レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第18話

 オーシャン・サンフィッシュホテルで行われていた会議が終わりを告げようとしていた。

 この度の戦いは、アレシマを中心とした連合軍となり、イケスカ、ショウト、ポロッカ、複数の集落と雇われ用心棒が共同戦線を組むことになっている。

 

 私たちの雇い主であるアレシマと、イケスカを中心とした部隊が、アレシマより東南東に位置する『ゴロク』の街を。

 ショウト、ポロッカを中心とした部隊が、南南東に位置する『リワマチ』の街をそれぞれ解放することになった。

 

 たった一つの街に対して、連合軍が結成するほどの大人数を送り込むことになったのは、やはりリノウチが誇る騎士団の存在が大きいだろう。

 

紅鷲(べにわし)』率いる『赤鷲(あかわし)騎士団』

蒼鷲(そうたか)』率いる『青鷲(あおたか)騎士団』

金隼(こんしゅん)』率いる『黄隼(こうしゅん)騎士団』

碧燕(へきえん)』率いる『緑燕(りょくえん)騎士団』

 

 以上の四大騎士団が二手に分かれ、解放すべき街を防衛する役目を担っているのは、情報共有時に聞かされていた。

 

「分かっちゃいたが、リノウチの騎士団が相手になるんだな」

「あら、珍しく弱気なのね~。ヒガコ」

「飛行機乗りをしてれば誰だって一度は聞く名だからな。嫌でも覚えるってもんだ」

 

 ムサコの問いかけに答えるヒガコの声は、どこか緊張していた。

 彼女が言う通り、私もその名前は人伝で聞いたことがある。

 

 かつて、イジツ全土で猛威を振るった空賊の大半を壊滅に追い込んだのが、その名を持つ者達だったとされている。

 彼らは私達のような用心棒とは違い、必要時以外はリノウチから現れない為、あまり情報は出回っていない。

 その存在自体が抑止力にもなっているため、リノウチは空賊と無縁だったとも言えるだろう。

 

 しかし、そんな彼らは戦う道を選んだ。

 自ら望んで飛び立ち、自らの意思で空を舞っていたのだろう。

 

 ──何のために?

 それが、彼らの望んだ道だったのだろうか?

 それとも……。

 

「眉間にシワが寄っとるぞ。また考え事か?」

「ナカミズ……」

「出撃はもうすぐじゃけぇ、今はリラックスしときゃあ」

 

 そう言ってナカミズは私の眉間をグリグリと押してくる。

 痛くはないがくすぐったいので止めてほしいところだ。

 

「こっちだって『アレシマ市立飛行警備隊』にイケスカの『天上の奇術師』まで加わって、これ以上にゃーほど万全な状態だっていうのに、今から気を張りすぎてもしょうがにゃーだろ?」

 

 ナカミズはそう言いながら、私を見てニヤニヤと笑っている。

 どうやら私の不安を感じ取っているようだ。

 普段は面倒くさがりな性格なのだが、こういうときだけ察しがいい奴だ。

 

「いやなに、私たちみたいな新米用心棒が、彼らと肩を並べて戦えるのかなと思ってね」

「なんだ、そんなことを気にしとったのか。それなら心配無用だがや。所詮うちらは数増やし要員でしかのう、要となるのは警備隊の連中やし、イケスカの連中とてベテラン中のベテランで、わしらが心配する程ではにゃー」

「いや、それはそうなんだが……」

「それよりもうちが心配なのは、情報共有時に出てこなんだもう一つの騎士団についてだがや」

「もう一つの騎士団? リノウチの騎士団は四つじゃないのか?」

 

 そう問い返す私に、ナカミズは首を横に振る。

 

「ええや、もう一つ存在する。それこそが問題なんじゃわ」

 

 彼女はそう言うと腕組みをしながら真剣な表情をしていた。

 私も自然と身構えてしまう。

 

「リノウチの絶対守護者とも呼べる存在であり、あらゆる戦場をたった六機で駆け抜ける騎士団が存在するんじゃわ」

 

 気が付けば、ムサコもヒガコも彼女の言葉に耳を傾けている。

 

「あの騎士団がおる限り、例えどんな場所であっても、必ず勝利を得ることができ、絶対に敗北はせんとまで言われとる」

「だけどよ、六機編成なんだろ? 飛行機に乗る限り燃料も弾薬も限りがある。いくらなんでも無敗なんてありえないんじゃないか?」

 

 ヒガコの言うことももっともだ。

 いくら最強の騎士団だとしても、無尽蔵に弾が続くわけではないはずだ。

 全戦全勝など、あり得るはずもないのだ。

 

「……まっ、ヒガコの言うとおりだにゃー。真相は今考えても無駄やし、何より相手をするのは正規部隊やし、うちらみてゃーな用心棒じゃにゃーで」

「だな。私たちは今出来ることをやるだけだ」

 

 ナカミズの言葉に頷きながら私は時計を見る。

 そろそろ準備をする時間のようだ。

 

「もう出発かにゃー、ほいじゃお仕事に行くとしやーすかねー」

 

 椅子から立ち上がり伸びをしているナカミズに続いて、私も立ち上がる。

 ムサコとヒガコも同じようにして、いつでも動ける体制になっていた。

 それを見たナカミズは号令を出すことにした。

 

「さて、そんじゃあ今日も元気にいくどー!」

『了解!』

 

 四人の声が重なり合うと同時に各自持ち場へと急ぐのだった。

 

 ◇◇◇◇

 ──ゴロク近郊。上空にて。

 

 私たちはいつもどおり編隊を組み、敵影が無いか確認しながら索敵を行っていた。

 普段は経験することのない程の味方機の数、そして機体の性能差に少し困惑してしまうけれど、それはそれ、いつもと同じようにやるしかない。

 必要最低限の会話以外、誰も口を開くことなく、各々が自分の仕事をこなしていく。

 

 そして、後方に位置するアレシマの飛行船から無線が入った。

 

『<本船より一時の方向に不明機を複数レーダーで捕捉。高速でそちらに接近中。大型船の反応なし。先行部隊は直ちに戦闘態勢に移行せよ>』

 

 その指示に、皆は主翼を振り確認の合図を送る。

 

『<これより本船は戦闘配置に移行。迎撃に入る。各機は不明機を視認次第、行動を開始せよ>』

 

 それを聞き終えると同時に全員が機首を翻した。

 同時に、先頭に位置する味方機から無線が入り、不明機の情報が入ってくる。

 

『<不明機を視認で確認。クソッ、初手から『紅鷲』と『蒼鷲』の連合部隊かよ!>』

『<出揃う前とはいえ、この数相手に叩くつもりか! ふざけやがって!>』

 

 私たちの位置する場所からでも、こちらに迫りくる敵機の姿が映し出される。

 現状の数だけで言えばこちらが六、相手が四ともいえる割合であり、飛行船から迎撃機が発進されれば、こちらは更に数で上回る。

 

 ……なのだが、敵は怯む事なく速度を上げこちらに向かってくる。

 

『≪見てみろよ、あの数。俺たちの歓迎会を開いてくれるらしいな≫』

『≪こちらはそれほど暇じゃないんだがね≫』

『≪同感だ。さっさと墜として帰ろうじゃないか、青いの≫』

『≪そうだな……私たちの邪魔をしたことを後悔させてやろう、赤いの≫』

 

 大量の機体が空を舞うせいなのか、敵機の無線まで混合しているようだった。

 私は操縦桿を握る手に力が入るのを感じた。

 

「(大丈夫……大丈夫だ……)」

 

 決して時間が合ったとはいえないが、私は私なりに自分の中にある『一心不乱』を抑え込めるように努力してきたつもりだ。

 リエトの夢の為に、私自身の夢の為に、私が皆と飛ぶためにやってきたことだ。

 

 だから恐れるな、臆するな、震えるな。

 ただ目標を見失わないことだけを考えろ。

 私の周囲に居る仲間を……信じろ!!

 

『味方部隊、交戦開始!』

 

 飛行船から聞こえた無線を合図に、私たちも一斉に動き出す。

 

 ◇◇◇◇

 リノウチに辿り着く前の前哨戦。

 四大騎士団のうち、二つの騎士団が防衛にあたる『ゴロク』の街。

 例えイジツに名が知れ渡っていようとも、連合軍を相手取るには分が悪いと、誰しもがそう思っていた。

 

 しかし、現実は違った。

 

『<敵の攻撃は苛烈!既に二割近くが撃墜されている模様!>』

『<援軍は!? 増援はまだか! このままだと押し切られるぞ!>』

 

 怒号のような報告が次々と無線機から聞こえてくる中、私たちは『青鷲騎士団』が率いる一団と交戦していた。

 彼ら『青鷲騎士団』が操る紫電は、こちらの半分にも満たない数で圧倒していく。

 しかも相手は統率が取れており、まるで一つの生き物のように動いているかのように見えるほどだ。

 

 翼下に存在するガンポッドから僅かに放たれる九九式二十ミリ機銃の曳光弾が降り注ぐたびに、味方の機体が火を噴く。

 被弾した機体は炎を上げて煙を吐きながら落ちていく中、彼らは次の獲物を探し出し、急降下。

 銃弾を放ちながら逃げ惑う獲物たちを追い回す。

 

 それはまさしく猛禽類の様に獰猛でいながら、それでいて洗練された動きであった。

 

『≪減らせるだけ減らせ。撃墜数を誇るな。奴らを撃ち落とすことを優先しろ≫』

『≪了解≫』

 

 相手の隊長らしき人物の声が聞こえた。

 彼の命令通り、敵は数を減らそうと躍起になっているのがわかる。

 だが……それはこちらも同じだ!

 

「ナカミズ!!」

『任されたにゃ!』

 

 私の掛け声と共にナカミズは、私たちよりも上に飛び上がり、敵機を引きつけ始めた。

 引きつけるといっても、完全に後ろを取らせるようなことはしない。

 相手の照準を絞らせず、ナカミズを援護するように私は動き始める。

 

「ムサコ! ヒガコ!」

『わかってますよっと』

『はいは~い』

 

 二人はナカミズを追っていた敵機に狙いを定め、銃撃を開始した。

 彼女に気を取られていたせいで回避行動を取れなかった一機は、直撃を受け落下していく。

 しかし、残り一機はそれに目もくれず、ナカミズに向かって攻撃を加え続けていた。

 

『しつこい男は嫌われるぞー?』

 

 彼女はそう言って意図的に失速状態を起こす。

 突然のことで敵機はナカミズを追い越す形となったところで……。

 

『もらったにゃー!』

 

 すれ違いざまにナカミズは引き金を引く。

 放たれた弾丸が主翼に命中して黒煙があがり、風防からパイロットが飛び降りるのが見えた。

 

『色無しでこの強さかよ。末恐ろしいぜ』

 

 ムサコはそう言いながらもしっかりと敵を仕留めているあたり、流石だ。

 

『ふっふっふー。そんなことよりも、うちはレオナが人に頼ってくれた事が嬉しいがね』

『そうね~。少し前までは、全て私が撃ち落とす! って張り切ってたのにね~』

 

 二人の言葉に思わず顔が赤くなる。

 確かに以前の私なら過剰な自身を持ち、自分の力だけで敵を落とそうとしていたが、今は違う。

 仲間を信じ、頼ることを覚えたのだ。

 

 私が口を開こうとしたその時、混線する無線からこちらに語り掛けてくる声が聞こえた。

 

『≪失礼するよ、お嬢さん方≫』

 

 その声は『蒼鷲』と呼ばれた人物のものと同じだった。

 突然の出来事に私達は警戒を強める。

 

『≪そう構えないでくれ……とは、無理な話か≫』

 

 その言葉の後に、『蒼鷲』は続ける。

 

『≪九七式に零戦……一一型か? 珍しい機体を見せてくれるな≫』

『うちのレアモンだでな。その目で見れて運が良かったじゃにゃーか』

 

 ナカミズは相手に怯むことなく、いつもの調子で軽口を叩く。

 そんな彼女の言葉を聞いて、相手は少し笑いながら返答する。

 

『≪ふふ……そうだな。その機体を見ることが出来たことを団長に報告出来れば、面白い顔が見られそうだ≫』

『団長? おみゃーだって『青鷲騎士団』の団長を務めとるんだろ?』

『≪……これは失礼した。少しばかりお喋りすぎたようだ。さて、ここいらで終わりにしようじゃないか≫』

『あ、おい! まだ話は終わって……』

 

 ナカミズは何か言いかけたようだが、『蒼鷲』からの無線は途絶えた。

 そして……私たちに向かって色付きの戦闘機が向かってくる。

 

『こりゃ本格的にまずいな。どうする?』

『そんなもん決まっとるわ。うちらでは逆立ちしても敵わん。残っとる味方機の群れに逃げ込んで数で押し返すしかなか!』

「了解した! なら私が殿を……」

『それはうちがする。九七式に比べればうちの方が身軽やけん』

『それじゃナカミズが!?』

『問題にゃー! 行くぞっ!』

 

 その声と同時、私は撤退を開始する。

 後方から迫る敵機の重圧に押し潰されそうになるが、それでも私は前へと進む足を止めない。

 

「早く……早くっ!」

 

 味方機が集結している方向へひたすら飛び進める。

 背後から聞こえる銃声が響く中、爆発音が聞こえ、私は思わず叫んでしまう。

 

「ナカミズ!?」

 

 咄嗟に振り返り、私の瞳に映ったものは、『青鷲騎士団』の機体から煙があがっている姿だった。

 

『<傭兵部隊、よくぞ時間を稼いでくれました。あとは我々、『アレシマ市立飛行警備隊』にお任せください>』

 

 凛々しい女性の声が無線機から聞こえた直後、今まで以上に激しい銃声が鳴り響き、『青鷲騎士団』と『アレシマ市立飛行警備隊』の機体が、次々と落とされていく光景が目に入った。

 その様子はまるで戦場という舞台に立つ役者達を鑑賞しているようだった。

 

『≪……本体が合流したか。ならば今頃、『紅鷲』も奴らと交戦している頃だな≫』

『<ええ、イケスカの部隊が『赤鷲騎士団』と交戦に入ったとの情報が入っています>』

 

 通信機越しから聞こえた女性の声の主は、落ち着いた様子で応答をする。

『蒼鷲』が伝えた内容に納得がいったのか、返事をする。

 

『≪なるほど……それまでに先行部隊を壊滅しておきたかったが……我々の賭けは失敗に終わってしまったというわけか≫』

『≪仕方がありません。元々が無茶な作戦ですから≫』

『≪それもそうだな……もはやこれ以上の長居は無用だ。副長、予定どおり生き残りを連れて撤退しろ≫』

『≪……了解しました≫』

 

 会話が終わり、『蒼鷲』以外の機体は撤退を始める。

 

『<あら、貴方は行かないのかしら?>』

『≪すまないが、私も『紅鷲』の奴も、名を継いだ矜持があるんでね……。だからここに残ることにするよ≫』

『<そう、手加減は出来ないわよ?>』

『≪望むところだ≫』

 

 そう言い残した後、二機は一騎打ちを始めた。

 私はその光景を見ながら、イジツに生きる人間たちが持つ意地を見た気がした。

 

「(何故そこまでして……)」

 

 そう思いながらも、彼らの考えを否定できない自分がいることにも気付く。

 なぜなら私もまた、空に魅入られた人間だからである。

 そんな彼らは今、互いに命を賭けながら戦っていた。

 

 彼らはただ純粋に空を飛んでいたいだけなのか。

 いや、あれはそんな綺麗なものではないのかもしれない。

 彼らにとってこの空は、自身の人生を賭けたものなのだろう。

 

 たとえその戦いの末に墜ちたとしても悔いはないほどに。

 だからこそ彼らは戦うのだろう。

 生き残るために、勝つために。

 

 それが彼らのプライドなのだから。

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