次に目を覚ました時は、ベッドの上であった。
ここは何処なのだろうか?
身体を起こそうとするが上手く動かないことに気付き、目だけを動かして辺りを見渡すことにする。
周囲を見渡してみるものの、人の気配はなく、聞こえてくる音も何もない。
ただ静寂だけが辺りを支配しており、ここが何処かを知る手掛かりになりそうな物は何もなかった。
仕方ないので再び目を閉じることにしたのだが、そうすると今度は色々なことを思い出してしまうものだ。
ホームに残したリエトのこと、今まで出会った人々のこと、一緒に戦った仲間たちのこと。
思い返せば楽しい思い出ばかりなのに、今の私の心には後悔の念が押し寄せてくる。
「リエト……ナカミズ……」
ポツリと漏れた言葉に反応する者はいない。
あの時、ほかに手段は無かったのだろうか?
他に方法はなかったのだろうか?
もし、私にもっと力があれば、結果は違ったのではないだろうか?
そんな考えが頭の中を駆け巡っていき、考え出したらキリがない。
だが……考えてしまう。
「どうすれば良かったのかな……?」
考えても答えは出ないことは分かっているはずなのに、考えずにはいられない。
自分の無力さが恨めしい。
すると病室の扉が開かれ、そこから現れたのは見慣れた人物だった。
「おっ、目が覚めたのか。レオナ」
「よかったぁ~心配したんだよ~」
そう言って笑うムサコとヒガコの姿を見て、安心したせいか涙が零れ落ちてきた。
二人は驚いた表情を浮かべながらもベッドの傍に近寄ってくると、そっと頭を撫でてくれた。
その手つきはとても優しく、どこか懐かしい気持ちになる。
「どうしたんだよ、急に泣き出したりして?」
ムサコの言葉に首を横に振ると、彼女は困ったように笑いながらも頭を撫で続けてくれた。
その様子を見ていたヒガコは心配そうな表情をしながら口を開いた。
「レオナったら三日も眠っていたのよ。だから心配してたの。本当に目が覚めてよかったわ」
「そんなに寝ていたのか?」
「すっごく心配してたんだから」
「そっか……すまない、二人とも」
「気にすんな、生きてりゃそれで良いんだ。それよりも、体調はどうだ?」
「少し怠いけど、それ以外は特に問題は無いかな」
そう言うと二人共安堵の表情を浮かべるのを見て、何だか申し訳ない気持ちになった。
「……ところで、私が寝ている間に何か変わったことはなかったか?」
そう尋ねると、ムサコがどこからか新聞を持ってくると手渡してくれた。
新聞には、『アレシマ』の名が付いてたことから私が今いる場所を知ることができ、内容を確認する。
『天上の奇術師』の活躍により、連合側が勝利を収めたことが書かれていたのだが、気になる点が一つだけあった。
それは『リノウチの英雄』と呼ばれる存在についての記事だ。
四大……いや、五大騎士団のなかで唯一、捕虜となった騎士として取り上げられていたのだ。
記事を読み進めていくと彼の乗っていた機体についても記載されており、最後には今後の裁判次第で極刑になる可能性が高いという一文で締めくくられていた。
「そんな……」
私にとって二人は命を助けてもらった恩人だ。
一人は勝者として祭り上げられ、もう一人は敗者として罪人扱いをされている。
あまりにも理不尽ではないかという思いが込み上げてきてしまう。
「どうにかならないのか……」
「こればっかりはどうしようもないわ、レオナ……」
落ち込む私を慰めるように、ヒガコが肩に手を乗せてくれる。
だが、それだけで気持ちが晴れるわけもなく、ただただ俯くことしかできなかった。
◇◇◇◇
『リノウチ空戦』と名づけられたあの戦いが終わりを告げて、一週間が経過した頃のことだ。
退院の許可が出たため、世話になった方々にお礼の言葉を伝えて頭を下げる。
最低限の荷物しか持っていなかったこともあり、手間取ることなく準備を済ませると病院を後にした。
それから向かった先は、駐機場だった。
ここでは争いによって破損した飛行機の修理や整備が行われている最中であり、周囲には多くの人達が集まっているのが分かる。
その人の多さを見て思わずため息が出てしまったが、仕方が無いことだろう。
あの戦いで多くの命と機体が失われてしまったのだから。
「お~い! こっちだ!」
聞き慣れた声に反応して振り返ると、そこにはムサコとヒガコの姿があった。
二人は私を見つけるなり嬉しそうに駆け寄ってきた。
「頼まれていた九七式を用意しておいたぜ!」
「助かったよ。よく手配できたな」
「アレシマの隊長さんが色々と手を回してくれたのよ~」
二人の説明を聞いて納得すると同時に感謝の気持ちでいっぱいになった。
この忙しさでは直接お会いするのは難しいだろうが、今度お礼の手紙でも送ろうかと思う。
「そういえば、二人はこれからどうするんだ?」
目の前に置かれている機体は一機だけ。
それを私の為に手配したと言われれば、二人の機体はどうするのだろうと疑問を抱いてしまった。
すると二人は顔を見合わせて笑い合うと答えてくれた。
「いい機会だからさ、少しだけ先のことを考えてみようってヒガコと話し合ってな」
「頑張った分、お金は沢山貰えたからね~」
なるほど、そういうことだったのか。
確かに、今までで一番の高収入を得ることができたから、私も含めて金銭面に関してはしばらくは問題ないだろう。
「考えるってことは、具体的に何かしたいことでもあるのか?」
「まだ決めてないけど、やりたいことならあるわよ~」
「そうそう、それなんだけどさ……」
そう言うと二人はポケットから取り出したのは、『リノウチ空戦』前にアレンから受け取ったリエトからの手紙だった。
「手紙なんて受け取ったのは始めてだったからさ、最初は読んでて楽しいぐらいの間隔だったんだけど」
「戦争が終わって、レオナがなかなか起きない時にふと読み返したの~」
「そうしたら、なんかこう……込み上げてくるものがあってさ」
「地上に居るのにフワフワってしていた間隔が、スゥーッて消えてね~」
「その時に思ったんだ、腕っぷしの強さじゃなくても誰かの為に何かをできる人間になりたいってさ」
「そしたら、私達の中で何かが変わっていったのよ~」
二人が何を言いたいのか、何となく理解できた私は頷き返した。
戦争で失った物は多いけれど、その反対だって同じぐらいあるのだ。
きっと、二人は大切なことに気が付けたのだろう。
ならば、私は……と思い至った瞬間、二人に抱きしめられた。
突然のことで驚くものの、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
むしろ、どこか温かく感じるほどだ。
「ねぇ、レオナ」
「……何だ?」
「貴女もきちんと休んでから、次に向かうべきじゃないかしら?」
「休みなら十分過ぎるほど休んだ。それに、私は立ち止まるわけには……」
「止まれとは言っていないわ。歩みを少し遅くすればいいと言っているの」
「それでも……」
「これは友人としてのお願いよ、レオナ」
「…………」
何も言い返せない自分が悔しかった。
どうして、こうも上手くいかないのだろうか?
自分の不甲斐なさが情けなく思えてしまう。
そんな私の様子を察してか、ムサコは笑顔を浮かべながら口を開く。
「一度、原点に立ち返ってみるっていうのもいいんじゃないかしら?」
「……どういう意味だ?」
「故郷に帰ってゆっくり考えてみるのもいいんじゃないってことよ」
彼女の言葉に対して反論しようとしたが、人差し指で口を塞がれてしまう。
「今すぐに、とは言わないわ。寄り道をしてもいいし、遠回りでもいい。ただ、帰るのが遅くなる時は、リエト君にきちんと手紙を出すのよ?」
「必要な時は私たちを呼んでくれ。いつでも手伝うからな」
二人の言葉に胸が熱くなるのを感じた私は、小さく頷くことしか出来なかった。
「……ありがとう」
今の私には、この言葉を伝えるだけで精一杯だった。