レオナさんの弟さん   作:星1頭ドードー

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第3話

 その日を境に、お姉ちゃんはよりいっそう熱心に勉強に取り組むようになった。

 ホームの手伝いを終えた後に、飛行機に関する本をひたすら読み漁り、空いた時間があれば自主的に鍛錬を重ねているみたいだった。

 

 元々真面目でひたむきな性格だったけど、ここまで何かに執着する姿は初めて見るものだったから本当にびっくりしたものだ。

 僕から見れば器用で要領が良いと思うのだけれど、お姉ちゃん曰くそうじゃないらしい。

 

 まあ、本人にしか理解できない拘りもあるのだろうとは思う。

 その甲斐あってか、最近では少しずつ操縦の腕を上げてきているようだった。

 手応えを感じ始めているようで何よりだと思う反面、怪我をしてしまわないかと心配になることもあったくらいだ。

 

 その頑なさが仇となって危険な目に遭うんじゃないかと心配になってしまうのも事実だった。

 せめて機体が原因による事故だけは防ごうと、僕まで整備の腕が上がっていたりする。

 

「(まさかこんなことになるとは)」

 

 少し前までの僕には想像できなかったことかもしれない。

 それだけ今の環境に慣れてきているということなのだろうけど、人生何が起こるか分からないものだ。

 

「リエト」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、そこにはレオナお姉ちゃんが立っていた。

 

「話がしたいんだが良いか?」

 

 少し疲れた表情の中に真剣さが窺える顔を見ていると、きっと重要な話だという事は嫌でも分かった。

 だからこそ、僕は努めて明るく返事をする。

 

「うん、良いよ」

 

 すると安堵した様子で微笑み返してくれた。

 

「さて、どこから話そうか……」

 

 椅子に座ったレオナお姉ちゃんが顎に手を当てながら呟くと、僕も椅子へと腰掛けた。

 自然と向かい合う形になり、お姉ちゃんの顔をじっと見詰める。

 視線に気付いたレオナお姉ちゃんが照れくさそうに笑うので、僕も釣られて笑った。

 

 少しの間お互いに笑い合っていたものの、不意に真面目な顔つきに戻るお姉ちゃんに合わせて僕も姿勢を正すことにする。

 

「実はな、私を試験的に雇ってくれる場所が決まったんだ」

「えっ! 本当!?」

 

 予想外の朗報に驚くと同時に、自分のことのように嬉しく思う。

 しかしその一方で、ある不安もあった。

 

「でも、大丈夫なの? いきなり飛び入りでなんて……」

 

 そう尋ねると、お姉ちゃんは微笑みながら頷いてくれた。

 

「ああ、問題ない。相手側もホームの手伝いで知った顔だし、腕を磨いているという話を知ってくれていたようだからな」

 

 そう話すお姉ちゃんの姿は自信に満ち溢れていたものだから、僕もそれ以上は何も言えなかった。

 ホームの手伝いで得た知識や経験を武器に、パイロットとしての仕事をこなすという新たな目標が生まれた瞬間だったように思う。

 

「機体はどうするの? この子を持っていくの?」

「いや、流石にそれは無理だな。ホームの持ち物であるし、今後どうなるか分からないだろう?」

「そうなると相手側に用意してもらうのか……ローンかな?」

「……リエトとお金の話はしたくないなぁ」

 

 苦笑いをしながら頬を掻くレオナお姉ちゃん。

 言葉を濁すということは……そういうことなんだろう。

 仕事を得ようとしているのに、仕事道具を持ち合わせていない用心棒ってどうなのさって話になるもんね。

 

 今更、何かを言っても仕方がないことではある。

 

「ということは、お姉ちゃんがホームを離れる時が来たって意味にもなるよね?」

「そうだな……そうなるな」

 

 そう言いながら微笑む姿からは、寂しさを隠し切れていないことも伝わってきた。

 とはいえ僕が出来ることと言えば、今と変わらない生活を送ることだろう。

 指切りげんまんは、済ませてある。あとは信じて待つだけだ。

 

「いつ出発するとか決まっているの?」

「一応、次の交易飛行の際に出発しようと考えているよ」

 

 どうやらもう既に次に向けての準備も進めているようだ。

 流石だなって思うよ。

 

「分かったよ。ホームの入り口までしか見送れないけど、気を付けてね」

「それで充分さ。ありがとう。行ってくるよ」

 

 そう言って微笑むレオナお姉ちゃん。

 僕がそっと手を差し出すと、優しく握り返してくれた。

 暖かくて柔らかいその手の感触を忘れないように、僕はしばらく握り締めたままにするのだった。

 

 ◇◇◇◇

 そうして数日もしない内に、レオナお姉ちゃんはホームを離れていった。

 また会えるのだから笑顔で送り出してあげなきゃダメだよね。

 そんな決意を胸に秘めつつ、歩み始めたお姉ちゃんの背中を見つめていた。

 

 でも、心の奥にあるモヤモヤとした気持ちまでは隠せていなかったみたい。

 

「にいに! あたまナデナデしてあげる!」

「リーにいさん、さみしい?」

 

 金髪と黒髪の後輩二人が僕を慰めようとしてくれている姿に、つい頬が緩んでしまうけれど、気を引き締めるために自分の頬を叩いてみる。

 パチンという音と共に痛みが走り、これが夢ではないことを実感した。

 

 そうだ、これは現実なんだ。

 ならば、僕も前に進まなければならないよね。

 二人にお礼を言いながら頭を撫でると、嬉しそうに笑ってくれたのでこちらも笑顔になる。

 

「さあ、今日も一日頑張ろうか」

 

 気合を入れてから立ち上がり、背伸びをする。

 それから二人の手を引いて、今日の仕事を手伝う為に移動することにした。

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