レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第22話 リノウチ空戦 そのに ?視点

『リノウチ』上空で風が吹き、桜の花びらが舞う頃。

 戦場の一角で異変が起きていた。

 我々の攻撃により陣形を崩した連合軍の中から一機の九七式が突出してきたかと思うと、その後ろには仲間と思われる機体がぴたりと付き添うように飛んでいたのだ。

 

 先頭を飛ぶ九七式は、誰よりも傷つき、疲弊しているように見えるにも関わらず、まるで周りの心配など必要ないとばかりに悠然と飛行を続けている。

 そしてその背後に付く機体も傷だらけで、今にも墜落しそうなほどふらついているではないか。

 

 異様な存在感に、騎士団の面々は思わず言葉を発する。

 

『あの九七式を見ろよ。俺たちよりおっかない飛び方してるぜ?』

 

 確かに凄まじい挙動をしていることが分かる。

 まるで曲芸飛行でもしているかのような動きである。

 

『まるで命を燃やすみたいだ……』

 

 誰かが呟いた言葉が妙に胸に刺さる気がした。

 

『死ぬ気かしら?』

 

 そう思えるくらいに、あの機体の飛び方は鬼気迫るものを感じさせるものだったからだ。

 

『……恐ろしいな』

『だが……同時に羨ましくもある』

 

 あの機体の姿を見てそう思ったのは、私だけではないらしい。

 団員たちの誰もが同じように感じているようで、感嘆とも呆れともつかない複雑な感情を抱いているようであった。

 

『奴らは一体なぜそこまで……?』

『分からないさ。本人に聞くしかないだろう』

『なら適切な人物が丁度ここにいますね。団長?』

 

 皆が見守る中、私に話が振られる。

 

「あ〜……」

 

 困ったように声を挙げると、やがて意を決して口を開いた。

 

「まぁ、なんだ……皆が思ってるとおり、あれは自殺行為だよ」

 

 私は溜息混じりに言葉を続ける。

 

「敵中に飛び込んでもなお戦い続けるなんて普通は考えんよ」

 

 それを聞いて団員が疑問をぶつけてくる。

 

『じゃあどうしてあいつはあんなことをしてるんだ?』

「そりゃお前、仲間を助けたいからだろ」

 

 どうやら驚きのあまり言葉に詰まっているようである。

 

「命を張ってまで助ける価値のある仲間だってことだ」

 

 彼が何かを言おうとしていたが、それを遮るようにして更に言葉を続けた。

 

「だからこそ、ここで墜としてやらなければ、本当に命を落としてしまうな」

 

 あの集団にいる九七式は最早限界だ。いつ空中分解を起こしてもおかしくはないだろう。

 奴らはそれに気付いていないのだろうか?

 いや、気付いていて尚、諦められないのだと言ったところだろうか?

 いずれにせよ、このままでは間違いなく機体と共に命が失われるだろう。

 

 ……奴が本格的に動き出す前に、あいつらを間引く必要があるな。

 

「全機に次ぐ。私は九七式の奴と対話を試みる。その間、アレシマ第一部隊とイケスカの連中を引き付けろ」

『了解』

 

 私はそう言うと、機首を翻して急降下を始める。

 その先にいるのは、言うまでもなく例の機体だった。

 接近するにつれ、相手もこちらに気付いたようだが、そんなことはお構いなしに距離を詰めていく。

 

 容易く真後ろを取り、周囲にいた残存勢力を全て片付ける。

 機体を捨てて飛び降りる者、残された機体の推力で戦場から離れていく者、様々であったが誰一人として私は追撃することはなかった。

 

 そしてお目当ての機体を見つけ、照準を合わせると、周囲にいる仲間が例の機体を庇うような動きをし始めるのが見えた。

 既にその機体は被弾しており、右翼からは煙が上がっている上にエンジン部から黒煙も上がっていた。

 

 それなのに、仲間を守ろうと必死になって抵抗しているのだ。

 

『≪ヒガコ! もういい! 先に撤退しろ!≫』

 

 無線からは悲鳴にも似た奴ら仲間の声が聞こえる。

 

『≪いやよ! 私も最後まで戦う!!≫』

『≪馬鹿野郎!! 死にてぇのか!?≫』

『≪死んでもいい……!! ただ何もせず見捨てることだけはできないわ!!≫』

 

 彼女は涙ながらに叫ぶと、私から味方を守りながら、それでも空を飛び続けた。

 その思いに応えるかのように、ボロボロになった機体は最後の力を振り絞るように飛翔を続けていた。

 ……私はその機体の主翼に、銃弾を撃ち込んだ。

 

 それが致命傷となり、相手の機体は高度を維持できず徐々に降下していく。

 相手の叫び声が聞こえるが、私は無線機を通じて叫んだ。

 

「発動機を止めろ! 風に機体を任せるんだ!」

 

 アドバイスというよりは命令に近い口調であったかもしれない。

 私は相手の命を絶つことよりも、生き残る術を優先したいのだ。

 

「北西方面に向かえ! そこならば比較的不時着が容易いはずだ! 原生生物の数も少ない!」

 

 奴ら……彼女は一瞬、戸惑いにも似た動きを見せたものの、すぐに指示通りに操縦桿を倒し、機体を風に任せた。

 

『≪……アンタは何がしたいんだよ!?≫』

「知りたければ生き残れ。彼女の後を追ってな」

 

 そう言い残すと、もう一機の九七式も同じように撃墜する。

『リノウチ』所属であれば、手負いを攻撃するような真似はしないだろう。

 残されたのは、零式一一型と例の機体だ。

 

『≪……どえりゃーお優しいのだなも、『桜花』さん≫』

「……なんのことだ」

『≪とぼけても無駄じゃて。あんだけ撃ち落としておきながら、誰も殺してねえもんでな≫』

 

 そう言って笑う特徴的な口調の女性の声は、酷く疲れ果てていた。

 

「そこの九七式に用事があったものでな」

 

 そう言いながら目の前の機体を見る。

 もう飛ぶ力はほとんど残っていないらしく、フラフラしながら飛んでおり、今にも地面に叩きつけられそうである。

 

『≪聞こえとるか分からんけど、言うだけ言ってみな。無線は通じとるはずだで≫』

「なら遠慮なく言わせてもらおう」

 

 一息置いてから言葉を紡ぐ。

 

「この狭い空で、無茶をする」

 

 賞賛と少しばかりの皮肉を込めてそう伝える。

 

『≪……はっはぁ! なかなか面白いことを言うなぁ! さすがは『リノウチの英雄』がね!≫』

「……だが、お前たちの飛び方は嫌いじゃない」

 

 少し迷った末、素直な感想を口にすることにした。

 

『≪……だとさ、レオナ≫』

『≪……え? ……ナカミズ? 私は一体……≫』

『≪ようやく意識を取り戻したか、たわけ≫』

『≪……あぁ≫』

 

 どうやら彼女は、自分が意識を失いかけていたことにすら気付けなかったようだ。

 頭を軽く振って朦朧とする意識をなんとか保ちつつ、自分の置かれている状況を確認している。

 

『≪……ムサコとヒガコは!?≫』

『≪『リノウチの英雄』にエスコートされて不時着したわ。今頃、救助隊が向かっとる≫』

『≪……何故、彼方がここに≫』

「なに、上空から団員たちと見ていてな。おっかな……鬼気迫る飛び方をする面白いのが飛んでいると思っただけだ」

『≪いま別のことを言いかけてなかったかにゃー?≫』

「気にするな。さて、お嬢さん方。そろそろご退場願おうか」

『≪もう指一本動かせんってのにまだやれっちゅうんか?≫』

「ああ、やれるとも。先行して降り立った二機の元に向かいたまえ」

『≪わ、私はまだ!≫』

「弾切れに気づかないまま墜落するのが望みなのか?」

『≪うっ……≫』

 

 言い返す言葉も見つからずに黙り込む彼女を見て、心の中で溜息をつく。

 戦闘において、燃料弾薬の管理は基本中の基本であり、それを怠った結果、空に取り残されて死ぬなんて話はいくらでもあるというのに、この少女はそれに気づかないほどの集中力で戦っていたらしい。

 

「(一体どんな環境で育ったんだ……って、人の事はいえないか)」

 

 自嘲気味に笑ってみせると、零戦一一型に搭乗している少女が声を掛けてくる。

 

『≪ところで一つ聞きたいのだがいいかね?≫』

「なんだ?」

『≪あんたの名前を教えてくれんか≫』

「……名前なんてどうでもいいだろう」

『≪いいや、うちらの命の恩人じゃけ、どうでもよくはないさね≫』

「お互い生き残っていたら教えて……」

 

 言葉を伝えきる前に、無線機越しから仲間の必死な声が聞こえてきた。

 

『団長! すみません! 隙をつかれてイケスカ隊に抜けられました! そちらに向かってます!』

「……だそうだ。エスコートは中止だな」

 

 私はそれだけ言うと、操縦桿を倒して二機から離れ速度を上げる。

 何か喚く声が聞こえるが、運が良ければ再び会うこともあるだろう。

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