レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第20話

『リノウチ』への出撃時間は、急遽変更されることになった。

 

 本来であれば日の出と共に偵察部隊が出撃し、周辺空域の調査が行われる予定だったのだが、ポロッカ隊が敵飛行船の追撃停止要請を振り切り、そのまま進撃を開始しているらしい。

 このままではこちらの部隊が合流する前に、『リノウチ』上空で戦闘が始まってしまう恐れがあり、それは避けたいというのが上の判断だった。

 そのため偵察部隊の出撃を中止し、夜明け前に全部隊が出撃。

 

 最速で『リノウチ』へ向かうこととなったのだ。

 

「ここいら辺は風向きがすぐ変わるけん、離陸は早い方がええぞ」

 

 飛行前のチェックを行っている最中、ナカミズから声を掛けられる。

 彼女のいうとおり、今は東からの風がやや強いようだ。

 

「了解した」

 

 返事をすると同時に愛機の発動機を起動させ、プロペラの回転速度が上がる。

 上がれる者から順番に空へと舞い上がると、周囲を警戒しつつ編隊を組みなおす。

 四人全員が無事だと確認したところでゆっくりと前進を開始し、私たちは一路『リノウチ』へと向かう。

 

『<おやおや! アレシマの隊長さん! 機体を変えたんだね! 随分カッコよくなっているじゃないか!>』

 

 連絡事項の為に用意された共通周波数にのせて無線機越しから聞こえてきた陽気な声に、私は驚きを隠せなかった。

 

『<……相変わらずね、イケスカのエースさん>』

『<そりゃあもちろん、ボクはボクだからね! 昨日も撃っては墜として撃墜王さ!>』

 

 彼女の言葉に、自信満々といった声色で応える相手。

 その声はまるで子供のような幼さを感じる声であり、どこか無邪気で無垢な雰囲気を感じさせる声だった。

 この声の主こそ、イケスカ飛行隊所属のエースパイロット、『天上の奇術師』ことイサオ氏である。

 

 搭乗する五式戦を手足のよう自在に操り、その腕は超一流といっていいほどの腕前を持つ彼であるが、彼の真骨頂は操縦技術以上に天性のカンにあると言われているのを耳にしたことがある。

 

『今回は本隊も同時に出撃か。吉と出るか凶と出るか、見物だな』

『ムサコったら~もう!』

 

 彼女らの通信を聞きながら、私は今後の展開について考えていた。

 

『リノウチ』に向かえば、残りの騎士団との戦いは避けられないだろう。

 相手側から出撃する敵機の数も、前回より増えていることが予想される。

 騎士団だけではない。

 

 自分たちの街を守る為に、空を飛ぶ飛行機乗りたちも相手もすることになる。

 

「(負けられない戦いになる)」

 

 そう考えていると自然と操縦桿を握る手に力が入るのを感じた。

 

『<本船より上空にいる全ての味方機へ。夜が明ける。日差しに注意せよ>』

 

 無線を通して聞こえてくる飛行船の無線が私たちの耳に入る。

 時刻は朝方を迎えようとしている時間帯であり、これから太陽が昇り始めるところだ。

 

『<あと一時間もしないうちに『リノウチ』上空に到着予定だ。総員気を引き締めろ>』

 

 ここまで来る道中は特に何もなく順調であったが、ここから先は何が起きてもおかしくはない。

 いつどこで敵の襲撃があるか分からない以上、一瞬たりとも気が抜けない状況が続くことになるからだ。

 風に機体が揺られながらも目的地に向けて飛び続けていると、ふとナカミズから声が掛かる。

 

『レオナ、少しええか?』

「どうした、ナカミズ?」

 

 私が聞き返すと彼女は続けて話す。

 

『おみゃーは残されていた時間で最大限の努力をして、焦りや負い目を克服した。そして今がある……でもにゃー……』

 

 彼女が何を言おうとしているのか、私には分からなかった。

 

『……今の現状に不満はにゃーか?』

 

 ナカミズの質問に、すぐには答えられなかった。

 確かに彼女の言うとおり、残された時間を使って精一杯の努力を行った結果、今の自分がいることは理解しているつもりだ。

 けれど、心のどこかで不安が残っていることも、確かであった。

 

「どうだろうか……不満というよりも、まだ何か出来るんじゃないかという方が大きいかもしれないな」

 

 正直な気持ちをナカミズに伝えることにした。

 

『なるほどな……なら大丈夫そうだわ』

「どういうことだ?」

『ムサコ、ヒガコも聞いとけな』

 

 ナカミズの言葉に二人は相槌を打つように返事をした。

 一体何を話そうとしているのだろうか?

 するとナカミズはゆっくりと話し出す。

 

『レオナはな、そろそろ新しい段階に進むべきや思うんよ』

『どういう意味だよ、それ?』

 

 ムサコが質問を投げかけると、ナカミズは少し間を開けて答える。

 

『昨日の空戦で実感したやろ? 今のうちらには、ぜってゃーに勝とらん相手がおる』

 

 彼女は続ける。

 

『うちらだけやにゃー、他の飛行隊も同じ思いかもしれん。せやけど、そこで立ち止まっとぉーたら永遠に勝てへんままや。うちはそんな未来嫌やで』

 

 ナカミズの言葉は力強く、真っ直ぐで、心に響くものがあった。

 

『だもんでうちらは強ならないけんのんや、ちぎゃーな?』

『間違ってはいないと思うけど~なんでレオナなのかしら~?』

 

 疑問を抱くヒガコの言葉に対して、ナカミズはこう答えた。

 

『んなもん決まっとるやん。うちらが手を組んだ中で、最も諦めの悪い奴だで』

 

 そう言って笑う彼女に二人まで同意するように笑い出した。

 

「おまえらは……」

 

 思わず悪態をつく私だったが、不思議と嫌な気分はしなかった。

 笑いながらも謝罪をするナカミズが再び口を開く。

 

『すまんすまん。話を戻すとだな、今この場で一番伸び代があるんは、間違いなくおみゃーなんよ』

「だが、私よりも優秀な奴はたくさんいるぞ?」

『そんなの当たりみゃーや。うちがレオナに劣るわけ……って長なるで省略するがね』

 

 そこまで言うとナカミズは、一度言葉を区切ると再び話し始めた。

 

『とにかくだ! この戦いに生き残るため、もしもを準備しておかねばあかんちゅうことや!』

 

 ナカミズがそういうとムサコが呆れたように横から口を挟んでくる。

 

『んで、結論は?』

『レオナ、『一心不乱』を試してみんか?』

「…………」

『うちから変われ言われて、元に戻れ言われたら黙るしかのうなるわな』

「……理由を聞いてもいいか?」

 

 私は静かに聞いた。

 ナカミズからの提案だった為、何かしら理由があると思ったのだ。

 

『当時は勢いだけでやったようなものだけど、今だったらレオナの『技』になれる思たからな』

「私の『技』?」

『そう、今は昔と違って落ち着いて物事を見れるようになったさきゃー、改めて試す機会でもある思うんだわ』

 

 ナカミズは真剣な口調で言う。

 彼女の言葉を信じるならば、この提案には確かな意味があるはずだろう。

 しかし、なぜそれを今やろうと言うのかまでは理解できなかった。

 分からない。

 だから私は、ナカミズに対して()()()()()()()()ことにしたのだ。

 

「何故、今なんだ?」

 

 すると彼女は私に視線を送りながらその理由を語る。

『理由? そんなの簡単さ、それがうちらが生き残れる一番可能性のたきゃー方法や思うたんや。それに──』

「それに、何だ?」

『今までのおみゃーは全てが上手ういったわけじゃにゃーし、それどころか失敗したことの方が多いかもしれへん。それでもおみゃーはめげんでみゃーを向いて走り続けて来たさけぇ、ここまで来れた』

「…………」

『……だもんでよ、おみゃーが今まで積み重ねてきたものを、確かめる時が来た思うんよ』

 

 そう言うとナカミズは黙り込む。どうやら伝えたい事は終わったようだ。

 沈黙が流れる中、今度はムサコが話し始める。

 

『アタシも賛成かな。だって面白そうだからな!』

 

 面白いで片付けられる問題なのだろうかと思ったが、あえて口に出すことはしないでおいた。

 次に口を開いたのはヒガコである。

 

『ムサコが賛成ならヒガコもさんせ~い。それともう一ついいかな~?』

「なんだ?」

『空の上の出来事は恨みっこ無し~。たとえ『何かが』起こっても、その責任を背負いこむ必要はないってことは、忘れないでね~』

 

 それは暗に、覚悟はできていると言っているようだった。

 彼女たちも理解しているのだ。

 自分たちが戦いに身を投じている以上、命を落とす危険は常に付き纏っているということを。

 

 それでもなお、私と共に空を飛びたいと願ってくれているのだ。

 ならば私は、彼女たちの為に何ができるのだろうか?

 いや、考えるまでもないことだ。

 

 私にできることはただ一つしかない。

 

「分かった」

 

 私は短く、だがはっきりと返事をすると、操縦桿を握り直すのだった。

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