ暗闇の視界、立ち歩くこともままならず、二つの膝頭と左だけの腕で、小屋の入口へと這いずっていく。
どうか無事でいてくれ。
どうか遠くへいかないでくれ。
浅尾和奈まで居なくなったら、俺はこの世界で生きる意味を、ほんとの本当に失ってしまう。
何か、聞こえる。
俺は、扉の向こうへ、虫の鳴き声に隠れた声に、耳を澄ませて目を閉じた。
「……うっ、くっ……あ……」
それは、うめき声だった。
まるで首を締められてような、弱々しくて、声を出そうにも出せないような。
間違いなく、
和奈……
俺は膝立ちになりながら、扉の取っ手に、左手を伸ばす。
そのままゆっくりと俺は、玄関の扉を開け放った。
「……はぁ、っ……うぅ……っえっ!?」
そこにいたのは、間違いなく、浅尾和奈だった。
その光景を目撃して、俺は本当の意味で、絶句した。
世界から、なんの音も聞こえなくなった。
俺は確かに、その瞬間を目撃した。
浅尾和奈は、玄関の外の木箱の上に座っていた。
両足はガニ股で、はしたなく満月に向かって開け放ち、その付け根には白肌の指先を添えて、
もう一方の腕は、上着のなかへ。もぞもぞと身体を動かしながら……
次の瞬間、和奈はビクッと身体を震わせ、怯えた表情で俺のほうを見ていた。
どうやら、玄関を開ける音で、気づかれたらしい。
浅尾和奈がオナニーをしていた。
満月の下、俺と和奈は無言のまま、見つめ合った。
目を離したいのに、離せない。
くっ。
「……ご、ごめん。お、俺は何も見てないからっ!」
やっと状況を把握して、俺は慌てて頭を引っこめた。
逃げ出すように、玄関の扉をぴしゃりと閉めようと、取っ手に指を引っ掛けた。
「ま、まってっ……!!」
その前に、和奈が叫んだ。
「……行宗、お願い、わたしの話を聞いてよ」
怒ったような、泣きそうなような。
「ちょっと、気になっただけだからっ、
その……
どんな感じなのかなって、気になっちゃって。
だ、だから……お願い……」
和奈の声は震えていた。
「引かないで、変態だとか、思わないで……」
最後は泣き出してしまいそうなほどに、弱々しい声で、和奈は言った。
「思うわけないよ。むしろ、なんか安心したな。
俺は和奈に背を向けたまま、本心を言った。
「だ、だから違うっ! いつもは全然しないから、今日のは魔が差したの、気の迷いなんだから……
さっぱり忘れて。ぜんぶ。お願い……見なかったことに……」
「だめだ。忘れようと思っても、衝撃的すぎて、忘れられそうにない」
和奈は、性欲とは無縁な、さっぱりした女の子だと思っていた。
下ネタはからかう話題として苦手ではなさそうだったけど、
こういうマジな下ネタそのものには、関心がないと、思っていたから。
衝撃的光景すぎた。
「そ、そんなぁっ……わすれて、わすれて、わすれろびぃむ……」
和奈はこわれたみたいに、忘れろビームを連打した。
こういうとき、どう対応するのが、正解なのだろう?
俺は頭をフル回転させて考えた。
そして、でた結論は。
「でも、良かった。これでお互いお揃いじゃないか。
俺も見せたし、和奈も見せた。
俺達二人は、オナニーを見せあった仲だってことだ」
「なにその、すごく卑猥な見せあいっ子」
「俺達はお互いに、秘密の部分、弱い部分をさらけ出したんだ。
……そういうのは、俺達のさらなる固い絆や友情へと繋がるのが、王道で鉄板のストーリー展開だろ?」
「え? まぁ、少年漫画とか、そういうシーンも確かにあるけど」
「……そうだ。要するに、俺は
でも俺は嬉しく思ってる。和奈のことをもっと理解できたからだ。可愛いところを知れたから」
「はっ? えっ?」
「俺は和奈のことを、もっと深く理解したかったんだ。
何が嫌いで、何が好きで。どうすると安心して、何が怖いのか……
今見たことは、和奈の知らない一面だったから、すごく新鮮だった」
「ち、ちょ、ストップ、何言ってるの……行宗っ!?」
和奈のたまらない絶叫に、俺の思考は吹き飛ばされてしまった。
「どうした、和奈、俺が何か言ったか?」
思い出してみる。
和奈のことを理解したい。
和奈の知らない一面だったから、ギャップを感じた。
うん、俺の本心だ。何一つ偽りはない。
「……俺は、何か変なことを言ったかな?」
何も分からず、首を傾げて振り返ると、
和奈は顔を茹でダコみたいに赤面させて、ぽかんと口を開けていた。
「……いや、ただ。えぇと…… 私のことを、そういうふうに思ってくれて、うれしいの」
和奈は唇を結んで微笑んだ。満月の逆光が栗毛の髪を透かしていて、その肌はもちのように真っ白い。
綺麗だった。
「じゃあ、やっぱり忘れないでね。私がこういう女の子だってコト。
玄関の外で、服をはだけさせて、ドキドキ露出で興奮する女だってコト。
ぜったい忘れちゃだめだよ」
「うん。覚えておくよ」
そう俺の背中で語ったのだが。
「それじゃあだめ、目に焼き付けるの」
途端に、和奈の声が、グンと近づく。
接近される。すぐ後ろ。
俺は両肩を、柔らかな手でがっしりと掴まれて。
「こっち向いて」
そのままコーヒーカップを回すみたく、ぐるりと反対へ回転させられる。
そして俺の目の前には、ほっぺたを赤く膨らました
額は汗ばんでいて、しっとりとした湿り気と、熱感を感じる。
潤んだように、溶けた瞳。
羞恥心をもまるごと愉しむような、艶めかしい笑みの和奈に。
俺の股間は、反応を押さえられるハズがなかった。
「私のこと、知りたいんでしょう? 私がどういう女の子で、どんな食べ物が好きで、どんな男がタイプで、どんな服が好みで、どこを触られると気持ちいいのか?
……ちゃんと見て、覚えて、私のこと……」
(………忘れないでね)
誰かの声が、重なった。
聞き覚えのある。よく知ってる声、でもモヤがかかったみたいに、彼女の顔は白くぼやけていた。
「心配すんな。ちゃんと覚えてるよ」
俺は、和奈の頭に手のひらを乗せながら言った。
「俺にとって
和奈は、顔を伏せながら、俺の手のひらに転がさせるよう、くらりくらりと首を回した。
「うん! 行宗と直穂も、私の大好きな二人だよ! だからっ!
行宗が直穂と再会できるまで、私は全力で行宗をサポートさせてもらうよ!」
和奈は叫んで、ドンと、
俺の背中を強めに叩いた。
正直、痛い。
「けっこう痛かったぞ、和奈」
「ふっ、これくらいで泣き言を吐いてちゃだめだよ。
クラスメイトを救出して、ガロン王国の戦争を止めて、直穂を必ず助け出すんでしょ?
もっともっと強くならないとね」
「……まぁ、そりゃそうだけど」
「ほーら、先に小屋に入ってて。明日の出発も遅くはないんでしょ? 今のうちに寝ておかないと」
「うん。和奈は、入らないのか?」
俺は、自分からは動かない様子の和奈に問いかけた。
「私は、ちょっとオナってから行くから、ってもー、言わせんなってホラ、玄関にはいったはいった」
無理やり作ったような満面の笑みで、小屋の中に押し込もうとする浅尾和奈に。
途端に俺は、部屋に飛び込み、ベッドにダイブし、布団をかぶるのだった。
横になる。
一気にあたりが静かになって、
虫の鳴く声しか、聞こえてこないのどかな夜。
「……うっ……ぁあっ……うぅぅっ……」
そのはずだったが、玄関の向こうからは、浅尾和奈のすすり泣く声がした。
何に泣いているのだろうか? 慰めにいったほうがいいだろうか?
様々な思考が、頭の中で生まれては消えて、頭の中が浅尾和奈だらけになっていった。
寝られそうで寝られない。股間の張りも収まらないなかで、
外の和奈の泣き声は、しだいに静かになっていった。
ガラガラガラと玄関の扉を開けて、すたすたと裸足で床を歩く、和奈の気配。
「結局、下の段で寝たんだ……」
和奈が、俺の方を見て呟いたのだろう。
俺は目を瞑って寝たフリをしているので、よく分からない。
和奈は、はしごに足をかけて、ベッドの上段に登っていくようだった。
しかし、真ん中あたりで、音は下の方向へと引き返した。
浅尾和奈が、もぞもぞと、俺の布団の右側。ベッドの下段へと侵入してきた。
「……身体を見せてる私だけが恥ずかしいんだって思ってたけど、シてる行宗も充分恥ずかしかったんだなって。
自分でシてみて、よく分かったよ」
独り言のように、俺に語りかけてくる。
和奈は俺が寝ていると勘違いしているのだろうが。
これは、聴いて良い内容なのか?
「村を守らなくちゃいけないとか、クラスメイトを守らなくちゃいけないっていうプレッシャーのなかで、恥ずかしさを捨ててオナニーするなんて、簡単なことじゃないよ。
最初のボス戦なんて、クラスメイトいるど真ん中で、堂々とパンツに手を突っ込んで。
ふふ、カッコいい。めちゃくちゃカッコいいよ、行宗……」
和奈らしくない、慈しむような口調とともに、俺は頭をゆっくりと撫でられた。
「この世界でそばに居てくれたのが、
こんなにかわいい顔しちゃってさ、すごく頼りになるんだもん。そりゃ
あぁ、だめだ、聴いていてすごくむず痒くなる。
嬉し恥ずかし、しかし、これは……
これ以上を聴くのは、よくない気が、している。
「これから、
大好きな彼女が居なくなって、クラスメイトたちに煙たがられて、尊敬していた誠也さんも無くなって。
苦しいことが多い行宗だけど、彼は絶対に諦めないし、転んでもめげずに立ち上がるから。
どうか行宗に、幸せな未来を、授けてください」
和奈が、真剣な声で祈るのを聞いて。
俺は泣きそうなほど震えていた。
「おやすみ。良い夢が見れるといいね」
和奈は最後にそう残して。
布団の隣で、寝息をかきはじめてしまった。
★★★
その夜。寝息した俺が見た夢は、世にもいやらしい夢だった。
放課後の学校の廊下を、二人で並んで、服を脱ぎながら歩く夢だった。
いやらしい展開も、クライマックスになって、いよいよ波動砲発射という時に。
「行宗おきて、寝すぎ」
そう言って、夢から現実に叩き起こされた。
明るい朝だ。年季の入った木の匂い。
浅尾和奈が、呆れた顔で俺を見ていた。
「……早く出ないと、船の出発時間に間に合わないんじゃないの?
ご飯は用意して貰ったから、一緒に食べよ」
そこには、昨日の恥ずかしさや艷やかさの欠片もない、浅尾和奈がいた。
「あ、れ?」
どこまでが夢で、どこまでが現実か?
俺は一瞬混乱した。
だが、寝に入ったとき俺はベッドの手前側だったが、和奈に起こされたときは奥側だった。
それはやはり、いや、一人で寝返りをうった可能性も。
「なぁ和奈?」
「ん?」
「いや、なんでもない」
いまさら聞ける訳がなかった。
夜の記憶は曖昧だった。
和奈と行為に及んだのは、きっと間違いなく夢だろうけど。
あのオナニーは、
きっと真実は、