『ゴロク』解放の声が、無線を通じて聞こえてくる。
歓喜の声が木霊し、空が人の声で響いていた。
解放戦は終了し、赤とんぼによる救助活動が続く中、私たちは誘導の元、『ゴロク』へ降り立った。
大地を踏みしめると不思議と安心感を覚える。
それと同時に、全身から疲労感が溢れ出てくるのを感じる。
「疲れたにゃー……」
私の隣でナカミズが座り込むと脱力したように言葉を漏らす。
「流石に今日はもう勘弁して欲しいな」
「ヒガコも疲れちゃった~」
「同感だ」
同じく私の隣にいるヒガコとムサコも同じ意見らしい。
三人で話をしていると、一人の女性がこちらへ歩いてくるのが見えた。
彼女は私達の前で立ち止まると話しかけてきた。
「傭兵部隊、お疲れ様でした。差し入れです。どうぞ」
そう言って彼女は、私たちバスケットを差し出す。
私が受け取り中身を確認すると、どうやらサンドイッチのようだ。
鼻をくすぐる香りが忘れかけていた食欲を刺激する。
私たちはお礼を伝えると、それを早速口に運ぶ。
優しい味わいが口いっぱいに広がる。
美味しい……。
素直にそう思った。
「口に合うかしら?」
そう言いながら、彼女は私たちに微笑み掛ける。
私たちは首を縦に振り応えると、彼女は安心したように胸をなでおろしていた。
だが、ナカミズは疑問を口にする。
「珍しいだがね。正規部隊の人間が用心棒に差し入れなんてよ。普通はしないじゃろ?」
その言葉には私を含めた他の三人も同意していた。
確かにそうだ。
通常なら考えられないことである。
すると、彼女は微笑みながら答えた。
「ふふっ、あなた達には空での恩がありますからね。特別ですよ?」
「あの時の……?」
思わず聞き返す私に対して、彼女は頷いた。
じっと彼女を見つめていたナカミズは、何かに気が付いたようで彼女に尋ねる。
「おみゃーさん、もしかしてうちを助けてくれたねーちゃんか? あの時は助かったわ! ありがとな!」
突然のナカミズからの感謝の言葉に、彼女は驚きつつも笑顔で答える。
「こちらこそ助かりました。あの時は急いでいてちゃんとお礼を言えなくてごめんなさい」
二人の会話が気になったのか、近くにいたヒガコ達も話に加わってきた。
「結局、あの後はどうなったんだ?」
「『蒼鷲』のことでしたら撃ち落とすことに成功しました。……ただし『警備隊』総出でね。『赤鷲』もリノウチのエースパイロットが仕事をこなしたみたいです」
「流石ですね」
「いえ、今回は運が良かっただけです。あのまま一対一で戦い続けていれば墜とされていたのは私の方でしょう」
私の言葉に首を横に振る彼女。
謙遜をしているわけではなく、事実として受け止めているのだろう。
あの時の戦いを振り返ってみても思う。
彼女たちが現れなかったら私たちは確実に『青鷲』に撃墜されていた。
……考えただけでも恐ろしい。
「彼らの強さは上層部の想像以上でした。こちらの損失も相当なものです」
「そんなに……ですか」
彼女の言葉に、私は首を傾げる。
あまりピンと来ないのは、自分たちの事で手が一杯で、他所で行われていた戦いを直接目にしていないからだ。
「別方面の連合軍が『リワマチ』の解放に成功しましたが……そちらで予想外の出来事が発生したそうです」
「……と、言いますと?」
私が尋ねると、少し間をおいて彼女が話し始めた。
「……こちらでも情報が錯綜していてはっきりしませんが、五つ目の『騎士団』が現れたようです」
「それって~ナカミズが言ってた騎士団のことかしら~?」
「何かご存じなのでしょうか!?」
ヒガコが反応すると、彼女は食いつくように問いかける。
少しばかり気まずそうにナカミズが呟く。
「……おとぎ話の類でのう、本当に実在したんだなあ思っとったのさ」
彼女の言葉を聞き、私たちきょとんとした顔をするが、ナカミズはすぐに訂正を入れる。
「いや、すまんね。その騎士団が搭乗する機体、尾翼に花びらみてゃーなマークが入っとる奴がおらんかったか?」
「……報告に挙がっています。その機体に連合軍の精鋭部隊が壊滅させられたと」
ナカミズの発言に心当たりがあったらしく、険しい表情で口を開く女性。
そしてそのまま話を続ける。
「現在、『リワマチ』から撤退を決めた騎士団が、母艦である飛行船を護衛しながら『リノウチ』に向かっているようです」
「へぇ……あっちの連合軍は、町の解放もソコソコに仇討ちってところかにゃー」
ナカミズがそう返すと、女性は頷く。
「おそらくはそうでしょう。ポロッカ隊からは敵飛行船の追撃を行う連絡が届いており、こちら側が制止する間もなく出撃しています」
「ポロッカは血の気が多いからにゃぁ……」
ナカミズが困ったように呟くと、私もまたそれに賛同する。
「しかし、そうなるとこちらの出撃時間にも影響が出てくるのでは?」
「ええ、そのとおりです。このまま彼らが追撃を行い続ければ、連合軍の『リノウチ』合流にズレが生じます。場合によっては間に合わないかもしれません」
私の疑問に対し、彼女も頷いて答えてくれた。
つまり、ここで時間をロスすれば我々が彼等との合流に、間に合わなくなる可能性があるということだ。
最悪の事態を避けるためには、一刻も早く戦場に向かう必要があるだろう。
彼女も姿勢を正し、真剣な面持ちで続ける。
「有益な情報、感謝致します。事の次第では早朝の出撃が夜明け前に変更になる可能性もありますので、ご承知おきください」
彼女は私たち敬礼をするとその場を後にする。
偉いさんに報告や、仲間の指示や、作戦の変更等があるのだろう。
「大変なんだな……軍人というのは」
去っていく彼女を見送りながら私は呟く。
「軍人というよりも、あの人がやり手なんだ思うに。女性ながらアレシマの第一部隊隊長を務めるほどだでな」
ナカミズの言う通りなのだろう。
『ゴロク』の町を解放するまでに至ったのだ。
並大抵の腕ではないに違いない。
そういえば自己紹介をするのを忘れてしまったな……今度会ったら教えてもらおう。
「さてさて、うちらは明日の為にも機体整備を始めるかね。専属の整備士がいにゃーのは大変だなぁー。うち、丁度ええ子を知っとるんだけどなー」
そう言ってわざとらしくこちらを見るナカミズと、それを見ながら笑うムサコとヒガコ。
「それなら知ってるぜ。まだ幼いが豊富な知識はアレンが保証済み。経験を積ませれば一気に伸びる、誰かさんに良く似て律儀な奴だって。なぁヒガコ?」
「うんうん。居てくれたらヒガコ思いっきり可愛がっちゃうな~!」
ニヤニヤと笑いながら私に視線を向ける二人。
完全にからかわれていることは、私でも理解できる。
「お前たちなぁ……」
溜息交じりに応える私を見て、三人は笑っていた。
まったく……調子の良い奴らだ。
だが、悪い気はしない。
きっと、これが私たちらしい会話というやつなんだろう。
「明日が本番なんだから、早く終わらせるぞ!」
私がそういうと皆一様に頷き、作業を開始するのだった。