レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第14話

 僕にとって数少ない友達の誕生日を祝えた喜びと、レオナお姉ちゃんの誕生日を直接祝えないことが発覚し、寂しさも同時に感じながら僕は手紙を読み返す。

 そこにはお姉ちゃんの謝罪の言葉が記されていた。

 

「(誕生日の日まで帰れずお仕事なんて大変だなあ……)」

 

 それでも僕のために一生懸命書いたのだろう文章を読み返してみると、嬉しくなる自分がいることに気が付いた。

 早く帰ってきてほしいけど、無理をしてほしくないという矛盾した気持ちを抱えながらも、僕はレオナお姉ちゃんに向けて手紙を書き始めた。

 もちろん、届け先なんか分からないから送ることは出来ないけど、帰って来た時に渡せばきっと喜んでくれるはずだと信じたい。

 

「(お姉ちゃんは仕事熱心だから、頑張りすぎないように注意してね……っと)」

 

 そう思いつつ筆を走らせていると、不意に背後から声をかけられた。

 

「おやまあ、ずいぶんと嬉しそうじゃないかい?」

 

 誰よりも聞き慣れた、優しいその声。

 振り向けば予想通りの人物が立っていた。

 

「あ、院長先生。すみません、うるさかったですか?」

 

 慌てて謝るも、先生は首を横に振って否定したので、ひとまず安心する。

 

「リエトの様子を見に来たのだけれど……レオナが帰省出来なくて寂しそうにしていたからね」

 

 図星を突かれてしまったために思わず黙り込むと、僕の反応を見て察したらしい先生が続けた。

 

「それだけに、嬉しそうな表情で何かを書いていたから声をかけそびれちゃったのよ」

 

 恥ずかしいところを見られてしまったと思い、俯く僕の頭を優しく撫でる手つきはとても心地が良いものだった。

 

「折角だからレオナお姉ちゃんにも手紙を書いてみようと思って」

 

 恥ずかしさを押し殺しながら答えると、院長先生は納得したように頷いた。

 

「それは良いことじゃないか。時には言葉ではなく文字にして想いを伝えることも大切だからね」

「えへへ……おかげで文通することが好きになりました」

 

 嬉しそうに笑いながら伝えると、先生もまた微笑みながら頷き返してくれた。

 

「そうね、それも大切なことよ。それでは私は夜回りに戻るけれど、あまり遅くならないようにね」

「はい、おやすみなさい、院長先生」

 

 去っていく後ろ姿を見送りつつ、再び机へと向かい、僕はまた再びペンを走らせるのだった。

 次にレオナお姉ちゃんと会える時を楽しみにしながら、僕は手紙を書き続けたのだ。

 ……この時の僕はまだ何も知らなかったのだ。

 空の上で行われている争いに、一つの終止符が打たれる日が近づいていることを。

 

 ◇◇◇◇

 ──それから時は流れ。

 清々しい太陽の光と、暖かな風を受けながら僕とキリエは、空き地となっている場所にある草むらの上に寝転んでいた。

 空は雲一つない快晴で、絶好の飛行日和だというのに僕達は動こうとしない。

 いや、動く気になれないと言った方が正しいかもしれない。

 

「ねえ、リエト~いつまでこうしてるつもり~?」

 

 隣を見ると僕の顔を覗き込みながら話しかけてくる友達の姿が見えた。

 その表情からは不満げな様子がうかがえるものの、どことなく楽しそうに見える。

 かくいう僕も気持ちは同じなので敢えて指摘することはしなかった。

 

「んー? あとちょっとだけー」

「それ、さっきからずっと言ってるじゃんか!」

「だって暖かいんだもん~。ほら、キリエもどうぞ」

 

 そう言いながら両手を広げてウェルカム状態の体勢を取ると、彼女も観念したのか隣に寝そべってきた。

 

「はあ……仕方ないなぁ~」

 

 どこか諦めを含んだ声色だが、表情が緩みきっているのが分かるので満更でもない様子だ。

 時折吹く風が心地よく、寝返りを打つと草花の良い香りが鼻腔をくすぐるのを感じた。

 

「あ、これキリエの匂いだ」

「え、嘘! 臭い!?」

 

 咄嗟に飛び起きるキリエ。

 しかし僕は首を横に振ると、彼女の匂いについて語り出した。

 

「いや、キリエっていっつも心地良い匂いがするんだよね。何か特別なことをしてるの?」

「別に何もしてないけど……石鹸の香りかなぁ」

 

 言いながら自分の腕の匂いを嗅ぐ彼女だったが、特にピンと来ないのか首を傾げている。

 そんな姿を見ていたら自然と口元が緩んでしまうのが分かった。

 すると彼女は頬を膨らませながらこちらを睨みつけてきた。

 

「あー! 今笑ったでしょ!」

 

 どうやら表情に出ていたらしい。こういう所は相変わらず鋭いなと思う。

 ここは素直に謝っておこうと思い、正直に告げることにした。

 

「ごめんね。悪気があったわけじゃないんだ」

 

 両手を合わせて頭を下げる僕に、溜息をつくキリエ。

 そして呆れ顔のまま言葉を続ける。

 

「まったくもう……あたしだから許すけど他の人にはやっちゃダメだからね? 普通ならすっごい怒られるんだから!」

「はーい」

 

 生返事で返事をするとまたも溜息を吐く彼女だった。

 そんなやりとりを交わしつつも僕らは空を見上げていた。

 青空の中を気持ちよさそうに泳ぐアホウドリの姿が目に入る。

 

 平和だなぁと思いつつ過ごしていると、一枚の花びらが紛れ込んで来たことに気付く。

 淡い桃色をしたそれに見惚れていると、不意にキリエの顔が僕に近づいてきた。

 

「へぇ~綺麗な花びらだね。何の花だろ?」

「これは確か……お屋敷にある樹木から咲いている花だよ」

 

 僕が答えると彼女は興味深そうな表情を見せた後で、こんな提案をするのだった。

 

「そうだ! これから一緒に見に行こうよ!」

 

 言うが早いかキリエは立ち上がり駆け出そうとするのだが、すぐに足を止めてしまう。

 どうしたのかと問いかける前に、彼女は振り返るとこう言った。

 

「ほら、早く! 置いてくよ~!」

 

 笑顔で呼びかけてくる友達の姿に思わず笑みを零す僕であった。

 

 ◇◇◇◇

 配達で散々ラハマの街中を走り回っているおかげか、それとも花びらが僕らを導いてくれているのか、気が付けば目的地であるお屋敷の前に辿り着いていた。

 

「すごい……」

 

 隣で呟くキリエの言葉に釣られて視線を前に向けると、そこは幻想的な空間になっていた。

 白に近い薄紅色の花吹雪を纏いながら咲き誇る樹木の姿を目の当たりにした僕は、その光景にただただ魅入るしかなかった。

 そんな中、視界の端に何やら動くものを発見した僕は、そちらへ視線を向ける。

 

「ってキリエ! 何やってるのさ!」

 先程まで隣に居たはずの友達が、気が付けばお屋敷の庭へと侵入し、樹木をよじ登り始めていたのだ。

 突然の奇行に驚いた僕は慌ててキリエに声をかけるも、目の前にある美しさに夢中で聞こえていないのか反応が無い。

 

「(ど、どうしよう……)」

 

 このまま放っておくわけにもいかないし、かといって無理やり連れ戻すこともできない状況だ。

 そもそも何故こんなことになっているのかも分からないため、迂闊に手を出せない状況に困惑するばかりである。

 

 そんな時だった。

 今まで聞いたことのない少女の怒鳴り声のようなものが聞こえてきたのは。

 

「泥棒ーっ!!」

 

 突然聞こえた叫び声に驚きながらも振り向くと、そこには一人の少女がキリエの方へ走ってくるのが見えた。

 肩より少し下くらいの長さでふわっとした髪を持ち、前髪を切り揃えている可愛らしい女の子。

 着ている服からもお嬢様なのだろうということは何となく分かったものの、少女が怒りの形相を浮かべながら樹木によじ登っているキリエに詰め寄る。

 

「ち、違うよ! あたしはただ花びらがきれいだから拾ってただけで……ってうわっ!」

 

 キリエは必死に弁解しようと試みるも、圧倒されたのかバランスを崩して落下しそうになる。

 考える暇もなく僕は急いで駆け出し、彼女を受け止めることに成功した。

 

「わっ……! 大丈夫? キリエ?」

 

 僕の腕の中で呆然としているキリエに声をかけたものの反応は無い。

 ざっと見たところ、怪我とかはしていないようで一安心といったところだろうか。

 

「ごめんなさい、驚かせてしまって……」

 

 背後から声がして恐る恐る後ろを振り向くと、先程の少女が立っていた。

 僕らと同じぐらいの年頃だろうか。

 その少女は不安そうな表情を浮かべながら見つめており、悪いのはこちらなのに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 まずは謝らないといけないと思い、キリエを正気に戻すために頬を叩いた後、僕たちは勢いよく頭を下げた。

 

『すみませんでした!!』

 

 そのまましばらく頭を下げ続ける僕だったが、一向に返事が返ってこないことに疑問を抱く。

 どうしたのだろうかと思い顔を上げると、目の前には困惑した様子で立ち尽くしている少女の姿があった。

 

「あ、あの……ひとまず頭を上げてくださいませんか……?」

 

 僕たちは少女の言葉を聞き、ゆっくりと姿勢を元に戻した。

 それからお互い自己紹介を行った後に改めて事情を説明することになった。

 

「まあ、そういう理由だったのですね。でしたらお茶を用意致しますので、どうぞこちらへいらしてください」

「……いいの?」

「はい、もちろんです」

 

 そう言って微笑む彼女に促される形で、屋敷の玄関先に置かれていたテーブルへ案内をされた僕たちであった。

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