レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第32話 隼一型

 キリエの配達が地上を走り回る仕事から、飛行機を飛ばす仕事へと変化を遂げ、彼女の仕事始めを毎回見送るのが日常となる。

 

「そんじゃ行ってくんねー!」

「うん、気を付けてね」

「ほいほーい」

 

 いつものように軽い返事をすると、キリエは飛び立つために滑走路へと赤とんぼを走らせた。

 今日も今日とて、彼女はラハマ周辺に存在する集落へ元気よく荷物を届けに行くのだろう。

 元気よく手を振って出発していく彼女を見送った後、整備を行う機体がいなくなった僕の仕事はひと段落するわけだ。

 

 報告も兼ねてとんぼ便の事務所に戻り挨拶を済ませていると、お茶を差し出されて一息つくのが、もう一つの日常となっていた。

 お茶を飲みながらぼんやりとしていると、目に留まるのは新聞紙の存在。

 

 こんな田舎町に新聞紙など珍しいこともあるものだと思いながら眺めていると、聞いたことのある人物の名前を発見することになった。

 

「(ブユウ商事会長に『天上の奇術師』か……)」

 

 見出しに書かれた文字を呟くように読み上げると共に日付を確認すると、随分と前の記事であることが分かった。

 記事の内容に目を通してみると、『イケスカの英雄が新たなステージに挑む』という煽り文句から始まり、その人物について事細かに書かれていたのだった。

 新聞を読むのは嫌いじゃないけど、どうにもこの手の内容は苦手だ。

 

 けど、この人の名前は知っているし興味もある。

 

「(『リノウチ空戦』でレオナお姉ちゃんを助けてくれた人だよね?)」

 

 そうなのだ。

 あの争いでお姉ちゃんを助けたという人物こそ、紙面上で話題になっている『リノウチ空戦』にて活躍したと言われる人物である。

 文中に記載されていた経歴などの情報を読んでいく内に、ある部分が気になった僕は更に読み進めていくことにした。

 

【彼は敵対したにも関わらず、『リノウチ』の復興に尽力する】

 

 なるほど、つまりはこういうことだろうか?

 この人は敵に対しても慈悲深く手を差し伸べられる人物なのだろうか?

 レオナお姉ちゃんから聞いたとおりの人物なら、この行動に間違いはないと思うのだけど、手紙を送る際にお願いしているムサコさんヒガコさんから聞いた話とは、少し違うような気がするんだ。

 

 実際に命を助けられた側の意見と、カンだと言い切る側の意見では見方が変わるのは当然といえば当然なんだけど。

 それに彼の活躍によって救われた人がいるのも事実だし、その点に関しては感謝しかないわけで。

 でも、うーん……やっぱりよく分からないや。

 

 考えれば考えるほどに謎は深まるばかりであり、結局は答えが出ないまま終わってしまったのである。

 

 ◇◇◇◇

 この日、僕はレオナお姉ちゃんたちから一つの提案を受けていた。

 

「ザラと相談して、機体を九七式から変更させようと思っているのだが……」

「そうなの?」

「ええ、九七式も良い機体ではあることに間違い無いけれど、お仕事の都合上どうしても航続距離や重量の問題が生じてしまうのよ」

「そっかぁー」

 

 確かに言われてみればそうだ。

 九七式が良い機体であることは事実だけれど、二人の仕事を考えると求められている性能が少々物足りないのだから仕方のない話だ。

 それに応じた機体が必要となってくることは、想像に難くない話だった。

 

「そうなると新しい機体に何か目星はあるの?」

「候補は既に絞ってあるんだ。後はどれを選ぶかという話になるんだ」

 

 そう言いながらお姉ちゃんは一枚の紙を僕に渡してきた。

 そこにはいくつかの名前が書かれているようだ。

 ざっと眺めてみると、どうやらそれぞれの機体の特徴が簡潔にまとめられているようで、分かりやすくまとまっている。

 

「えーっと、隼、零戦、紫電、飛燕……流星?」

 

 僕が名前を読みあげると同時に、お姉ちゃんは小さく咳払いをしながら口を開いた。

 

「後半のは忘れてくれ。あれは駄目だ」

「へ? う、うん……?」

「あら、残念」

 

 何故か強く否定するものだから思わず気圧されてしまったものの、僕には何のことかさっぱり分からないままだったので首を傾げるしかなかった。

 ザラさんはイタズラに失敗した子供のような表情を浮かべていた。

 

「……機体の名前を連ねてはあるが、現実案として候補に挙がっている機体は前の二つだ」

「つまり、隼の一型か三型、零戦の二一型と三二型のどちらかってことね」

「そういうことだ」

 

 お姉ちゃんの言葉に頷きながら、ザラさんが補足の説明を入れてくれる。

 

「この中の機種であれば僕も知識として学んだことはあるし、整備に関してもすぐに覚えられそうだよ」

「流石だな、リエト」

「ふふっ、頼もしいわね」

 

 二人から褒めらたことが嬉しくて照れ笑いを浮かべながらも僕は言葉を続けた。

 

「ただ、問題があるとすれば……」

「何だ?」

「……こっちの問題は大丈夫なの?」

 

 指で輪っかを作る僕を見て二人が溜息をつく。

 

「……まぁ、大丈夫だろう」

「……そうねぇ、多分大丈夫よ」

 

 本当に大丈夫なのだろうか?

 疑いの眼差しを向ける僕に対して、二人は視線を合わせようとはせずに明後日の方向を見ているではないか。

 いや、きっと大丈夫だと信じよう。

 そう自分に言い聞かせると、改めて話を元に戻すことにした。

 

「それで、どの機体にするつもりなの?」

「私とザラの直感になってしまうが──」

 

 ──と、レオナお姉ちゃんが指を差した先にあった名前は『隼一型』であり、いま僕の目の前に存在しているのは、まさにその機体であった。

 胴体は迷彩が施してあり、翼端には『コトブキ飛行隊』と分かるように、黄色の丸に二枚羽の赤いプロペラが描かれている。

 尾翼に描かれたマークは個人を表しており、二人の性格が表されているようにも思えた。

 

「(これが隼一型かぁ……)」

 

 初めて見る実物を前に感動しながら、僕はしばらくの間眺めていた。

 すると、後ろから声を掛けられたので振り返ると、そこにはレオナお姉ちゃんの姿があった。

 

「どうだ、何か気になる点はあるか?」

 

 そう言われて僕は再び視線を戻す。

 主翼の面積が変わったことで操作感覚が変わるのかな?

 全長が伸びたことで安定性が増している気もするけど、それよりも何より言いたい事があった。

 

「……かっこいい」

 

 無意識に出た言葉だったが、それは紛れもない本心である。

 目を輝かせながらそんな感想を呟く僕の声を聞いてか、お姉ちゃんが小さく笑ったような気がした。

 

「気に入ってくれたようだな」

「え!? あ、いや……!」

 

 慌てて取り繕うように言葉を返すものの、時すでに遅しである。

 

「別に恥ずかしがることはないぞ。私も初めて目にしたときは同じ反応をしていたからな」

「そうよ。機体を受け取りに行った時のレオナも、リエト君と同じような眼差しで見つめていたわ」

「ちょ、ちょっと! ザラ!」

 

 本人が告白するのと他者から暴露されるのでは恥ずかしさの度合いが違うのだろう、慌てるお姉ちゃんであったがその表情はどこか嬉しそうでもあった。

 しばらくして落ち着きを取り戻したお姉ちゃんは話題を変えるかのように、咳払いを一つしてから口を開いた。

 

「ここからまたスタートということになるな」

「そうね、まずはこの子を使いこなせるように頑張らないとね」

「僕もお姉ちゃん達が無事に飛行できるために頑張るよ」

「ああ、頼りにしているぞ」

「一緒に頑張りましょうね」

 

 こうして徐々にだけど、『コトブキ』が飛行隊として活動していくための基盤が出来上がっていくのだった。

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